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P-170 今度は二日間の漁になる


 カヌイのお婆さん達は、ある意味俗世間との関係を断っているようにも思えるんだけど、女性達の相談相手でもあるらしく、小母さん達は結構出入りしているらしい。

 そういう意味では、男性の出入りはあまりないってことになる。

 俺も1度背中の痣を見て貰いにトーレさんに連れられて行ったぐらいだし、シドラ氏族に大きな問題が生じた時には長老が出掛けるぐらいなものだろう。


 夕食の席で、トーレさんにカヌイのお婆さん達の様子を確認してもらえるようお願いしてみた。


「困ってることがないかを聞いてくれば良いのかにゃ? それぐらいなら、明日にでも聞いてくるにゃ。でも明日はナギサ達が出掛ける日にゃ……。帰ってきたら教えてあげるにゃ」

「よろしくお願いします。俺達の問題ならバゼルさんや長老がいますから、それなりに分かるんですが……」


「たぶん、何もないと言うに違いないにゃ。食料や魚は私達が届けているにゃ」


 うんうんと安請け合いをしてくれたんだが、だいじょうぶかな?

 確かにカヌイのお婆さん達なら何も問題がないとというだろうけど、少しは何かありそうな気がするんだよなぁ。


 翌日。朝食が終わったところで船団を組んで俺達は漁に出掛けることになった。

 エルマスさんが選んだ漁場は、南東にあるサンゴの崖だ。

 かなりの斜度で10mほどの海底に続いているから、崖を巡れば獲物に事欠くことはないだろうし、サンゴ礁の方だって水深3mはある。大きなテーブルサンゴの下にはブラドやバヌトスが隠れているに違いない。


 到着するのは明日の昼頃になるはずだが、操船櫓から降りてきたエメルちゃんが速度を上げていると教えてくれた。

 とは言っても、水中翼が効果を表す速度には達しないから、ちょっと不満そうな顔をしている。


「しばらくは船団を組んでの漁になるはずだ。遅くても次の乾季には、単独で漁に出られるんじゃないかな。それまでは辛抱するしかないよ」

「2ノッチにも満たないにゃ。でも、シドラ氏族で決まってるなら従うしかないにゃ」


 あきらめきれない表情だけど、ココナッツを割ってジュースを取り出し竹筒に詰めると操船櫓に上がっていった。

 露天操船櫓は屋根がないから日差しが強いんだろうな。

 麦藁帽子が飛ばされないようにしっかりと顎に幅広の紐で結んでいる。

 丸いガラスのサングラスを掛けていたけど、日に焼けると逆さパンダになってしまいそうで心配になる。

 そういえば、日に焼けて赤銅色になっているのは俺だけのようだ。

 他の連中はそれほど濃くないんだよなぁ。種族の違いということかもしれないけど、誰も気にすることがない。

 ちょっと目立つのは問題だけどね。

 

 途中の島でアンカーを下ろして1晩を過ごす。

 急深の砂地だから、カマルが釣れるかな? と釣竿を出したんだが、生憎と今日はお休みのようだ。

 俺達の船に並べてカタマランを停めたガリムさんが、そんな俺を見て笑みを浮かべている。


「良い釣り場に思えるけど、たまたまだろうな。次に来るときには大漁になるんじゃないか?」

「シドラ氏族の浜ならいつでも釣れるんですけどねぇ……。案外、漁の途中では掛からないときの方が多いんです」


「俺達なら竿を出そうとも思わないからなぁ。だが、今夜釣れるなら明日の夜釣りの餌に使えるってことか。

 塩漬けの切り身を用意してはいるんだが、案外そんなところに釣果の差が出るのかもしれないな」


 新鮮な餌の方が良く釣れるってことかな?

 知らず知らずにそんな釣りをやっていたのかもしれない。だがこのままいくと、明日の夜釣りは昼間の銛の腕次第になりそうだ。

 あまり大きな魚を使うのも考えてしまう。その点、カマルは丁度良いんだよなぁ。


 翌日。朝食を終えてお茶を飲んでいると、鋭い笛の音が2回海上に響いた。

 出発準備の合図だ。

 直ぐにタツミちゃん達が操船櫓に上がっていく。

 船首のアンカーを引き上げるのは俺の役目だ。引き上げが終わるとこっちを見ているエメルちゃんに片手を振った。

 ゆっくりとカタマランが動き出す。

 3時間ほどの航海だが、その間に素潜りの準備をしておくか……。


 昼近くになると、急に船団の速度が遅くなる。

 漁場が近づいたのだろう。

 屋形の屋根に上って周囲の海面を見ると少し先の海面の色が東西に直線を引いたように色が変わっていた。

 薄緑に輝く海面が突然深い蒼に変わっている。

 どうやら着いたようだな。


 鋭い笛の音が聞こえてくると、8隻のカタマランが船団を解いて東西に動き出した。

 起点になる島は北にある島だろう。低い島だけどなぜかしら砂浜に大きな岩が乗っている。

 かつて津波があったらしいから、その時の名残りってことだろう。だが目印には丁度良い。


 グングンとカタマランの速度が上がる。

 水中翼が働き、フワッと船体が浮き上がったが直ぐに基に戻る。

 あまり船団から離れることが無いようにとの思いがあったんだろうが、たまに動かしたいという気持ちが先に立ったのかな?

 ゆっくりとサンゴの崖に移動すると漁の場所を選び始めたようだ。

 

 さらに速度が遅くなる。


「ザバンを下ろすにゃ。船尾でザバンのロープを結んで欲しいにゃ!」

「了解だ。すぐに行くよ」


 屋形の屋根を降りると、船尾からザバンが少し顔を出している。10mほどのロープを船尾の横木に巻き付けて、姿を現したザバンの船首の横木に結び、ザバンをカタマランに固定していたロープを外す。

 ゆっくりとロープが甲板の下に収納されていった。

 伸ばしておくと夜釣りの邪魔だからなぁ。

 さて次はアンカーを下ろさないと……。出発と停泊時はいろいろと忙しい。


 タツミちゃん達が装備を整えて、ザバンに乗り込んでいく。

 保冷庫は大きいから俺が乗せてあげると、氷を作ってガムのベルトでザバンに固定していた。


「どの辺りで漁をするの?」

「私達は舳先に向かうにゃ。ブラド狙いにゃ!」


 サンゴ礁ってことだな。なら俺は、崖を狙うか……。大型の回遊魚もやってきそうだから水中銃で狙ってみよう。

 フィンを履くと、シュノーケルを咥えて水中銃を手にする。

 甲板からダイブしてそのままシュノーケリングをしながら崖に沿って獲物を探し始めた。


 下の方で白く何かが動いたのが見えた。

 先ずは、あれからかな……。

 水中銃のセーフティを解除しながら息を整える。

 銃の手元にあるドラムから3mほどラインを引きだして、一気にダイブした。


 深く潜ると崖に沿って小魚が群れているのが見えた。当然大型の魚もやってくるに違いない……。

 目標は、あいつだな。

 かなり大きいけどバルタックのようだ。2YMを越えているように思える。

 ゆっくりと近づき、狙いを定めてトリガーを引く。

 

 暴れるバルタックを無視して海面に出る。

 水中銃を掲げてザバンを探すと、俺に向かって進んでくる姿があった。


「大きいにゃ……、2YMを越えてるにゃ」

「幸先が良いね。そっちはどうだい?」


「ブラドを2匹取ったにゃ。もう1匹取れたら替わるにゃ」

「無理しないでくれよ」


 笑みを浮かべて頷いたエメルちゃんに手を振って、次の獲物を探す。

 数で負けてるから、せめて大きいのを突かないとなぁ。

 俺の立つ瀬が無くなってしまいそうだ。


 2匹目を突いて、再びザバンに戻る。

 3匹目を突くためにシュノーケリングをしていた時だ。サァーっと何かの音が次第に大きくなってくる。サァーがザァーに変わってきたから急いで息を整えると深場に潜って水中銃を上に向ける。 

 思わず笑みが浮かんでしまう。ハリオの群れだからなぁ……。

 水中銃を動かさずにその上を通り獲物を見定め、頭を狙ってスピアを放った。

水中銃を持ち去られるような衝撃が腕に伝わり、ラインのドラムがギイギイと音を立てる。両手でしっかりと銃を持って水面に浮上したがまだ抵抗してるんだよなぁ。

 ちょっと相手が大きかったかな?

 どうにか抵抗が緩やかになったところで、片手を振ってザバンを呼んだ。


「ハリオにゃ! カタマランに直接引き上げるにゃ。このロープに結んで欲しいにゃ」


 網紐のようなロープを渡してくれたので、しっかりと顎から口に通して軽く結んでおく。

 後はエメルちゃん達に任せておこう。

 カタマランの船尾に付けたウインチで容易に引き上げられるはずだ。

 日が傾く前に、もう1匹バルタックを突いて今日の素潜り漁は終了だ。

 カタマランに戻ると、【クリル】の魔法で体の塩気を取り去り着替えをする。

 獲物が大きいけれど、タツミちゃん達が頑張って捌いてくれた。今夜の夜釣りを終えたところで甲板にザルを並べることになるのかな?


 夕暮れが始まる前に、タツミちゃん達が夕食作りを始める。

 さて何ができるんだろう? 覗くと怒られるし、聞いても「直ぐに食べられるにゃ」と笑みを反されるだけなんだよねぇ。

 その間を利用して夜釣りの準備を始めたんだが……、少し西の空が怪しいな。


「タツミちゃん。雨が来るかもしれないよ」

「あれなら絶対に来るにゃ。夜釣りの途中で雨になるにゃ」


 それなら帆布のタープをあらかじめ張っておこう。

 屋形の方に少しだけ広げていたんだが、船尾まで広げてしっかりと支柱も立てておく。ついでに水汲み用の真鍮製の容器を2つ取り出しておいた。漁具の塩抜き用の水を確保できそうだからね。


 ランプに光球を入れて、帆桁の下に吊るしておく。

 1個は帆柱のロープに結んで上に上げておいた。夜間カタマランを動かすことはないだろうけど、明りがあれば万が一の衝突も回避できるし、他のカタマランも掲げるから何となく安心できる。

 日中は西に2隻が見えたけど、明りはもっと増えるんじゃないかな。


「夕食にゃ!」

 

 エメルちゃんの嬉しそうな声で、甲板に真ん中に運ばれてきた料理に体が向いてしまう。

 今夜は野菜を入れた炊き込みご飯にイセエビのようなロデニルの姿焼きだ。スープには焼いた切り身が入っている。ブラド辺りかな? 


 やはり豊漁の海ということになるんだろう。

 毎日、こんな食事ができるんだから俺達の将来は明るいに違いない。


 夕食が終わるころに豪雨がやってくる。1時間ほど降り続いてぴたりと止むと空は満天の星空だ。

 竿を出して夜釣りを始めると良い型のバヌトスが沢山釣れた。

 潮通しが良い漁場なんだけど、今夜はシメノンの群れが来ないようだ。明日に期待することにして、竿を畳み今日の漁果を一夜干しにして屋形に入る。明日もハリオが回遊してくるのだろうか?

 獲物をどうやって突くか考えながら目を閉じる……。


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