P-165 大漁が続く
漁に出る船団を皆で見送ると、石を運びに台船で西に向かう。
大型の台船も使えるから、都合2隻での石運びになる。小さい方で磯を運び大型の方には沢山の麻袋とカゴを積んである。かなり石組が海面に近付いてきたから、砂で埋めようということになった。
大型の台船に3隻ほどザバンまで積み込んである。これで広範囲に石や砂を集めることができるだろう。
1時間程かけて、島2つ先に到着したところで、島の砂浜から砂を次々と麻袋に詰め込んで台船へと運ぶ。
サンゴのかけらも結構あるから、大きいのは2人で運搬する。
2時間程かけて台船に積みこむと島へと向かうんだが、ザバンを漕ぐ力も残っていない。
台船で曳いてもらいながら島へと向かうことになってしまった。こんな事なら俺達のカタマランからザバンを曳きだすべきだった。
昼食を頂いいて休憩を取れば、少しは元気が出る。運んできた砂や石を石組の中に、詰め込んでいく。
「あまり変化が無いなぁ」
「それだけ桟橋が大きいんですよ。日が暮れる前に、台船で石組用の石を運んできます」
ガリムさんに砂の投入と石組の補強を任せて、若手だけで石を運びに向かう。
海底の石をカゴに入れれば、台船に載っている連中がロープで引き上げてくれる。数十の石を積み込んで島に帰れば今日の仕事は終わりになる。
夕食ができる間に明日の段取りを話し合い、バゼルさん達が高台から戻ってくると一緒にココナッツ酒を酌み交わす。
これがオラクルの恒例行事だからなぁ。
長老達も参加させてあげたいが、一緒になって騒ぐには少し歳を取り過ぎているし、暗がりでの階段の上がり降りは危険だろう。
「しばらく天気は持ってくれそうだ。ザネリ達の小屋は何とかなりそうか?」
「柱や壁が揃ってるんだから案外楽に進んでる。明日は屋根を葺けそうだから、早ければ明後日には店開きができそうだ」
「高台の倉庫もかなり進んでいる。早くしないと雨が心配だ。手鋤けてやれんが、頑張ってくれよ」
「俺達も手伝おうか?」
ガリムさんの言葉に、ザネリさんが首を振っている。これぐらいは俺達でという気概を持っているんだろう。
トーレさん達は畑を作っているんだろうが、段々畑ともなればまた石組を作る必要がありそうだ。
まだまだ石を運ばないといけないんだろうな。
食事ができると、自然に漁に出た連中の話が出てくる。
どうやら北に向かったらしい。サンゴの穴を狙うということだな。
「かなり数が出るはずだ。最初の漁だから数を狙うってことだろうな」
「俺達葉どこに向かうんだ?」
「ザネリが一緒だからなぁ。良い漁場を教えてくれるに違いない」
「そうなると、エルマスが羨ましくなってくるぞ。ナギサが一緒だからな。この辺りの漁場は2日程度先まで知り尽くしているんじゃねぇか?」
「見付けた漁場は長老に持つ海図に全て書き込んでありますから、皆さんと並びは一緒ですよ。乾季の漁は素潜りですからねぇ。あまり銛の腕が無いんで期待されても困ります」
「ハリオとフルンネが突けるんだから十分だ。俺達はトウハ氏族じゃねぇからな。森の腕が無ければ他の漁で頑張れば十分だ」
「殊勝なことを言ってるが、お前さんはハリオを突いたことがあるのかい?」
「あれを突くなら、フルンネを2匹突いた方がマシだ!」
そんな会話で、焚き火の周りが盛り上がる。
だけど、確かにそれは正しいと思うな。突きづらいハリオを突くよりもフルンネを突いた方が容易だし確実だ。
森の腕を競うなら、ハリオを狙うんだろうけどね。
俺達は趣味で漁をするんじゃなくて、生活の糧を得るために漁をする。獲物をえり好みするのは考えてしまうけど、どうしても高値で売れる魚に目が行ってしまうんだよなぁ。
とは言っても、今回は船団ごとの漁果が分配されるということだから、無理はしないでおこう。
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待ちに待った5日目がやって来た。日が傾き始める中を西から9隻の船団が浜に向かって進んでくる。
前部のカタマランを桟橋に停泊できないから、小型の台船を使って獲物を入れた背負いカゴを運ぶことになるだろう。
既に浜には大勢が集まっている。
先ずは高台の小屋に運んで獲物を選別しなければならないからなぁ。そこまで運ぶのを手伝ってやろうということなんだろう。
3隻にカタマランが、桟橋に到着すると、知り合いの小母さん達がカゴを運ぶ手伝いに向かった。
大一般の班長が、バゼルさんのところにやってくる。慢心の笑みを浮かべているから豊漁だったには違いない。
「とんでもねえところだな。いつもなら逃げる距離でも全く動かねぇんだから、突き放題の漁になったぞ。夜は夜で、シメノンの群れに1度遭遇した。2カゴじゃなくて、3カゴが平均だ!」
「ウオォォ!!」」
ひとしきり歓声が上がる。
次々とカゴを背負った小母さん達が桟橋を歩いてくる。台船の方も5つほどまとめて浜に運んでいるようだ。
浜から階段を上ったり、クレーンを使ったりと高台にあげているから、卿の夕食は間違いなく遅れそうだ。
それに今夜の長老のログハウスも賑わうに違いない。
小屋で酒類と大きさ別に分けられた魚がザルに入れられて燻製小屋に運ばれる。
俺も手伝うことになったけど、小屋の中に3列に並んだ棚に次々とカゴが積み重ねられていった。
どうにか運び終えたところで、燻製小屋の扉が閉じられ、少し離れたカマドに火がつけられる。
燻製小屋の煙突から、ランプの光で煙が見えたところで、今夜の仕事は終わりになる。
「いやぁ、すっかり夜になったな。明日はバゼル達だったが、出掛ける前に苦労を掛けさせてしまった」
「後、10カゴ多かったら、入りきらなかったぞ。次は溢れるんじゃねぇか?」
笑みを浮かべた男達が燻製小屋を後にする。
これから夕食なんだけど、なんか夜食という感じだな。
タツミちゃん達が、早々に姿を消したのは料理を始めるためだったに違いない。
浜に下りたら、酒盛りよりも速く食事が始まりそうだ。
食事と酒盛りが一緒になって夜半まで浜が賑わっている。
俺達は早めに帰ってきた。あのまま飲んでいたら明日の仕事が出来なくなってしまうからね。
「あんなに獲れたんなら、私達の時は、燻製小屋が2つになるにゃ」
「そこまではどうかな。俺達の班は8隻だからね。今日ぐらいの漁果を目指せば問題ないと思うよ。それに、乾季は素潜り漁だろう?」
「水中銃なら大きいのが突けるにゃ。私でも3YM(90cm)のフルンネが突けたにゃ」
「大きい銛も1つ用意しといた方が良いにゃ。ケオは大きくなると父さんが言ってたにゃ」
ケオはハタに似た魚だった。確かに大きいんだよな。バゼルさんが、更に大きなガルナックという魚もいると教えてくれたんだが、アオイさんでさえ銛を3本使ってようやく仕留めたという魚だ。
もしいたら、見て見ぬ振りをした方が身のためだと思ってしまう。
だけど、タツミちゃんやエメルちゃん達は、俺がそんな魚を突けると思っているみたいだ。
トーレさんも直接言わないんだけど、何時ももっと大きな魚を突けとハッパを掛けて来るからねぇ。それを聞いてバゼルさんがいつも苦笑いを浮かべるんだよなぁ。
「何がいるか分からないから、大きいのを積んでおこう。だけど、俺達葉どこに向かうんだろうな。バゼルさん達は南だと思うんだけど……」
オラクルの入り江は、西に島1つ分ぐらいの広くて長い入り江だ。
出航する船がどこに向かうか、浜では分からないんだよなぁ。
翌日。俺が甲板に出ると、既にバゼルさん達は出航した後だった。西の奥にいくつか見えるカタマランが、バゼルさん達の船団に違いない。
朝食を頂いていると、タツミちゃん達が甲板に出た時にはおきに集結している最中だったらしい。
「かなり遠くを目指すみたいにゃ。トーレさんに行き先を聞けなかったにゃ」
「あちこちで漁をしたら、私達の時の漁場の魚が減ってしまうにゃ」
さすがに減るとは思えないけど、場荒れはするかもしれないな。魚が神経質になると、近づくだけで逃げてしまう。
食後のお茶を飲みながら、パイプを使う。
そろそろ皆が集まりだしたようだ。ザネリさん達もギョキョーの小屋を作り終えたから俺達と一緒に桟橋作りを手伝ってくれる。
壮年組は、畑の石組を始めたようだ。
既に測量は終えているから、杭に付けた目印まで磯を積み上げることになる。
岩場の石は、まだたくさんゴロゴロしているらしいから、案外早く4つ目の畑ができるかもしれないな。
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予定通り、5日目の夕刻にバゼルさん達が漁を終えて帰ってきた。
再び浜が大賑わい。今度は食事当番と漁果運びの2手に小母さん達が分かれている。タツミちゃん達もザネリさんの嫁さん達と一緒になってカマドに大きな鍋を乗せていた。
「どうでした?」
カタマランから笑みを浮かべたバゼルさんが下りてきたので、早速聞いてみる。
「予想通りということだな。まあ、しばらく誰も漁をしていない漁場だ。これが小さい奴だ。タツミ達に届けてくれんか」
渡された手籠はズシリと重い。よく見ると全て1YM半(45cm)はあるんじゃないか。
これなら、燻製に丁度良さそうだけど……。
「トーレ達が担ぎ出しているが、どう考えても4カゴ以上はあるはずだ。あの燻製小屋に入りきれないかもしれんぞ」
「2つ使いますか。それなら最初に言っといた方が良いかもしれません」
「その時は、天井から吊るせば、10カゴぐらいは何とでもなる。さすがに2つ使うのは面倒だろう」
船団を小さくすることも考えないといけないかもしれない。
バゼルさん達の船団も9隻だからね。
次の船団の漁果と、俺達8隻組の漁果で長老達が判断してくれるだろう。
夜が明けると、3番目の船団が漁に出掛けて行った。
次はいよいよ俺達だな。今夜から漁に出掛けるための最終点検を始めよう。ガリムさん達は、石運びのついでにココナッツを集めて来ると言っていたぐらいだ。
下膳中の石運びを終えて、浜で蒸したバナナを食べている時だった。
西から近付いてくる船が見える。
「2隻だな。片方がかなり大きいぞ。あれは保冷船じゃないか!」
「何だと! すぐバゼルさんに知らせてこい。積み込みは明日かもしれないけど、荷下ろしは午後にも始めるかもしれないからな」
定期船がやって来た。
食料以外に、何を運んできたんだろう。必要な品をギョキョーの小母さんに皆が頼んでいるはずだから、そのリストを渡せば次の定期便が持って来てくれるはずだ。
「あれはカルダスさんじゃないのか?」
「航路の案内ってことなんだろうな。俺達、怠けてはいなかったよな?」
互いに顔を見合わせて頷き合っている。頑張ってるつもりなんだが、あまり進捗が見えないのが困ったところだ。
カルダスさんから、もっとまじめにやれと言われそうな気がしてくる。




