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P-162 出発の前に


 ザネリさんとガリムさん、それに俺がザネリさんの甲板でココナッツ酒を飲んでいる。

 俺のカタマランに、それぞれの嫁さん達が集まって、3年間暮らす者達の準備品を纏めているからだ。

 ネコ族の女性が6人も集まるんだから、さぞや賑やかな話をしているに違いない。


「それでお前らは、昼から飲んでるってことか?」


 カルダスさんがやって来て俺達を哀れんでくれたけど、ココナッツ酒のカップを渡すと俺達の間に座って話に加わる。

 人の事は言えないと思うんだけどねぇ……。


「オラクルに向かう連中と、俺達の作業分担が気になるところです。全員で漁をするとなれば保冷庫が直ぐに満杯になりそうですし、まだまだ石作りの桟橋も時間が掛かりそうです」

「それに、貯水池から畑に向かう用水路もまだだ。ナギサの話では排水路も必要だろうし、定住するとなれば畑も増やしたいからなぁ。それは長老も気にしているから今夜にでも優先順位を決めねぇとな」


 カルダスさんの話では開拓と漁を並行して進めるつもりらしい。

 10日程度を目途に半数を入れ替えるということだった。

 それなら、漁に出る船は30隻を超えるぐらいだろうし、定期的に保冷船がやってくるなら保冷庫から燻製が溢れることにはならないだろう。


「だが、俺もそれは気になってるし、バゼルにしても同じだからなぁ。3つ目の燻製小屋と保冷庫を作る準備だけはしておかねばなるまい」

「場合によっては作ると?」


「当たりめぇだ。氏族の島に運ぶには時間が掛かり過ぎる。獲れた魚を腐らせたりしたら龍神様にお詫びのしようがねぇぞ」

「半分と言わずに、三分の一で始めて見ませんか? それなら2つの燻製小屋と保冷庫で何とかなるかもしれません」


 俺の話に、皆が唸っている。

 魚を獲って俺達の生活があるんだからなぁ。それを規制するというのも考えてしまうところだ。


「それしか無さそうだな。やはり、燻製小屋と保冷庫は作っておくべきだろうと思っている。使わなければ倉庫にできそうだ。

 ギョキョーの連中も、浜の小屋と高台に倉庫ぐらいは欲しいに違いねぇ。まだ要求を言ってこねぇが、今夜にはその話を持って来るだろうよ」


 倉庫は浜の小屋だけだからなぁ。壁がないから帆布を被せているんだよね。

 あの小屋をギョキョーの浜の事務所にして、倉庫は高台に作ることになるだろう。そういう意味では、カルダスさんの予備の燻製小屋と保冷庫作りは説得力がある。

 どちらかというと、保冷庫を倉庫代わりにすべきだろうな。


「それで、オラクルに出発するのは?」

「色々と決めごとがあるから、早くても5日後になるだろうな。最初の3年を暮らす連中は明後日ぐらいには決めてやらねぇと準備も大変だろう。

 お前達が選ばれるとは限らねぇぞ。この島に残ったとしても、漁暮らしは変らなねぇだろうし、3回目にはオラクルでリードル漁ができるようにすると長老も言ってるぐらいだ」


 氏族の仲違いが起らぬようにと、長老も苦労しているだろう。

 10年後には三分の二をオラクルに移動したいところだが、その過度期はどうしても俺達のように、少し収入が増えてしまう者が出てきてしまう。

 やはりオラクルのリードル漁の上納魔石を増やすやり方が一番納得しやすいと思うんだけどなぁ。

                ・

                ・

                ・

 タツミちゃん達が2日掛かって作ったリストを持って、トーレさんがカヌイのお婆さん達の小屋に向かったらしい。

 女性達の統括的な存在だから、カヌイのお婆さんが了承したなら、長老は文句を言わないだろう。

 かなり細々したものまで入っているらしいけど、商船から貰って来た商品リストと見比べると、さすがに品数は少ないようだ。


「こんなに店に並んでたのかにゃ?」

「さすがにそれは無いと思うよ。半分ぐらいじゃないかな。そのリストにあるものは、頼めば手に入ると考えるべきだろうね。オラクルに行くギョキョーの連中に渡しておくつもりだ。定期便に託せばオレクルで半月後には手に入るんじゃないかな?

 商船に積んでいない時でも、1か月後には何とかなると思うよ」


 やはりカタログ販売になってしまうのは仕方がないだろう。ある程度、需要の高い物だけを事務所に置いて販売するだけで良いんじゃないかな。

 

「明日は商船に行ってみるにゃ。野菜の種を買うつもりだけど、タバコとワインに蒸留酒も買い込んでおくにゃ」

「釣りの道具は雨季前に買い込んであるから、しばらくはだいじょうぶだ。獲物が大きいから、仕掛けの釣り針を大きくしておくよ」


 2人が出掛けたので、タープの日陰に座り込んで釣りの仕掛けを取り出して釣り針の交換を始める。

 あまり漁をしないのも問題だ。釣り針が直ぐに錆びてしまうんだよなぁ。

 手入れはしているつもりだが、海水と鉄は相性が悪いからねぇ。


 釣り針を交換したところで、今度は延縄仕掛けの釣り針を研ぎ直し、油を塗りこんでおく。

 結構面倒だけど、きちんと手入れをしておけば漁果も上がるはずだ。


「やってるな! その心掛けがザネリ達にも欲しいところだが……」


 バゼルさんが、少し離れて甲板に腰を下ろすと、タバコ盆の火種でパイプに火を点けた。

 ドワーフ族の職人に作って貰ったパーコレーターを使って、コーヒーを作ると仕事を中断して2人でコーヒーを頂く。

 俺は砂糖を入れないと飲めないんだが、バゼルさんはそのまま飲んでいるんだよなぁ。苦くても平気なようだ。


「結局年代別に籤引きになってしまった。まあ、行きたいという気持ちは分からんでもないが……」

「いずれもシドラ氏族の漁師でしょうから、問題はないでしょう。いかに人選を納得させるかが問題ですが、籤ならあとくされが無いと思います」


 どうやら、最初の移住組にバゼルさんも入ったらしい。

 さぞかしカルダスさんが悔やんでいるだろうが、3年後には交代することになるから、長老に苦言も言えないだろう。

 

「ザネリも一緒だ。友人達の半数が同行することになる。それと、まだオラクルに行ったことがない連中が約30隻になる。彼等は乾季明けのリードル漁をしてシドラ氏族に戻ることになる」


 一通り経験させることで、氏族内の不満を無くすことになるんだろう。その後は、リードル漁の度毎に、シドラ氏族に残った漁師達の三分の一をオラクルに送ってくることになる。


「長老心得の3人を俺達が乗せていくことになったが、カヌイの婆様連中をナギサに頼めるか?」

「2人と聞いたことがありますが、それぐらいなら問題はありません。荷物はあるんでしょうか?」


「基本は背負いカゴ1つだが、食事はナギサの方で用意して欲しい。それを伝えたかったんだが、タツミ達はいないんだな」

「商船に出掛けてます。何時も大目に買い込んできてますから、航海中の食事は問題ありません。ですが、オラクルで暮らすとなると……」


「その為に台船を曳いてきたんだ。あれならたっぷり乗せられるし、接着剤のタルも10個を運ばねばならん。ナギサの船にも荷を積みたいが、木箱3つにタル2つを頼めるか?」


 案外少ないんだな。了解を伝えると残ったコーヒーを飲み干して、桟橋を歩いて行った。長老のログハウスで準備状況を確認しに向かうんだろう。

 俺も早めに片付けておくか。

 カヌイのお婆さん達を乗せるとなると、それなりに気苦労がありそうにも思えるんだよなぁ。


 カゴを背負って帰ってきた2人に、カヌイのお婆さんが乗船すると教えたら、荷物を甲板に下して再びカゴを背負って飛び出して行った。

 少しは美味しい物を食べさせたいと思っているのだろうか?

 俺もその方がありがたいんだけど、あまり贅沢にもてなすのも少し問題がありそうに思えるんだよなぁ。


 日が傾く頃になって2人が帰ってきたんだが、なぜかトーレさん達も一緒だった。


「ナギサのところはカヌイのお婆さん達にゃ。私の方は長老にゃ。酒を飲ませておけば問題ないにゃ」

「カヌイのお婆さん達は余り飲まないんでしょうか?」


 特にそんな習慣は無いらしいけど、夕食時にココナッツ酒をカップ1杯作るように言われてしまった。


「料理上手なお婆さん達だから、タツミ達も教えて貰えば良いにゃ」


 ずっと漁師の妻として暮らしてきた女性達だからなぁ。漁を止めてカヌイのお婆さん達に勧誘されるらしい。

 ある意味、女性達の憧れの存在になるわけだ。


「カヌイのお婆さん達がオラクルで暮らす私達の幸せを、何時も龍神様に祈ってくれるにゃ。これでオラクルの開拓はもっと進むに違いないにゃ」


 その夜、バゼルさんが訪ねて来た。

 ワインを飲みながらバゼルさんの話を聞くと、出発の日が決まったらしい。


「3日後の朝だ。朝食後に操船櫓に白い旗を掲げて沖に集まってくれ。それと、俺と一緒に台船を曳いて欲しいのだが……」

「この船で十分だと思います。魔道機関の数が1つ多いですし、他の船よりも魔石の数が違います。この船で曳いてみて、力不足であるなら手伝ってください」


「済まんな。苦労を掛けてしまいそうだ」

「それぐらいは何でもありませんが、そうなるとこの船に搭載する荷物は明日から運ばねばならないのでしょうか?」


 どうやらガリムさん達が運んできてくれるらしい。

 この船に乗っていれば十分だと言って帰ったんだけど、ココナッツを取りにガリムさんと出掛けることはできないようだ。

 ギョキョーでも販売しているから、背負いカゴ1個分を買い込んでくることになりそうだ。


 そんな心配は、翌日の夕暮れ時に解消してしまった。

 たっぷりとココナッツを積んだザネリさんが背負いカゴ2つ分も届けてくれたんだよなぁ。


「カヌイのお婆さん達が一緒なんだろう? これぐらい用意しておけば十分だろう」

「済みません。明日にでもギョキョーで買い込むつもりでした」


「お前はココナッツ取りが出来ないからなぁ。そんな気を使う必要はないぞ。俺達がいるんだからな。それにしても、だいぶ甲板が狭くなったな」

「ガリムさん達に運んで貰ったんです。やはり定住するとなると荷物が色々とあるんですねぇ……」


「その上に、あの台船だからなぁ。俺達も少しは運ぶんだが、ナギサの船だけで俺達2隻分になりそうだ」

「今度は漁も出来ますからね。仕掛けの釣り針を大きくしました」


「そうなるか……。俺も換えておくかな。友人達にも伝えておこう。確かに大物ばかりだからなぁ」


「ありがとう!」と言って帰って行ったけど、俺の言った「ありがとう!」はちゃんと聞こえただろうか?

 急いでカタマランを回頭して速度を上げていた。

 友人達に、「釣り針を大きくしろ!」と早く伝えたかったのかな。


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