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N-063 カゴを仕掛ける

 翌日、俺の吹くブラカを合図に、4隻の動力船が南に向かって島を離れる。

 出発の朝なら晴れて欲しかったが、生憎とどんよりした曇り空だ。昼には降りだすんじゃないかな。


 先行する俺達のカタマランを操船しているのはリーザとライズの2人組だ。すでに17歳だからな。月日の流れが速く感じる。

 サリーネは俺より1つ下だから21歳になるんだよな。

 まだまだ4人で楽しく暮らそう。ラディオスさん達もまだ子供は作らないみたいだからな。

 サディさんの双子も歩くのがだいぶ上手くなった。目を離せないんだがサリーネと2人で見ているからゴリアスさんも安心できるだろう。

 曇天で、日差しが無いから、甲板で俺の作った積み木で遊んでいる。エラルドさんの木工細工で余ったものを貰って来ただけなんだけど、子供は何でもオモチャにするからな。帰る時にはプレゼントしてあげよう。


 そんな子供達を見ながら、俺とゴリアスさんは船尾のベンチに腰を下ろしてパイプを楽しんでいる。

 動力船は時速10km程で進んでいるから、パイプの煙は後ろに流れる。これなら副流煙を気にすることも無いだろう。


「やはり、大きい船は揺れんな。安心して子供を遊ばせられる。例の計画は出来てるのか?」

「一応、2つの型を考えました。一回り小さいですけど、小屋は大きいですよ」

「金貨10枚は超えそうだな。もうしばらくは今の船になりそうだ」


 廉価版と言うのが無いからな。待てよ……、ザバンを船首に積まずに、水車を付けたらどうだろう? 

 跳ねる海水はガムの樹脂で厚く塗り固めた板で防げるんじゃないか? 

 水車なら使う魔道機関は1つで良いし、小屋と甲板はそれなりに大きくできるぞ。

後で描いてみよう。カゴ漁なら十分使えるんじゃないか? 小舟が必要ならゴムボートを乗せておけば良いだろうしね。

 それに、通常の船の後ろに設ける甲板を前に作っても良さそうだ。エラルドさんが前に乗っていた大型船なら、全長の三分の一は甲板に出来そうだ。小屋も奥行が4m近ければ大家族が暮らすことも出来そうだな。


 ベンチの前にテーブルを持ち出し、メモ用紙にそんな船の姿を描いていると、ゴリアスさんは餌木を作り始めた。

 餌木は連結しても使えるからな。それに何個か予備を持っていても良さそうだ。

 形を作り魚を皮を張って、透明な樹脂を塗る。そんな餌木を俺も何個か作ってベンチの中のザルに仕舞ってある。


 簡単な昼食を頂く間も、船は南に進む。

 昼食が終わると、サリーネとサディさんに操船が交代されて、リーザ達が双子のお相手を始めた。小さい子は可愛いからな。俺のところに中々来ないんだけど、たまに抱っこしてあげると、直ぐにライズ達が取り返しに来るんだよな。


「トウハ氏族は素潜り漁の民だと聞きましたが、素潜りができなくなった者は多いんでしょうか?」

「そうだな……。俺達の年代ではいないな。だが親達の年代になると5人に1人と言うところだろう。さらに年代が上がると増えるはずだから、20人以上はいるんじゃないか。多くが釣りで生計を立てている感じだな。村の畑もそんな家族が耕してるんだ。燻製小屋や炭焼きもそうだな。石作りの桟橋だって俺達は石を運ぶだけだが、彼らが作っているようなものだ」


 表に出ない島の維持管理をしている感じだな。

 代表格は長老になるんだろうが、世話役達が彼等の仕事を上手く采配しているんだろう。俺達の漁の成果の1割は上納するのだが、これは氏族への税金という事なんだろう。その税金を上手く分配することで、俺達の漁にも色々と還元されているのだから、たいしたものだ。

 前に住んでいた俺の町よりも住民政策が上手く行っているんじゃないか?

 氏族という共通の帰属意識が根底にはあるのだろうけどね。


「だから、俺達の今回の漁は長老達も期待しているのだ。ロデナスが彼等に獲れるならば、氏族の暮らしが更に良くなるからな」

「更に高額の真珠貝が獲れれば良いんですけどね」

「それは無理だろう。真珠貝は3FM(フェム:9m)以上の水深で獲れる。この南の砂泥地帯は5FM位あるぞ。あそこで真珠を採ろうとして耳を壊した連中も多いんだ」


 リードル漁は年に2回。金貨を手に入れる者も、この地に来てからは多くなったとエラルドさんが話してくれた。

 だが、金貨2枚では船の維持費と家族の暮らしで、それほど残らないんじゃないのかな。船の寿命は20年だと言われているようだから、その前に新しく船を購入せざるをえない。60歳まで漁をするなら20歳で最初の船を手に入れるとしても、3回は乗り換える必要が出て来るな。家族の構成に合わせて船を替えていくというのは、それらを総合的に考えての事だろう。

 そうなると、毎年金貨1枚程度を貯め込む必要が出て来るわけだ。

腕の良い漁師ならともかく、リードル漁ができない漁師達には難しい話ではあるな。


「それもあるから、俺達は早めに船を替える。魔道機関の魔石の交換位で数年は漁ができるなら、彼らも良い漁場で魚を獲れるからな」

 エラルドさん達と同じ答えが返ってきたところをみると、その仕組みは氏族が長い間行って来た取り決めみたいなものなんだろう。

 となると、俺も次の船を考えないといけないのかも知れないな。

 このカタマランより大きな船だとどんな船になるんだろう? そんな事を考えながらベンチでパイプを楽しむ。


 急ぐ漁ではないから、途中の島で果物を採ったり、少し西にコースを変えて海底の様子をうかがったりしながら3日掛けて漁場についた。

 いつもよりは少し西に来ているが西に3日はトウハ氏族の漁場という事で族長会議で認められているから、この辺りも俺達の漁場になるはずだ。


 到着が昼過ぎという事で、俺のカタマランに集まり、エラルドさんが神亀に酒を手向ける。それが終わったところで、カゴを水中に沈める作業を皆で行った。

 慎重にサンゴの崖から距離を取り、1個ずつカゴを屋根から下して、カゴの中に餌のカマルの開きを針金で結わえる。

 後は、カタマランの船尾の扉を開いてカゴを海中に投げ出し、ロープを手にゆっくりと沈める。

 カゴのロープに先には2m程の旗竿が付いているから、後で分らなくなることは無いだろう。

 カタマランの直ぐ近くでラディオスさん夫婦がザバンを漕いで、海中に沈んでいくカゴを箱メガネで覗いている。

 なるべく崖の近く、かといって崖にくっ付かないように、覗きメガネで見ながらカゴを沈める俺達に指示を出してくれる。

 どうにか、10個のカゴを沈めると、だいぶ日が傾いていた。


「結構、面倒だな。ほんとに獲れるんだろうか?」

「それは明日の昼には分かりますよ。ロデナスは夜に活動しますからね」


 荷物が無くなり広々とした甲板に、皆が集まりお茶を飲む。

 夕食後には根魚釣りを行う予定だ。それを使って明日のカゴ漁をするから今夜は忙しいぞ。


「どれ位離れて釣りをするんだ?」

「そうですね。今でも、30FM(90m)以上離れていますから、この辺りで十分でしょう。崖に近いですから、結構釣れるんじゃないですか?」

「元々魚が多い漁場だ。神亀が魚を集めてくれるんだから、それなりの釣果を期待してるぞ」

 エラルドさんの言葉に、俺達が真剣なまなざしで頷く。

 神亀の助けが無くとも、俺達は家族と氏族を食べさせていかねばならないからな。漁は遊びではなく、俺達の大事な仕事としていつも考えねばならない。

 

 食事は簡単な野菜や魚の切り身が入った雑炊だったが、塩味の効いた味は中々だった。味付けはサディさんに違いないな。

 軽く酒器に半分程のワインを飲んで、各自の動力船に皆が帰ると、いよいよ根魚釣りが始まる。

 最初はサディさんとライズにリーザだ。残りの俺達は小屋で仮眠を取ることになるが、サディさんの双子はサリーネが一緒に寝かしつけてる。

 上手く眠らせることができるなら朝まで一緒に眠ると良い。


 一眠りしたところで、ライズ達と交替する。

 サリーネも残念そうにライズ達と場所を交替してたけど、本来双子の隣はサディさんじゃないのかな?


「だいぶ釣り上げたようだぞ」

 ランタンの灯りの下で、保冷庫の中を覗き込んでゴリアスさんが教えてくれた。ゴリアスさんはサディさんが使っていた手釣りの仕掛けをそのまま使用するようだ。俺は、2人が自分達用だと思っているリール竿を仕舞いこんでいたので、改めて向こうの世界から持ち込んだリール竿の道糸を引き出して胴付仕掛けを取り付ける。

 サリーネにはリーザ達が仕舞いこんだリール竿を取り出して、同じように仕掛けを付けて渡してあげた。


「餌は、これを使うのか?」

「カマルの切り身ですけど、結構良い餌になりますね」

「俺達だって食べるからな。さて、何が釣れるか……」


 仕掛けを海中に落として、パイプを取り出した。

 俺達もゴリアスさんに続いて仕掛けを投入すると、竿の後ろに付けた紐を手すりに巻き付けておく。こうしておかないと、大きな魚が掛かった時に竿ごと持って行ってしまう。


 サリーネが割ってくれたココナッツを飲みながらしばらく待っていると、グイグイと竿が絞られる。

 素早く竿を掴んで大きく合わせをすると、リールを巻き始めた。かなり重いぞ……。

 どうにか、海面近くまで引き上げたところで、サリーネがタモ網ですくい上げてくれたが、40cmを超えるバッシェだな。ヒレが大きいから直ぐに分かるぞ。

 サリーネが棍棒でポカリとやって獲物を持って行った。直ぐにさばくのだろう。

 餌を付けて、仕掛けを投入すると、次の当たりを待つ。


「おおきいバッシェにゃ。私にも掛かると良いにゃ……」

「俺だってまだだぞ。次は俺の番じゃないか?」


 サリーネの呟きにゴリアスさんが応じているけど、俺だっているんだぞ。

 そんな競争心も手伝って、何匹か釣りあげたところで休憩を取る。

 星が1つも見えないから曇天なんだろうな。お茶を飲みながらそんな事を考えた。

 休憩を適当に取りながらも釣りを続けるから、朝日が昇るころにはリーザ達より多くの根魚を釣り上げたんじゃないかな?

 サディ達が起きたところで、俺達は竿を畳んで少し仮眠を取る。

 今日は仕掛けたカゴを引き上げねばならないからな。



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