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N-058 ヒコウキと弓角

 サンゴの崖がある漁場は神亀を目撃した場所でもある。氏族の村から3日程の場所なのだが、カタマランを昼夜走らせたら、丸1日で到着した。前の船でも1日半程度掛かったから、やはり船足は相当早いって事になるな。途中で休んでも2日は掛からないだろう。

 到着と同時に、サリーネが神亀への御神酒をささげる。これもしきたりって事になるんだろうな。


 まだ日が高いけど、漁をしないでザバンを下ろすことにした。アウトリガー付のザバンの使い心地も試さねばならない。直ぐに、サリーネ達3人が乗って使い易さを試し始めた。

 俺とラディオスさんは操船楼に上って、操船の方法を説明したのだが、レバーが通常と違って2つある以外は同じだからな。それ程ラディオスさんの違和感は無かったようだ。


「操船はベンチに座ってやるのか……。これなら楽そうだな。雨が降れば屋根板に跳ね上げているガラス戸を下ろすって事だな。ほとんど濡れないんじゃないか?」

「嫁さん連中が水着を着て操船してましたからね。少しは楽をさせないと可哀想です」


 そんな俺の言葉に考え込んでるから、オリーさんもそんな操船をしてるに違いない。

 早めに対策を考えないとダメなように思えるな。


 操船櫓を下りて、パイプを楽しみながらアウトリガー付のザバンの様子を見ると、ライズがアウトリガーの浮きのほうに体を移動しているぞ。フロートはあまり潜り込まないけど、俺があの恰好をした時が問題なんだよな。傾くような時はゴムボートを引いて行って貰おう。


「あれも変わってるな?」

「あの張り出した小さな浮きが特徴なんです。横揺れに強いですから、素潜り漁の時に役立ちますよ。乗る時にひっくり返らないんじゃないかと」


 俺の話に頷いてるところを見ると、ひっくり返った事がなんどかあるんじゃないか?

 素潜り漁で休憩を取る時は、色々と苦労してるんだろうな。

 獲物をイケスの中に仕舞うのだって、ひっくり返った時の用心かも知れないぞ。

 

 ライズ達が突いて来た魚を使ってサリーネとオリーさんが夕食を作り始める。

 ライズ達は小魚を半身に開いて胴付仕掛けの釣り針に付けて船尾から釣りを始めた。釣れるのかな? ちょっと疑問ではあるが、水深が十mはあるから、少しは期待が出来そうだ。

 商船に行った時に見付けた鈴を簡単なクリップで竿の先に付けてあるから、掛かったら直ぐに分かるだろう。


「ザバンの引き上げを手伝ってくださってありがとうございます」

「あれくらいなら、簡単だ。だが、船首についてる丸太が回るのには驚いた。あれがあるから引き上げるのは楽にできるんだな」

 そんな事を言って、ラディオスさんが感心している。船首部分には左右の船の両舷に長さ60cmの直径5cmのコロが付いているのだ。コロを使えば舷側がザバンで傷つかないし、引き上げも楽になるからな。滑車を付ける穴も開いてはいるのだが男2人なら簡単に引き上げられる。


 夕暮れを眺めながら、バナナの炊き込みご飯に魚のスープと唐揚げの食事が始まる。

 大きなランタンと小さなランタンを2つ点ければ甲板は十分な明るさだ。

 明日は午前中、素潜り漁をして午後からは曳釣りをする予定だ。


「潜航板を使った曳釣りは教えましたよね。今度はこれを使う予定です」

 食事をしながら、ベンチの腰板を開いて仕掛けを取り出した。

「また変わった仕掛けだな。この木切れはどうやって使うんだ?」


 ヒコウキに弓角は、表層の回遊魚狙いだから、バルと呼ばれるダツをたくさん釣るならその内誰かが考え付くんじゃないかな?


「この長い方の上下に穴が開いてるでしょう。こっちが道糸でこっちがハリスになるんです。ハリスの先にこの弓角と呼ばれる餌木を付けるんですが、バル用の餌木を付ければバルが狙えますよ」

「この短い方の木を取り付けてる角度が気になるが、その辺りに秘密があるんだろうな。それで、この餌木は変わってるな。貝殻のようにも見えるぞ」

「貝殻で作って釣り針を取り付けてるんです。狙いはシーブルの大型です」


 マジマジと弓角を眺めているけど、自分達でも作れるんだよな。これだって俺が昔作った物の1つだ。


「中層と上層を狙うのか? それはおもしろそうだ」

 そんな話で、食事が進む。

 サリーネ達も、今までと違う漁という事で興味深々の様子だ。

 

 食後のお茶を楽しんでいたら、いきなり鈴が鳴り出した。

 リーザが竿を急いで引きあげ始めたが、結構大物のようで、ともすればリールの糸が引き出されていくようだ。

 ライズが隣でタモ網を持って待機しているけど、俺とラディオスさんはパイプを楽しみながら観戦を決め込んだ。

 サリーネ達はナイフとまな板を用意すると、棍棒を持ってリーザを応援している。


「バヌトスかバッシェだろうが……」

「バッシェなら良いんですけどね」


 中々、上がらないぞ。リーザが格闘していると、今度はもう1つの竿の鈴が鳴り出した。

 タモ網をオリーさんに預けて、ライズが竿を持ってリールを巻き始める。これも、かなりの引きだぞ。


「この海域で釣りも良さそうだな。海底が砂だから期待はしていなかったが、サンゴの崖から餌を探して出て来たんだろうな」

「たぶんそんなところでしょうね。バッシェがかなり混じるなら、釣り場としても十分ですよ」


 神亀が魚を呼び込むような言を長老達が言ってたらしいが、以外と経験に裏打ちされた出来事なのかも知れないな。

 やがて、オリーさんがタモ網を海に下ろし始めた。

 次の瞬間、勢いよくタモ網を引き上げて獲物を甲板に下ろす。過ぐにサリーネが棍棒を叩き付けておとなしくさせると、今度はライズの方に加勢に行った。


「バッシェにゃ!」

 そう言いながら、笑顔で釣り針を外すと、餌を付け直して再び仕掛けを投入した。その後で、釣った魚をまな板に乗せてさばき始めたぞ。

 バッシェの大きさに思わずラディオスさんと顔を見合わせた。40cmはあるんじゃないかな。結構な値が付きそうだ。

 俺とラディオスさんが酒器でちびちびとワインを飲みながら観戦していると、嫁さん達が結構釣り上げている。オリーさんもいつの間にか竿を握ってるぞ。リールの扱いをライズに教えて貰いながらも、大きな根魚を釣り上げた。


「オリーにも使えるなら、根魚用のリール竿を揃えておこう。いつもは俺が手釣りでやってるんだが、竿に鈴を付けると待ってるだけで良いんだな」

「この船には3本ありますよ」


 そうは言ったが、更に曳釣り用のリール竿が増えている。この船は最大で4本仕掛けを流せるんだが、手返しを考えると3本ってところだろうな。

 10匹以上釣り上げたところで、サリーネ達が根魚釣りを終了する。道具を片付け、魚をさばいたところで俺達と一緒にワインを飲み始めた。


「ここは魚が多いにゃ」

「明日、神亀を見たら教えて欲しいにゃ」

「ああ、約束だ。明日はザバンを使わずに、直接素潜りをやるよ」


 このカタマランの特徴でもあるからな。楽に水に入り、出ることが出来る。それは左右の舷側と後部にハシゴを取り付けられるからだ。2m程の短いハシゴだが、腐らぬように樹脂の多い木で作って、表面を樹脂で固めてある。

 

 翌日。俺とラディオスさんは、銛を持って舷側から飛び込んだ。

 20mも泳ぐと、サンゴの崖に出る。崖にはたくさんの獲物がいるから、選ぶのに苦労するな。

 潜るたびに、獲物を銛先に付けて船に戻る。

 たまに、海中で砂泥の海底を眺めてみるが、今日は神亀はいないみたいだな。あれだけのおおきさで、これだけ海が澄んでいるなら直ぐに分かる筈だ。


「神亀はいないみたいだ。この次の機会を待つしかなさそうだね」

「残念にゃ……」


 獲物持ってカタマランに行った時にそう伝えると、嫁さん連中が残念そうな顔をしている。いることは間違いないんだから、その内に見ることが出来るんじゃないかな? それがいつかは分からないけどね。


 昼を過ぎたところで素潜り漁を終了する。30匹を超えてるんじゃないか? まあまあの漁獲と言えるだろう。甲板に上がるのもハシゴがあるから楽に上がれる。水深が3m程ならば、ザバンを使わずに済みそうだぞ。


「今度は曳釣りをするのか?」

「ええ。左右で上層、中央で中層を狙ってみます」


 簡単な食事を終えると、操船櫓の下の棚から道具を取り出して準備を始める。

 左右の竹竿の先端に付けた洗濯ばさみに道糸を通してヒコウキ仕掛けを取り付けて、半ノッチの速度でカタマランを東に進ませる。

 左右の竹竿が横に張り出したところで、道糸を50m程伸ばした。次は中央のゴツイリール竿に潜航板の仕掛けを付けて40m程道糸を伸ばす。

 左右のヒコウキが水面を跳ねている様子を面白そうに皆が眺めていた。


「あれで、釣れるのか?」

「あの飛び跳ねているのが小魚の群れに見えるようなんですけど……」

「まあ、しばらくやって当たりが出ない時には仕掛けを変えるんだな」


 かなり懐疑的だな。まあ、釣れないときには仕掛けを変えるしかないんだけど……。

 現在の速度は通常の船よりも、やや遅い位だ。

 曳釣りをする時の船の速度は意外と重要らしいのだが、こればっかりは勘で行くしかないからな。

 仕掛けを変えるよりも船の速度を変える方が良いのかもしれない。


 パイプを咥えてベンチの座っていると、中央のリール竿がガツンっと大きく振れた。

急いで竿を掴み、大きく合わせるとリールを巻き取り始める。

 特徴的な青物の引きだ。これだとシーブルなんだろうか?

 あまり、糸が引き出されないから、それほどの大物では無さそうだ。近づいた獲物をラディオスさんがタモ網で引き上げると、体長50cm程のシーブルだった。

 バタバタと暴れるシーブルの頭にオリーさんが棍棒を振り下ろしてる。釣り針を外して仕掛けを渡してくれたので、再度仕掛けを投入した。

 終わったところでオリーさんを見ると、さばいた魚を保冷庫に入れてるところだった。

 この暑さだからな。夜にまとめて一夜干しをするのだろう。

 

「甲板が低いと、魚をすくい易いな。大物に銛を打ちこむのもそれ程難しく無さそうだ」

「3YM(90cm)ほど低いだけなんですけど、やはり違いますね」


 ほんのちょっとした違いで格段に操作しやすくなることは良くある話だ。その違いをどのような手段で行うかが難しいんだけど、カタマランの特性は生かされてるな。


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