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N-051 カヌイと言う存在


 夕暮れ近くに豪雨が降りだしたが、3時間程で治まった。丁度夕食の時間だったから都合が良い。短時間で治まったという事は、そろそろ雨季も終わりに近付いているのだろう。


「どの船も今夜は夜釣りにゃ。ランタンが綺麗にゃ」

 リーザが海面に映る動力船のランタンに見とれている。雨の後は魚達も活性化するんだよな。俺達も夜釣りで頑張らないと。

 お茶をゆっくり頂いて、豪雨の前に引き上げた仕掛けを再び投入する。

 ランタンはリーザ達の上に1つずつ梁から下げているし、俺の後ろにも下げてある。サリーネが魚をさばく時には、LEDライトを点灯するように言ってあるから、手元が見えないなんて事にはならないはずだ。


 突然、リーザが竿を上げて大きく合わせる。リールをグイグイ巻いているけど、何が掛かったんだろう?

 やがて、30cm程の根魚を仕掛けごと甲板に引き上げた。

 バタバタ暴れているカサゴに棍棒をサリーネがお見舞いする。ボコ! っと音がしたぞ。


「バッシェにゃ! もっと大きいのを釣るにゃ」

 サリーネがそう言って、手袋した手でバッシェをまな板の上に乗せてさばき始める。

 こりゃうかうかしていられないな。片手で糸を小さく上げ下げして餌を躍らせる。


「今度は私にゃ!」

 ライズが嬉しそうに叫ぶ声と、俺の手に当たりが出るのはほぼ同時だった。

 素早く大きく腕を上げて合わせると、右手で糸を手繰る。かなり引きが良いから、大物に違いないぞ。

左手で道糸を上手く張りながら、逃げられないように手繰ると、最後は甲板に放り上げる。

 甲板を叩いているカサゴに素早く近寄ったサリーネが棍棒で叩いておとなしくさせた。直ぐにライズの獲物が甲板に上がって来る。結構サリーネは忙しそうだぞ。

 甲板に魚が溜まるようになったところで、リーザがリール竿を畳んでサリーネの手伝いを始めた。たぶんライズと交代しながら釣るんだろうけど、かなり釣れてるんじゃないか?


「どんな感じだい?」

「20匹を超えてるにゃ。バッシェもかなり混じってるからここは良い釣り場にゃ」


 いつの間にか獲物を竹のザルに入れている。さばくのは後でするんだろうか?

 鉈を取り出したところを見ると、ココナッツを割って休憩を取るようだ。確かに3時間程釣り続けてるからな。

 ライズに一休みを告げると、甲板の獲物をザルに入れて、パイプを取り出した。

 今夜は、どの船も豊漁に笑みを浮かべている事だろう。

 ココナッツジュースを飲みながら30分程休憩を取る。

 今夜はこれ位にして、明日は早くから釣りをするか? まだまだこの地での漁は続くんだから、無理をすることは無い。

 仕掛けを引き上げ、豪雨で貯めたオケの水でリールや仕掛けを軽く洗う。

 その間に3人がザルの獲物をさばき終えたようだ。

 3人が2回ずつ魔法で氷を作ると、保冷庫の中のバナナの葉の上にツララを並べた。俺達の体に【クリル】を放つと、汚れと共に魚の匂いまで落としてくれた。

 後は、小屋の中で4人で横になる。

 結構疲れてるみたいだな。直ぐに寝息が聞こえて来る。俺も、いつの間にか眠りに突いたようだ。

 

 翌日はリール竿3本で根魚釣りとダツを狙う。

 ダツは日中でないと釣れないみたいだな。根魚の当たりが少なくなる分、ダツの当たりが多くなる。

 俺とリーザ、ライズとサリーネで組みを作って、休憩しながら漁をする。たまに釣れると、休んでいる者達が棍棒でポカリ! とやった後でさばいて保冷庫に納める。


 今は、ライズ達が竿を握っているから、ベンチでパイプを手に観戦中だ。

 リーザは他の船が気になるようで、双眼鏡であちこち偵察している。状況を一々報告してくれるから、ライズ達にはプレッシャーになってるぞ。

 雲の合間からたまに太陽が顔を出すと、強い日差しが肌を焼く。

 そろそろ、雨季も終わるという事は次のリードル漁の準備もしなければなるまい。それより、サディさん達の出産は何時ごろになるんだろう? 雨季が終わるころ何て言ってなかったか?


「リーザ、サディさんは……」

「だいぶ大きなお腹になったにゃ。母さんが後一か月位と言ってたにゃ」

「俺達のお祝いの準備は出来てるの?」

「この間買い込んでおいたにゃ。サディ姉さんとバルテス兄さんの両方にゃ。酒も2ビン別に買ってあるから、何時生まれても大丈夫にゃ!」

 

 それなら安心できるな。こっちの風習は良く分からないが、俺の住んでいた町とそれ程大きな違いは無い。祝いは皆でするみたいだし、その後の酒盛りも一緒って事になる。

 リーザが配ってくれたお茶を飲みながら、再びパイプに火を点けた。

 午後からは俺達の番だが、昼間は根魚よりもダツの方が断然釣れている。

 ダツの仕掛けをもう一つ作っておこうか? ダツ用のプラグは商船で数個買いこんでおいたからな。

 

 午後に俺達が釣りをしていると、日暮れ前にいきなり豪雨に襲われた。

 雨季の漁は雨対策をしっかりしておかないといけないようだ。これも新しい船の考える点だな。竿さばきを考えてターフという考えを持ったのだが、もう少し考える余地はありそうだぞ。


・・・ ◇ ・・・


3日間の根魚釣りが終わると、保冷庫にはたくさんの魚が入っている。氷を入れてあるからこの暑さでも悪くはならないだろう。

 帰りは、途中で一泊せずに真っ直ぐ動力船を走らせる。

 翌日は1日のんびりするつもりだから少々の無理はするみたいだな。ラスティさんの気風はグラストさんと似ている気がするぞ。


氏族の島に着いたのは、次の日の明け方だった。

動力船を泊めて一休み。起きたのは昼過ぎだったが、色々とやることがあるな。

編んだカゴに布を張ってガムの樹液を塗って乾かす。2度塗りしておけば十分だろう。子供達用のボートも作るから少し多めに作ったが、おかげで竹を編む事が少し出来るようになってきたぞ。

暇な時には練習しろとエラルドさんが言ってたからな。これからは、見た目は悪くともなるべく自分で作ってみるか。


「今帰ったにゃ。全部で340Dになったにゃ。氏族への上納は終えてるにゃ」

「ご苦労さま。結構な値段だね。次はそれ程遠くに行かないけど、食料は準備しといてね」

「まだ大丈夫にゃ。それに石運びなら食料は氏族持ちにゃ」


 一か月で銀貨4枚が俺達の必要経費らしい。

 酒盛りが多いから少しは多く掛かっているのかも知れないな。それでも銀貨何枚かを繰り越すことが出来ると言ってたから、新しい船には一歩ずつ近づいているって事になるな。


 長老会議で俺がまだ商船に出入りしていない事をエラルドさんが告げたら、長老達は驚いていたようだ。とっくに出入りしていると思っていたらしい。

 既にトウハ氏族として2年以上暮らしているのだから全く問題ないと言われたそうだ。

 とは言っても、しばらくは出掛ける用事が無いんだよな。

 

 近場でカマル漁をしながら石運びの順番を待って作業に入る。たまに豪雨で作業が中断するが、1日中豪雨となることは無かった。いよいよ雨季が空けるみたいだな。


「次のリードル漁は少し問題だな。母さんがサディ姉さん達と村に残るそうだ」

「オリーとサリーネ達になるのか? 4人で大丈夫なんだろうか?」


 確かに心配ではあるけど、サリーネは今年19だし、リーザ達も17になってるぞ。最初はビーチェさんと3人でやってたんだから、何とかなるんじゃないか?


「だが、俺達3人と父さんの4人でリードルを突くんだぞ。各自、3本の銛を使うんだ。4人で対処できるのか?」

「交替で1人残るか?」

 

 それも手だな。次の獲物を持ってくる者が来る間、手伝ってやれば良い。

 そんな事を話し合いながらリードル漁を待つ。

 5回目のリードル漁だ。1年に2回だから、この世界に来てすでに2年半が過ぎているのだろう。

 リードル漁の銛だけで5本持ってる勘定だからな。エラルドさんだって3本だし、ふつうは2本という事らしい。

 最初はトウハ氏族伝統の銛を使い、3日目に大型の銛を使う。

 他の連中は獲ることはないが、俺なら問題なく獲れる。最後は大型だけを狙ってみるか。


 石運びの最後の日々は、青空がどこまでも広がっていた。

 ようやく雨季が明けたみたいだ。となればリードル漁が直ぐ傍に来ていることになる。


 近くの漁場で曳釣りをしながら、リードル漁に出掛ける日が来るのを待つ。

 いつものように、俺の船の甲板に皆が集まっていると、エラルドさんがやって来た。


「決まったぞ。3日後の朝に出発だ。銛を研いでおくんだぞ」

「母さんが今回は来られないと聞いてるが……」

「そうだ。いつ生まれるか分からん状態だな。リードル漁から帰って来る時には生まれてるだろう。バルトス、今度は3人だからな。稼がんと大型の動力船が手に入らんぞ」


 そんな事を言って、バルトスさんを励ましている。

「それでだ。カイトの嫁達とオリーの4人でリードルを焼いて魔石を取り出すことになるのだが、長老に相談したら氏族のカヌイから1人、出して貰えるらしい。費用は魔石5個だが、俺とバルテスで2個ずつ、ラディオスとカイトが1個ずつで良いだろう。多く渡す分には問題が無い」

 

 魔石1個で来てくれるなら安いものだ。だが、カヌイとは何だろう?

 エラルドさんの話でホッとした表情が皆の顔に浮かんでいるから、ビーチェさん並みに頼りになる存在なんだろうが……。


 皆が帰った後で、甲板に残った俺達だけの時に、サリーネに聞いてみた。

「カヌイ様なら問題ないにゃ。カヌイ様は5人の婦人にゃ。常に5人が氏族の無事を龍神様に祈っているにゃ。時々、龍神様のお告げを長老達に教えてくれるって聞いたことがあるにゃ」


 シャーマンみたいな存在なんだろうか?

 よくよく話を聞いてみると、夫を亡くした婦人の中から選ばれるらしい。どんな根拠で選ばれるかは分からないけど、そこから小さな小屋に寝起きして修業を積むらしい。

 今の島では滝の近くに庵を作っているそうだ。

 島の誰かが亡くなると、カヌイの婦人達がその魂を龍神の元に届けるらしい。

 

 要するに、魂のよりどころって感じなのか? トウハ氏族は宗教を持たないと思っていたけど、龍神の存在と、龍神が統率する魂の社会を精神世界に持っているって事になる。ある意味、1神教を信じる民なのだろう。

 そのお告げを聞くカヌイという存在は神に仕えるシスターと言う存在なのだろうか? では神の社はどこにあるという事になるが、それは長老達が前に言ってたな。この島って事になるんだろう。

 となると、俺の存在はカヌイの5人にはどのように映るのだろう?

 ちょっと気になる存在には違いない。



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