表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/654

N-006 魔法と魔石と魔導機関

 夕方まで続いた酒宴が終わって船に戻ると、新しいザバンが船の舷側にロープで結んであった。両側のフロートも、結構上手に取り付けてあるぞ。

 改めてバルティスさん達に礼を言った。


「これが使えそうだ。子供用の銛の柄にするんだが、カイトの釣竿を見てな。使えるんじゃないかと数本貰って来た。それで、これが針金と糸を巻く枠になる。カイトもこれを作りたかったんじゃないのか?」

「そうです。竿とリールと言う糸巻の組み合わせも良いんですが、手返しはこっちの方が断然速そうですからね」


 針金が結構太いな。たぶんこれで釣り針も作るんだろう。

 ゴザの中からタックルボックスを取り出して、マルチプライヤーを取り出す。針金細工をするとなればこれが必要だ。中に入っていた鉛筆の軸を使ってコイル状に2回程巻いて穴の前後に針金を伸ばして切り取ると、竿の途中のガイド代わりに使える。U字にした針金を先端の穴を5mm程にして強く捻れば竿のトップのガイドが出来る。

 出来た針金を竹竿に糸で巻きつけて、船の塗料を塗り乾燥させた。


「枠から糸を出して、この針金の輪を通して仕掛けを取り付ける。片手で糸を持って竿を上げれば、針掛かりするし、竿の弾力が利用できるから、急な引き込みにもある程度耐えられる」

「なるほど……。次の釣りには使ってみるよ。それで、浮きを作るんだったな。これが俺達の使ってる浮きだ。丸く仕上げて、穴を開けた後に塗料を塗るんだ。糸を穴に通して短い棒を差し込んで使う」


 クロダイ用の浮きみたいだな。ヨウジを差し込んで止めるのも似ているぞ。適当に、枝を拾っといた方が色々と使えそうだ。明日、浜で拾ってこよう。

 それに、これだったらタックルボックスに何個か入っていそうだ。仕掛けだけを作っておくか。

 確か友人のリュックに20号の組み糸が入ってたぞ。深海釣り用だと言っていたから、糸の伸びが少ないんだろう。

 リュックを漁って、糸巻きを取り出すと200mの表示がある。10mごとに色が変わっているようだ。この辺りの水深は10m程だから、3倍の30mを、貰った枠に巻き付ける。先に中型のヨリ戻しを付けておけば、スナップがあるから仕掛けを選択できるぞ。仕掛けは、2m程の道糸に2本の枝針を付けたものだ。先端に木製の浮きを付けたから、振り回して投げることも出来るだろう。

 木の枠がもう1個残っていたので、同じように30m程巻くとヨリ戻しだけを付けておく。もう1本作った竿のガイドに通して使えるだろう。

 そんな事をしながら夜が過ぎていく。


 村での3日目は、ザバンの具合を確かめてみる。カヌー用のパドルは、ザバンでも有効だ。底板の上に敷いた竹のスノコに腰を下ろすと、ザバンの船べりは俺の腰より少し上だ。水面は船べりから10cm程下だから、プラスチックのカヌーよりもよほど船らしい。

 湾の中に漕ぎ出して、早速海に飛び込んだ。問題は船に上がる時だ。舷側から体を船に投げ出すようにして乗り込む。少し船が傾いたが、やはり両側に取り付けた浮きの威力は大きい。大きく傾くことは無かった。

 問題なく使えそうだ。何度か繰り返して、感触を確かめる。

 

・・・ ◇ ・・・


 船が東に向かって進んでいる。

 トウハ族の漁場は拠点となる村から船で東に5日程度の距離までになるらしい。これは獲れた魚を腐らせずに持ち帰れる距離とも考えられる。傷みやすい魚は開いて天日干しにしているようだし、生魚として売れる高級魚は箱に入れて氷で冷やすようだ。

 その氷の作り方だが、何と魔法で作るらしい。物を綺麗にする魔法もあって、その2つを持つことが嫁に行く条件となっているようだ。

 当然、ビーチェさんは氷を作る【アイレス】と物や場所を綺麗にする【クリル】を使えるらしく、長女のサディさんも2つを覚えたらしい。

 魔法を覚えるには、教会の神父から購入すると言っていたから、寄付を払って教えて貰うのだろう。その値段は銀貨3枚と言っていたけど実感がないな。たぶん高いんだろうけどね。


 魔法がある世界という事で、魔法を道具として使えるようだ。

 この船の外輪船を動かすエンジンは魔道具と呼ばれる代物だった。3枚の円盤に魔石と呼ばれる石がはめ込まれているらしく、固定した中央の円盤と回転する両側の円盤に取り付けられた魔石は互いに反発力を持っているらしい。一旦動かすと、それが延々と回転する。回転力は弱いが、歯車で減速させることによってトルクを稼いで水車を回しているらしい。

 その反応は、別の魔石で永続させ、更に別の魔石が装置の耐久力を上げているようだ。

 魔石の力は銅板で遮蔽出来るらしく、前進、後退、停止を銅版を円盤に挟み込むことで可能となるらしい。


「水と火の魔石が回転を起こし、風の魔石がそれを永続させる。土の魔石は魔道具自体を丈夫に保つのだ」

 エラルドさんがそう教えてくれたけど、何か狐につままれたようなエンジンだな。

 問題があるとすれば、魔石に寿命があるらしい。それだけ動けば何らかの消耗はあるんだろうけど、その寿命が3年程だという事だ。回転がゆっくりになるから直ぐに分かると言っていた。


「この船の魔道具は魔石を昨年交換してる。後3年は大丈夫だろう。カイトも船を買う時には魔道具は大きな物を選ぶんだぞ。小さな物では3年も持たないからな」

 小さなエンジンでは回転数が速いんだろうか? 仕事量が大きくなるからそれだけ消耗が速いって事なんだろうな。


「今度は1隻じゃないんですね」

「ヤックルさん達が一緒だ。3人の子供がいるんだが、ケルマさんはバルテス兄さんと一緒になるんじゃないかな? 来年には俺も小さな漁船が買えそうだから、俺が下りれば直ぐにもケルマさんがこの船に来るぞ」


 そうなると俺も下りた方が良いのかな?

 ラディオスさんも、ひょっとしたら誰かをお嫁さんにするかも知れないから、俺が厄介になるわけにもいかなそうだ。

 さすがバザンで暮らすわけにもいかないだろうから、じっくりと考えなくちゃならないぞ。最悪だと、村の湾でバザンに乗って暮らす事になりそうだからな。


 その夜、夕食後に後甲板でお茶を皆で飲んでいる時に、エラルドさんが今回の漁について教えてくれた。

「明日には目的地だ。今度の漁はロデナスを獲る。カイトも湾で獲ってたようだが、あれよりは大きいぞ。獲れたら、このカゴに入れて蓋をするんだ。5匹は入るだろうが、まあ、頑張ってみろ」


 湾で俺が獲ったエビは伊勢海老のような奴だったから、ロデナスとは伊勢海老の名前なんだろう。大きいとなると、手袋が必要だろうな。

 ダイビング用の手袋はあるし、軍手もあったはずだ。

「棘があるから素手で触ると痛いぞ。これを使え」

 そう言って、カゴと一緒に厚手の軍手を渡してくれた。まるでジーンズの布で作ったようなミトンだが、手の平側に当て布まで付いている。


「ありがたく使わせてもらいます。何か気を付ける事はありますか?」

「今は危険な奴は海にはいない。ロデナスはサンゴの奥にへばり付いているからサンゴで怪我をしないようにな。岩にへばり付いたロデナスの頭をこいつで叩けば、後ろに素早く下がる。上手くタモ網に入れるんだ」


 手でつかまえるんではなく、伊勢海老の後ろにタモ網を置いてそこに追い込むって事だな。手づかみでも良さそうだが、ここは言われた通りにやってみよう。

 それよりも、前の言葉の方が気になるな。

 今はいないという事は、季節によって危険な魚がやって来るという事なんだろうか?

 俺が考え込んでると、皆がクスクスと笑い声を上げている。


「父さん。脅かすのは良くないぞ。危険な漁は年に2回行うんだ。場合によっては死んでしまうが、やり方さえ間違わなければそんな事にはならない。だが、それを獲れるから、俺達ネコ族は王国で自治を認められてるのも確かなんだ」


 パイプを煙らせバルテスさんが話してくれたのは、巻貝の採取だった。

 昼夜の長さが同じになって最初の満月の夜に大洋からリードルと呼ばれる巻貝が泳いでくるらしい。リードルが危険なのは、リードルの持つ槍にあるらしい。巻貝の直径程の長さに触手を伸ばすらしいのだが先端に毒針が仕込まれているとの事だ。

 

「リードルは夜泳ぐ。昼間は軟泥状の海底を這いながら獲物を探している。俺達は昼間海に潜って銛で突く。銛に刺さったまま近くの浜まで持って行き、焚き火に掛けて焼き殺す。それが終わったところで殻を石で砕くんだ。離れてやればまったく危険はない」

「その殻に、魔石が入っていることがある。そうだな3個に1個は間違いないぞ。その魔石を売るんだ。商船が数隻やってきて競りが始まるんだ」


 話を聞くと、イモガイの一種なんだろうな。最初の1個を見せて貰えば分かるだろう。

 魔石とは魔道具に欠かせないようだから、確かに高く売れそうだ。全体数が少ないから商船がたくさんやって来るのだろう。

 簡単な漁で船が買えるとは思ってなかったけど、それで蓄えを増やせるんだな。

 その時には俺も頑張らねばなるまい。


「その年の魔石の数で、嫁入りの数が決まるとまで言われてる。バルテスも来年があるんだ頑張らねばな」

 ある程度は決定という事なんだろう。お嫁さんを迎えるのに必要な準備があるって事なんだろうか?甲板に雑魚寝しながらそんな事を考えた。

 まあ、俺にはまだ関係ないことだ。それでも、何時かは何て考えながら眠りについた。


 そんな話をしたり聞いたりして3日が過ぎる。

 ゆっくり進んでいるようだが3日も連続で進んでいるから、少なくとも村から300kmは離れたんじゃないかな。それでも周囲の風景はあまり変化が無い。島が重なるように遠くまで続いている。

 3日目の昼過ぎ、漁船が停まった。舷側から身を乗り出して海を眺めると、岩とサンゴが見える。比率は半々のようだ。サンゴが繁茂しない理由があるのだろうけど、エビを獲るなら具合が良い。


「明日は、ロデナス漁だ。俺達の隣にヤックルが船を横付けするだろうから、今夜は2家族で食事を取るぞ」

 それなら、釣りで魚を釣っておこうか。

 ビーチャさんから皮付きの干物を分けて貰い、胴付仕掛けを手釣り用の枠の糸に付けると、早速釣りを始めた。

 ラディオスさんも、竹竿を取り出して俺の横に座った。

 どちらが先に釣れるかな? ライバルがいると釣りも楽しくなる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ