表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/654

N-050 サンゴの穴で根魚釣り

 神亀の目撃という話を聞いて、長老会議の連中は驚いたらしい。

 ラディオスさんがエラルドさんに連れられて出掛けて詳細に話を聞かせたという事だ。


「長老は驚いていたが、2人に頷いたという事で、この島が龍神の加護を持っていると断言していたな。今まで神亀を見た者は龍神を見た者よりも遥かに多い。だが、目を合わせたという事は無かったようだ。長老の1人もかつて目撃したことがあるらしい。だが、それは船の下を動く巨大な影だと言っていた」


 俺の船の甲板にいつもの連中が集まって来た。

 長老会議が終わってからだから、夜も遅いのだが明日は休みだからな。皆で真鍮の酒器でワインを飲んでいる。

 先ほどの話はエラルドさんだ。長老会議の連中を驚かせはしたが、好意的に受け止められたという事なんだろうな。


「神亀の住処ではあるが、頷いたという事は我らの漁を許してくれるものと長老は話していたな。ブラドやロデナスが多い場所だ。潮通しが良いから危険な魚も来るかと心配だったが、神亀が守ってくれるはずだと皆が言っていたな」

「ああ、単純な解釈だが、俺もそう思う。あの漁場には外れが無い。安心して漁ができるぞ」


 グラストさんの話にエラルドさんが付け足した。

 俺達は2人の話を聞いているだけだったが、1つだけ確認してみる。


「俺の聖痕が光ったのですが、それは問題が無いのでしょうか?」

「それを見て、神亀があの漁場を俺達に開放してくれたのだろうという話だ。神亀は龍神の下にいる守り神だ。龍神の加護を受けた者を確認して安心したのだろうと長老が言っていたぞ」

 

 かなり好意的な解釈だな。となるとあの漁場は、俺達ならば安心して漁を行うことが出来る場所って事になるぞ。それは、俺だけでなく氏族全体にも及ぶって事なんだろうか?

 その辺りは、これからの漁で決まりそうだな。漁の結果が思わしくなければ神亀のたたりって事にもなりかねない。


「それでだ。あの漁場で漁をする時は、神亀に酒を1杯供える事になった。いつも飲んでいる酒で良い。カップに1杯を海に撒くのだ。これは氏族の掟にもなる話だから、ちゃんとやるんだぞ」

 ジロリと俺達を眺めるグラストさんの迫力に、俺達はうんうんと大きく頷く事で了承を伝えた。

 ちょっと面倒な気もするが、氏族の団結を深めるセレモニーとして理解しておこう。

 

「まだ雨季が続いているから、お前達の石運びの順番は5日程遅れるようだ。今度はどこを狙うんだ?」

 エラルドさんの言葉に俺達は顔を見合わせた。まだ、決めてもいないからな。

「少し休んで考えるつもりです。俺達の当番が少し先に延びるんであれば、やはり漁に出たいですからね」

「カイトに賛成だ。無理して昼夜動力船を動かしてきたからな。やはり2、3日は休みたいぞ」


 ラディオスさんも賛成のようだ。

 そんなわけで、翌日はのんびりと船で昼寝を楽しむ。

 サリーネ達も疲れたみたいだからな。夕方目を覚ましたら、商船が桟橋に繋がれていた。

 ロデナスをイケスからカゴごと引き上げて背負いカゴに入れると、サリーネ達が桟橋を歩いて行く。

「自分達の好きなものを買ったら良いよ」と言ったのだが、無駄遣いはしないと返事をしていたな。

 ワインとタバコは頼んでおいたけど、俺も一度は足を延ばしてみたいものだ。


 その夜、酒盛りにやってきたエラルドさんに、商船への訪問を打診してみたのだが、即答はして貰えなかった。

「氏族に加わって2年は経っているな。長老会議に図ってみよう。カイトも直接買い物をしたかろう」

「是非お願いします。作って貰たい物が色々ありますから。それに、説明しないと分かって貰えそうにありません」


 ダメな時には別な手段を考えないといけないな。カタマランの操船を櫓で行うことを考えると、ギヤの組み合わせは避けては通れない。簡単な減速ギヤはあるのだが、それを組み合わせて他に使うという例をまだ見ていないからな。


「それで、次の出漁は?」

「東に行ったところにある、サンゴの穴で根魚を狙おうと思ってます。距離も近いですし、動力船から釣りができますからね」

「あそこも良い漁場らしい。仕掛けを流しておけばバルも狙えるぞ」

 俺の言葉にエラルドさんが頷いている。根魚だけかと思ったが。バルと言うのはダツだな。ダツが釣れるとなると忙しい釣りになりそうだぞ。

 

「根魚相手なら問題ないだろう。昨夜、長老会議で知らされたのだが、2人ほど耳をやられたそうだ。南で真珠貝を連日のように獲っていたのだが、あれでは2度と深場は無理だ。南の真珠漁は、一か月に1回。それも午前中の2日間とする事が決まったぞ。深場の漁を長期間するなど考えれば分りそうなものだが……」


「リードル漁も出来なくなるのか?」

 ラディオスさんが驚いて聞き返した。

「東の漁場で浅い場所なら可能だろう。身長の2倍ほどなら、今まで通りの素潜りができるが、それ以上は無理なようだ。ひどい頭痛が長く続く。もっとも個人差があるから、潜れなくなる者もいるし、更に深く潜っても影響がでない者だっている。だが、あの漁場で真珠貝を取ることは2度と出来ぬ」


 廃業するまでには至らぬということなんだろうか? それでも、真珠は1個で銀貨1枚以上になるからな。比較的浅い、新たな漁場を見つけなければなるまい。

 

「まあ、俺達はたまにしか行かないから大丈夫だな」

 ラスティさんの言葉に俺達が頷く。確かに厳しい制約には思えるが、距離があるからそれほど頻繁に行くわけではない。たっぷり稼ぐのならリードル漁を頑張った方が良いからな。


「それで、お前達は何をしてるんだ?」

「カゴを編むのを手伝って貰ってるんです。俺の編んでるのを見て……」


 枕のようなカゴをいくつも編んで、その中にヤシの繊維を詰め込み布で覆う。その上から、ガムの樹脂を塗れば立派な浮きになる。それをもっと大きな細長いカゴに入れて、4つを組み合わせればゴムボートになるはずだ。床も竹で編んだ上に、両側から布をはって同じようにガムの樹脂を塗れば大人1人位なら乗れるだろう。

 小さいのを作って氏族の子供達にも進呈するつもりだ。入り江でおかずを突く時に休むことができるだろう。


「竹カゴをガムで包めば簡単な船になるんじゃないかと……。ブラド突きとロデナス漁を同時にすると俺が休む場所が無くなるんです。たまにしか使いませんから、浮きを大きく作ればボートになると思いまして」

「おもしろそうだな。船底が広いからひっくり返ることも少なそうだ」


 現在進行形で作っているから、浮かべられるのは次の石運びが終わってからになりそうだ。


 次の日は、桟橋で釣りをする。

 根魚の餌にするためだが、大きな魚はサリーネ達が料理に使うかも知れないな。

 日が傾いて動力船に帰ると、リーザ達が保冷庫の獲物を分別している。小さな魚は開いて餌にするのだが、大きな魚は俺達のおかずになる。

 20匹以上取り分けた魚をライズとリーザで、ご近所におすそ分けに出掛けたみたいだ。

 その夜は久しぶりにお頭付きの焼き魚だった。大根おろしが欲しいが、この辺りでは無理なようだな。ピンポン玉位の柑橘系の実を絞って頂く。

 ネコ族の人達は、酸っぱいものや辛いものが好きなようだな。ネコの食性とはかなりずれてるけど、暑い気候の暮らしで食欲を保つ方法なのだろうか? 俺には丁度良いから、変えられても困るけどね。


 翌日。今度はラスティさんのブラカの合図で氏族の島を離れる。

 サンゴの穴とは、東に1日半程進んだ場所にある広い海域なのだが、直径100m以上の砂泥の穴がたくさん開いているらしい。そんな穴に動力船のアンカーを下ろしてのんびりと根魚を釣るのが今回の漁になる。

 ラスティさんが聞いて来た話ではかなり魚影が濃いと言うことだ。バヌトスというカサゴやその親戚らしいバッシュを胴付仕掛けで狙いながら、表層にプラグを流してバルを釣ることになる。


 途中も島でココナッツや野生のバナナを仕入れると、日暮れには近くの島に動力船を寄せて泊める。

 あくる日、朝早くに出航すると昼過ぎには目指す、サンゴの穴がある海域に出た。

 ブラカの合図で、思い思いに気に入ったサンゴの穴にアンカーを下ろす。

 今日から漁を始めて3日後の早朝に、氏族の島に帰るのが今回の申し合わせの内容だ。


4人で手分けして釣りの準備を始める。向こうから持ってきたリール竿の道糸にエラルドさんに貰ったプラグを2個付けた仕掛けを結んで海流に流す。僚船までは100mも離れているから、精々30m程流すだけなら問題は無い。

 手作りの小型のリール竿に胴付仕掛けを取り付けると、リーザとライズに1本ずつ渡してあげる。ライズ達は釣り針に短冊のような魚の切り身をチョン掛けすると、舷側から真下に糸を垂れた。

 

 サリーネは後ろに控えながら、夕食の準備をしている。近くにまな板代わりの板と出刃包丁のようなナイフ、それに丈夫そうな革のミトンと棍棒があるから、獲物が釣れれば素早くさばいてくれるみたいだな。


 軍手をして、手釣りの糸を入れたカゴを取り出して胴付仕掛けを結び餌を点ける。おもりの小石を投げ入れると、ベンチの端に腰を下ろす。糸を握った腕を動かして餌を躍らせながら当たりを待つ。

 相変わらず、空模様は怪しい限りだ。島を出発してから、今まで降らなかったのが不思議なくらいだな。

 

「もうすぐ、降りだすにゃ」

「やはりそうか。でも、雨でも釣りは出来るさ。この船の甲板には屋根があるしね。麦わら帽子を被っていれば、屋根から出ても少しは濡れずに済むだろう。水着を着ても良いかも知れないな」

「降りだしたら、水着に着替えるにゃ。でも、暗くなるまでは持つかも知れないにゃ」


 かなりあいまいだな。それでも今日中には降りだすって事なんだろう。

 真剣な表情で釣竿を握っている2人に、降りだしたら水着に着替えるように伝えると、片手でパイプを取り出して火を点ける。

 いつ当たりが出るか分からないが、緊張してると疲れるだけだからな。 

 このまま夜釣りになるのだから、のんびりと行こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ