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P-168 斜路を使ってカゴを引き上げよう


 3日間の素潜り漁と4日の夜釣りで、カタマランの保冷庫が一杯になる。

 まだ入りそうだけど、あまり詰め込むのも良くないように思える。

 5日目の朝に漁場を離れて、オラクルに向かって船団は進む。


 これで4つの班が漁を終えたことになるけど、さすがにどの班大漁のようだ。

 さらにオラクルで暮らす人が増えるとなれば、燻製小屋と保冷庫の増設はやっておくべきかもしれない。

 

 夕暮れ前にオラクルの桟橋に到着すると、トーレさん達が待っていてくれた。

 カタマランのアンカーを下ろして桟橋に船首と船尾のロープを繋ぐと、直ぐに甲板に乗り込んで保冷庫を覗いている。


「やはり大漁だったにゃ。バルトスが多いみたいにゃ」

「結構いたんですよ。フルンネがあっちの保冷庫に入ってますよ」


 カタマランの保冷庫は2つあるからね。どちらもたっぷり魚が入っている。

 その夜は浜で盛大に酒盛りが始まった。

 

 ガリムさん達も、笑みを浮かべて友人達と肩を叩きあっているからやはり大漁だったに違いない。


「片方の保冷庫だけではないと、トーレが言ってたが?」

「恰好突けましたし、フルンネの群れに何度も遭遇しました。3YM(90cm)を越える魚体ばかりでしたよ」


 10匹を超えているからなぁ。それだけで保冷庫が一杯になってしまう。

 このカタマランは横幅が3m程もある大きなものだ。通常は仕切り板を入れて2つに区分けしているんだが、今回はその仕切り板を撤去して一夜干しを放り込んでいる。


「明日が楽しみだが、そうなると……」

「やはり、保冷庫と燻製小屋が作った方が良いのかもしれません。次の乾季には更に人が増えることになるんですから」


「長老と相談だな。今季はこれで行くとしても、確かに不足するだろう。シドラ氏族の島なら、直ぐに商船に運ぶということも可能だが、オラクルは俺田達だけだからな」


「まあ、これが続くかどうかも考えねぇといけないだろうよ。4班共に同じ漁場で漁をしてねぇんだから、たまたまということも考えられるぞ」


「たまたまが、4回も続くかよ。やはり、龍神様の加護がこのオラクルには宿っているに違ぇねえ」


 かなり飲んでいるようだけど、周りの男達もその言葉に頷いている。

 確かに、より取り見取りだからねぇ。


「やはり作った方が良いってことか?」

「8隻であの燻製小屋を1つ使ってしまいそうだ。この先船が増えて、出漁する船団が増えるとなれば、2日間の燻製が終わらない内に次がやってくるぞ。保冷庫は2重の木箱を使っても良いだろうが、燻製小屋はいるんじゃねぇか?」


 材料を運んで貰うことになりそうだな。

 製材はできるけど、最初から板を買えるんならその方が楽に作れるだろう。

 それも、長老達が判断してくれるに違いない。

 たっぷり料理を頂いたから、そろそろ寝ることにしよう。明日は朝から獲物を運ぶことになりそうだからね。


 翌朝。

 起こされることなくハンモックを抜け出して甲板に出ると、エメルちゃんが驚いた顔をしている。その後に空を見上げるんだから困ったものだ。

 そんなに不思議かな? 何時も寝坊をしてるけど、この頃は少し早く起きられるようになったと自分でも思ってるぐらいなんだけどね。


「早く朝食を食べて漁果を運ぶにゃ!」

「結構あるんだよねぇ。俺も運ぶよ」


「漁果は私達が運ぶにゃ。でも、あの階段は手伝って欲しいにゃ」


 甲板から高台への上がる階段をちらりと眺める。確かに高いからなぁ。

 階段の隣にクレーンがあるんだが、その反対側に竹で作ったスロープがある。

 バゼルさん達が作ったのかな?

 あのスロープを使って、ロープで背負いカゴを引き上げるつもりなんだろう。

 

 皆、いろいろと考えてるみたいだ。

 トロッコに代る運搬手段が、案外早くできるかもしれないな。


 朝食を終えて、とりあえずお茶を一杯。

 午前中はいろいろとありそうだ。

 浜に男達が集まりだしたから、ベルトのバッグにパイプを入れて出掛けることにした。


「先に行ってるけど、大変な時には声を掛けてほしいな。氏族のしきたりもあるんだろうけど、苦労は皆で分かち合うのが基本だからね」

「私達が手伝うからだいじょうぶにゃ! それより高台の上でロープを引いて欲しいにゃ」


 後ろを振り返るとトーレさん達が瀬尾篭を担いで立っていた。

 甲板に乗り込んでくると、保冷庫の蓋を開けて目を丸くしている。


「バゼルを越えてるにゃ?」

「でも、突きが甘いにゃ。これは今夜のオカズにゃ」


 痛いところを突いてくるなぁ。

 銛を使ったから、たまに失敗してるんだよね。

 オカズにはなるだろうと運んできたんだけど、さっそく見つかってしまった。


 女性達4人が漁果をカゴに入れ始めたところで、もう1度タツミちゃん達に声を掛けると桟橋を歩いていく。

 浜にガリムさん達がいるから、そこに行けば俺の仕事を割り振ってもらえるだろう。


「やってきたな。嫁さん達が獲物をカゴに入れてる最中だろう。漁果の運搬は俺達の仕事ではないが、高台に上げるぐらいは手伝わねばなるまい。

 バゼル達が階段の右手に竹の滑り台を作ってくれたようだから、それも使えるはずだ。

 滑り台はガリム達10人で交代して行ってくれ。残った連中はクレーンを使う。横木を動かさんといけないのが面倒だが、慌てずに行ってくれよ。せっかくの漁果だ。落とすようなことがあったら、劉循様に申し訳ないからな」


 さて、ガリムさんが立ち上がったところで、一緒についていく。

 階段まで行くと、滑り台の構造が分かってきた。

 背負いカゴを直接引き上げるのではなく。1m四方の木枠を引き上げるようになっている。浅い箱のような台だから、少しぐらい揺れてもカゴがひっくり返ることは無さそうだ。

 それに、台の上でカゴが斜めにならないように、横から見ると台が三角形になっている。

 よく考えてるなぁ……。思わず感心してしまった。

 

「下に2人置いておくか。リザムとエスターに任せるぞ。台に載せたら合図をしてくれ!」

「分かった。ガムのベルトも付いているようだから、ひっくり返ることはないだろうが、引き上げる時には気を付けてくれよ」


 2人を残して、階段を上がる。

 桟橋から続々とカゴを背負った嫁さん達があるいてくる。

 さて、上手く引き上げられるかな?


「この構造だと、ここでカゴを下ろすことになるな。一応下は丸太で補強してあるし、木枠もあるから落ちることはないだろうが、リードとヨーレに任せるぞ」

「台から下ろして嫁さん達に渡せば良いんだな? 了解だ!」


 残った俺達6人がロープを引くことになる。

 しばらく待っていると、リードさんが俺達に手を振った。

 ゆっくりとロープを引いたが、6人でもどうにかだな。やはり獲物を入れた背負いカゴは重いのだろう。それとも頑丈に作った台が重いのかもしれない。


 カゴが高台に顔を出すと、リードさん達が横にカゴを移動する。

 再び俺達に合図が来たから今度はゆっくりと台を下ろしていった。


 20mほど離れた場所ではクレーンが同じように背負いカゴを引き上げている。

 階段を上ってきた嫁さん達が背負いカゴを受け取って広場の南へと担いでいった。


「簡単かと思ってたんですが、結構重いですね」

「そうだな。これも魔道機関を使うことになるかもしれない。そうすればこの半分の人数で行えるだろう」


「ここから燻製小屋も離れてるんだよなぁ。早めに線路を作った方が良いのかもしれないぞ」

「石の桟橋の後になるんじゃないか? 畑作りもあるようだからな」


 畑作りというより、排水路と灌漑用の水路が先だろう。

 これも2手に分けて作業をすることになるのかもしれない。

 漁をしながら進めることになるだろうが、1度の漁でこれだけ漁果があるから、漁と開墾作業を半々にしても良さそうだ。


 2時間以上も綱引きを繰り返すことになった。

 素潜りよりも運動量がありそうだ。

 終わったと聞いて、広場の木陰で休んでいると小母さん達がココナッツジュースを振る舞ってくれた。

 パイプに火を点けて休んでいると、長老達がログハウスの軒下で俺達の作業を見ていたことに気が付いた。

 漁果が気になっていたのかな?

 表情がここからでは分からないけど、長老達が顔を見合わせて頷きあっている。


「長老も漁果を気にしてるに違いない。とりあえず、納得してくれたに違いない」

「頷いてたからなぁ。だけど、俺達は人数が少なかったのは知ってるんだよな。後で前の連中より少ないように見えた……。なんていわれないか?」


「それはないだろう。出掛けに、行先とカタマランの数が知らせてあるはずだ。それより、燻製小屋に行ってみないか? 燻製小屋の中も気になるんだよなぁ」


 燻製小屋の棚が空いているようでは、漁の腕を問われかねないということかな?

 大型をたくさん突いたから、案外木枠に並べると少ないってこともありそうだ。


 ガリムさんの後について燻製小屋に向かったんだが、燻製小屋に近づくにつれて嫁さん達のおしゃべり声が聞こえてくる。

 いつも賑やかなんだよね。


 燻製小屋が2つ並んだ横には大きな小屋がある。周りの壁がなく屋根だけの小屋だけど、そこに竹で編んだ敷物を広げて漁果の山から種類ごとに分けている最中だった。

 漁果が多いから嬉しくておしゃべり始まるのかな?

 手と口を同時に動かしている感じだ。

 木枠に綺麗に並べられると、バゼルさん達が燻製小屋へと運んでいく。


「やってきたな。負の数は少なかったが前回より多いくらいだな。それにしてもシメノンだけで200を超えてるとはなぁ」

「2晩群れがやってきましたからね。それで、燻製小屋の中がガラガラなんてことにはならないでしょうね?」


「ガラガラどころか、どうするか悩んでるところだ。やはり2つ使うことになるな。片方に無理やり詰め込んでも余ってしまうだろう。保冷庫よりは燻製小屋か……。次の便で運んでもらうよう長老と相談だな」


 1周り大きなものでも良いかもしれない。

 燻製小屋の中は、棚10段の棚が3列に並んでいる。4列にすれば今回1つで対応できただろう。その後で既存の燻製小屋の拡張を図れば良いんじゃないかな。



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