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N-044 サディさん達の里帰り

 浜ではあちこちで盛大に焚き火が作られてる。

 ザバンが浜と沖を行き来し、男達がリードルを次々に銛先に差して運んでいる。俺も、頑張って2匹のリードルをビーチェさんに手渡した。


「一杯飲んでいくにゃ。頑張るのも良いけど、休むことも大切にゃ!」

 ビーチェさんの言葉に、オリーさんがお茶を渡してくれた。ありがたく頂いて沖を眺める。

 皆頑張ってるな。これなら3日で20個以上は手に入れられるんじゃないか?


「やはり、銛が3本は具合が良いな」

 そう言ってバルデスさんが俺の肩を叩く。俺と同じように銛を増してるから、始まって3時間程ですでに7個もリードルを運んでいる。

 俺よりやはり手馴れてるんだよな。俺よりも1個多く運んでる。

「来年は銛を少し太くしないといけないな。1本曲がってしまったからさっき鉈で叩いて直したんだ。そんな連中が俺だけじゃないようだぞ」


「ですね。一回り大きくなってますから。2日後には1本では完全に曲がってしまうのが出てきますよ」

「前回のはデカかったな。あれは俺達には無理だ。俺は小さいのを目指すよ。だが、カイト、お前はやってみろ。あの銛が使えるなら高位が得られるんだからな」

 

 そんな会話をしたところで、カップ代わりのココナッツの殻をビーチェさんに渡して、再びザバンに乗って沖を目指す。

 銛は1本だ。水中メガネを掛けてフィンを付けると、200m程沖に出たところで海に入る。海底を覗くと、たくさんいるから迷ってしまうのは何時もの事だ。

 そんな中で貝に縞が鮮やかに入っているリードルを見付けると銛を手に海底にダイブした。

 貝と身の付け根を新調に見極めて、全身の力を込めて銛を突きだす。 

 ズブリという感触が伝わり銛先が10cm以上潜り込んだ。

 後は海上に出て、ザバンを漕ぎ出す。

 一見単調な漁にも思えるが、相手は猛毒を持つイモガイの一種なのだ。一瞬なりとも気を抜くことは出来ない。


 昼過ぎまで素潜り漁を続けて、早めに動力船に戻る。

 俺の船に皆が集まって早めの夕食を取った。今日1日で魔石の数は8個だったようだ。中位の魔石が1個混じっていたとライズが教えてくれた。

 まずまずの成績だな。明日も同じ位取れれば良いのだが……。

 

 2日目は魔石を9個、その内3個は中位だった。

 3日目は、海底のリードルの数が目に見えて減っている。その中に、俺の狙う大型のリードルが姿を現した。

 まるで丸太のような柄に太い金属棒で作った銛先がねじ込まれて、革の紐でしっかりと固定されている。金属棒が親指より太いから、丸太の浮力を相殺してくれている。

 その銛を引っ提げて海底にダイブすると力一杯に銛を突き差した。

 グニュリ……。あまり感触が良くないが、鋭く研いだ銛は長さ50cmを超える巨大なイモガイの殻の付け根に突き通すことが出来た。


 急いで海面に浮上すると、ザバンの舳先にリードルを宙づりにするように銛を置いて浜辺を目指す。

 砂浜にザバンを乗り上げるようにして停めると、ビーチェさんのところに銛を担いで行った。周囲のを良く見て銛を下ろすと、焚き火の上に銛を出してリードルを炙る。


「今度のも大きいにゃ。しばらく掛かるから、次を探してくるにゃ!」

 普通の銛が頼りなく見えるな。それでも銛をしっかりと頷きながら受け取ると、沖を目指してザバンを漕いで行った。


 3日目の成果は、高位の魔石が2個に中位が2個、それに低位が3個の7個だった。

 夕暮れ前には焚き火も片付け、動力船に戻る。これで今回のリードル漁が終わったのだ。しばらくすれば雨季が始まるな。


・・・ ◇ ・・・


 氏族への上納に中位を渡す。高位が2個もあるのだ。欲をかかずに氏族に協力しよう。

 商船への魔石の売値は金貨3枚に穴開き銀貨が60枚だったそうだ。

 そろそろ、商船に新しい船の見積もりをして貰っても良さそうだな。

 サリーネに頼んで交渉して貰う事にした。


 「変わってるけど、作って貰えるのかにゃ?」

「ダメなら、エラルドさんが前に乗ってた船になるよ。でも、一度確認してくれないか? これなら、後ろに水車が無いから曳釣りが楽に出来るし、操船だって前が良く見えるだろう。小屋も大きくできる」

「カマド2つが魅力にゃ。分かったにゃ!」


 嫁さん達は新しい麦わら帽子を買うらしい。俺は前に作って貰ったガイドとリールを頼んでおいた。これからの長雨を利用して少しマシなリール竿を作るつもりだ。前の島で竹細工用に換装させた竹を手に入れたので、六角竿を作ってみようかと思っている。中空じゃないから細身に作れるし、少し竿を長くしたいからな。夜の根魚釣りは、頻度的に高いから、リーザ達が使いやすい道具を作っておけば手助けしてくれるだろう。


 リードル漁の後はしばらく休漁になる。10日もすればリードルは海流に乗って東に去ってゆくから、それまで危険を冒すことは無いという事だろう。

 懐が温かい俺達のところには、商船が珍しいものを運んで来る。

 俺達が船で暮らしているのを知って、調度品や装身具はあまり持ってきていないようだけど、珍しい食べ物やお菓子。漁の道具などは豊富にそろえているとの事だ。酒タバコも例外ではない。

 毎晩、俺の船に集まって皆で酒を飲んでいるんだが、その酒だって1ビン銀貨1枚はする代物だ。各動力船とも数本は買い込んでるんじゃないかな。


「まあ、良い漁師は飲める漁師って事だな」

 グラストさんがそんな事を言ってるけど、それも問題がありそうだな。

 ラディオスさんが頷いてるから、オリーさんに睨まれてるぞ。


「ところで、桟橋作りの方は?」

「ああ、明日から再開だ。お前達の番はその次になるな。だいぶ伸びてきたが、まだまだ掛かりそうだ。段々畑もあるから、雨の合間に少しずつ石運びを当分続けなくちゃならんぞ」


 長期計画って事だな。俺の船とどちらが早いかな?

 サリーネ達が見積って貰った金額は金貨11枚って事らしい。金貨8枚で前にエラルドさんが乗っていた船が買えるし、俺の動力船だって金貨3枚に満たないんだよな。それから比べればだいぶ高い買い物だが、大きいからな。しばらくは使って行けるだろう。

 現在の手持ちは金貨が5枚って事だから、大型のリードルを優先的に集めようか? 後3回程リードル漁をすれば作る事が出来るかも知れないぞ。


 そんな俺達の輪に、エラルドさんがやって来た。

 バルテスさんの動力船を桟橋に繋いで、その外側にエラルドさんの動力船を舷側同士で繋いでいたのだが、どうにか作業が終わったみたいだな。


「ケルマとサディはバルテスの船で暮らす事になった。隣にビーチェがいるし、お前達もいるから安心だろう。2人が次の漁に出るのは次のリードル漁が終わってからだな」

「エラルドのところは賑やかになりそうだな。俺のところはまだのようだ」

 そう言って、ラスティさんを笑って見てるから、ラスティさんが赤くなってるぞ。

 

「氏族が増えることは良い事だ。男なら立派な漁師に育てねばならん」

「お前の血を引くんだ。氏族に十分貢献できるさ」

 2人で酒器を交わしながら飲み始めたぞ。あまり飲まされないように注意しないとな。


「それで、雨季は何を狙うんだ?」

「それを皆で話してたんです。あまり遠い漁場に行かずに、それなりの漁をしたいと……」

 虫の良い話だけど、魚影は濃いのだ。そんな考えもこの地では出来るのが凄いと思うな。

「ふん……、カイトはどんな意見なんだ?」

 グラストさんは、ラスティさんの話を軽く流して、俺に聞いて来た。


「曳釣りですね。適当に走らせれば向こうから食ってきます。出来れば、南に進路を取って、休息しながら真珠を狙っても良いのではと考えてます」

「なら、俺とエラルドも一緒だ。大物の釣りだな。船に2家族を乗せられるだろう。俺はラスティに、エラルドはカイトに乗れば良い。ビーチェを残しておけば安心できるだろう」


 グラストさんの言葉にエラルドさんも同意してるって事は、決定事項になるのか?

 バルテスさんやラディオスさん達も頷いてるし、誰を誘うか考え始めてるぞ。

 ラスティさんが席を立って、どこかに駆けて行った。相手の都合を確認するつもりなんだろう。


「カイトの曳釣りを覚えたいと言う者はたくさんいるのだ。道具が特殊だが、獲物は大きい。長老達も期待してるぞ」

「商船の連中が驚いていたと言ってたな。他の氏族では、たまにしか持ち込まれない大きさの物がまとめて入荷されるんだから驚くのも無理はない」


 そんな長老会議の話を思い出したかのように、俺達に教えてくれる。

 氏族の名を上げると言うのは、氏族の共通意思なんだろうな。俺はどちらかと言うと、後ろでジッとしてる方が良いんだけどね。


「ですが、狙うのは大型のシーブルですよ。道具がきちんとしていないと船団から落ちてしまいます」

「その辺りは大丈夫だ。見よう見まねで道具を作っているのを見ている。あのリール竿とか言う物さえ持ってる物も多いぞ。ただ使い方を悩んでるみたいだな」

「今夜、会議で話してみるか?」

「そうだな。他の連中も行きたいに違いない。後5隻枠があるという事で良いだろう」


 話が大きくなってきたな。俺達は呆れた顔で、エラルドさんとグラストさんの話の成り行きを聞いていた。


「石積もあるから、残念がる連中も出て来るぞ」

「それは、長老の役目だ。俺達はカイトが大物釣りと真珠を狙うと言えば良い。俺とお前は後見人で同行するとな」


 完全に、今夜の会議の打ち合わせになってるぞ。しかも、騒ぎを作った上での、調整を長老達に任せようと言うんだから、子供時代のグラストさんとエラルドさんの腕白ぶりがうかがえるな。かなりの問題児じゃなかったのか?


 そんなところに新たな人物が現れた。ヤックルさんだ。

「なんだ、若い連中に混じって?」

 エラルドさんの隣に強引に割り込んだところで、グラストさんが酒器を渡している。


「カイトが大物釣りに出掛ける。俺達も一緒だが、どうだ?」

「曳釣りだな。面白そうだが、俺はまだ道具を揃えてねえぞ」

「俺が持ってます。俺を乗せて貰えるとありがたいんですが……」

 バルテスさんがヤックルさんにお願いしている。なるほど、それでヤックルさんを呼んだんだな。

「ケルマは身重だったな。そういう事なら俺の船に来い。俺も覚えなければと思ってたから丁度良いな。だが、グラスト。今夜の会議がもめないか?」

「そこは長老に任せよう。それにこれが最後ではないだろうしな」


 3人でニヤリと笑いながら頷いてるのもどうかと思うが、どこで誰が何を狙うのかは長老会議で話されることなんだろう。

 俺達も世話役に行き先を話しているからな。そんな季節と場所、漁獲高のデータベースを充実させて、氏族のより良い暮らしを考えるのが長老の役目でもありそうだ。

 とは言え、俺達に直接かかわる事ではないから、ここは長老の手腕を皆で見てみるのもおもしろそうだな。

 


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