M-229 俺達は俺達の漁をすればいい
次のリードル漁が終わった時に、リードル漁が行われた。
銀貨3日0枚はグルリンの値段としては破格だが、一度に50匹を水揚げできるのであればそれほど高い値段では無いのだろう。
少なくとも、婚礼の席でそれだけのグルリンを提供できる機会は、俺達の都合が優先されることで今後頻発するとも思えないからね。
東の漁場に向かって進む俺の大型カタマランには、オルバスさんとアキロンが嫁さん連れで乗り込んでいる。
後続の2隻はアルティ達が操船しているから、トリティさんも速度について文句を言うことも無い。
でも操船したいんだろうな。オルバスさんと船尾のベンチに腰を下ろしてお茶を飲んでいるんだが、視線は操船楼に向いたままだ。
「漁はアキロン達が行うんだろうが、俺達はどうするんだ?」
「当然、素潜りをしますよ。タリダン達と大物を競うのもおもしろそうです」
パイプを咥えて、悟りきった表情のオルバスさんだったが、俺の言葉を聞くと途端に顔の表情が変わる。
自分の最盛期は過ぎたと感じていても、一発勝負の大物狙いなら、まだまだ若者には負けないとの自負があるんだろうな。
昼夜を問わず、ひたすら東にカタマランを進めた2日間で、通常なら3日の航海となる漁場に俺達は到着した。
近くの島の小さな入り江にカタマランを留めると、俺達のカタマランの両舷にタリダン達のカタマランの甲板が寄せられる。
タリダン達がおかず用の竿を出して夕食のおかずを確保し、リジィさんは若い嫁さん達と一緒に夕食の準備を始めた。
「そういうことで、ナツミさんにいつもの銛を強請られてます」
「ほう、ナツミも加わるのか! そうなると、タリダン達もうかうかしていられんだろうな」
マリンダちゃんが俺達にワインのカップを配ってくれた。
一息にワインを飲んだオルバスさんのカップにマリンダちゃんがたっぷりと注いでいる。まだ夕食前なんだけどなぁ。あまり邪魔をされたくないのかな? タリダン達にもワインを渡して、釣れたカマルを入れたカゴと交換しているから、彼等も釣りを終わりにして俺達のところに集まって来た。
「俺達も明日は素潜りですよね。アオイさんの狙いは?」
「ハリオだ。何も婚礼の漁だけということは無いからね。タリダン達も腕を上げたんだろう?」
ラディットと顔を見合わせて頷いている。自信はあるってことなんだろう。オルバスさんが目を細めて笑みを浮かべているのは、好敵手ととったか、それとも義理の孫達の腕を見る機会を得たのが嬉しいのか、良く分からないけど普段以上に頑張るだろうことだけは確かなようだ。
「グルリンだけではつまらんからな。確かにハリオなら俺達には丁度良さそうだ」
「突かないと、お荷物扱いされそうですからね。
明日の漁の話しで盛り上がっていると、次々と料理の皿が俺達の前に並んできた。
夕暮れが迫っている中、ランプを掲げての夕食だ。
明日の漁を期待するだけなら良いんだが、すでに保冷庫の空きを心配する始末だ。
そんな話をしながらの食事は、いつにもまして美味しく感じる。
アルティ達も腕を上げたようだな。リジィさんが目を細めながら唐揚げを食べていた。
翌日は早めの朝食を取ってアンカーを引き上げる。先ずは、少し南に下がり、南北に連なる海底の溝近くにカタマランを留めた。
カタマランの甲板が海面から少しずつ離れていくと、船体の真ん中に搭載された魔道機関が付いたザバンが引き出された。
引き出したザバンにもう1艘のザバンを太い竹竿で連結すれば簡単なカタマランになる。長時間の素潜り漁だから、たまの休憩は必要だろう。
「これなら、海上に上がって休憩できそうだな。マリンダ、タバコ盆を乗せといてくれ、一服できそうだからな」
「こっちのパイプで良いにゃ? アオイのも持って行くにゃ」
ザバンに持ち込むのは安物のパイプのようだ。動力船の上ならいつものパイプでも良いんだが、さすがにザバンとなるとそうもいかないだろうな。
保冷庫に氷を入れたところで、竹の水筒に入れたお茶を何本か入れている。
ふと、後ろを見るとトリティさんが小さな木製のクーラーボックスに同じように氷を入れて水筒を入れている。アキロンがもう1つ少し大きめのクーラーボックスを持って行くようだな。あの中は全部氷が入っていると教えてくれたんだが、【アイレス】の魔法は全員仕えるんだから、必要ないんじゃないかな?
「カタマランに残るのは3人ね。リジィさん、お願いしますね。それじゃあ、神亀を呼ぶよ!」
「なら、俺達も出掛けないとね。タリダン! 出掛けるぞ」
俺の言葉に頷いたタリダン達が銛を持って甲板から飛び込んでいく。
「どれ、俺も出掛けるか。アオイ、大きいのは残しといてくれよ!」
今度はオルバスさんが飛び込んだ。
ナツミさんが急に南に向かって手を振りだしたから、そっちに視線を向けると凄い勢いで何かが近づいてくる。あれが神亀なんだろうな。
これでグルリンは手に入ったも同然なんだろう。どれ、俺も仕事を始めるか……。
大物狙いの銛を持って、溝に沿って水中を覗いていると、突然に数m下を大きな魚の群れが泳ぎ去っていく。
間違いなくハリオに違いない。水深は10mを越えていそうだが、ところどころに大きな岩が突き出している。
そんな岩に付着したサンゴはまだ小さいから、あの津波で一度サンゴが壊滅したのかもしれないな。海底をよく見ると、白いサンゴの破片が海底に散らばっていた。
海底から3mほど突き出した数個の岩の間に身を潜めて、銛を持つ手を伸ばして群れを待つことにした。
何度か息が苦しくなる前に、海面に上がって息継ぎを行い再び岩陰で待つ。
2度ほど息継ぎをして待っていた時だ。ゴォォっという音が聞こえてくる。
やって来たか!
腕を伸ばして、その時を待った。
まるで水中を飛ぶようにハリオが目の前を通り過ぎる。
銛の位置を変えず、銛の真上を泳ぎくるハリオに向かって左手を緩めると、狙いたがわずハリオに銛が突き立った。
銛の柄を持って強く引く。これで銛先はハリオの体内で回転するから、逃れることは出来ないはずだ。
柄を持って海面に向かう。左手の銛の柄に暴れるハリオの振動が伝わってくる。かなりの大物だ。4YM(1.2m)はあるんじゃないかな。
周囲を見渡して黄色の旗を竹竿に付けたザバンを見付ける。
右手を振ると、直ぐにこちらに向かってきた。
「大きいにゃ! さっき父さんが突いたのは、一回り小さいにゃ」
「さすが、オルバスさんだ。俺も頑張らないと」
ザバンの中にどうにかハリオを下ろしたところで、銛先を銛の先端に取り付ける。mリンダちゃんに手を振って、次の獲物を狙いに先ほどの場所に戻ることにした。
2匹目を突いてザバンを呼ぶと、ザバンにオルバスさんが乗っている。
獲物の引き上げを手伝ってもらったところで、俺も休憩に入った。
「今度のも大型だな。4YM(1.2m)を越えているぞ」
「1匹目はオルバスさんが最初だと聞きましたが?」
「アオイに先んじただけでも、バレットに自慢が出来るな。次の獲物はフルンネだからな」
そう簡単にハリオが突ければ苦労はしない。
同じぐらいの大きさになるフルンネだって、突くのはそれほど簡単じゃないからな。
「タリダン達は?」
「フルンネにバルタックにゃ。フルンネは3YM(90cm)に足りないにゃ」
それでも、フルンネを突ける腕なんだから将来が楽しみだな。バルタックも2YM(60cm)を越えているそうだから、同じ年代の連中と比べて頭1つは抜きん出ているに違いない。
「さすがは、アルティ達を貰うだけのことはありそうだ。数がどれだけ揃えられるかが楽しみだな」
「そうなると俺も負けてはいられませんね」
「何か突いてきたにゃ!」
マリンダちゃんが片手を振る人物に向かってザバンを進める。
俺達はザバンに乗ったままだ。2艘を竹竿で繋いでいるからカタマランになっている。安心してパイプを楽しめるんだよね。
大きなバルタックを突いてきたのはラディットだった。獲物を預けたところで銛をザバンに乗せて休憩に入るようだ。
「タリダンさんは少し北寄りの場所です。途中まで一緒に漁をしてたんですが」
「上がってきたようだよ。先は長いんだから、ゆっくりと休もう」
タリダンがザバンに上がったところで、マリンダちゃんがお茶のカップを配ってくれた。タリダンはハリオを1匹突いたらしい。残りはブラドだと苦笑いを浮かべながら頭を掻いている。
それでも立派だと思うな。この場所のハリオは少し泳ぐ速度が速く感じる。婚礼の航海で漁をする場所よりも2割増しは確実だろう。
そんな中でハリオを突けるんだから、十分に中堅を越える腕だと思うな。
「向こうはどうなんだろうな?」
「トリティさんが一緒だから心配は無いと思うんだけど……。それよりナツミさんは?」
「カタマランの近場で漁をしてるにゃ。1YM半のバルタックをたくさん突いてるにゃ」
それも凄いな。この銛を使えばハリオは簡単かもしれないけど、ナツミさんは大物を突こうとはしないんだよね。
それだけ、夫である俺を立ててくれているんだと思うと、ちょっと気の毒にも思える。
「さすがにナツミには大物は突けんか。だが間違いなく中堅を越える腕であることは確かだな」
オルバスさんの言葉に全員が頷くのも問題に思えるけど、実際にそうなんだから仕方がない。
ゆっくりと休んだところで、それぞれの銛を持って再び漁を始める。
もっと大きなハリオを突こう。たぶん皆がそう思っているに違いない。




