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P-214 稲作は神頼みが必要かも


 サンゴの穴で思う存分魚を突き、夜釣りは最後の夜にシメノンの回遊に遭遇できた。

 トーレさんがいるから、2カゴを超えたかもしれないな。

 島へと帰る船旅では、操船櫓からトーレさんのハミングが聞こえてきた。


「トーレさんがいたから、いろいろと助かったにゃ。これからナギサも子守ができるから、私も操船ができるにゃ」

「泣きださないかと心配なんだよなぁ。でも、今日は期限が良いみたいだ」


 腕の中のマナミと目を合わせると、途端にべそをかきだした。

 素早くタツミちゃんに戻して難を逃れる。

 オッパイが欲しかったのかな? タツミちゃんがマナミを抱いて家形の中に入っていく。

 

 昼を過ぎると見覚えのある島があちこちに見える。

 結構速度を上げているようだ。このまま進めば日暮れ前にオラクルに到着できるんじゃないかな。


 夕暮れ時に桟橋に到着すると、バゼルさんが出迎えてくれた。

 ロープを投げて、桟橋に結んでもらう。

 エメルちゃんの合図でアンカーを下ろせば、俺の仕事は一段落だ。エメルちゃん達がギョキョウへ漁果を運ぶのは明日にするみたいだな。

 

「トーレのお守、ご苦労だった。サディがもう直ぐ来るはずだ。それまでは、こっちに来て酒でも飲もう」

「ありがとうございます。トーレさんが一緒だったので助かりました。タツミちゃんも気苦労がだいぶ減ったように思います」


 バゼルさんのカタマランでココナッツ酒を飲んでいると、直ぐにザネリさんが現れた。

 さすがに食事は一緒ではないようだから、漁の状況を確認しに来たんだろう。


「だいぶシメノンが獲れたな。3人で14匹を上げたぞ。友人連中も10匹を超えているようだ。それでナギサはどうだったんだ?」

「21匹を釣り上げました。針が2段になった餌木ですから、バラシが少なかったんだと思います。それにトーレさんが一緒でしたから」


「母さんは昔から得意だったからなぁ。だが、やはりナギサの腕があったからだろう。2段の針か……。確か商船の職人に特注したんだったな」


 餌木に着けた針は、一応既製品があるにはある。

 最初に見た時はびっくりしたけど、海人さんや蒼さんが伝えたんだろう。

 だけど、1段だけでしかも周囲に6本の針では少なすぎる。

 周囲に12本の針を2段に重ねた餌木は、やはり釣果に繋がるようだ。


「釣果は餌木だけで得られるものではないぞ。ナギサは腕も確かなようだ」

「とりあえず、2つほどナギサと同じ仕掛けにしてみよう。それでも釣果が上がらないようなら、俺の腕ってことなんだろうなぁ」


 なかなか自分の腕が悪いとは思わないようだ。

 父さんも釣り人は、そんな心根だと言ってたことがあったな。

 『分からない時には、一番連れている釣り人に教えて貰え……。気持ち良く教えてk売れるはずだ』

 教えたら同じようにたくさん釣れるはずだから、教えた方もうれしいのかな?

 父さんにそう問いかえると、「『自分を蹴る腕はない』と思っているのが釣り人だ」と笑って答えてくれた。

 要するに『自分が一番!』ってやつか?

 仕掛けや魚の釣れる棚を教えても、腕を教えることにはならないという自惚れってことじゃないか。

 

 案外漁師の中にも、似たような考えを持つ者が多いのかもしれない。

 俺も気を付けないといけないな。常に謙虚でいるべきだろう。

 もっとも、同じ年代の連中とは経験年数が違うからなぁ。いつも教えて貰ったばかりのような気がする。


「それで、次は父さんも一緒に行けるのかい?」

「田圃作りを,皆に教えたからな。そうだ! ナギサに一度見て貰わねばな。ナギサの計画通りに進めてはいるつもりだが、問題点があれば早めに直さねばならん」


「本来なら、俺も残るべきでしたが……」

「それは気にするな。ナギサばかりに苦労を掛けるようではシドラ氏族の先が見えると、長老達が嘆いたいたぐらいだ。カルダスもだいぶ考え込んでいたがぞ。2日の休みの間にやってくるかもしれんな」


 俺にできる範囲で協力しているつもりだったんだが、俺の先走りに見えるのかもしれないな。

 俺の考えなど、いかにして楽になろうかぐらいの浅知恵でしかないんだけどなぁ。


「俺達にも仕事が回ってくるってことか?」

「休みの1日ぐらいは、手伝えるだろう。とりあえずは排水路の溝堀だ。だが、その前に竹を運んできてもらおうか。この前と同じぐらい欲しいところだ」


 排水路の補強を竹を組んで行おうということらしい。

 用水路は石を積んでセメントモドキで補強しているのだが、さすがに排水路はそれほど手間を掛けないということだろう。段々畑の排水路は道のすぐ脇だから、用水路と同じように補強しているんだけどね。


「ついでにココナッツとバナナを集めてくるよ。仲間と一緒なら1日あれば十分だ」

「それなら、ココナッツの若木を見付けたなら運んで来い。浜のココナッツが良い日よけになっているからな。さらに広げようとお前らの上の世代が動いているぞ」


 自分達の暮らす島を少しでも良くしようと、皆が頑張っているのだろう。

 岩場だった浜にだいぶ砂が広がっているのは、漁に出た時に少しづつ運んでいる連中がいるからに違いない。

 自分達は島の為に何ができるか……。そんな考えが自然にできるんだから、氏族の結束力とは凄いものだな。

              ・

              ・

              ・

 翌日。朝食を終えたところで田圃作りの現場に向かった。

 漁果の運搬と次の漁の準備は、トーレさん達が手伝ってくれるらしい。エメルちゃんだけでは大変だからなぁ。


 高台の広場を過ぎると、老人達やだんだん畠の手入れに向かう小母さん達に出会う。

 軽く頭を下げるのが氏族内の礼儀だ。

 たまに話しかけてくるお爺さんもいるんだけど、下手にお茶をご馳走になったりしたら1時間は離してくれそうにないんだよなぁ。

 立ち話で終わりにして、南へ向かい道を歩いていく。


 森を抜けると、ヨシズ張りの屋根が付いた段々畑が広がり、その下に田圃作りの現場が見えた。

 すでに10人以上が集まっている。

 最初の畦道は整備されたみたいだな。田圃となる場所はいまだに草が生えているけど、それを耕して泥沼にしないといけない。

 畔の補強にために溝を掘って竹を組んだのだが、溝を掘った土を畔に乗せたから畔が少し高くなっている。

 田圃内の土をかなり運ばないといけないと思っていたんだが、それほどでもなさそうだ。


 田圃まで来ると、直ぐに畔の高さを確認する。

 10cmは高くなっているが、もう少し高さが欲しいな。水深が10cmほどになるように、やはり少し田の中を低くする必要がありそうだ。

 土留めの竹組を見ると、もう少し上まで編めそうだな。

 ザネリさん達が竹を運んでくるなら丁度良い。


「どうだ? 次の田圃の土留めを作っている最中だ。もう1組が排水路を作っているが、あっちは掘るだけだからなぁ。まあ、下の池に流せれば問題はねえだろう」

「カルダスさんがいるとは思いませんでした。そうですね……、この土の上に半YMほどの深さで水を張りたいんです。浅い池のようにしたいんで、もう少し周りを高くできませんか?」


「そうなると、この中の土を使うことになりそうだな。まぁ何とかするさ。高くした後はどうするんだ?」

「用水路から水を引き入れます。1度水を張って田の中が同じ水深になるように、低い場所に土を移動することになります」


 結構面倒な仕事になるだろうな。大きい田圃だと結構な重労働だけど、田圃の大きさがそれほどではないから、雨季までに1枚の田圃を作れそうだ。

 

「なるほど、この区画の中を同じ深さにするってことか……。まだ乾季の半分にもならん。雨期前には十分間に合うぞ」


 上手く行けば良いんだけどなぁ……。

 枠の中を耕して、上手く泥になれば種を撒けるという話をすると。カルダスさんが笑みを浮かべる。


「隣は無理でも、こっちは何とかしてやろう。泥まみれになるなんて、初めてじゃないのか?」

「砂まみれはリードル漁の度だが、泥となると初めてだな。他の氏族の連中は思いもつかないんじゃないのか」

 

 俺達の周りに集まって話を聞いていた人達がそう言って笑い声を上げる。

 まぁ、島での暮らしだからなぁ。泥に出会うことすら珍しいのかもしれない。

 そんな状況で暮らしていた人達に、泥を作れというんだから確かにおもしろい話かもしれないな。


「明後日には漁に出掛けるんだろう? 次の休みの時にも顔を出してくれ。俺やバゼルがいなくとも他の連中がきちんと仕事をしているはずだ」

「変な仕事を押し付けてしまって、申し訳ありません」


「なぁに、気にすることはないぞ。それにしても、米ってのはこんな場所で作るのかと皆で感心していたぐらいだからなぁ」

「泥で育つとは、世の中広いってことだな。ナギサがそれを知っていることに驚く限りだ。別に氏族の連中が米を買わなくなるとも思えねぇが、少しは島で採れた米が食えるならなぁ……」


 唯一自分達ではどうにもならなかったのが、米の栽培ということなんだろう。

 本来なら大陸の大河に沿った湿地体で作る代物のはずだ。

 さすがに収穫量は少ないだろうが、自分達で作った田圃で出来た米を食べる時には感動ものだろうな。

 そういえば、稲作と神はかなり密接の結びついていたんじゃないか?

 向こうの世界の風習を取り入れることは出来ないだろうけど、田植えと稲刈り、それに収穫祭ぐらいは行っても良さそうだ。

 カヌイの御婆さんに1度聞いておいた方が良いだろう。


「まあ、俺達に任せておけば何とかなるぞ。たまに来てくれれば、それで十分だ」

「よろしくお願いします。ちょっと田圃の事でカヌイの御婆さんに相談したいことが出来ましたので……」


「神頼みってやつか? ナギサならそれも必要あるまいが、カヌイの婆さんと米作りについても話をしておく方が良いのかもしれんな。 まぁ、嫁さん連中から詳しく聞いてはいるだろうが、ナギサが行けば喜んでくれるはずだ」


 皆の輪から立ち上がって軽く頭を下げると、森に向かって坂道を歩きだした。

 カヌイの御婆さん達は、オラクルの中で一番高いログハウスに住んでいる。しばらくは上り坂ってことだな……。それを考えると気が滅入ってくる。



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