表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
637/654

P-251 半農半漁の暮らしは、かなり先になりそうだ


 次の漁はガネルさん達の船団に加わり、オラクルから2日の距離の漁場に出掛ける。

 漁から戻ると1日の休憩を取って、石運びが始まった。

 棚田と同時に畑も拡張しているようだ。そっちは段々畑になるんだが、少し畑を小さくして高低差があまりない段々畑にするようだな。

 大きく作った方が効率が良いようにも思えるんだけど、機械化はさすがに無理だろう。

 小さな馬がいたら何頭か欲しいと商船に頼んではいるものの、未だに何の連絡もないからなぁ。


 今日の仕事を終えると、いつもの場所で焚火を囲む。

 まだ夕暮れには早いけど、入江を眺めながらココナッツ酒を飲んでいる。

 遠くに帰島する船団がみえた。漁果が気にあるところだ。


「桟橋作りを思い出すなぁ。あの時は来る日も来る日も石を運んだからなぁ」

「今度は石だけとは限りませんよ。土も運ばないといけませんからね。腐葉土を造ろうと森の落ち葉や野菜くずを一か所にため込んでいますが、あれだけでは全く足りませんよ」


 あまり土を買うのも考えてしまう。季節の変わり目に、商会を介して土を袋に詰めて20個ほど買い込んでいるんだが、これで作れるのは小さな花壇になってしまうだろう。

 畑の土が流れてしまうから、その分を買い込んでいると商会に説明はしているから、今のところ不信感を持つこともあるまい。ニライカナイの雨は豪雨だからね。


「土運びも漁の帰りに5袋程運んできているぞ。だいぶ南の荒地も草に覆われてきたな。最初は大きな岩があちこちに転がっていたんだがなぁ」

「ツルハシやスコップの修理は、この頃はさすがに少なって来たようだぞ。それだけ邪魔な石や岩を取り除けたということなんだろう」


「それに、貯水池に流れ込む量が、だいぶ増えたそうだ。親父達がカヌイの婆さん達の祈りの場に向かう途中に石の橋を造ったと言っていたよ。これで水の心配はなくなったんじゃないのか?」

「それでも換気の終わりにはだいぶ水位が低下してますよ。矢の湧水は更に増えるでしょうが、貯水池にため込める水量には限りがありますからねぇ。将来シドラ士族の人口が増えた時が心配です」


 それは何時頃になるんだと聞かれたから、俺達がサンゴの穴に入ってからだと伝えると呆れた顔をしてるんだよなぁ。


「そんな先の事を考えるのはナギサぐらいだ。サンゴの穴に骨を埋めてその位置が分からなくなるのは100年程掛かるらしいぞ。まったく、俺達よりもずっと先を見てるんだからなぁ」


「水の確保はそれだけ大事だということですよ。今でも小母さん達が山の斜面に木々を植えていますよね。あれは俺がお願いしたんです。木は弱いようで強い。木の根は岩を砕きますし、木の葉が積もれば雨水を枯葉のベッドに蓄えてくれます。雨水が一気に流れなくなるんです」


 緑の山は、それ自体が巨大なダムでもあるんだよなぁ。

 だいぶ木を植えたけど、まだまだ植えた方が良いだろう。裾野の木々の枯葉は腐葉土作りにも使えるからね。


「まぁ、そんな計画はナギサに任せておけば良いだろう。後は長老が俺達に指示を出してくれる。明日、石運びを終えたなら1日休んで漁に出るぞ。今度もナギサが一緒だ。老人達が2割増しの漁果を運んで来たんだ。それ以上を運ばないと笑い者だぞ!」


 ガリムさんの言葉に、焚火を囲んだ仲間達が気勢を上げる。

「「オオォォ!!」」という大声で、近くを歩いていた小母さん達がこっちに顔を向けているんだけど……、『今の若い連中は……』なんて言っているに違いない。

 まぁ、それはそれで良いんじゃないかな。

 若者がいつも物静かだったら、長老達が心配しるに違いない。

 少しぐらいの奇行は、笑みを浮かべて頷いてくれるだろう。


 翌日。ガリムさんに率いられた8隻のカタマランがオラクルから西に小島4つ離れた島から土と石を運んできた。

 台船を俺のカタマランで曳いて行ったから、取り決め分以上に運ぶことが出来たけど、まだまだ足りないんだよなぁ。

 ギョキョウの小屋の隣に作った仮置き場に、石と土を運べば俺達の役目が終わる。

 浜に植えたココナッツの日陰に集まり、ココナッツを割りポットにジュースを入れたところで蒸留酒を混ぜる。さすがに分量比は三対一ぐらいだから、昼に飲むには丁度良い。いつもこれぐらいなら良いんだけどねぇ……。


「それで明日は何処へ行くんだ?」

「北でシメノンの群れに当たったらしいぞ!」


 嫁さん達の情報収集も盛んなようだ。

 俺のカタマランに遊びに来たトーレさんも、いくつかの船団の漁果を教えてくれたからね。

 俺達は長老から有望な漁場を教えて貰えるんだけど、その場所に出掛けて漁果が思わしくない時には、嫁さん達から小言があるからなぁ。

 嫁さん達の集めた有望な漁場の情報の方が正しい時もあるんだよね。

 たまにカタマランの甲板で夫婦喧嘩よろしく向かう漁場を言い争っている姿を見ることがある。

 漁に出る頻度が少なくなったからだろうな。これはカルダスさん達を介して長老に検討して貰うべきだろう。

 将来的にシドラ氏族は半農半漁の暮らしに移行するだろうが、それはかなり先の話になるだろう。それまでの過度期をどのように乗り切るか、もう少し考えた方が良さそうだ。


「シメノンの群れだが、その前の船団で群れに遭遇したのは西のこの辺りらしい。今度は北だから、シメノンはオラクルを真ん中にして右回りに動いているに違いない。前にも、ナギサがシメノンの動きの先を読んで俺達を漁場に導いてくれたのは皆も覚えているんじゃないか? 今回も同じ考えで良いと思う。となれば出掛ける漁場は東のこの辺になる……」


 回遊速度もあるだろうから、必ずしもそこにシメノンが現れるとは限らないが、状況を推測して漁場を決めるというのは新しい試みに違いない。

 ガリムさんがそれを自発的に行ってくれたんだからなぁ。結果はともかく、これも経験ということになるだろう。

 回数を重ねれば、それに伴う外乱のファクターを自分なりに加えることだって可能だろう。


「それなら、東に行くべきです!」


 俺の言葉に、ココナッツの木陰で休んでいた仲間が一斉にガリムさんに顔を向けて頷いた。


「絶対にシメノンが来るとは限らないんだが……」

「それでも、可能性は高いと思いますよ。少し前に釣れた、今回釣れた……、そんな場所にはあまりシメノンもいないでしょう。動きを考えて、東に向かうんですからね。それに乾期は素潜りが主流です。シメノンは旨くいけば、ぐらいに考えるべきでしょう」


「そうだ。銛の漁に出掛けるんだからな。それを考えても東は有望だ。南北に長い溝があるからフルンネも狙えるんじゃないか」


 これで出掛ける漁場が決まったな。

 今夜ガリムさんが氏族会議の場で俺達が向かう漁場を報告すれば確定する。船団がいくつも動いているから、同じ漁場に2つの船団が集まる可能性もあるけど、そんな時は長老が1つに決めてくれる。

 その裁可は船団の漁果によって優先順位を決めるらしいから、俺達が優先されるに違いない。

 同じ漁場に若手や老人達が来ると分かれば、壮年組は遠慮してくれるようだから、長老が裁可を下すことは殆どないらしい。同年代が2つということで起こるらしいんだが、相手より自分の方が腕が良いと信じている連中ばかりだからなぁ。

 互いに譲り合って収取が付かないくなるということだから、周囲の連中は苦笑いだろうなぁ。


「汐通しが良いからシーブルも狙えそうだ。それにナギサが同行してくれるんだから、大型の回遊魚も期待できそうだ」

「期待する前に、銛と釣針を研いでおけよ。この前付いた魚に錆が突いていたと漁協の小母さんが言ってたぞ!」

「あれは、偶々だ!」


 そんな言葉に周囲から笑い声が上がる。

 漁の頻度が高くないからなぁ。ちょっとサボると直ぐに錆が出てしまう。

 チタン材の銛はいまだに錆が浮かないが、鉄製の銛はそうもいかない。たまに表面を熱して油に漬けてはいるんだが、それでも錆が浮かぶんだよなぁ。


「明日の朝食後に集合だ。集合場所は……、入江の南側で良いだろう。黄色と白の旗を上げてくれ。俺は赤と黄色にする」


 船団の集合は俺達だけではないかもしれない。旗の色で区別できるようにしておかないと、集合に時間を取られてしまうからだろう。

 トウハ氏族で始まったらしいけど、たぶんアオイさん達が始めたのかもしれないな。


 夕食前にカタマランに戻ると、直ぐに2人が明日の漁場を聞いてくる。

 東に向かうと教えたら、うんうんと2人が頷いているのはトーレさんから何か情報を得ているに違いない。


「多分、あの溝にゃ。シーブルに混じってグルリンが獲れたとトーレさんが教えてくれたにゃ。仕掛けは底狙いだけにしたらダメにゃ」

「了解。シーブルも狙える仕掛けを用意しておくよ。昼はフルンネを狙えるらしいよ」


「フルンネも良いけど、ハリオを突くにゃ!」

「あれは運しだいだからなぁ……」


 そんな事を言ったから、2人が「頑張って突くにゃ!」なんて目を吊り上げて言ってるんだよなぁ。

 そんなに怒ることはないと思うんだけどねぇ。

 ハリオを突くならフルンネを3匹突いた方が収入も上がるし、何といってもハリオを突くより容易に思える。

 それだからオラクルに運ばれるハリオの数は、それほど多くはないんだよなぁ。

 とはいえハリオを突くということは、銛の腕を誇る手段でもある。

 若い時分にある程度のハリオを突いて、腕を氏族に知らしめるという暗黙の了解があるようにも思える。

 まったくハリオを突けずに壮年を迎えるとなれば、仲間からも漁が下手と思われるみたいだ。

 そんな漁師を何人か知っているけど、当人は『それはそれ』と言う感じで案外無頓着なんだよね。

 今さらということもあるんだろうが、漁師の腕は銛だけで測れるものではないということだろう。

 俺も出来れば釣りで名を残したいんだが、2人の嫁さんの矜持もあるからなぁ。

 昔から流されやすいと言われているんだけど、漁の腕は銛の腕だけではないと思うんだけどねぇ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ