表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/654

N-048 グルリンの群れ

 夜になって雨が激しくなってきた。

 のんびりと根魚釣りを楽しんでいたが、あまりの激しさに竿を畳んで雨が止むのを待つことにした。


「雨季なんだよな」

 恨めしそうに、甲板の屋根を見上げて呟いた。バタバタと帆布に打ちつける音が聞こえて来る。

「明日には止むにゃ。今日で2日降り続いてるにゃ。3日続いた雨は無いにゃ」


 慰めとも取れる話をサリーネがしてくれたんだけど、たぶん経験からの言葉だろうな。だけど、例外ってのもありそうな気がするぞ。

 それでも、少しは気が楽になる。皆でワインを飲んで休むことにした。


 次の日は、朝から晴天が広がる。サリーネの言う通りだな。

 朝食を終えると、早速ザバンに乗って3人が漕ぎ出す。俺も遅れないように海に飛び込んで漁場を目指して泳いで行った。

 シュノーケルを使って海中を覗くと、青い魚の姿が見える。回遊魚が回って来たんだろう。狙ってみるか?

 群れているから、海面から見るとまるで大きな生き物のようにも見える。

 水中銃のゴムを引いて、その場で獲物にダイブすると、崖に沿うようにして近付いて行った。

 シーブルに似た魚だが、少し側面の色が違うように思える。

 近くに寄って来た魚に狙いを定めてトリガーを引いた。手元のパラロープで作った糸がするすると伸びていく。急所を外したようだが、銛はしっかりと魚体に付いている。

 糸を手繰りながら、シャフトを回収して海面を目指す。


 ザバンの近くに浮き上がった俺を驚いてライズが見ていた。

「今日は、これがたくさんいるぞ」

「グルリンにゃ。たくさん突いて来るにゃ!」

 俺から、魚を受け取ると保冷庫に投げ込みながらハッパを掛けて来た。

 そう言えば、前にも獲ったことがあるな。シーブルよりも高値だった気がするぞ。


「任せとけ!」そう言って親指を立てると、再び群れの中に入って行った。

 崖にそった場所でオレンジが揺れていたから、サリーネ達も頑張ってるに違いない。

 次々と、グルリンを突いてザバンに持ち帰る。水中銃ならではの事だろうな。手銛だとかなり近づかないとダメだが、水中銃なら1m程の距離で獲物を狙える。


 グルリンを手にザバンに戻って来ると、3人がザバンで休憩中だった。

 俺がやって来たのを知って、浮きを渡してくれた。グルリンと水中銃をザバンに預けて、浮き袋に捕まって俺も休憩を取る。

 やはり早めに、何とかしないといけないな。ゴムボートモドキを作ってみるか。意外と利用する機会が多いかも知れないぞ。ザバンがあるから1人用で十分だろうし、それほどの重さにもならないんじゃないかな。


「あの辺りに大きなブラドがいるにゃ。こっちを見てたにゃ」

「あの辺りだな。俺が仕留めて来るさ」


 リーザが俺に海面を指差して教えてくれたけど、かなりあいまいだな。少し東って事なんだろう。お茶を頂いたら探ってみるか。


「だいぶグルリンが取れたにゃ。も少し過ぎたら今日はお仕舞にするにゃ」

 サリーネが太陽を見て俺に話し掛けて来る。

「そうだな。もう少し漁をして今日はお仕舞にしよう」


 いつまでも漁をするのも問題だ。疲労が蓄積すると碌なことにはならないからな。素潜り漁なんだからその辺りは心掛けておかねばなるまい。船に戻っても釣りは出来る。少しは獲物の数を増やせるだろう。


 渡されたお茶を飲み干して、リーザに親指をを立てると、片手を振って応援してくれる。

 水中銃のゴムを引いてセーフティを掛けると、メガネを掛けて泳ぎだす。

 先ずは探すって事かな。海中にダイブして崖の隙間を丹念に調べていく。


 2回程息継ぎに海面近くまで上がって、息を整える。少し空気を吐き出しながら潜り始めた時だ。

 岩の大きな割れ目にブダイがこっちを睨んでるぞ。

 なるほど大きいな。50cmはこえてるんじゃないか?


 リーザ達に貸した手銛ではちょっと無理だろう。ラディオスさん達の1本銛なら何とかなりそうだが、急所を外すと取り出し難い場所だぞ。

 慎重に水中銃の狙いを付けて、額に銛を突き差すと同時に引っ張り出す。

 頭を前から撃ったのだが即死させることは出来なかったようで、かなり暴れるが、銛先が傷口内で回転している筈だから外れることは無い。力任せに糸を引っ張って、崖の隙間からブラドを抜き出した。

 シャフトを回収して、水面を目指す。

 シュノーケルから水を吐き出して息を整えザバンをめがけて泳いで行った。


「獲ったぞ! これだろ?」

「これにゃ。私らをジッと見てたにゃ!」


 ライズ達は漁を終わりにしたようだ。ブラドをザバンに引き上げて、グルリンを狙いにダイブした。

 数匹のグルリンを手に入れたところで本日の素潜り漁は終了だ。

 2人の漕ぐザバンの後ろに捕まって船に戻ると獲物を入れたカゴを甲板に持ち上げた。

 プラスチックのカゴに俺の装備を投げ入れると、ザバンからの荷物の引き上げを手伝ってあげる。

 全て船に乗せるとサリーネ達は着替えに小屋に入って行った。その間にザバンをしっかりと船に繋いでおく。

 獲物をさばくのはサリーネ達の仕事だから、パイプを取り出して一服を楽しむ事にした。まだ数隻のザバンが漁をしているようだが、早く終えるのに越したことは無い。あれほど晴れていた空も、少し雲行きが怪しくなってきた。夕食を取るころには、豪雨がやってきそうだぞ。

 ザバンが豪雨で沈没しないか最初は心配だったが、前後にある小物入れの半分程が密閉されているから、沈むことはないそうだ。だけど乗る時に、水を汲み出さなければならないらしい。

 今朝も早くに乗ったライズがオケで汲み出してたな。もうちょっと軽くて使いやすいバケツみたいなものがあれば良いんだが、みなオケを使ってるんだよな。


 3人がゆったりしたワンピースに着替えてきたところで、今度は俺が着替えをする。短パンにTシャツだが、Tシャツはだいぶくたびれてきた感じがする。2着を交代して使ってたが、リュックにもう2枚位は入ってるかもしれない。だが、今はこれを最後まで着てみようか。


 小屋から出ると、サリーネ達が忙しそうに食事の準備をしている。すでにブラドやグルリンをさばき終えたようだ。


「急いで作るにゃ。もうすぐ豪雨がやって来るにゃ」

「いつも通りだろ。そんなに慌てることは無いと思うけど?」

「あっちを見るにゃ!」


 リーザが指さした先は、滝のような雨がこちらに近付いて来るところだった。

 急いで作ると言っても、結構掛かるんじゃないか? とサリーネのかき混ぜてる鍋を見ると、炒めた野菜を魚醤で味付けしたところに、今朝炊いたご飯を混ぜたリゾットのような料理だった。これなら間に合うかも知れないな。

 傍らには、ポットが用意されている。鍋を退かしたら直ぐにお茶を作るみたいだ。


 急激に空が暗くなってきた。

「出来たにゃ!」と言う声と、ザアァァ……という雨音がほとんど同時に聞こえた。

 急いで鍋を持って小屋に入ったサリーネの後を、追い掛けるようにリーザとライズが入って行ったが、ちゃんとカマドの上にお茶用のポットを載せて行った。

 カマドに水飛沫が掛からないように、板を数枚組み合わせて枠を作って、俺も小屋に入ることにした。


 小屋の中は真っ暗だな。カンテラを点ける間も無かったみたいだ。LEDのカンテラを取り出して小屋の梁にぶら下げた。

「明るくなったにゃ。小屋で食事を取るにゃ。お茶はその内沸くにゃ」

 ネコ族だけあって、考え方は前向きだ。

 入口近くのゴザをめくり上げて、竹の床材の上に座り食事を始める。

 リゾットモドキはスープが多いけど、塩味が丁度良い。魚醤だけに良い風味もある。香辛料はパイナップルを使ったんだろうか? 少し酸味が強いぞ。

 ちょっと、日本料理には無い味だが、それなりに美味しく感じるな。疲れた時にはこれが一番じゃないか?

 

 たっぷりと食事を取った後は、濡れるのを覚悟で外のカマドからポットを持ってきた。

 周りの板で水飛沫が掛からないようだから、粘土作りのカマドも何とか無事に過ごせるだろう。

 小屋の屋根は凄い雨音だが、しっかりと作られた動力船だから濡れる恐れも沈むことも無い。のんびりと雨が止むのを待つだけだな。

 時刻はまだ昼下がりの筈だ。お茶が終わると食器類を外に出して、ゴザを元に戻す。何もすることが無いから、昼寝をすることにした。

 数時間もすれば雨も少しは小止みになるだろう。たっぷり食べたから、このまま明日まで寝てても良いような気もするな。


 3人の寝息が聞こえてきたところで、小屋の扉を開けてパイプを楽しむ事にした。

 相変わらずの凄い雨だが、これだけ降ると少し気温が下がって来るな。それでも25℃は超えてるんだろうけど、乾季の体に染みるような日差しと暑さを考えれば十分に涼しく感じる。Tシャツ1枚で過ごしやすく感じる位だ。


 扉から顔を出して周囲を眺めてみても、近くに泊めてある僚船すら見えないほどだ。

 雨季と乾季の2つの季節があることは分かったが、不思議と大荒れの海は見たことが無い。台風が来ない地方なんだろうか?

 となると、緯度がかなり低い地方になるって事だろうな。もっとも、この暑さや、影がほとんど真下に来るから緯度が低いことは前から分かってたけどね。

 一服を終えたところで扉を閉める。

 まだ眠くならないから、1人用のゴムボートを考えることにした。


 基本は小判型で良いだろう。竹で形を作り布で包んだ上にガムの樹液を塗れば良いんじゃないかな?

 全体は竹カゴと同じ作りだから、カゴ作りの練習を兼ねてラディオスさんに教えて貰おうか?

 欲張らずに、素潜り漁で海面での休み場所とするだけで十分だ。浮き輪みたく丸く作っても良いのかも知れない。

 形は相談するとして、気室が1つと言うのも問題がありそうだ。いくつかの小さい浮きをカゴの中に入れるという事でも良さそうだな。

 メモ用紙と筆記用具を取り出して、簡単な絵を描いてみる。

 海から乗り込むのに苦労しそうだが、乗ってしまえば平底だから、転覆することは無さそうだ。ザバンで引くロープを結ぶところも作った方が良さそうだぞ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ