P-119 カヌイのお婆さん達はどこに住む?
初日は5カ所に印を付けて、新たな概略図に位置を記入した。
西の浜に3カ所、それに高台に2カ所だ。これを元に三角形を次々と繋いでいくことになる。
なるべく誤差は少なくしたいが、所詮は素人だからねぇ。その辺りは大目に見て欲しい。
「高台から、海中の石組が延びているのが良く見えますよ。ちゃんと真っ直ぐに伸びているんで感心しました」
「杭を2本使って確認しているからな。それで曲がるようならやり直せと言われそうだ」
どうやら2FM(60cm)ほどの土台の高さで西に伸ばしているらしい。
まだ10m程度に思えるんだけど、見えない深さで進めているのかな?
「カルダスが数日後にはやってくるかもしれん。更に人数が増えるかもしれんぞ」
「そうなると、石の桟橋作りにも人が増えるかもしれないな。石運びと石積みの2つの班ができると良いんだけどね」
「その前に、切り倒した木材を整理したいですね。更に広げる前に集めておいた方が良さそうです」
「枝は焚き木に使えるな。石積みはそれからでも良いだろう」
石の桟橋は長期計画だからなぁ。人力なんだから仕方のないことなんだろう。
枝を焚き木として使うのは良いんだが、少し太い枝で炭を作りたいところだ。焚き木の束を集めて土を被せて焼けば炭ができるかもしれないな。
太い枝は一カ所に集めておいてもらおう。
「それにしても高台は28FM(8.4m)もここから高いのか。海面はこの位置よりも下だから、同じような津波がやってきても問題は無いだろうな。それに津波は南からやってきたらしい。ここは東に深く入った入り江だから、更に安心だ」
「とは言っても、津波の大きさが同じとは限らないでしょう。でも、確かに安心できる高さではあります」
その高台に至る坂の斜度は30度近いんだよなぁ。人の行き来は会談で良いだろうが、やはりトロッコは直接上ることができない。
南に大きく迂回して、緩い角度で動かせるようにしないといけないだろう。
それでもトロッコの登坂能力を越えるようなことがあれば、スイッチバック方式を採用することになりそうだ。
もっとも、トロッコ用の軌道は地図ができてからになるだろうから、しばらくは坂道を頑張って登るしかなさそうだ。
高台の広場の大きさは20m四方に満たないようだ。
もう少し広げる必要がありそうだな。耕作地や炭焼き小屋は南の緩斜面に作ろうと考えてるけど、その方向に対して森を伐採しなければなるまい。
少なくとも道やトロッコ用の木道を作るだけの横幅は必要だろう。
広場から東に向かうと岩場に出るけど、300mは先だから、途中に倉庫ぐらいは作るだけの余裕は十分にある。
気になるのは、カヌイのお婆さん達の住家なんだよね。
何か条件があるのかもしれない。
「カヌイの婆様達のログハウスか? 確かに必要だろうな。だが条件もあるんだぞ」
夕食後に、ココナッツ酒を飲みながらバゼルさんに聞いてみた。
条件は2つ。海が見えるところで会って、水場に近いということだった。
住居は全て高台にしたいんだよなぁ。海からは遠ざかるけど、森を新たに伐採することになるんだろうか?
さらに水場となると、現在は地下水がしみだしてこない。
計画にある貯水池の近くということで良いのだろうか? だけど、かなり海から遠ざかってしまうんだよなぁ……。
「中々厳しい条件ですね。遠くに海が見えるというのであれば、高台の広場の東にある岩場付近になります。あの岩場を利用して大きな貯水池を作ろうとしてますから、水場付近ということになるのですが……」
「桟橋からは遠くなってしまうということか。だがトロッコの木道を作れば、問題あるまい。とはいえ、長老でさえカヌイの婆さん連中には一目置く存在だ。
直ぐに結論は出さんでも良いだろう」
長老達に交渉させるということなのかな?
場合によっては一度カヌイのお婆さん達がやってこないとも限らないな。
まあ、それもかなり後になるんだろう。貯水池が出来たらの話で十分のはずだ。
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朝食を取っていると、急に空が暗くなってきた。
午前中には降るんじゃないかと思ってたけど、予想より早い感じだな。
バタバタと雨が帆布の屋根を叩き始めると、すぐに帆布のたるみから勢いよく水が落ちて甲板を洗い始めた。
食事を中断して、運搬用の容器で落ちてくる水を受けた。
直ぐに一杯になるだろうから、早めにリゾットのような朝食をかき込んで、次の容器を準備しておく。
「丁度良かったにゃ。この次来るときにはもう1個買っておくにゃ」
「4つあれば十分だろうね。トリマランの水瓶はもうないのかな?」
「半分以下にゃ。雨が続くようなら、1度移し替えるにゃ」
次の容器と交換すると、満杯の容器を持ってタツミちゃんが屋形に入っていった。
早速始めたみたいだ。
元々が60ℓぐらいの容量だからなぁ。
漁場への往復時間を入れても漁の期間はせいぜい8日ぐらいだ。
それで十分ということなんだろうが、この島に来るまでに6日は掛かってしまうんだよね。
ココナッツの身を沢山積んだり、運搬用の水瓶でさえ満杯にしてくるほどだ。
いつもギリギリだったけど、島にある2つの水槽のおかげで、ずいぶんと気が楽になった。
だけど、やはり足りないことは確かだ。
早めに2個目の水槽を作らないと、開拓作業を行う人が増やせないんだよなぁ。
雨が上がると運搬用の容器を片付けて、先ずは一服だ。
1時間もすれば地面も乾くだろうから、測量はそれまで待てば良いだろう。
船外機付きのザバンが西に向かっていった。
ガリムさん達が桟橋用の石を運びに向かったみたいだな。
だいぶ甲板が乾いたところで、測量を開始する。
森の中は見通し距離が短いのが難点だ。
もう少し伐採をしてからの方が良かったかもしれない。
まあ、始めてしまったからには、このままやり通すしかないだろう。森が切れれば測量点の距離も離せるだろうからね。
どうにか東の岩場まで測量が終わったところで広場まで戻り一休みしていると、西から船団が近づいてくるのが見えた。
双眼鏡で船団を見ると、カタマランが4隻で、最後尾のカタマランがザバンを曳いている。
曳いているザバンはカルダスさんが持ち帰ったものだから、再び戻ってきたということになるのだろう。
今日は切りが良いからここまでにして、やってきた連中に状況を教えてあげよう。
開拓者が増えれば、いろいろと始められそうだ。
小さな小屋に測量器具を入れた背負いカゴを置いて、その上に帆布をかぶせる。申し訳程度の屋根を付けた小屋には壁すらない。
雨水を集める帆布の下の方が濡れないぐらいだが、開拓の道具置き場としてはそれなりに役立っている。
だいぶ近づいてきたな。先頭はガリムさんの友人みたいだ。1度やってきたから案内人として先導してきたのかもしれない。
まっすぐ木製の桟橋に向かっているのは、荷下ろしをするためなんだろう。
俺達も木製の桟橋の先端付近で、カタマランの到着を待つことにした。
桟橋から50mほど先で船団が停船すると、最初に桟橋にやってきたのはカルダスさん達だった。
カタマランは嫁さん達が停船させたけど、ザバンを連結した船外機付きのカタマランはカルダスさんが岸近くまで寄せてくる。
俺とタツミちゃんでカタマランのロープを受け取り桟橋の柱に結わえ付けると、すぐにカルダスさんがやってきた。
「たっぷりと食料を運んできたぞ。それと接着剤の入った樽が5個だ。板と釘もたっぷり積んであるから、小屋が2つができるだろう」
「だいぶ人が増えましたね?」
「長老が連れて行けと言ってくれた。ナギサの購入した水槽と同じものを持ってきたぞ。上に設ける帆布の仕掛けも一緒だ」
真水を得る手段が増えるということはありがたい。
早めに作れば、次の雨で直ぐに溜められそうだ。
「バゼル達が見えないが?」
「雨が止んだところで石を厚めに出掛けたんです。途中で会わなかったとすれば入り江を出た先で方向を変えたのかもしれません」
「あれだな。だいぶ伸びてはいるが、まだまだ先になりそうだな」
北を見たカルダスさんが小さく呟いている。
カルダスさんが帰ってから20日も経っていないからなぁ。それほど変化があるとは思えないんだけどね。
新たな協力者は、カルダスさんより少し年下の家族が2組に、ガリムさんの友人だった。
昼過ぎに帰ってきたバゼルさん達と一緒に、木陰で状況説明と役割分担の確認が始まる。
集まったのは男性だけだ。女性達は近くの木陰に集めていつものように賑やかに話をしている。
久しぶりの仲間だから皆嬉しそうだな。
ココナッツ酒を飲みながらだから尚更だ。
「ナギサが測量で、バゼル達が石の桟橋ってことか。高台の方は?」
「2軒分の広さは確保したが、それ以上広げると人数が足りねぇ。中々良い場所だ。長老達は気に入るだろうが、1つ問題が出てきた。カヌイの婆様達のログハウスをどこに作るかだ」
カルダスさんがココナッツ酒の入ったカップを置いて、腕組みしながら首をひねっている。
カルダスさんも、忘れていたってことなんだろう。
「海が見える水場の近くってやつか……。海はどこでも見えるだろうが、水場がねぇからなぁ」
「広場の東に結構大きな岩場があります。その岩場を利用して貯水池を作ろうと考えているんですが、それを水場と見なせるでしょうか?」
「基本は自然の作りだす水場になるんだが……。婆様連中と相談だな。海は問題ねぇのか?」
森を見越して西の入り江が見えますし、南は耕作地の先に海を臨むことができるかと思ってます」
頷きながら聞いてくれたけど、条件は厳しそうだな。
自然の湧水が得られるのはかなり先になるだろうし、それを見つけることもなかなかできないんじゃないかな。
「長老はこのまま雨期前のリードル漁まで開拓を続けてくれるよう言っていたが、バゼル達は問題ないか?」
「食料を積んできたらしいが、酒とタバコは?」
「酒は問題ねえ。煙草は1人に5包だから問題はねぇだろう。調味料もたっぷりと運んできたからトーレも文句は言わんだろう。状況報告はバゼットに戻ってもらうつもりだ」
「食料を運ぶとなると俺のカタマランでは積みきれんぞ!」
「新たにザバンが作られる。あの船外機が付いた奴だ。それを曳いてきてくれ」
次は食料だけのようだな。余裕があれば、資材も載せてくるのだろう。
氏族の島からの物資補給もこれからは重要な仕事になりそうだ。
専任化することも考えたほうが良いのかもしれないな。




