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N-034 二手に分かれたリードル漁


 どうやら、大型を狙った曳釣りの分配は乗船者が等分という事になったらしい。それは嫁さん連中も含めてと言うから次に出掛ける時には気を付けねばなるまい。

 どうやら雨季も終わりに近づいたようで、たまに思い出したように雨が降るが1時間と継続しなくなった。

 氏族の島もだいぶ落ち着いた感じだな。

 新しい漁場もそれなりに開拓出来たようで、毎日あわただしく動力船が入り江を出入りしている。

 

 そんな光景を俺の船で眺めているのは何時ものメンバーだ。

「長老達は悩んでいるようだな」

「やはり、2つに分けるべきだと俺は思うのだが……」


 そんな話を俺達に聞かせてくれるのは、エラルドさんとグラストさんだ。

 一か月後に迫るリードル漁を、前と同じ場所でやるか、それとも別な場所を探すかが問題になっているらしい。前の漁場は西に2日半だからぎりぎり俺達の漁場になるのだが、オウミ氏族の東に移動した連中の漁場に接しているのが問題らしい。同じネコ族で対立するのも問題だろうという事にも頷けるな。

 となれば新しい漁場となるのだが、そこがどこかという事になる。漁期は精々10日という事だから、場所を探していたのでは間に合わないって事になりそうだな。


テーブル代わりの木箱に、この周辺の海図を乗せて皆で睨んでいるのだが、中々難しい話だな。

 俺は2回参加してるけど、海底に無数にいるイモガイに驚いたものだ。

 待てよ、あの場所は砂泥が広がる場所だったよな。この海図でみると、あの海域に太い深みが続いているぞ。

 確か、夜に海面を漂ってくると聞いたが、そうなるとこの深みを流れる潮流に乗って来ると考えられるな。昼には海底にいるという事は……。


「この深みが曲者ですね。この深みに沿ってあの漁場に移動しているとすれば、この深みが始まるこの場所も狙い目なのでは?」

 俺が指さした海域はこの島から東に4日の距離がある場所だ。近くの島は広い砂浜があるぞ。サンゴは対岸にはたくさんあるのだが、俺が指さした島からは15m程の深みまで砂泥が続いているらしい。

 島はそれ程大きなものではなく、2時間もあれば島を1周出来そうだ。島の半分がジャングルなのも都合が良い。


「リードルが集合する場所という事か……。長老達がどう考えるかは分からんが、俺達だけでも出掛けて様子を見る位は出来そうだ。幸いに船は新調してるし、当座の蓄えに不足は無い」

「おもしろそうだな。俺も1口乗るぞ。全くダメなら、急いで西に移動すれば数個ぐらいは手に入る」

 

それにしても、不思議な話だ。この海図を見るかぎり、俺達が曳釣りをした場所にも現れそうなきがする。

だが、エラルドさん達の話では、他の場所にはほとんど集まらないらしい。何か俺達には理解できないものがあるんだろうな。

それに、この流れに乗って来るのであれば、他の海域にも流れて行きそうなものだが、それは無いと言っている。イモガイにそんな知能があるとは思えないんだけどね。

 漁場の選択はエラルドさん達に任せて、俺達は準備を始めれば良いか。

 ザバンに塗料を塗りなおして、リードル用の銛を研ぐ。ついでに新しい銛を1つ作った。3本あれば手返しも早くなるだろう。小さな返しを付けた火箸のような銛先は三角形の断面になるようにヤスリで削った上で研ぎなおした。最後に真っ赤に焼いて油で焼き入れをしておく。

 入り江に停泊している動力船の多くで、俺と同じように銛を研いでいるに違いない。

 弾力性のあるリードルの体を突き通すには腕力だけではダメなのが良く分かった。針のように研いだ銛先でないと深く突き刺さらない。

 中途半端に刺したのでは途中で外れてしまいそうだ。極めて危険な生物だから慎重に漁をしないとな。


・・・ ◇ ・・・


 リードル漁の10日前に、長老達の裁可が下りたらしい。

 やはり、2つのグループに分けて漁を行うそうだ。


「俺達は、東に向かう。カイトの言う場所に前の漁場の半分でも集まれば十分に魔石を得られるだろう」

「東は20隻も行かんぞ。やはり初めての場所だからな。三分の二は西に向かうそうだ」

 車座になった俺達にグライトさんとエラルドさんが長老会議の内容を説明してくれた。


「少し先に出ようと思う。リードルが集まらなければ、全速で西を目指してもある程度の数が取れそうだ。俺達が漁で稼ぐ金額の半分以上はリードル漁で得た魔石である以上、全く取れなければ暮らしに支障が出る者も出て来るだろうからな」


 グラストさんの言葉に俺達も頷いた。それ程困ってはいないと思うけど、次の船を作るためには稼がないといけないのは、皆同じだからな。


「それで、いつ出発するんですか?」

「西に向かう連中は3日前だと言っていたな。俺達は更に早く明後日だ。西に向かう潮流にリードルが乗るならば、それ位で丁度良いだろう」

明後日と言う言葉を聞いて、俺達は直ぐに解散した。嫁さん連中に知らせなければならないし、色々と準備もあるに違いない。


 畑の手伝いをして帰って来たサリーネ達にリードル漁の出発日を告げた。

「母さんに聞いたにゃ。食料は20日以上大丈夫にゃ。明日は水汲みと、野菜を分けて貰うにゃ」

 彼女達にも情報のネットワークがあるみたいだな。

「前と同じに、カマドを作るにゃ。ちゃんと銛に目印が付いてるか見とくにゃ!」

 ライズが俺にビシ! っと腕を伸ばして注意してくれるけど、ちゃんと目印は確認してるから安心して欲しいな。

 同じカマドと言うのは、エラルドさん一家のカマドを借りるって事だな。ビーチェさんも1人では大変だろうからな。

 

 そんな事前のごたごたも、毎年のイベントのようなものだから楽しいものだ。

 ラディオスさん達はココナッツや野生のバナナを収穫に出掛け、俺は皆の船の分も合わせて水を汲む。

 場合によっては10日以上にもわたって漁をするのだ。小さな島には水場は無いから、全て持って行かねばならない。

 最後は運搬用の容器やポット、鍋に至るまで水を汲んでおく。俺の水筒にも水を入れたから、10日以上は十分に持ちそうだ。それにココナッツジュースだって飲めるからな。


夕方、ココナッツをラディオスさんから10個以上受け取り、バナナも1房分けて貰った。

 夕食は、桟橋で釣ったカマルの唐揚げを頂く。停泊していない時は、油料理なんて以ての外だから、氏族の島にいる間に出来るささやかな贅沢なんだよな。

 翌日は暗い内に起きて、食事の準備をサリーネ達が行っている。

 空になった運搬用のポットに再度水を汲んで来た。

 食事が終わっても、かなりご飯が残っている。それを保冷用の箱に納めているから、夕食はスープを作るだけにしとくようだ。


「カイトの方は準備出来てるのか?」

「終了です。船のロープを解いておきますね」

 そう言って、ラディオスさんの船と繋いだロープを解く。「完了だ!」と大声を上げると、サリーネが俺達の船を後進させて入り江の出口に舳先を向ける。


 少し大回りに出口に向かうと、桟橋や僚船から次々と動力船が離れている。

 1隻の船が出口に先行して、甲板からホラ貝を鳴らした。

 それを合図に船が入り江を出て行く。船団を組むまではゆっくりと進んでいるな。俺の船は何時も通り最後尾で右隣にラディオスさんの船がいる。


 朝日が昇って来たので、サングラスを掛けたが、帽子はまだ被らないみたいだな。

 まだそれほど暑くないから、朝の海が清々しく感じる。

 船団を組んだところで、操船がライズに変わったみたいだ。背がちょっと足りないから、リーザと2人で役割分担しているのだが、リーザは小屋の屋根に乗ってるぞ。その内暑くなるんじゃないかな?

 海から上がるための短いハシゴを、舵輪の近くに立て掛け、船尾に落ちないように設けた柱にしっかりとロープで固定しておいた。これならハシゴに座りながら前を見れるだろう。後ろにはしっかりと板が張ってあるから、落ちて水車に巻き込まれることも無い。

「ここなら安心にゃ!」

 早速、屋根を下りてハシゴにリーザが移動してきた。


 太陽が登ると、途端に日差しが強くなる。全員が麦わら帽子を被って、アゴ紐をしっかりと結んでおく。飛ばされたりしたら拾いに行けないからな。一応、古い麦わら帽子を2個程小屋の屋根裏に積んであるらしいが、あくまでも用心だからな。


 先頭のグラストさんは海図を眺めながら、進路を確認しているのだろう。俺達は付いて行くだけだから暢気なものだ。

 周辺の島や、遠くの雲、俺達の航跡等を見ながら暇をつぶす。


 夕刻には、近くの島にアンカーを下ろし、簡単な食事を取った。


 そんな航海を4日続けると、俺達が決めた漁場に着く。

 昼過ぎに島の一角にアンカーを2本下ろして、ザバンで島に渡った。サリーネとお茶のセットが入った背負いカゴを先に島に下ろして、リーザとライズを迎えに行く。

 動力船を泊めた場所の水深は2m程だ。

 島まで30mは無いだろうから、かなり勾配がありそうだな。遠浅と聞いていたんだが……。


 ザバンを陸揚げして流されないようにしたところで、グラストさん達のところに集まった。

「いつも通りだ。焚き火をする場所と穴掘り、それに焚き木を取らねばならん。見たところ石が無さそうだから、丸太で代用だな。少し太めの木を切って来いよ」

「俺のところと、グラスト、それにヤックルとカマルギだな。ゴリアスは……」

「俺のところで預かる。息子にも刺激になるだろうし、娘がまだ小さいからな」


 エラルドさんの言葉にヤックルさんが手を上げた。

 人手を融通するってことか。確かに焼いてから魔石を取り出すことになるんで面倒には違いないんだけどね。


 鉈を手にジャングルに分け入り、太い木を切り倒す。

 丸太を担いで砂浜に運ぶと、大きな穴が掘ってあった。

 何本か丸太を運んだところで、エラルドさんが炉を丸太で組み始める。

 殻を破る石が無いかと、ザバンで島を一周して数個の石を拾ってきた。皆で分ければ再度探しに行く必要も無い。

 3m程の長竿を2本用意する。魔石を探る棒と、魔石を拾う小さな手網をくくり付ければ後は、リードルを獲るだけだ。

 丸太を切り倒したので焚き木はたっぷりあるし、ある程度の大きさにして積み上げておけば少しは水分も抜けるだろう。かなりの日差しだからな。

 


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