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N-057 試験航海に出掛けよう

 翌日は、朝食を終えると引っ越しを始める。

 小屋の大きさは間口が4.2mで奥行きが5.4mもある。船の前方は横木が2本あるだけだが、この横木の上にアウトリガー付きのザバンが固定されている。後部の甲板は大きいけれど、操船櫓が左側の一部を占拠しているし、右にはカマドが2つある。ここまで小屋の屋根が伸びているから、豪雨でも煮炊きは出来るだろう。おかげで甲板の縦方向の長さが4mになってしまった。

 後部のベンチは、左右ともに2mはある。腰板を開けると、2つの区画になっており、外側が魔道機関の収納場所だ。内側の1m程の箱には漁具が入れられる。これなら直ぐに取り出せるだろう。

 操船櫓の脇には枠が作られているから、この枠にタモ網やギャフ、それに小型の手銛も入れておける。櫓の下の小さな倉庫も漁具の置き場だ。

 左右に張り出す竹竿の保持構造も良くできている。普段は竹竿を前方に倒しておいて、使う時に広げられるようになっている。先端の洗濯バサミだけを新たに設ければ使えるぞ。

 リール竿を入れる穴も後部のベンチに4つ設けられている。使うのは精々3つまでだからこれで十分と言えるだろう。

 小屋の中は、真ん中の梁にカーテンが付けられているから2部屋って感じに見える。床下収納庫がほとんど無いから、部屋の左右は高さ60cm程の収納棚が左右に並ぶ。棚には戸が付いているから、中身が見えることは無い。すっきりと使えるんじゃないかな?

 それでも左右の船を使って飲料水や炭を保管できるようだ。収納棚が一部途切れているのは、そんな収納物を取り出す場所なんだろう。

 

 3人とも前の船から背負いカゴで荷物を運んで収納棚に整理しているけど、かなり棚が余ってるぞ。その内、そんな棚も埋まるんだろうな。

 前の船で使っていた小屋の中の整理箱は1個だけ持ってくるようだ。小屋の中に置いてテーブル代わりにするらしい。


 甲板後部のベンチに腰を降ろして、パイプ用の小さな箱の中の素焼きの深皿にカマドから火の点いた炭を入れる。新しい炭を上に乗せて灰をかぶせておけばしばらくは使えそうだ。

 パイプを取り出してのんびりしようとしてた俺に、ライズがココナッツを割ってくれた。完全に引っ越しの邪魔をするなって感じだな。

 漁具や俺の荷物は運び終えたから、後は3人の好きなように片づければ良い。

 意外と俺よりも片付け上手だから、文句は全くないぞ。


 それでも、昼過ぎにはどうやら片付けられたみたいだ。甲板に座ってお茶を飲み始めた。

「すごく広いにゃ。これなら楽しく暮らせるにゃ」

「小屋の扉の左にブラカと竹笛を下げておいたにゃ。双眼鏡は扉の内側左にゃ。それでいつ漁に出掛けるにゃ?」

「そうだね……。南のサンゴの崖にしようか? 曳釣りも出来そうだし、素潜りも出来る」

 ライズ達にそう言うと笑顔が広がる。サリーネはちょっと心配そうだが、早めに操船になれる必要がありそうだ。


「そうだ。商船に行って、今までの動力船の魔石を交換してもらえないかな。確か、3年おきに交換と聞いたから、来年には交換の筈だ。船を譲るならそれ位はしとかないとね」

「食料を買いながら、頼んでくるにゃ。後は何かあるのかにゃ?」

 首を振って、特に無いことをサリーネに伝えておく。魔石の交換ならかなりの値段だろうな。それでも金貨1枚を超えることは無いだろう。

 

 午後にサリーネ達が背負いかごを背負って商船から帰ってきた。

 俺の前に取り出したのは、新しいランタンだ。今使っているランタンよりも大型だぞ。ガラスの中には金属の穂口に2つの芯が見える。

「甲板が広いからランタンをもう1つ買い込んできたにゃ。大きいから明るいはずにゃ。魔石の交換は動力船に来てくれる事になってるにゃ。父さんに頼んであるから、漁に出掛けても大丈夫にゃ」

「ありがとう。魔道機関はそれで大丈夫だろう。このランタンは、夜の釣りには良いだろうね」

「普段は今までの2個で良いにゃ。カイトが持ってたランタンはカマド用に使うにゃ」

 カマドだけでなく、獲れた魚をさばくのにも使うのだろう。いつまで使えるかわからないけど使える内は使わないと損だからね。

 

 その夜、新しい船の調子を見に行くことをラディオスさんに伝えると、是非とも同行したいと言ってきた。

「変わった船だからな。それに俺も次の船をある程度考えないといけない。こんな船になるとは思えないけど、カイトの工夫を実際に見てみたいんだ」

 そう言われると、同行させないわけにもいかないような気がする。サリーネ達の了承をもって、明日の試験にはラディオスさん夫妻が同行することになった。

 

 新しい船の試験と言うことで、今回は船団を組まずに出掛ける。

 漁の分配は本来は複雑なんだけど、漁の方法を色々と試すから氏族に上納した残りを半分にすることであらかじめラディオスさんと合意した。その代り、俺の指示通りに漁を手伝ってくれるそうだから問題は無いだろう。


 そんな話を世話役にしていたので出港は昼近くになってしまった。背負いカゴにココナッツと野生のバナナを詰めて、ラディオスさん達がカタマランに乗り込んだところで、いよいよ出港となる。

 操船櫓には3人が上がっているが、舵輪を持つのはサリーネのようだ。

 僚船と繋いだロープを解いて、船首のアンカーを引き上げる。

 小屋の扉の脇に掛けてあるブラカを持ってベンチの上に立つと、ブラカを1度吹いて俺の船が出港することを知らせる。サリーネが片手を上げて了承を答えてくれると同時に、ゆっくりとカタマランが後進を始めた。

 

ラディオスさん夫妻と甲板のベンチに座って、とりあえずは状況を見守る。

カタマランの特性を確認するようにゆっくりとサリーネが舵輪と魔道機関の出力を調整して入り江を出る。

入り江を離れると、少しずつ速度を増していく。船尾に水車が付いていないから、静かなものだな。


「あまり速度は出ないんだな。俺達の動力船より少し早いくらいだぞ」

「甲板が通常より低いので、そう感じるんです。たぶんこれくらいで通常の曳釣りができますよ。……サリーネ、今何ノッチだ?」

「丁度、1ノッチにゃ。3ノッチあるから、2ノッチに魔道機関の出力を上げてみるにゃ!」

 俺の問いに、サリーネが後ろを振り返って答えてくれた。

 グン! と、船足が早まる。これで2ノッチか……。時速20km以上は出てるんじゃないか? 通常の動力船の2倍の速度が出ているぞ。

「右に曲がるにゃ!」

 リーザが振り返って教えてくれた。

 左に体が振られるが、船の傾斜はそれほどでもない。さすがは双胴船だけの事はあるな。ラディオスさんも不思議に思って俺に聞いてきた。

「この船は2つの船を並べてますから、バランスが取れるんです」

「そうか、これほど船を早く進めることは無いが、その状態でも船が大きく傾かないのが不思議な話だ」

 

 詳しいことは俺にも分らないが、速度を出しても舵が切れるなら問題は無い。

 更に、3ノッチに魔道機関の出力を上げると、海面を滑るようにカタマランが船足を速めた。どう考えても時速30km近いんじゃないか?

 魔道機関をもう一回り大きなものにすれば更に速度は増すのだろうけど、俺達は漁業で暮らしてるからな。これで十分だと思うぞ。

 速度を2ノッチに落としたところで、サリーネからライズに操船を替えている。3人で順番に操船を試すのだろう。

 操船櫓を降りてきたリーザが新しいカマドでお茶を沸かし始めた。

 2つのカマドが珍しいのか、オリーさんが席を立って手伝いに向かう。

 

「それにしても、船足が速いな。それに揺れが少ない」

「欠点は、床下の収納場所が少ないんですが、小屋が大きいから何とかなります。このままサンゴの崖まで進んで漁を始めますよ」

 

 お茶を飲みながら、パイプを楽しむ。

 オリーさんがリーザに色々質問してるけど、ちゃんと答えられるのかな? もっとも、小屋の中やカマドに興味があるみたいだから、その辺りの事をはリーザ達の方が詳しそうだ。

 

 夕暮れが近づくと、リーザが操船櫓に上がってライズと操船を交替する。ライズがそのまま残ってサリーネが操船櫓から下りて来た。

 オリーさんに手伝って貰いながら夕食を作るらしい。


「それにしても、速いな。島を出て半日で、あの島を通り過ぎたぞ。あれが1日の目安なんだけどな」

「行き帰りは早足の方が良いですよ。漁の時は違いますけどね」

 そう答えたけど、確かに速い。これで2ノッチなんだよな。やはりスクリューは偉大だという事なんだろう。


「このまま、南に行くのか?」

「そうですね……、夜中に俺が代わりますよ。このまま進めば明日の夕方前にサンゴの崖に着くはずです」

「確かに、この速さだからな。カイトが船を動かすときは俺にも同席させてくれないか?」

「良いですよ。寝ていたら声を掛けますから」


 ちゃんと起きて待ってるぞ。なんて言ってるけれど、起きてられるかな?

 氏族の人達は基本的に早寝早起きだから、夕食が終わったら寝ちゃうんじゃないか? まあ、その時は、別の機会に誘ってあげよう。


 やはりカマドが2つあると素早く調理が出来るらしい。その上、船が揺れないから火の扱いも以前より安全だろう。

 魔道機関を停止すると、船を漂わせながら、皆で食事を楽しむ。


「揺れが全然違うにゃ。スープが安心して飲めるにゃ」

 オリーさんはカタマランの揺れが少ないことに改めて驚いている。それは家の連中も同じ事だ。

「浜で食事をしてるみたいにゃ」

 それ程ではないと思うが、やはり格段に横揺れが少ないからな。縦揺れは船が長尺だから、やはり少ないのだろう。


 食事が終わるころには、日が暮れていた。

 大きなランタンを甲板に吊るして、食事の片付けをリーザ達が始めると、サリーネがオリーさんを誘って操船櫓に上っていく。

 直ぐに、船が進みだした。食後のお茶をリーザが手渡しで櫓の2人に渡している。お茶のカップを置けるものがあるようだな。まさか屋根に置いているなんてことはないだろうな?


 リーザ達に操船の感じを聞いてみると、前の船とさほど変わらないらしい。少し大きく曲がると言ってたから、回転半径が大きいって事だろうな。それだけ注意していれば問題ないようだ。


「2ノッチで進むと、風が気持ち良いにゃ。前の船の全速力みたいな感覚にゃ」

 前が見えにくいという事は無さそうだ。ドワーフの職人さん達は良い仕事をしてくれたようだな。


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