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P-248 ようやく漁に出られそうだ


 朝食を終えたところで、再び新たな田圃作りの骨子を話し合う。

 どうにか昼食前に、カルダスさん達も納得出来たようだ。

 俺は縄張りだけになりそうだな。

 

「今夜の集まりで長老の裁可を貰おう。漁から帰る際にブラド程の石を3個と小石を米袋1つ分だからなぁ。それぐらいは皆も納得してくれるだろう」

「田圃作りは漁から帰った2日後から3日間だな。収入が減るだろうが、それでも次のリードル漁までに魔石1個分程度だろう。問題は……、責任者だな」


 次々と人手が集まるだろうから、漁に出ることが出来なくなりそうだ。これは氏族から補償しないといけないだろう。それに漁に出なければ勘も鈍るだろうからなぁ。田圃が出来るまでずっと責任者とすることは難しいかもしれない。

 その対応措置が、複数の責任者だ。3人の責任者を任命して、1カ月交代とすれば責任の重圧も軽くなるだろう。


「とりあえずは、これで良いだろう。これで納得させるしかなさそうだ」

「だが、今夜はナギサを呼ばなくとも良いと長老が言っていたぞ。是非とも参加させたいところなんだが」


 なるほどね。長老の考えが少し理解できたぞ。

 あまり俺に頼ることが無いようにとの事に違いない。

 初めて作るわけではないからなぁ。それぐらいできないでどうする、ということなんだろうな。


 さて、戻って昼食を取ろう。

 午後は、マーリルを釣るための仕掛けを考えようかな。

 少しずつ準備をしておかないと、数カ月は案外早いからね。


 翌日から2日間は、漁から戻ってきたガリムさん達に手伝ってもらい既存の田圃の西側に新たな田圃作りの縄張りをする。

 海に向かって下がっているから、既存の田圃からの導水が十便に出来る。排水路はそのまま残すことにした。雨季の雨は半端じゃないからなぁ。

 昼過ぎに様子を見に来たカルダスさん達に縄張りの結果を見せて、納得してもらう。

 縄に沿って畔を作り、今は雑草が茂っている土地を耕さねばならない。

 一度耕して水を入れ、今度は泥になるよう再び耕す。

 ポニーのような馬を早く入手すべきかもしれないな。耕作にも使えるし、桟橋から高台の倉庫への荷役にも使えそうだ。


 オラクルに戻って7日が過ぎた。

 そろそろ漁を始めなければなるまい。ガリムさん達に同行させて貰おうと考えていたんだが、田圃の縄張りが終わった翌日に出掛けてしまった。

 そうなると……。


「ナギサト漁に行きたいと願う奴は大勢いるぞ。そうだなぁ、今夜にでも長老の考えを聞いてやろう。ナギサを誘おうとしないのは、他の船団連中から恨まれたくないということなんだろうな」

「それほど漁が上手いとは思っていないんですが……、龍神の加護ということでしょうか?」


「お前が船団に加われば、普段より漁果が多いことは確かだ。それが龍神様の加護なのか、本人達が加護を信じて普段より頑張る結果なのかは判断に迷うところだな。だが、そんな思いを抱かせるのは龍神様の加護ということにもなるのだろう」


 宗教は怖いと聞いたことがあるけど、ネコ族の人達は龍神を信じているからなぁ。

 しかも現実にいるんだからね。

 最初は懐疑的なところがあったけど、オラクルを教えてくれたんだから信じるしかない。それに俺達を罰するようなことは無いらしい。

 かつて火山活動で大きな被害を出したらしいけど、龍神様がネコ族をその脅威から守ってくれたからこそ今の自分達がいると教えてくれたぐらいだ。

 だけど、火の神の怒りということでも無さそうだな。

 かつてのネコ族は戦闘民族そのものだったらしいが、今では温厚に漁で暮らしているんだからなぁ。

 それに比べて大陸で暮らす人間たちには困ったものだ。

 少しは他の王国と仲良くしてくれれば良いんだが、真ん中のネダーランドが問題だ。北と南の王国から比べて歴史が浅く、海人さんの時代の建国らしい。

 その後に2度ニライカナイと争って敗退しているんだが、未だに諦めが付かないらしい。

 被害妄想なのか、それとも覇王を名乗りたいのか分からないけど大陸の南北それに西に兵を同時に進められるものでもないだろう。下手に1方向に軍を進めたなら、他の王国に蹂躙されると思うんだけどねぇ。

 それが在るから、ニライカナイを狙っているんだろうか?

 リーデン・マイネがある限り、ニライカナイに軍船を向けるのは無理にも思えるし、

そんなことをしたならジハール王国の水の神殿が聖戦を告げないとも限らない。

 騎馬民族の軍の機動戦には鎧を着た戦士では太刀打ちできないだろう。中国のように万里の長城を国境に築いても、北と南の王国領を通って攻め込むんじゃないかな。


 かつての戦闘民族をニライカナイで安らかな暮らしをさせる。

 敗退して海に逃れたネコ族を迎え入れてくれたんだからなぁ。ネコ族が龍神信仰を続けるわけだ

「それなら、また爺さん連中に付き合ってくれんか。何度も頼まれているからなぁ。銛を手放す前に思う存分魚を突きたいに違いない」

「爺さん連中と行くとなれば、長老が場所を選んでくれるに違いない。今夜にでも話してこよう。まぁ、浜辺で自慢話を聞かされるだろうが、それぐらいは我慢して聞くんだぞ」


 カルダスさんも、それを経験したってことなんだろう。

 だけど、結構おもしろい話を聞かせて貰えるんだよね。氏族に昔から続く話や、

 貴重な漁の経験談ばかりだからなぁ。

 タツミちゃん達も、小母さん連中と一緒に夕食作りを楽しんでいるらしく、結構大きな笑い声が俺達の焚火にまで聞こえてきたぐらいだ。

 料理の味付けも色々と教えて貰っているに違いない。


 その夜の事だった。

 エミルちゃんが、恥ずかしそうに「子供が出来たにゃ!」と教えてくれた。

 翌日カルダスさんに知らせたら、飛び上がらんばかりに喜んでくれた。


「そうか! 出来れば男の子が良いんだが、カヌイの婆さん達から聞かされているからなぁ。だが、めでたいことには変らんぞ。先ずは飲んでいけ!」


 なみなみと注がれたココナッツ酒を飲まされて自分の船に戻ってきたら、今度はバゼルさんに飲まされてしまった。

 ニライカナイは、下戸には厳しいところなんだよなぁ。

 

「これで2人目にゃ。タツミは経験者なんだから、いろいろと教えてあげるにゃ」


 トーレさんとサディさんがまるで我が子のように、嬉しそうな顔をしてエミルちゃんのお腹を撫でてるんだよなぁ。

 

「直ぐに3人目も出来るだろう。シドラ士族の娘が増えるのは喜ばしいことだ。長老も喜ぶに違いない」


 皆が祝ってくれるのはありがたいんだけど、ようやく飲み終えたカップにトーレさんがココナッツ酒をなみなみと注いでくれるんだよなぁ。

 これで3杯目になる。さすがにこれを飲んだら、明日の出漁が出来なくなりそうだ。


「明日は爺さん連中と漁に出ると聞いたにゃ。漁場まで1日は掛かるからのんびり寝ていれば良いにゃ」


「爺さん連中が喜んでいたぞ。前回より2艘増えるが、それは我慢してくれ」


 腕自慢が2人増え入るということだな。前回は僅差だったからなぁ。体力は俺の方が上なんだろうけど、経験の差がそれを上回るということなんだろう。

 頑張って漁をしないと、背中の聖姿がかすんでしまいそうだ。


「やはり長年漁をしてきたからでしょうね。俺達よりも獲物を探すのが上手いとしか思えないんです」


「ハハハ……、後で爺さん連中に教えてやろう。ナギサが漁の腕は自分より上だと言っていたとな」

「そんな事を言ったら、せっかく銛を仕舞おうとしている爺さん達が、銛を研ぎだすにゃ。でも、マイラ姉さん達は喜んでくれるに違いないにゃ」


 そんな事を言って、サディさんと一緒に笑っている。何故笑うのか分からないんだろうな。マナミがキョトンとした顔をしてトーレさんに抱かれている。


「リードル漁を俺達と同じように続けるのは出来んだろうが、2日は漁をしそうだな。案外新たなカタマランを作るかもしれんぞ」


 木造のカタマランは20年程持つらしいからなぁ。最後にカタマランを新調すれば生涯その船で暮らせるだろう。

 ちょっと寂しい気もするけど、水漏れのするような船で暮らすのはねぇ……。


「老人3人暮らしだからなぁ。トウハの連中が最初に手に入れる船を考えているようだ」


「小さなトリマランにゃ。でも近くの漁場なら、問題なさそうにゃ。私はその次に手に入れる船で良いにゃ。小さなトリマランのカマドは1つしかないにゃ」


 そんな船もあるんだ。

 小さい船が桟橋に何艘も泊っているのを見たことがあるんだが、それは余生を釣りで過ごす老人達ということなんだろう。


「漁を止めるのは自分から決める物なんでしょうか?」

「そうだなぁ。同年代で船団を作っているから、船団単位ということが多い。年齢的には50から60までの間ということになるだろう。素潜り漁を止めれば必然的にリードル漁が出来なくなる。その後の生活に困らぬよう氏族から食料が支給される。老いてからの釣りでは生活が出来んからな」


 俺達がリードル漁で上納する魔石や獲物をギョキョウに買い取ってもらう際の1割の上納で賄うらしいから、俺が住んでいた日本よりも福利厚生が良く出来ているようにも思える。

 もっとも、ニライカナイには医者がいないんだよね。

 病気になったら、カヌイのお婆さん達が作った秘伝の薬を使うらしいんだけど、それが効くかどうかは龍神様の御意思という事らしい。

 怪我や病気にならないように気を付けるしかなさそうだな。


「俺達も後10年というところか」

「まだまだ現役だ。誰かに聞かれでもしたら長老が手招きしかねんぞ」


 将来の長老候補ということかな?

 だけどカルダスさんなら良い長老になれると思うんだけどねぇ。誰にでも酒を進めるのがちょっと問題だけど、1つぐらい悪いところがあるのは仕方がないだろう。

 そうすると島の老人達は、長老と炭焼きや燻製、ざる作りに釣り漁という5つの仕事があるということになる。

 小母さん達は、カヌイの小母さんにその世話をする小母さん、漁協や売店、それに畑の世話ということになるんだが、田圃は畑よりも維持するのが楽だと思うんだけど、その管理も頼んでおいた方が良いのかもしれないな。


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