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P-249 俺がこの世界にやってきた理由は何だろう


 オラクルから南に1日半カタマランを走らせると、サンゴの穴があちこちにある漁場に到着する。

 船団を率いるのは、ゾルバさんという恰幅の良い人物だ。今年で銛を仕舞おうなんて言ってるけど、まだまだ続けられそうに見える。


「その辺りの頃合いを見定めるのが、長生きの秘訣だな。若いころから比べると潜っていられる時間も少なくなってきたし、泳ぎも辛くなってきたからなぁ。次のリードル漁が終わったところで仲間と相談だ」


 明日の漁を前に、浜辺で焚火を囲みココナッツ酒を飲む。

 1杯で終わりにしようと、硬く心に誓ってチビチビと飲みながらお爺さんと言ったら怒られそうな御老人達の話を聞いているんだよね。


「この漁場はたまにハリオが回ってくるぞ。オレルも頑張ってみたらどうだ?」

「そうだな。嫁にも肩身が狭いと言われてるんだ。来年は無理だろうからなぁ、これで突けなかったら、死ぬまで文句を言われそうだ」


 そんな話で笑い声が上がる。

 頭を掻きながら苦笑いをしているオレルさんだけど、しっかりと右手を握り閉めているんだよね。

 ハリオを突く意思は固いということなんだろう。


「多分ナギサなら回って来れば突くだろうが、コツはあるのか?」

「腕が3分に銛が2分、残りの5分は運だと思ってます。銛は手入れを怠りませんけど、腕はトーレさんに俺が突くとおかずが増えるとまで言われていました。となれば、俺がハリオを突けたのは背中の聖姿の御加護ということになりそうです」


 謙遜してみたんだけど、焚火を囲む連中がうんうんと頷いているんだよなぁ。

 世間的には、俺の銛の腕は背中の聖姿によるものだと思われているのだろう。


「案外ナギサを龍神様が哀れに思ったのかもしれんが、ナギサは銛で名を遺すというわけでもなさそうじゃ。カイト様然り、アオイ様然りじゃからなぁ」

「そういうことだ。ナギサがもっと銛が下手でも、ネコ族はナギサを忘れんじゃろうて」


 真顔でそんな話をしては、ココナッツ酒を酌み交わしているんだよなぁ。

 だけど俺がシドラ氏族に入れたのは、オラクルを見付ける為だけだったのだろうか? 新たな大陸の王国との取引に関わる約定の見直しも、その中に入るに違いない。

 果たして、2つだけなんだろうか?

俺の寿命はまだまだあるに違いない。何年後にサンゴの穴に骨を埋めることになるか分からないけど、2度あることは3度あるとも言うからなぁ。


さて、そろそろ引き上げるとするか。明日は、1日中素潜り漁だからね。 

睡眠不足は漁に影響が出ないとも限らない。

 カタマランに戻ると、タツミちゃんはマナミをハンモックに寝かしつける。

 寝る前に小さなカップでワインを飲むのがいつの間にか習慣になってしまった。


「明日は、魔導機関のザバンを使うにゃ。私がカタマランに残ってマナミのお守りをしているにゃ」

「そうしてくれるとありがたい。お腹に子供がいるんだから、無理は禁物だ。ザバンを動かしていたなんて言ったら、トーレさんに怒られそうだ」


 タツミちゃんも頷いているところを見ると、2人間で既に合意が取れているんだろう。

 1日中ザバンで漁場を動いていることになるからなぁ。魔導機関があるとはいえ、息継ぎの度に俺の位置を確認しているようだ。それだと結構気疲れするに違いない。

 下弦に月がようやく上ってきた。そろそろ寝るとするか。


 翌日は、マナミの鳴き声で起こされた。

 片腕を伸ばしてハンモックを揺すると直ぐに泣き止んでくれたんだが、2人のハンモックが空になっている。

 屋形の壁は竹を編んで作ってあるんだが、その網目から差し込む光で屋形の仲が明るい。

 このまま2度寝したら、タツミちゃんに叩き起こされそうだな。

 ゆっくりとハンモックから足を出して床に付ける。

 脚が付いたところで体を起こし、ハンモックに腰かけた態勢を作って腰を上げる。

 こうしないと、ひっくり返るんだよなぁ。

 屋形を出ると、2人が朝食を作っている最中だった。


「珍しく早起きにゃ。雨が降ると大変にゃ」

「綺麗に晴れてるから、大丈夫だと思うよ」


 海水を汲んで、顔を洗う。

 布で顔を拭いていると、エメルちゃんがお茶の入ったカップを渡してくれた。


「もう直ぐできるにゃ。船団のお爺さん達も起きて準備を始めてるにゃ」

「今日は、銛と水中銃を使うよ。ブラドは銛で十分だけど、結構汐通しが良さそうだからね。フルンネやハリオが回って来るようなら水中銃だ」


「タツミにロデニルを頼んであるにゃ。今夜はロデニルのスープにゃ!」

「俺も獲った方が良いのかな? 浜で料理するなら、人数分獲って姿焼きが良いんじゃないか」


 俺の言葉に、2人が頷いている。

 船団の小母さん達にも連絡が行くなら、直ぐに人数分のロデニルが手に入りそうだ。


 朝食は、カマルの開きを焼いてご飯に解して混ぜた物と少し酸味があるスープだった。ご飯にバナナが入っていた。青いバナナは生で食べられないんだよねぇ。


 朝食を終えると、ザバンを引き出す。

 ちょっと面倒なんだけど、慣れればそれほど苦労はしない。

 氷を加護に入れてタツミちゃんが乗り込んだ。

 水中銃をタツミちゃんに手渡して、装備を調える。

 だいぶ使い込んだけど、まだまだゴムの弾力は失われていないようだ。

 フィンを履いたところで、水中眼鏡を掛け銛を持つ。


「行って来るよ!」

「大きなのを突いてくるにゃ!」


 エメルちゃんに頷いたところで、シュノーケルを咥えて飛び込んだ。

 久しぶりの素潜り漁だ。おかずを増やさないように、慎重に行こう。

 水深は2mほどだけど、少し泳ぐと黒々としたサンゴの穴があった。底がどうにか見えるから、それほど深くは無さそうだが……。ちらりと何かが動いたのが見えた。

 先ずは、あいつを突いてみよう。


 息を調えて、一気に穴に潜っていく。いくつもテーブルサンゴが穴に張り出しているから、1つずつテーブルの裏を確認していると、大きなバルタックを見付けた。

 バルタックが最初とは運が良い。

 ゴムを引き絞って銛の柄を軽く握る。

 右手の動きだけでサンゴに近付き、左手を伸ばして狙いを定める。

 バルタックの動きを見極めて左手を緩めると、狙い違わずバルタックの鰓の上に銛が通った。

 銛の柄を掴んで急いで引き出す。

 暴れているけど、そのまま海面に浮上してシュノーケルの水を吹きだして息を付きながらタツミちゃんに手を振った。

 ザバンが俺の横に泊ったところで、獲物を海中から引き揚げるとタツミちゃんが銛から獲物を引き抜いてくれた。


「大きなバルタックにゃ! 次も頑張るにゃ」

「任せとけって。爺さん連中には負けないからね!」


 さて次の獲物を探そう。 

 結構大きなサンゴの穴だから、もう2、3匹はいるんじゃないかな。

 2匹目のバルタックをザバンに届け、少し潜る位置を変えようとしていた時だった。

 ゴォーッという音が近付いてくる。


 ハリオ? もしくはフルンネの大群に違いない。音がどんどん大きくなってくるから、ここを目指しているのかもしれない。

 息を調え急いで潜ると、テーブルサンゴにフィンを引っ掛けて、銛のゴムを引く。

 音からすると、こっちだな。左腕を上げてその時を待った。

 前方から黒い塊が近付いてくる。

 かなりの速さだ。黒い塊が此処の魚に別れると、群れが俺の頭上を横切り始めた。

 狙いは、魚の30cmほど前方だ。

 大きな姿が近付いて来たところで、左手を緩めた。

 

 グンッ! 左腕に強い衝撃が伝わる。

 魚体に体が持っていかれそうだ。足をサンゴから離して銛を強く引く。

 銛先が貫通しているから逃げられることは無いが、かなりの暴れようだ。

 10秒ほど過ぎると、少しずつハリオの動きが鈍くなる。

 どうやら力尽きたようだな。海上に浮かぶと、息を調えながら右手を振ってタツミちゃんを呼んだ。


「大きいにゃ! ザバンの保冷庫には入らないにゃ。カタマランに戻るにゃ」


 感心しているというよりも、驚いているんだよなぁ。

確かに大きい。少なくとも1.5mはありそうだ。


「大きな群れだったよ。しばらくはこの海域を回るだろうから、もう1匹ぐらい確保したいね」

「もっと突いても大丈夫にゃ。カタマランの保冷庫は大きいにゃ!」


 そう言って、俺達のカタマランに向かってザバンを進めていった。

 確かに大きいことは確かだ。アオイさんはトウハ氏族でも指折りの量子だったらしいからなぁ。嫁さんのナツミさんだって銛の腕はかなり高かったらしい。

 トーレさんが自慢げに話してくれたからね。

 そんな2人のカタマランを基にして作られたのが俺達のカタマランだ。

 保冷庫が2つあるのは、一般的なカタマランと同じなんだが保冷庫をさらに大きく出来るんだよなぁ。仕切り板を外せば5m程の長になるんだが、多分マーリルの搬送に使う為だったに違いない。

 身長の2倍ほどの魚というのが信じられなかったんだが、トウハ氏族の氏族会議を行うログハウスの飾ってあった吻の長さから推定すると4.5mはあったに違いない。

 先ほど付いたハリオだって、曳き釣りなら甲板に上げるまでにかなりの苦労をしたはずだ。その2倍を超える魚体ともなれば……。釣り具を根本的に見直さないといけないかもしれない。

 

 考えながら獲物を探していると、サンゴの下からヌゥゥと何かが動いた。

 なんだろう?

 先ずは確認してみよう。


「ケオにゃ! 珍しいにゃ」


 ケオは大きくなるとのことだけど、まだ60cmほどだからなぁ。

 突かないで、見逃した方が良かったのかもしれない。

 これはオラクルの戻ったらトーレさんに料理して貰おう。あまり獲れないらしいから、売らずに皆で頂こう。

 ザバンに掴まって、カタマランに戻る。

 太陽が真上だから、そろそろ昼食の時間だ。


 昼食は朝食の残りを軽く炒めて、スープを掛けた物だ。

 スープの塩味が丁度良いんだけど、酸味があるんだよね。これはレモンに似た柑橘系なんだろうと思っていたんだが、パイナップルだとは思わなかったんだよなぁ。

 前の世界で見たパイナップルより小さくてリンゴ程の大きさなんだが、完熟すると結構甘いんだよなぁ。

 食事が終わると、パイナップルの切り身が保冷庫から出てきた。

 1人3切れなんだけど、甘いからお茶にも合うんだよね。


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