表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/654

N-059 カゴ漁の提案


 都合5日の試験航海を終えて氏族の島に帰って来た。

 漁の成果はラディオスさんときちんと半分に分けたけど、次にやって来た商船でリール竿を作るためのガイドやリールを買い込んでいたから、オリーさんもリール竿で根魚釣りが出来そうだな。

 サリーネ達は酒を購入したみたいだ。いつもなら真鍮の入れ物に入れて貰ってくるんだが、それ以外に何本かの酒ビンを取り出している。

 どうやら、今夜に皆が集まるらしいな。たぶん次のリードル漁の話になるんだろうが、ついでにこの船のお披露目を正式にやるみたいだ。

 

 前の船の魔道機関で使用している魔石の交換は、問題なく終わったらしい。ビーチェさんがサリーネにお釣りを渡していたから、それほど高額では無かったんだろうか?


 それにしても目立つことこの上ない。他の動力船は塗装もほとんどないが、このカタマランは白く塗装されているからな。

 俺のマークという事で丸に十字が小屋の左右に描かれてはいるのだが、丸の中の白抜き部分が赤、緑、黄、青に染め抜かれている。直径1m程のマークだから目立つはずなんだが、全体の白があまりにも際立っている。


 昼食が過ぎると、サリーネ達はオリーさんやビーチェさんにも手伝って貰って料理を作り始めた。

 入り江で取れた魚が次々と運ばれてくる。それでも足りないらしく、ビーチェさんからおかずを釣るように言われて、甲板の端でラディオスさんと釣竿を握っているのだが、たまにちいさなカマルというカマスに似た魚が掛かるだけだ。

 俺達に料理は出来ないから、せめて材料調達位はしなければなるまい。


 日暮れ近くになって、続々と俺を知る連中が集まって来た。サディさんやケルマさん以外の子持ちの嫁さん達も来ているようだが、小屋の中で子供達を遊ばせているから安心できるな。扉は全て閉じてあるし、棒で押さえて簡単には開かないようになっている。小屋だけでも普段暮らしている場所の2倍位はあるから、賑やかな音や話声が甲板まで聞こえて来るぞ。


 宴はエラルドさんの簡単な挨拶に続いて、俺の挨拶になったのだが、俺だって挨拶が得意な方じゃないからな。「これからもよろしくご指導ください」と簡単に済ませる事にした。

 後は、料理をつまみながらの宴会になる。

 次々と酒のビンが開けられ、ココナッツを半分に割った殻をカップにして酒を飲む。

 料理は焼き魚や煮魚、揚げた魚で、生魚が1つも無い。ちょっと日本人な俺には刺身が食べたい気もするが、何といっても常夏の島だからな。食あたりでもしたら大変だ。郷に入っては郷に従えという事だし、それ位は我慢するしか無さそうだ。


「それにしても俺達の動力船の2倍の速さだと?」

「1ノッチでそれ位出てたぞ。3ノッチを少し試してたが、あれは海賊船より速そうだ」

「やはり水車を使わないという事だろうな。だが、そんな船をタダで作らせたと言うんだからたいしたものだ」


 賞賛の言葉はヤックルさんだな。

 ラディオスさんの言葉に一時場が鎮まったと言うことは、誰もこの船を見かけ倒しだと思っていたんだろうか?


「となると、カイトの船に付いて行くのも問題がありそうだな。若い奴らが、次の船を作るのを遅らせるかも知れん。それは氏族全体で見ると問題だぞ」

 グラストさん達は世代交代と船の分配を危惧しているようだ。


 現在、エラルドさん達が使っている船もそれなりに利点がある。とはいえ、カタマランの方が格段に優れているのは分かっているつもりだ。

 問題は、その購入金額になるな。どう考えても通常の船の倍近くになってしまう。

 だが、小屋の中や甲板も広いし、揺れだって少ないその上、曳釣りや根魚釣りもやり易く、船足も速いとなれば、カタマランを欲しがる若者は多いだろうな。

 そのために、船を買い直していくタイミングが現在と異なるという事が、リードル漁ができない者達へ中古の船を譲る習わしが、変わってくる可能性をグラフトさんは危惧しているって事なんだろう。


「簡易版を考える必要もありそうですね」

「簡易版だと?」

 酒器を口に運びながらエラルドさんが俺に顔を向けた。


「この船の構造をそのままに、簡素化した船って事です。たとえば、この船の小屋の横幅は14YM(4.2m)、奥行きは18YM(5.4m)もありますが、一回り小さく作る事は可能でしょう」

「そうだな。この船の全長は4FM(12m)だと聞いたぞ。横幅だって、2FM(6m)は確かに大きすぎる。子沢山でもない限りこれほどの大きさはいらんだろう。小さくすればそれだけ安く作れるはずだ」


 そうなると、この船を作ろうとして貯めた金貨を使えそうだな。試験的に作ってみれば、ダメ出しをすることが出来るんじゃないか?


「次のリードル漁が終わったところで、俺が1隻作ってみます。迷子になっていたところを氏族に加えて頂きましたから、少しぐらい氏族に寄与しても問題は無いでしょう。それで、一回り小さく作った時の正確なカタマランの単価が分かります。氏族に寄与すれば皆で交代して乗れますから、過不足分を自分で作る時の参考にも出来るでしょう。一回りしたところで、動力船を持たない者達に払い下げれば良いんです」


 そんな俺の提案に皆が驚いている。

 サリーネ達は俺の意見に賛成してくれてるようだ。うんうんと頷いているぞ。


「確か、金貨12枚だったか……。俺の前の船が8枚だったから、それを下回ることは無いだろうが、東のリードル漁は中位の魔石が取れる。少しはこいつ等もやる気が起きるだろうが……。カイト、そこまで氏族に貢献するつもりなのか?」

「全部カイトに出させるわけにもいかん。俺の矜持が許さねえ。ここは明日の長老会議に掛けて長老の判断で決めよう」


 グラストさんの言う事も分かるような気もする。少しは、氏族の連中も考えないといけない事ではあるのだ。単なる金銭事ではなくて、氏族の漁の仕方が変わる可能性だってあるんだからね。


「……それで、潜航板以外にヒコウキと言うのもあるのか?」

「俺も初めて見たんだが、中型のシーブルがおもしろいように釣れたんだ。簡単にヒコウキは自作できたが、問題は弓角だ。真珠貝を使って少しずつ加工している最中だ」

 そんな話から、ベンチの蓋を開けて仕掛けを取り出して、皆に見せる事になってしまった。

 初めて見る餌木を皆が興味深々で見ている。


「シメノンの餌木とは、また少し違うんだな」

「貝で作ったのか……。こっちは、パイプの材料にも見えるな」

 グラストさんは水牛の角を見ながら、呟いている。

 弓角っていうくらいだから、角が最初に使われたに違いない。磨いた角は水中で綺麗に輝くからな。


「もっと大きいのが掛かると思ったんですが……」

「それでもグルリン交じりでシーブルを2日で30匹は凄いぞ。リードル漁の合間に俺も作ってみるか」

 バルトスさんの言葉に皆が頷いている。


「もう、新しい漁法は無いんだろうな?」

 俺を見てニタリと笑いながらグラストさんが聞いて来た。

「あるにはあるんですが、俺には加工が難しくて……」

「何だそれは?」


 そんな事で、カゴを使った漁の話を始めた。

 簡単な絵を何枚か描いて説明すると、食い入るようにその絵を眺めている。


「要するに、カゴの中に餌を入れとけば、その餌目当てにロデニルが入るって事か?」

「そうです。カゴを編むのが難しくて、その内何とかしたいと思ってた漁の方法です」


 俺の話を聞いてエラルドさんとグラストさんが素早く顔を見合わせて、頷いているぞ。何やら考えがあるんだろうか?


「お前ら、作り方は分かったな。リードル漁の期間にこのカゴを1人1個だぞ。その後で、お前達が作った弓角の成果も確認できる漁をやろう。中々おもしろい事になりそうだ。リードル漁が出来ない連中もロデニル漁が出来れば暮らしが楽になるだろう」


 かご漁を素潜り漁が出来ない人達に教えるって事か? それなら、氏族の収入格差もかなり改善されるんじゃないかな。

 小屋の中からは嫁さん連中の楽しそうな笑い声が聞こえて来るけど、甲板で酒を飲んでいる俺達は、これからの氏族をどのように盛り上げていくかを真剣に話し合っている。それでも、酒が入ってる時点で少し考えるものがあるけれど、上下の隔てなく話し合えるのも酒の力なんだろうな。


「やはり、畑作だけではダメだって事なのか?」

「手取りは少ない。子供達が大きくなれば親戚の船に預けることになるが、そう簡単には自分の動力船が持てない事も確かだ。お前達は20歳そこそこで手に入れたが、氏族の多くの男達は25歳頃になるな。だが、自分の子供でなければ、しきたり通りの分け前だから、自分の動力船を持つのは30歳頃になってしまう」


 それでも、畑作よりは多く稼げるのだろう。

 そんな連中だけで動力船を持ち、その分け前が均等割りなら今までよりも収入は上がるだろう。

 中古の動力船を氏族に引き渡すとはそういう事らしい。とはいえ、寿命の尽きかけた船もあるだろうし、魔道機関の魔石の交換だってかなり厳しいものがあるからな。


「潜らずとも良い漁法があればそれを教えてやりたいものだ。今は桟橋工事を請け負っているが、彼らもかつては俺達と素潜りの腕を競った連中だからな」

「まったくだ。その他の漁法についても、カイトが考えてくれ。俺達はそんな事は考えもつかんが、それで漁が出来るかどうかを試す位はできる筈だ」


 そう言われてもな……、直ぐには思い浮かばないぞ。

「直ぐに思い浮かべるって事は俺にだって無理ですよ。ですが、何か考え付いたら皆さんにお知らせします」


 俺の言葉にグラストさん達が頷いている。

 ひょっとして、この話も明日の長老会議に出すんじゃないだろうな?


「カイト、今度のリードル漁だが、俺とゴリアスの妻と子供を預かってくれないか? 俺の船にゴリアスのザバンを乗せて行けば、漁は出来ると思うんだ」

「ええ、だいじょうぶですよ。この船ならちびっ子3人でもだいじょうぶでしょう」

「となると、カヌイのばあさんは必要ないか?」

「そうも行くまい。ビーチェかカヌイのどちらかを船に残さねば俺達が心配で漁もできん」


 グラストさんにエラルドさんが答えてるけど、確かに心配だよな。俺もその方が良いと思うぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ