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P-253 銛の腕もだいぶ上がったんじゃないかな


 夕食を終えたところで、夜釣りが始まる。

 漁場の状況がある程度分かるとバゼルさんが言っていたが、釣れる魚以外にも素潜り漁では獲れるからなぁ。どちらかというと、バヌトスとブラドの比率が分かるぐらいだと思うんだよなぁ。

 今のところ俺とエメルちゃんが釣り上げた魚、は2対5でブラドの方が多い。


「明日は、もっと大きなブラドを突くにゃ!」

「そうだね。だけどバヌトスも結構大きいんだよなぁ」


 40cmを超える大物ばかりだ。

 タツミちゃんがタモ網で「ヨイショ!」と声を上げて引き上げていたからね。


「シーブルは来ないみたいにゃ。明日の夜が狙い目にゃ!」


 その根拠は何処から来るんだろう?

 トーレさんに聞いたら「女の勘にゃ!」なんて答えてくれたけど、結構当たることが多いんだよなぁ。

 エメルちゃんも、そんな預言者の1人ということになりそうだ。


 夜が更けてきたところで、竿を畳む。

 いつの間にか籠の中で眠ってしまったマナミを、タツミちゃんがハンモックに移しているから、その間にエメルちゃんが魚を捌き始めた。

 合計15匹はまぁまぁの漁果だろう。捌いて開いた魚を浅い籠に並べるまでが女性の仕事になる。籠を屋根に干すのは男の仕事なんだけど、明日の朝に干した魚を保冷庫に入れるのは女性の仕事なんだよなぁ。

 昔から比べると、その分業の比率が女性に傾いているらしい。「男達にやらせると、ろくなことにならないにゃ!」というトーレさんの言葉が、今でも耳に痛いんだよね。


 籠を屋形の屋根に乗せ、落ちないようにグシと籠をひもで結んでおく。

 終わったところで甲板に下りると、タツミちゃん達が小さな真鍮のカップにワインを淹れて待っていてくれた。


「明日の朝早くにザバンを引き出すにゃ。魔導機関があるから楽で良いにゃ」

「ザバンは私とエメルちゃんで交代しながら動かすにゃ」


 マナミがいるからなぁ。獲物を捌くのは食事の準備をしながら行うことになるのだろう。ネコ族の女性は皆働き者ばかりだ。

 ワインを飲んでさて、寝るとするか。海上にはいくつものランランが遠くで揺れている。

 ガリムさん達は既に夢の中かもしれないな。


 翌朝。今日は何とか起こされずに起きることが出来たぞ。

 甲板に出て海水で顔を洗い、海面下を見る。

 偏向レンズのサングラスだから、水面の反射が無いから水底まで良く見える。

 サンゴはあまり発達していないようだ。幅の広い割れ目が東西に走っているけど、割れ目の底は暗くて良く見えないな。案外深さもありそうだ。潮通しも良さそうだから、回遊魚も期待できる。ハリオは無理でもフルンネなら確実だろう。潜ったなら海底だけでなく海面近くにも眼を向けねばなるまい。


何時もの炊き込みご飯は、すでにスープが掛けてあったからスプーンで頂く。スープの多いリゾットのようだけど、結構美味しいんだよね。

 塩味では無く、魚醤を使っているのかな? 乾物の出汁だけでは無さそうだ。


 食事を終えると、他の船の様子を見ながらココナッツジュースを頂く。

 食後の休みは30分ほど取るんだが、その時間はかなりいい加減にも思える。

 気の早い連中は、すでに漁を始めたようだ。ザバンが動いているからね。


 マナミを籠に入れて、タツミちゃんが操船櫓に上がる。

 俺達のザバンはカタマランの船の間に下げてあるから、引き出すのが少し面倒だ。

 

 屋形の下で水音がしたから、ザバンが下ろされたのだろう。ガタガタと音を立てているから、潮の流れに乗せて外に出すつもりらしい。


 船尾を見ていると、ザバンの船尾が顔を出してきた。半分ほど姿を出したところでエメルちゃんがザバンに飛び乗り俺にロープを投げる。

 ロープを船尾に結び付けると、エメルちゃんがザバンをカタマランの船尾に近付ける。 

 1m程に近づくと、ザバンの舳先についていたフックを俺に向かって放り投げた。

 しっかりとフックを受け取って、船尾の円環に取り付けておく。

 このフックを使って再びザバンを収容することになるからね。落としたら潜って取って来ないといけない。


 作業を終えたタツミちゃんが操船櫓から降りてくる。

 エメルちゃんもザバンからカタマランに戻ってきた。

 2人が魔法で氷を作り出すのを見る度に、この世界の不思議を今でも感じる。

 ファンタジーな世界でも、素潜り漁は過酷な漁であることは間違いない。

 シュノーケリングの装備を身に着け、屋形の屋根から銛を1本引き出した。

 柄の長さは2.1m。先端の銛先は1本で返しが小さな代物だ。ドワーフの職人が短剣を潰して作ってくれたものだから長さだけで30cmを越えている。都合2.4m程の銛の柄尻には3本のガムを撚り合わせたガムの輪が付いている。

 ガムの輪を手に通して銛先に向かって引き伸ばして握り、獲物に向かって手を緩めれば銛が勢いよく手の中を滑っていく。

 シンプルだけど、手の力だけで銛を突くのは難しいからなぁ。リードルのような巻貝なら力任せに突けるんだけどね。


「氷の準備は終わったにゃ。お茶を用意して後を追うにゃ」

「なら、始めようか! 大きな奴がいれば良いんだけどなぁ」


「「頑張るにゃ!」」


 2人の声を背中に聞いて、舷側から銛を手に飛び込んだ。

 先ずはシュノーケリングをしながら、獲物を探す。

 シュノーケルがあるから長時間続けられるけど、ガリムさん達は海面に顔を上げて息継ぎをしながらだからなぁ。

 これだけで俺のアドバンテージが上がるに違いない。


 いた! 思わず声を上げるところだった。

 右前方の岩陰に白いものが見えた。魚が反転した時に横腹が反射したに違いない。

 側面が輝くような魚ならバルタス辺りだろう。

 ガムを引き絞りながら息を調える。

 半分ほど息を吐いたところで、一気に深みへとダイブした。

 あの辺りだったんだが……。ゆっくりと体を動かしながら先程見た魚の姿を探す。

 少し潮の流れが速いようだ。サンゴの穴なら、右腕の動きだけで海底を探っていけるんだが、ここではゆっくりとしたバタ足をしないと位置を保持できない。

 一旦息継ぎに上がろうかと思った時だった。溝の奥に大きな魚影を見付けた。

左腕を延ばしながら魚影の右側から近付く。

 潮に負けずにゆっくり近づくというのも、近ごろはあまり無かったな。

 魚影がバルタスだと分かった時にはバルタスと銛先の距離は2mにも満たない。

 ここからが肝心だ。

 更にゆっくりした動きでバルタスに近付く。銛先は鰓の上部にしっかりと狙いを付けたままだ。

 距離が1mを切ったと確信すると同時に左手を緩める。

 手の中を銛の柄が滑るように伸びて、狙い違わず獲物の鰓上部を銛先が貫通した。

 魚にとっては急所も良いところだからなぁ。

 一瞬暴れたけど、直ぐに収まった。

 さて上に上がるか、だいぶ苦しくなってきたからね。


 海上に出ると、シュノーケルから海水を拭き上げて息を調える。

 俺達のカタマランは……、あそこだな。

 カタマランに向かって片手を振ると、左手からエメルちゃんが操船するザバンが近付いて来た。

 いつもながら水噴射式の魔導機関を作ったアオイさん達には感心を通り越して畏怖すら覚えるんだよなぁ。


「獲れたかにゃ?」

「大物だ!」


 ヨイショ! と声を出して銛を海中から引き揚げ、大きなバルタスをザバンの中に降ろした。


「大きいにゃ! 次も同じぐらいのを獲ってくるにゃ!」


 獲物を保冷庫に入れながら俺に笑みを見せてくれたけど、苦笑いしか浮かばないな。

 だけど小ぶりなバヌトスだって、突いてきたら喜んでくれるに違いない。


「任せとけ!」

 そう言って、再び獲物を探しながらザバンを離れる……。


 3匹目はバッシェだった。

 50cm近い大物だったからエメルちゃんが大喜びだ。

 ザバンの左右に設けられた浮きを引き出し、浮きに腰を下ろして一休み。

 ザバンに乗って休憩するのが一般的らしいけど、乗る時に転覆する場合もあるらしい。

 アオイさん達も、それを防ぐ目的でこんな工夫をしたんだろうな。最初は何故浮きが横に引き出せるのか不思議だったんだけどね。

 ココナッツのカップに入った、冷えたお茶が何よりの御馳走だ。

 口の中がしょっぱかったけど、これでさっぱりだ。


「大きいのばかりだけど、小さいのはいるのかにゃ?」

「いるよ。昨夜の夜釣りもそれなりだったけど、この場所は中々だ。夜釣りの仕掛けを変えるから、今夜はもっと釣れるんじゃないかな」


 一休み出来たところで、再び素潜り漁を開始する。昼食までにもう数匹は確保したいところだ。


 2匹目のフルンネを突いた俺のところにやってきたのはタツミちゃんだった。

 昼食にしようと言ってくれたので、ザバンに銛を預けてザバンの船尾から伸ばしてくれたロープに掴まってカタマランに戻る。

 さすがに直ぐに昼食は食べられないから、ココナッツジュースを頂きながら船尾でパイプを楽しむ。

 タツミちゃん達はザバンから獲物を下ろして捌き始めた。

 マナミがタープの下に置かれた籠の中から俺に手を伸ばすんだけど、一服を始めたばかりだからなぁ。

 手を振ってマナミに応えていると段々顔が怪しくなってきた。

 パイプを煙草盆においてマナミのところに行くと、マナミの足元に落ちていたグンテ人形を手にはめてマナミのお相手をする。

 何時も持っている人形が動くからマナミは大喜びだ。

 このまま、タツミちゃん達の仕事が一段落するまであやしてあげないと……。


 昼食は茹でたバナナにココナッツジュースという簡単なものだ。

 消化を考えてくれたのかな?

 ネコ族の昼食は案外簡単な物が多いんだよね。夕食は結構凝ることがあるから、その反動なのかもしれない。

 茹でたバナナならマナミも食べられるし、この頃はこの献立が多くなった気がするんだよなぁ。

 雨季の終わりにはもう1人家族が増えそうだから、しばらくはこの食事が続くに違いない。

 食事が終わる頃に、エメルちゃんが保冷庫から出してきたのはパイナップルだった。

 向こうの世界のパイナップルよりも小さいけれど、甘さはこっちの方がある気がする。

 1人3切れだとエメルちゃんが念押ししてくれたけど、確かに美味しいからなぁ。


「商船はオラクルには来ないはずだけど?」

「漁協で売ってたにゃ。たまに食べるなら大きな出費にならないにゃ」


 ということは結構な値段だということかな? だけど、スープの酸味はパイナップルを使うことが多いらしいから、それなりに需要はあるんだろう。そのまま食べるパイナップルはさすがに需要が少ないんだろうなぁ。


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