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N-043 大型リードルを狙う銛

 3回目の石運びを終えるころには、石作りの桟橋が40m程に伸びていた。

 左右に石を積んで2液混合の粘土のようなもので隙間を埋めていくらしいが、石を積む前に真っ黒に炭化した杭を打ち込むのが大変だとエラルドさんがこぼしていたな。

 それでも、後2回程運べば目標付近まで達するんじゃないかと思う。

 両脇に石の壁を作ったら、その間を砂利と砂で埋めて、何度も突き固めている。最後に表面を平らな石で覆って、粘土状の物で塞ぐらしい。

 かなりゆっくりとした工事だけど、漁の合間にやってるような感じだから、しばらくは掛かるんだろうな。

 こんな桟橋を前の島では作らなかったから、トウハ氏族はこの島を永住の地と決めたんだろう。

 龍神の賜りものと長老達は言ってるそうだからな。

 

 4日程の日程で漁に出て、自分達の順番がやってきたら石運びを行う。

 あまり変化が無いのは、長い出漁が無いせいなのかもしれないな。

 それでも、漁に出れば気兼ねなくホラ貝が吹けるから、かなり上達したぞ。倍音を使って何通りかの合図を送れるようにもなって来た。

 出発、停まれ、速度を上げろ、注目しろ等の簡単なものだが、この4つが使い分けられればトウハ氏族では十分らしい。


「もうすぐリードル漁が始まるが、俺達は東で良いだろう。中位魔石が混じるなら東に行きたいと言う者が多いが、まあ、それは仕方あるまい」

「西の漁場の監視もあると聞きましたが?」

「それは、漁をしない動力船の持主が出掛けることになっている。深く潜りすぎて、片耳をダメにしたらしいな」


 鼓膜を破ったのか? 小さな穴が開くだけだから深く潜らねば大丈夫と聞いたことはあるが、無理は出来ないんだろうな。素潜り以外の方法で魚を取っているのだろう。


「台数的には、数隻が西に向かう。残りは東だが、東は漁期が短い。直ぐに西に向かう動力船も多いだろう」

「オウミ氏族には2日の漁を許す事になるんだろう?」

「俺達が使う島は監視の連中が滞在する。オウミ氏族は他の島を使う事になるな。リードルの槍が猛毒である以上、他の氏族を同じ島に置くわけにはいかんだろう」


 ちょっとした不始末で他の氏族を危険な目に合せることになるって事だろうな。せっかく善意で2日の漁を認めてるんだから、それ位は何とでもなるだろう。

 

「それで、またあのデカイ奴を狙うのか?」

「一応、見合うだけの銛を作ってみました」


 そう言って、クジラでも獲れそうな銛を、軒下から外してエラルドさんに手渡した。

 ジッと眺めて、バランスを確かめたり両手で持ってみたりしているところに、グラストさんがやって来た。


「何だそれは? どう考えてもハリオの2倍ぐらいの獲物を突く銛に見えるぞ」

 エラルドさんからグラストさんに銛が渡ると、やはり同じようにバランスから確認してるな。銛はバランスが大事問う事なんだろうか?


「カイトが作ったリードル用の銛だ。例の大型を狙うって事だな」

「あれか! 確か2本の銛で引きづっていたな。俺達と違ってカイトは体格が良い。この銛も使えるなら俺達を超えるな」

「動きの鈍い相手だからって事です。まだまだグラストさん達には敵いません」 

 そんな俺の言葉に肩をバシン! と叩かれた。


「数年で俺達を超える。だが、まだまだ海には獲物がたくさんいる。お前がまだ見たことも無い奴だっているんだ。常に仲間と腕を磨け。俺達と同じではトウハ氏族の銛の腕が段々と下がってしまうからな」

 常に上を目指せって事か。簡単に言ってくれるけど、それがどんなに難しい事かは分かっているつもりだ。


「だが前回の漁で、カイトに教えられた。銛は2本でなく3本の方が都合が良い。俺も1本新調したぞ」

「お前もか? 俺も作ったぞ。2本ではリードルを突いてきても、前の銛先からリードルが外れているとは限らないからな。3本なら持ち帰った時には1本が間違いなく処理が終わっている。調子を崩さずに漁が出来るって事だ」


 おかげで焚き火を大きく作る事になるから、焚き木をたくさん用意しなくちゃならないんだよな。途中の島で調達することになりそうだ。

 そんな話を2人にすると、賛同してくれた。途中で動力船の甲板に焚き木を積み込むのは、ココナッツを採りながらでも出来そうだからな。

 

 明日は出発と言う日は、一日掛かりで銛を研ぎなおす。途中で焚き木を取るから鉈も研がねばならない。

 サリーネ達が食料を買い込んでくると、夕食を早めに取って休む事にした。

 氏族の動力船のほとんどが明日には出漁する。今夜はどの動力船も明りが早々と消されている。


 次の日。夜が明ける前に俺達は起きて、出漁の準備を始める。

 サリーネ達がいつもより多めに食事を作っているのは昼食も兼ねての事だろう。料理が一段落したところで、水汲みに出掛ける。途中の船で真鍮の容器を受け取ると、背負いカゴに放り込む。

 朝食作りで減った分だけを補給するから、どの船も水の補給は容器1つだけだ。

 水場は混んでいたけど、水量が豊富だから、前の島と違って一度に数人が水を汲める。

水を入れた容器を背負いカゴに入れて、頼まれた容器を配りながら自分の動力船に戻って来た。

 朝食を終えると、残ったご飯は保冷庫入れておく。氷が4つも入っているから、悪くなることは無いだろう。

 俺の水筒とココナッツが2個入っているのは、暑い日中に冷たいものが飲みたいからなんだろうな。

 

 一服しながら周囲の状況を眺めていると、ホラ貝の合図があった。

 最初の合図は、出航準備だから、ラディオスさんの動力船と結んでいたロープを解いて、船首のアンカーを上げる。

 終了したところで、片手を上げて合図を送ると、ゆっくりと船がラディオスさんの船から離れていく。

 後進しながら船の向きを変えると、今度は入り江の出口に向かう。次々と動力船が動き出して、入り江の出口で船団を組みながら島を後にしていった。

 俺の隣はラスティさんの動力船だ。これから島を西に回って北に進路を取ることになる。これから4日掛けて、漁場に向かうのだ。

 

 日中、船を進めて、夜は近くの島にアンカーを下ろして休息する。嫁さん連中が夕食を作る間に、島に行って焚き木やココナッツ、野生のバナナ等を手に入れる。さすがにココナッツは無理だが、焚き木と野生のバナナをザバンに積み込んで甲板に運んだ。

 4日目に漁場に着いた時には甲板が焚き木で一杯になっていたぞ。


 島の近くに家族単位で船を停めると、島の砂浜に穴を掘ったり、焚き木を運んだりと忙しく働く。

 去年よりも一回り大きな焚き火の準備をして、近くに焚き木を運んでおく。ビーチェさんが嫁さん連中に指示を与えて、リードルから魔石を取り出す手順になるように道具を並べ始めた。

 リードルの殻を破る石は、石運びをしながら作った石斧だ。長い棒を、ジャングルから切り出して先端に結びつけた。もう2本の棒を用意して、1つは先端に小さな手網を結び、もう1つには鉤型になった丈夫な枝を結んだ。


「これで、準備は良さそうだな。今夜もしくは明日の夜にリードルが渡って来るだろう。明日、箱メガネで海中を覗けば分かる。漁はそれからだ」

 前回はリードルが海面を漂って来たんで海底にいるのが分かったんだよな。同じように見られれば問題ないけど、見られなかったら、箱メガネで確認するって事なんだろう。

 意外に箱メガネは役立ちそうだ。


動力船は舷側を僚船としっかりとロープで結んであるから、エラルドさんの家族と一緒に夕食を作る事が出来る。

 皆で一緒に食事をするのもこんな時だけだからな。具だくさんのチャーハンのようなご飯と辛みのあるスープが夕食だった。

 食後には蒸かしたバナナがデザートになって出てくる。

 それをスプーンで食べながらワイン割りのココナッツジュースを頂いた。だけど、これは一緒にしない方が良いと思うぞ。気の抜けた発泡酒を飲んでいるような感じだからね。


 翌日。ザバンで海域を調査する。箱メガネで覗いた海底には、砂泥の中で揺らめくイソギンチャクだけが見える。

 昼近くまで探してみたが、全くリードルの姿が見つからない。すでに海域を去ったのだろうか?


「それはありえないだろう。西のリードル漁場の漁期よりも先に来てるのだ。姿が見えないのは、まだやって来ないということだろうな」

「今夜辺りに、見られるんじゃないか? 夕方はザバンを漕ぐなよ」

 エラルドさんとグラストさんは、漁期を逃したわけでは無いと言っている。

 今夜が楽しみだな。海面に浮かぶ座布団は不気味な光景だけど、確かに珍しい光景には違いない。

 それにしても、箱メガネで見た海底は殺風景だったな。おかずも釣れないんじゃないか? 魚達もリードルの群れを恐れて姿を消しているのだろうか?

 

 夕食が終わると、カンテラの灯りが照らす海面をリーザ達が眺めている。

 リードルの渡りを見付けようとしてるんだろうが、これだけの船がいるんだから、きっと誰かが先に見つけるんじゃないかな?

 そんな3人をパイプを楽しみながら眺めていた。

 かなり夜が更けた時だ。ピィーっと笛が鳴った。続けて他の船からも笛が聞こえる。


「あれにゃ! やってきたにゃ」

 ライズが腕を伸ばした先を皆で見つめる。

 そこには、潮の流れに乗った座布団の群れが海面一面に広がって漂っていた。少しずつこっちに近付いているぞ。俺達が歩く位の速さで動いているから、この時期の潮の流れは速いんだろうな。それとも、この海域だけが流れが速いのかも知れない。

 今まで素潜りで海流が早いと感じたことは殆ど無いからね。


「あれなら、明日はたくさん取れそうだ」

「また、高位の魔石を狙うにゃ。3個も取れれば、氏族で一番にゃ!」


 リーザがそう言ってるから、1個以上は高位を手に入れないとな。それに1個で金貨1枚は魅力でもある。

 カタマランを早く手に入れたいものだ。この船はエラルドさんに譲れば良いだろう。孫達と一時期でも暮らすのならば、今の船は小さいからな。

 カタマランが出来れば小屋を大きく作れるから、エラルドさん達と一緒に暮らしても何とかなるんじゃないか?

 2部屋を作るのも無理が出ないような気もするぞ。

 明日の漁を夢に見そうだけど、そろそろ寝ることにしよう。明日は頑張らねばいけないからね。

 


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