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N-052 リードル漁は金になる

 リードル漁への出発の朝。バルトスさんの船には、エラルドさんとカヌイの夫人が乗り込んだようだ。

 カヌイの夫人が一緒だと聞いてサリーネ達は緊張してたが、どうやらサリーネ達の遠縁にあたる人のようだ。

お爺ちゃんの妹らしく、バルトスさんは昔遊んでもらった事もあるようだ。とはいえ、サリーネ達は合うのが初めてらしい。


「他のおばさん達には会ったことがあるにゃ。でもカヌイになってたなら知らないにゃ」

 ある意味世捨て人のような生活らしいが、頼まれれば村の仕事も手伝ってくれるようだ。そう言う意味では、ありがたい存在なのかもしれない。


 途中の島で果物や焚き木を取りながら、漁場へと俺達は向かった。西の漁場に向かう者達も何隻かはいるようだ。東よりも西の方が漁場が近いという事もあるのだろう。西の漁場の帰属を主張するにも都合が良いだろう。

 将来的には両者で使えるようにするらしいが、俺はこのままで良いんじゃないかと思っている。他の氏族の無理な要求を通してあげたんだからな。もし、今から向かう東の漁場にリードルがいなかったら、俺達全員が西に向かっていたことだろう。


 漁場の島に着いたところで、焚き火をする穴とリードルを捨てる穴を掘っていた時に、始めてカヌイの夫人を見ることが出来た。

 島で暮らす他の夫人とほとんど変わらないが、1つ違うのは青く透き通った勾玉を首から下げているところだけだ。

 宝石というわけでは無いのだろうが、始めてみる鉱石だな。


「お主がカイトにゃ?」

「はあ、そうですが」

「龍神の加護は絶対にゃ。神亀もそれに従う。我等トウハ氏族を頼むにゃ……」


そんな頼みに小さく頷いた俺を、微笑みながらジッと見ていた。

とりあえず砂浜に座り込むと、俺の直ぐ近くにカヌイの夫人が座り込んだ。

 この聖痕の意味がいまだに良く分からないんだが、カヌイの婦人には分かっているのだろうか?

 長老達は現実的だ。精神世界を束ねるカヌイの1人なら分かるかも知れない。


「この意味が分かりますか? いまだに良く理解できないんですが」

 腕の聖痕を見せながら聞いてみた。

「聖痕にゃ。持つ者は豊漁を約束されると聞いたにゃ? 実際は少し違うにゃ。持つ者の力を増すにゃ。深く潜れて、長く息が続くにゃ。更に体力も上向くから、素潜り漁が格段にやり易くなるにゃ」


 それなら、豊漁間違いなしだろう。だが、それだと個人限定になりそうだぞ。


「分かったかにゃ。聖痕は個人の能力を上げるにゃ。他への影響はないにゃ。でも、神亀は別にゃ。神亀はその海域を守るにゃ。神亀のいた海域は安全に漁が出来るにゃ」

「そこまでは納得しました。となると、龍神を見たと言うのはどのように解釈すれば良いのでしょう?」

 

 おもしろそうに俺を見ている。やがて小さな声で話してくれた。

「龍神様は海の神。海に住む全ての生き物の上に存在するにゃ。龍神様が2回も姿を見せた話は過去にも無かったにゃ。でもこの島を教えてくれたのは確かにゃ。龍神様が棲む島なら島は安全にゃ。危ない時には姿を見せてくれる筈にゃ」


 俺達の氏族を自分の庇護下に置くと言うのだろうか? それも問題なように思えるんだけど……。


「全てが上手く行くにゃ。漁場を神亀が見守り、私達の暮らしは龍神様が見守ってくれるにゃ。たまに不幸な漁師も現れるかもしれないけど、もっと大きな不幸にならないで済むにゃ」


 ここまで良い方向に物事を考えるのも問題な気がするな。

 不幸でさえ許容すると言うのは、ある意味幸せなのかも知れない。他の宗教を否定せずに、他者を無理に改宗させないなら無害な宗教と言えるんじゃないかな。


「1つ質問があるんですが、魔法の購入は他の宗教の関係者からだと聞いています。それは許容するんですか?」

「生活に必要ならば仕方がないにゃ。それぐらいなら龍神様は許してくれるにゃ」


 即答だった。でも誰がそれを龍神に聞いたんだろう。かなりあいまいな宗教だけど、それがネコ族の精神的な支えであれば文句を付けるのは止した方が良いだろうな。

 俺が死んだら、龍神に魂の救済を心から祈ってくれるのだろう。それは嬉しい事に違いない。

 

 砂浜から立ち上がる俺に「頑張るにゃ!」と声を掛けてくれた。

 ありがたく一礼して明日の準備を始める。


 夕暮れ前には作業を終えて船に戻る。

 夕食を一緒に取るのは今まで通りだ。少し違うのは食事前にカヌイの夫人がお祈りをささげるくらいのものだ。

 俺達は黙って夫人の短い祈りを聞いて食事を始める。

 

 その夜。たくさんの座布団が波間に見えた。

 これも龍神の恩寵と皆は思うのだろうな。明日は忙しいぞ。

 

 次の日。まだ暗い内から食事の準備が始まった。銛をザバンに積み込み、背負いカゴにお茶の道具や食器を入れて食事が島で取れるように準備する。

 食事をかき込むように食べると、島に嫁さん連中を渡して、焚き火を作った。焚き木はたくさん積んであるから、4日は燃やして置けるだろう。


 お茶を飲みながら、海中をザバンから箱メガネで覗いている連中の合図を待った。

 ピイィィー! っと笛が鳴る。

 リードルは海底にいるって事だな。漂っている奴がいればとんでもないことになる。

 一斉にザバンが岸を離れていく。俺も皆の後ろからザバンを漕ぎ出して行った。


 ある程度ザバンが海面に散ったところで、銛を手に海底にダイブする。水中眼鏡とフィンの効果は絶大だ。広い範囲が見えるし、泳ぐ速度も増してくれる。

 視野の中で一番模様の濃いリードルを見付け、殻の付け根に銛を打つ。

 海面に浮上すると、銛を船首の切れ目に入れて、次の銛を取って再び海底にダイブする。


「凄く濃い模様だな。俺も頑張るか」

 ラディオスさんが俺が浜に持ってきたリードルを見て呟いた。

「あまり探してると、かえって迷いますよ」

「そうだな。目に入る範囲で一番濃い奴を選ぶか。カイトも頑張れよ」

 そう言って銛を引っ提げてザバンに向かって行く。

 「凄い模様にゃ。これなら期待できそうにゃ」

 ライズが俺の獲物を受け取って銛先のリードルを焚き火で炙り始めた。

 初日は中位が3個に低位が4個だからまあまあな戦果だろう。

 2日目は中位が2個に低位が6個。明日はいよいよ3日目で高位を目指すことになる。

 

 リードル漁の銛を3本片付けると、物干し竿のような銛を2本ザバンに移す。これで交互に運べば1日で数匹は獲れるんじゃないかな。前回は2匹だったからな。目標は5匹で良いだろう。2本あるからそれ位は行けそうだ。


 翌日、物干し竿を2本担いでザバンに乗り込む。

 焚き火近くに置かれた銛は通常の銛よりも二回りも大きい。わざわざ見に来る漁師もいたが、銛を持たせてもらっては唸っているぞ。

 使いたいが、これは無理だと言うところだろう。聖痕の加護による腕力の増加は確かにあるんだろうな。俺だってあの銛を使えるとは思わなかった。


 皆が出掛けた後で、少し遅れてザバンで沖を目指す。

 3日めはリードルの数が半減する。いやそれ以下になるんじゃないかな。おかげで大きなリードルの姿をはっきり視認できる。その中でも特に模様が濃く浮き出たリードルに深々と銛を突き差した。

 急いで海面に浮上するとザバンの舳先に巨大なリードルを突いた銛を乗せて、砂浜に向かった。


 ザバンで沖に向かう連中が思わず立ち止まり俺の獲物を眺めている。そんな連中を無視してサリーネ達の待つ焚き火のところに向かうと、カヌイのおばさんが後を引き受けてくれる。それでも焚き火にかざすまでは俺の仕事だ。次の銛を持ってザバンに向かう。何とか数匹を持ち帰らないとな。


 昼を過ぎたころに、リードル漁を終了したのは、焼くのに1時間以上掛かるためだ。

 日暮れ前には動力船に戻らないと、リードルが潮に乗るために海面近くに上がって来る。そんな中をザバンで進むなんて命知らずな行為に他ならない。


 6匹目のリードルが焼かれていくのを見ながら、少し離れた場所でパイプを楽しむ。

 カヌイのおばさんの指図でリードルの始末は何時も通りに無事に行われているらしい。


「6個目にゃ!」

 大きなリードルの殻を長い石斧で破壊して出て来た魔石を、同じく長い柄の付いた小さな網で掬い取ったリーザが大声を上げている。

 これで金貨6枚は確定だな。次のリードル漁を行えば新しい船が手に入りそうだ。今回分で手に入りそうだが、無理はしないでおこう。


「さすが聖痕の保持者にゃ。高位の魔石を見るのは初めてにゃ」

 カヌイの夫人が感心した目で俺を見ている。

 最後の獲物を持ってエラルドさん達が上がって来た。

 俺の傍に皆が座ってパイプに火を点け始めると、リーザ達が1人1個のココナッツを渡してくれる。各自ナイフで上部に穴を開けると、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み始めた。結構、喉が渇いてたからな。


「聞いたぞ、高位が6個とはな。商船も俺達に一目置くことになるな。あまり適当な品物を商ったら、他の商船に魔石が流れるって事も考えるに違いない」

「やはり中位は揃いましたか?」

「俺も、2人の子供達も8個は手に入れた。子供達も次の船を予定より早く手に入れられるだろう。カイトも大型が目の前だな」

「それですが、特注品を作って貰おうと思ってます。商船に見積もって貰った金額は金貨12枚前後でした。次のリードル漁で何とかなりそうです」


 俺の話に3人が驚いている。

 確かに今の船を手に入れて2年も経っていないからな。


「となると、カイトの船を下に出すのか?」

「俺達の船より一回り大きい。誰だって欲しがるぞ!」


「新しい船を手に入れたら、エラルドさん。貰ってくれませんか? たぶん出産のたびに世話になりそうです。そうなると、船は大きい方が便利でしょう」

「まあ、確かにそれはそうだが……。となると、俺の船は氏族の素潜りをしない連中に渡すことになりそうだ。彼らも動力船は欲しがってはいるがリードル漁が出来る体ではないからな」


 素潜り漁で体に変調をきたした連中の事だな。数は少ないらしいが、そんな連中だって家族を養わねばならないからな。

 胴付仕掛けで根魚を釣っているのだろう。だが、頑張っても値が安いからな。


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