表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/654

N-047 ザバンの定員は3人まで

 石運びの当番が終わったところで、1日も休養を取る。

 食料はサリーネ達が商船がやってきた時に、たっぷりと買い込んでいたらしい。半月位は十分に持つと言っていた。

 昼過ぎに、野菜を買い込みながら水運びをしてたから、明日は俺が運んで来れば十分なはずだ。


「結局、8隻になったぞ。少し少ないのはグラストさんと父さん達が別行動って事だな。ブラドならばカイトに負けないと言う連中ばかりだからお前の腕を見せてやれ!」

「それ程上手くないですよ。遊びで突いてた時期はありますが、生計を立てるとなれば意気込みが違います。少しは上達したでしょうけど……」


 ある意味、精神的なところが素潜り漁にはあるな。銛先にそれが現れるような気がする。これで一家を養うと考えれば、手に持った銛も集中力を高めてブレを無くすことが出来るんだろう。

 昔と違って俺が、上達したように感じるのは獲物を前にして銛先がブレることが無くなった事と、獲物がいる場所を探る目が高まったためだろう。

 最初は氏族の一員として認められるためだったが、今では一家を支えるためだからな。俺の銛の一突きで、4人がご飯を食べられるのだと思うと、自然に集中力も高まるし、水中での活動時間も伸びて来たように思える。


「謙遜するな。カイトは立派な銛打ちだよ。ハリオをちゃんと突けたし、あの航海では一番だったじゃないか。父さん達も将来が楽しみだと言ってたぞ」

「はあ……。一番でなくても良いですが、一家を支えられる銛打ちにはなりたいですね。ラディオスさんに負けないように頑張ります」

 俺の言葉に、ラディオスさんは肩をパシ! と叩いてくれた。顔は笑ってるけど、俺の言葉を兆戦と受け取ったようだ。


「ところで話は変わりますけど、サディさん達に子供が生まれたら、氏族のしきたりで何かありますか? 俺の育ったところではお祝いを上げていたような気がしますけど」

「ああ、それならその通りなんだが、布を送ることが多いようだ。その辺りはサリーネが心得ているはずだから大丈夫だと思うな。俺達は兄さんとゴリアスさん達に酒で祝ってあげれば良い。酒を1ビンは用意しておけよ」


 会費制のお祝いみたいだな。パイプを取り出しながら、ラディオスさんに頷いて了解したことを告げる。

 俺のところはまだまだ先だが、来年か再来年にはラディオスさん達にもおめでたがやって来るんじゃないか? 段々と賑やかになりそうな気がするぞ。それも楽しそうだ。


 日が傾いたところで、甲板のベンチから2人で釣竿を出す。

 明日は出漁だから、ちょっと豪華に唐揚げが食べたいところだ。数匹釣れれば、ビーチェさん達にもおすそ分け出来る。

 夕暮れが近付いたところで、どしゃ降りの雨になってしまった。急いで竿を仕舞い、釣り上げた魚を分けてビーチェさんにラディオスさんが届けに行く。帰りにオリーさんを連れてくると言ってたから、今夜の食事はにぎやかだな。


 次の日、俺達はラディオスさんのブラカの合図で島を離れた。

 ビーチェさんが桟橋で見てたから、かなり緊張してたのが見て取れた。それでも、合格点には達したんじゃないかな。ビーチェさん達も満足してるに違いない。

 ブラド突きに向かう動力船は1隻増えて9隻になった。先頭をラディオスさんが進み、直ぐ後ろを俺の船が続く。

 空はどんよりとして今にも降り出しそうだが、俺はのんびりと甲板で銛を研ぐ。今回は久しぶりに水中銃を使ってみようと思っている。せっかくあるんだし、相手の大きさもそれほど大きくは無い。ザバンにもう1本銛を用意しておけば、ライズ達にも使えるだろう。もっともロデニルを狙うと言ってたから、今は俺の隣でリーザと一緒に手網の破れを繕っている。


「カイト、小型の銛を借りるにゃ!」

「ああ、良いよ。ザバンに積んでおくつもりだったからね。ブラドを狙っても良いだろうし、銛先でつつけばロデニルは後ろに逃げるからな」

 俺の言葉に嬉しそうに2人で話を始めたけど、小さな銛も作っといた方が良いのかも知れないな。それに柄の長さの短い小型のギャフも色々と使い道がありそうだ。

 

 途中の島で夜を明かしながら、3日掛けて俺達は目的の漁場に着いた。ホラ貝の合図で船団を解くと、東西に方向に動力船が次々とアンカーを降ろして行った。

ここからサンゴの崖は北に50m程の距離だ。船を泊める前まではどうにか空が持ったけど、夕食の支度を始めたころにいきなり降り出した。

このままでは明日の漁は豪雨の中になりそうだが、素潜り漁だから誰も気にはしないだろう。

夕食を取ると、明日の漁に備えて、早めに横になる。

 

 翌日は案の定、雨が降っている。夏の雨よりは降りが穏やかに見えるけど、それなりに強く降ってるぞ。

 朝食をサリーネ達が作ってくれてるので、俺はザバンを舷側から降ろしたり、銛や手網、カゴや桶を用意しておく。お茶代わりにココナッツの実を2つカゴに入れておけば十分だろう。

 朝食を終えてお茶を飲んでいると、リーザが俺の水筒にお茶の残りを入れている。それも持っていくつもりなんだろうな。

 雨雲が低く垂れているから、今日は一日中雨なんじゃないかな? それでも、明るくはなってきたから素潜り漁は始められるだろう。

 食器を片づけると、サリーネ達が水着に着替えに小屋に入った。俺は既に着替えを済ませたからいつでも行けるぞ。

 ベンチの中からマリンシューズとフィン、水中メガネを取り出して身につける。小屋の屋根裏から水中銃と手銛を引き出せば準備完了だ。

 雨がひどいから、傘代わりに麦わら帽子を持っていこう。最後に、右足にダイバーナイフを取りつけておく。

 サリーネ達の持つナイフは折りたたみ式だから、機構部分が錆びないか心配だな。ナイフケースに収めるタイプの小型のナイフが必要かもしれない。

 

「お待たせにゃ。素潜り用の靴下も履いたし、軍手も持っていくにゃ」

 そう言ってサリーネ達が小屋から出てきた。

 オレンジ色のセパレートはおへそがかろうじて隠れているぞ。麦わら帽子が傘代わりなのは同じだな。軍手はしていたほうが安心ではある。


「それじゃあ、先にザバンに乗ってくれ。荷物を渡すからね」

 直ぐにサリーネがザバンに舷側から降りて行った。カゴや桶、銛等を受け取ったところで、リーザとライズが乗り込んで行く。

 サリーネが後方で、イケスを挟んでリーザ達が前に乗っている。ザバンの定員は3人だから、余裕があるように見えるけど、俺が乗るのは難しそうだ。

 舷側に結んであるロープを解くと、サリーネ達は北に向かってザバンを漕いで行った。

 

 最後は俺だな。もう一度船を見渡して忘れ物が無いことを確認する。再度、かまどを覗いて火の始末も確認したところで水中メガネを掛けて、水中銃を握り舷側に歩いていくと、海に飛び込んだ。

 海面に浮上して、サリーネ達の乗るザバンの方向を確認すると、海底を眺めながらシュノーケルを使って泳ぎ始めた。

 思っていたほど海中は暗くは無い。十分に漁が出来そうだ。サンゴの崖が見えたところで水面に顔を上げるとすぐそばにサリーネ達の乗ったザバンが浮いていた。

 箱メガネで場所を探ってるようだけど、崖の高さは5mほどあるからどこも良いポイントだと思うぞ。

 

「あまり動かないでくれよ」

「分ったにゃ」

 答えてくれたのはサリーネだけど、他の2人も頷いてるから大丈夫だろう。

 リーザとライズでロデニル漁を始めるみたいだな。手網と俺の銛を持って、競泳用メガネのような水中メガネを着けると、海中に飛び込んできた。

 さすがに海の民だけの事はあるようだ。立ち泳ぎをしながら水中を眺めている。

 邪魔をしても悪いから、少し離れて水中銃のゴムを引いて、セーフティを掛ける。銛がしっかりとレールに乗っていることを確認して、海底に潜っていった。

 

 崖の裂け目やサンゴの隙間を丹念に調べると、結構ロデニルがいるぞ。そのまま潜っても大丈夫な気がするな。

 ブラドは……、いた! 結構奥にいるな。引き出すのに苦労しそうだが、最初の獲物だから慎重にいこう。

 セーフティを外して、ブラドの目の直ぐ後ろに照準を合わせてトリガーを引く。

 一瞬暴れたが、直ぐにおとなしくなった。急いで紐を手繰って、銛のシャフトを回収する。

 浮上しながら右手を見ると、オレンジ色が見えたから、あの辺りでロデニルを追い込んでいるようだ。どれぐらい獲れるか分らないけど、海上で辺りを見守っているよりは退屈しないで済むだろう。

 海面に出ると、急いでザバンに泳いでブラドをサリーネに手渡した。

 

 数匹突いたところで、休憩を取る。

 リーザ達は7匹程捕まえてきたらしい。今度の計画では3日程漁をする予定だから、30匹以上獲れるんじゃないか? これは俺も頑張らないといけないな。

 2人が戻ってきたところで、場所を譲るために海中に飛び込んだ。浮きにつかまっていれば休めるだろう。

 

「たくさん獲れるにゃ。これで10匹目にゃ」

 そんな事を言ってる2人にサリーネがココナッツの実を割ってジュースをカップに入れて渡している。俺にも渡してくれたけど、少しザバンの構造を考えないといけないな。4人で漁をすることもあるだろうから、張り出し部分が欲しいぞ。アウトリガーを付ければ俺も海上で休めるかな?

 問題は動力船への搭載方法だが、今の動力船では無理がありそうだ。新型なら何とかなりそうだぞ。舳先の空間は大きいからな。


 一休みが終わると、再び漁が始まる。

 時間経過は良くわからないが、獲物の数が最初の数を超えたところで本日の素潜り漁を終えることにした。

 雨が一日中降っていたが、今日は豪雨にはならなかった。それでも、ザバンには雨水がかなり溜まるらしい。

 ザバンに残った者は、何度となく溜まった水を桶やココナッツの実をのカップで汲み出したと話してくれた。

 豪雨だと、バケツで掻い出すようになるのかな? 明日の出漁は雨の降り具合で考えよう。

 着替えを済ませて甲板の屋根の下で一服を楽しみながら周囲を眺めると、ザバンは皆動力船に戻っているようだ。

 リーザとライズが昼食を作り始めると、サリーネはブラドをさばき始めた。いつものように余った肉片を獲り分けて貰う。

 昼食が済んだら、胴突き仕掛けで、根魚を狙うつもりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ