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N-065 大型を突きに行こう


 どうにか、既存動力船の改造方法をまとめて夕食後に訪れたエラルドさんに渡したのだが、かなり長時間の会議になったようだ。

 翌日、釣りでもしようかと竿を屋根裏から引き出していると、エラルドさんがグラストさんを連れてやってきた。当然近所の動力船に住むラディオスさん達も付いてきてる。

 甲板の後部にテーブルを引き出して、後部ベンチに座れない者は、エラルドさん謹製のベンチに腰を下ろす。


「昨夜の会議で2つ長老からの達しがあった。1つは、カゴ漁は素潜り漁をしない者だけに限定する事。後の1つは、ロデナス漁をカゴ漁のみに限定するということだ」

「俺達がロデナスを商船に持ち込むことは事実上できなくなる。とはいえ、俺達で食う分には問題ない」


 要するにロデナスを商品として売ることを禁じるってことだな。結構、値が良い取引きになっていたんだけどね。


「期日は、2隻目のカゴ漁動力船の改造が終わってからになる。カイトの改造案はそれほど難しい改造ではないから、月が変わってからになるだろうな。世話役達がそんな連中に声を掛けているから、昼過ぎにはカイトを訪ねてくるだろう。漁の仕方を教えてやってくれ」


 それは構わないけど、俺達の漁の対象が1つ減ってしまったな。回遊しないロデナスは、獲物が少ない時に重宝したんだけどね。

 

「カゴ漁に出るのは来月だが、バルテスとゴリアスは彼らにやり方を現場で教えてやってくれ。俺達も実際にやったのは1晩だけだったが、カゴを仕掛ける場所と引き上げ方、その後の措置は覚えたはずだ」

「嫁と子供は俺達が預かるから、ちゃんと教えてこい。中堅の仲間入りの条件だ」


 途端に、バルテスさんの顔に喜色が浮かぶ。仲間を率いて漁ができると言うことなんだろうな。


「中堅なら、長老会議にも出られる。発言はしばらく止めておけ」

 ある意味、氏族の運営にも参加することになるのだろう。そうなると、長老会議用の小屋を大きくしなければダメなんじゃないか? この島の氏族会議に使っている小屋は前の島よりも小さいからな。


「カイトよ。長老が言っていたぞ。新しい双胴船は、カゴ漁だけが目的ではないんじゃないかとな。他の用途にも使えるのか?」

 そう言ってグラストさんが俺を見つめる。

 まだ思い付きのようなものだが、それを言って良いのだろうか?


「実は、更に高値で取引される獲物を獲ることも考えています。ですが、本当にできるかどうか、その漁の方法が氏族の考えに沿うのかが分かりません」

「何を獲るんだ?」

 エラルドさんの問いに、皆が俺の顔をジッと見つめる。

「真珠貝……です」


 俺を見る目が、興味本位から怖いものでも見るような視線に変化したのが分かる。

 しばらくは声も出ない。グラストさんが温くなったお茶を一口飲んで口を開いた。


「真珠貝はかなり深い場所に生息している。リードル漁ができなくなった者達の何人かは真珠貝漁で耳を傷めている。彼らに再び真珠を獲らせるのか?」

「そんなに深く潜れんぞ。それができるならリードル漁にも参加できるはずだ」

 バルテスさんがグラストさんに追従している。俺だってそれは分っているつもりだ。


「潜るのではなく、手を伸ばす事を考えました。ですが、この方法では漁場を荒らしかねません。その辺りの折り合いが難しく……。仕掛けはこんな感じになるんですが」


 金属の熊手に網を付けた感じだが、これで砂泥の海底を曳いていけば貝を獲ることができる。

 簡単に絵を描いて説明すると、目を大きく見開いている。

 エラルドさんがパイプを腰から引き抜いてタバコを詰めながら口を開いた。


「とんでもない獲り方だな。確かに獲れるだろう。カイトの言う漁場が荒れると言うのも理解したつもりだ。だが、これなら奴等にも獲れることは確かだ」

「ああ、あの漁場は水深が深いからな。素潜り漁をする連中にとっても、問題がある場所だ。だが、これならリードル漁をしないでも自分の船を買うことができそうだ。少なくとも、家族単位でなら十分に動力船が買えるんじゃないか?」


「この漁も彼らに教えるんですか?」

 ラディオスさんがおもしろくなさそうな顔をしてエラルドさんに質問している。

「教える前に、長老会議の議題になるな。漁場が荒れるのが問題だ」

「だが、俺達はあの漁場で素潜り漁を自粛していることも確かだ。リードル漁ができない連中が金貨を手に入れられるって事なんだぞ」


 う~ん……。全員が悩み始めたぞ。

 そんな俺達に、サディさんが新たなお茶をカップに注いでくれる。

「悩む必要は無いにゃ。この島の周辺を含めて私達の漁場は広いにゃ。全部潜って調べたなんかいないにゃ」

 そんな言葉を掛けてくれたんだけど、確かにそうだよな。

 改めて互いに顔を見合わせる。


「サディの言う事も、もっともだ。最初にある程度調べはしたが、それ以降は最初の調査で分かった場所で漁をしている。新たな漁場は、まだたくさんあるってことか……」

「……だな。このところ豊漁だから、そんな気は起きなかったが、確かに漁場を広く探すことは後のためにもやっておく必要がありそうだ」


 結論は出ないが、長老会議で方針が示されるだろう。それよりも石運びはもうやらなくて良いのだろうか? リードル漁が終わってから、まだ運んでいないんだよな。


 最後にグラストさんが、石運びの日程変更について教えてくれた。

 豪雨でかなり予定が変わっているらしいが、まだまだ石運びは続くらしい。素潜り漁を廃業した人達が継続的に参加していてくれたのは分かっていたが、石運びも一部行っていたようだ。

 氏族に上納された魔石の有効な使い方だとエラルドさんが言っていたが、10日で銀貨3枚が夫婦に渡されると言っていた。

 

「ある程度は彼らの仕事にしたいが、それにしても石が足りないのは事実だ。ひと月に10日だけ石運びに従事してくれれば、何時でも良いぞ。事前に世話役に話をすれば良い。お前達はカゴ漁を試験的に行ったのだから、今月の石運びは免除される。来月から頑張るんだぞ」


 果たして、前よりもきつくなるのか、楽になるのかは分からないが、一か月で10日ならばそれ程変わらないようにも思えるな。


 そんなわけで、バルテスさん達は彼らの使う動力船の改造を始めた。

 改造と言っても、甲板の4隅に柱を立てて梁で繋ぐだけだから、雨が降れば帆布を掛けて屋根に出来そうだ。

 左側の横梁を少し伸ばして舷側より1.2m程伸ばしている。縦の梁に鼓型の滑車を吊るしておけば、甲板で皆でロープを引けば海中からカゴを持ち上げるのが楽になるはずだ。

 カゴは小屋の左右に3個ずつ下げている。舷側から取りだすのに足場が悪いので、舷側に新たな回廊を取り付けたが、これはエラルドさん達が行っていた。


俺のところに何人かの男達がカゴ漁について訪ねて来たので、丁寧に説明する。

竹カゴの仕組みと餌の取り付け方法。引き上げる時の注意点。カゴの中身を選別するやりかた等々……。

色々あるな。一通り説明して質問を受ける。

多くが、一度に獲れるロデナスの数だが、こればっかりは俺達の成果がそのまま反映されるとは思えないんだよな。

とりあえず、俺達が一晩で獲れた獲物の種類と数を教えると、感心して頷いていた。

俺達も! とやる気を出してくれたようだ。


 長老会議は1晩では結論が出なかったらしい。カタマランの屋根に固縛していた竹カゴは砂浜の奥にある広場の片隅に積み上げてある。浮きも一緒だから、カタマランは元のさっぱりした姿に戻っている。


 カタマランの広い小屋と甲板が気に入ったのか、サディさんやケルマさん達が遊びに来るからいつでもここは賑やかだ。

 ラディオスさんやラスティさん達も夫婦で遊びに来るし、ビーチェさんだってやって来る。

 そんな俺達は、船尾の外れでおかずを釣りながら次の漁を考えるのだが、中々思いつかないんだよな。

 

「やはり銛を使いたいぞ! それこそがトウハ氏族だからな」

「俺もそう思う。やはり素潜りで銛の腕を上げたいぞ」

 ラディオスさん達は素潜り漁って事だな。となると、サンゴの崖か、東のサンゴのあなって事になるんだろうか?


「まだ北東には行ってないけど、そっちはダメなんだろうか?」

「いや、そんな話も聞かないが……、確かに誰も行ってないな。ちょっと待ってろよ」

 ラディオスさんが自分の動力船に戻っていく。と言っても20mも離れていないから、直ぐに戻ってきたけどね。


「これが、父さんの海図を写したものだ。俺達の海図よりは詳しく書かれているが……」

 ラディオスさんがテーブルに広げた海図を見ると、サンゴの数が少なく代わりに岩礁が広がっているようだ。水深が10mから3m程の間で目まぐるしく変化しているらしい。

 確かに魚はいそうだが、危なくないか? 動力船の喫水は1.5m程だが、塩の満ち引きだけでも50cm程の潮位差が生じる。岩礁に船底をぶつけかねないぞ。


「かなり難しい場所だが、こうやって進めば、比較的深場を動力船で航海できる」

 そう言って、1つの島を起点に船を進ませる方向を指で教えてくれる。

 なるほど、その道筋なら水深は数m以上になるな。最後に小さな島に指を向けた。


「この島は西は砂浜だが東は岩場なんだ。ここで漁をしないか?」

「おもしろそうだ。フルンネがいるんだな……」


 ラスティさんも乗り気だな。だけどフルンネはフエフキダイだからかなりの大物って事になるぞ。婚礼の航海で使った銛を使ってみるか。しばらく使ってなかったからな。


「あの銛を再び使えますね。銛を研いで準備しますか。それで、何時?」

「今夜にでも父さん達がここに来た時に話してからだな。まだ俺達だけで遠くに漁に行くのも問題だろうし」


 誰か行った人間の話でも聞ければ良いのだが、ひょっとして長老会議でそんな話を聞いているかも知れないからな。

 情報が多い方が良いから、ここはエラルドさん達の見解を聞くことに俺も賛成するぞ。

 とは言っても、久しぶりに使う銛だ。錆びてはいないと思うが、ゴム位は交換しておいた方が良いかも知れないな。

 


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