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N-029 急いで作らなくてはならない物

 動力船からザバンに乗って再び浜を目指す。

 真鍮製の水ガメにはたっぷり水が入っているから、サリーネ達はお茶の準備を始めた。背負いカゴに入れてきたのは木製のカップだろう。

 4隻の動力船は俺達の船の近くにアンカーを落して、ザバンに乗り換えると浜を目指してやって来た。


「ここか? 龍神に教えられた島と言うのは」

「そんな感じですね。この島を目指して俺達を案内してくれました」

「確かに、良い島だ。水場もあれなら十分すぎる。小屋どころか今の島よりも大きく畑を作れるぞ」

 

 男達が焚き火の周りに輪を作ると、嫁さん達もカマドの周りで騒いでいるな。

 サリーネ達が俺達にお茶を運んできてくれた。

 ゆっくりとお茶を味わいながら、パイプに火を点ける。


「とりあえずラディオスさんと杭を作りました。長短各30本です」

「桟橋を作らんと話にならん。男が6人なら何とか作れるだろう。桟橋の板は、次にやって来る連中が運んで来るだろう。明日から作り始めるぞ」


 エラルドさん達の采配に任せておけば安心だ。

 問題はどこに作るかだな。広いから迷ってしまうぞ。


「軍船が台船を曳いて来るし、商船も俺達の動力船を曳いて来た大型が定期的にやって来る。商船は喫水が6YM(1.8m)位あるし、軍船は8YM(2.4m)だ」


 俺達は顔を見合わせた。氏族の島にあった桟橋でも水深は引き潮時に2m程度だった。それよりも深い場所に桟橋を作らねばならない。

 軍船は論外で構わないだろうが、商船の喫水を考えると3m程の深場まで桟橋を伸ばす必要があるな。杭の長さが足りないぞ。


「ジャングルの開墾を行いながら杭を作らねばなるまい。1FM半(4.5m)は必要だな。カマルギが明日には氏族の島に着くだろう。早ければ5日、遅くとも8日でやって来るぞ」

 グラストさんの言葉に俺達が頷く。バルテスさんは3方向に分かれた島で案内役になるそうだ。水は補給して行ったから、10日位は持つだろう。


「手分けする外に無さそうだ。ラディオスとカイトで杭を作れ。俺達は桟橋用の杭を打つ」

大木槌おおきづちは持ってきたのか?」

「ああ、ノコギリも一緒だ。一段落したら船から下ろすぞ」


ザバンで動力船と往復じゃ面倒だ。桟橋も何個か作らねばならないらしい。少なくとも1つは桟橋が必要だな。長い桟橋は水深も必要だから皆が集まってからでも良いだろう。

 グラストさんが動力船に向かい、道具を入れた背負いカゴを持ってくる。

 中にはノコギリの外に斧まで入っているぞ。


 ノコギリを借り受けてラディオスさんと目の前の森に入り手ごろな立木を切り始めた。

 エラルドさん達はゴリアスさんとラスティを従えて杭を打ち始める。

 60本がたちまち無くなってしまいそうだぞ。

 俺達も伐採のスピードを上げたが、数本を切り倒したところで日が傾き始めた。


 夕食は、ビーチェさんがいるから安心だな。サリーネ達もだいぶ腕を上げたけど、まだまだビーチェさん達にはかなわないな。経験が足りないんだろうから、少しずつ上手になって行くに違いない。


「横木が足りんな。明日は俺達も立木を切る」

「東にはココナッツがあったな。バナナがあれば良いんだが……」

「近くで若木を探しても良いだろう。場所は広い。いくらでも植えられるぞ」


 食事を終えて酒が入ると、エラルドさんとグラストさんは機嫌が良い。

 かなり困難な島探しに目途が立ったから、役目は果たしたという心境なのだろう。

 俺も、明日は大勢で立木を伐採すると聞いて、少しホッとしている。

 2人では1日10本が良いところだからな。

 

「昔、東に20日船で進むと島が無くなると聞いたことがある。俺達は東に7日、南東に2日進んだことになる。千の島の外れに近い事になるぞ」

「これ以上東に進まなくて良いのだから、問題は無いだろう。それよりも漁場だ。改めて開拓しなければならん」


 それもある。だが一番重要なのはリードル漁をどこで行うかだだな。西に向かえば

3日で昔の漁場なのだが……。

 そうか、この島はリードルの移動の経路になっているかも知れないってことか。

 リードル漁の季節には海に入ることも出来なくなりかねない。リードルの移動経路と、その範囲は早急に調べなくてはなるまい。


「気になるのはリードルですね」

「ああ、調べねばならん。次の漁期までには間があるから長老達と相談だな」


 俺の問いに、グラストさんが答えてくれたけど、難しい顔をしているな。

 氏族の暮らしに水の魔石は無くてはならない。それを手に入れる方法は唯一リードル漁なのだが、リードルの分布がどうなっているか分からないと俺達の主流漁法である素潜り漁が危険極まりないものになってしまう。

 水中を観察できるものがあれば良いのだが……。


・・・ ◇ ・・・


 6日目に2つの桟橋の橋げたとなる杭を打ち終えた。

 1つは沖に向かって30m程だが、もう1つは60mも伸びている。

 30mの方の桟橋の末端の水深は干潮時で2.2m。60mの方は3m程の深さだ。無理をすれば軍船も泊められそうだぞ。

 斜めにも丸太を組んであるから、動力船が接触した位では破損しないだろう。

 満潮時の海面より1YM半(45cm)高い場所に板を並べれば完成だ。その板は次の船団が運んで来るらしい。

 改めて、3つ目の桟橋作りを始める。動力船だけで50隻近くあるからな。桟橋はいくつあっても足りないくらいだ。前の島と同じく4本は最低でも必要になるだろうし、この入り江は広いから更に増やすことも可能だろう。


 その夜、入り江の向こうにたくさんのカンテラの光が見えた。

 入植してくるトウハ氏族の第1陣がやって来たのだ。

 先頭はバルテスさんらしい。俺達の横に船を泊めて、俺の船にやって来た。


「15隻がやって来た。残りは21隻と長老達だが、軍と商船と共に一月後になると言っていたぞ」

「ご苦労だったな。案内船を送らねばならんが……」

「俺が行こう。20日程ここを手伝って島に帰れば良いだろう」


 よいしょと言いながら、船に乗り込んで来たヤックルさんが言った。

 エラルドさん達に異存は無さそうだな。


「ヤックルなら安心だ。頼むぞ。それで、桟橋の板は運んで来たのか?」

 グラストさんの問いに、ヤックルさんが頷いている。木製のカップで葡萄酒を飲み始めたから、返事ができなかったようだな。


「板だけじゃねえ。くわすき、鎌も集めてきたぞ。開墾は早めにしておくにかぎるからな」

「後、二か月もすれば雨季になる。小屋掛けは必要だ」


 となると、明日からは開墾が俺達の仕事になりそうだ。丸太も100本近く切り出さねばならないだろう。

 その土台となる石も運ばねばならないし、石が少なければ入り江のサンゴを使うことになりそうだ。

 やって来た動力船と俺達の動力船合わせて20隻を超えているし、ランタンの灯りが海面に映えてちょっと賑やかになった感じがする。

 海賊が来たらどうしようかなんて考えていたが、今夜は安心して眠れそうだ。

 

 翌日は、桟橋作りをグラストさんが数人の男と担当し、残った俺達はエラルドさんの指揮で、ジャングルの開墾を始めることになった。

 かなり立木を切り出してるから、初めの方は苦労しないが、20mも入るとジャングルになってしまうんだよな。

 俺とラディオスさんで次々と太めの立木を切り出し、細い立木は鉈や斧で切り倒していく。

 男達が倒した木を浜に運んで鉈で枝を払い、一カ所に積み上げて行った。

 女性達は鎌を持って下草を切りはらっていく。かなり奥の方にまで砂地が続いているようだ。


 休息と、食事はサリーネ達が作ったカマドでまとめて作る。下草刈りと交代しながら食事を準備しているみたいだな。リーザ達よりも小さい子まで手伝っているぞ。氏族全体の引っ越しだから、誰もサボる者はいないようだ。

 夕食を終えて、自分の船に乗り込んで小屋に入ると、疲れでバタンと横になる。

 リーザ達も同じようだな。直ぐに寝息が聞こえてきた。


 10日程掛けて、北に50m、東西に200m程の更地を作る。

 まだまだ更地を広げなければならないが、動力船を持たずに島で暮らす連中もいるのだ。多くが老人やご婦人達だから、自分達で小屋を作る事など出来ないだろう。

 雨季の始まる前に、寝る場所だけでも作ってあげなければなるまい。


「今日から小屋造りだ。とりあえず3つ作れば良いだろう。幸い丸太はたくさんある。俺が縄張りをするから石を集めて土台を作ってくれ」

 そんなエラルドさんの指示で、俺たち若い連中は石運びを始めた。サリーネ達も小さな小石を集めることになったようだ。

 自分の頭程の石を更地から集めて、縄張りに沿って並べ始める。

 小屋の大きさは、横2FM(6m)間口が1FM半(4.5m)の大きさだ。結構大きいぞ。

 土台の高さを決めているのはグラストさんだ。長いゴムのチューブに水を入れて水平を取っている。1YM(30cm)程の高さにするようだな。

 30cm程の間隔をあけて並べた石の間に、サリーネ達が集めてきた小石を入れる。その上に、更地から運んだ土を乗せて突き固めているようだ。


 1つの小屋の土台の石運びに5日も掛かってしまった。

 次の土台の石運びを始めると、エラルドさんが数人の男達と丸太小屋を作り始めた。

 1つ目の小屋が粗々完成したのを見計らって、ヤックルさんが氏族の島に出発する。

 後、20日もしたら、氏族全員がこの島で暮らすことになる。


「何とか3棟は建ちそうだな」

「ああ、これで雨季を乗り越えれば良い。出来ればもう1つ作っておきたいところだ」


 浜の焚き火を囲んでグラストさん達が話している。

 俺達若者たちは、ジッと話を聞いているだけだ。小屋には入り江側に小さな窓が付いている。跳ね上げ式の戸が付けられているが、内側にガラスを入れると言っていたな。20cm四方の板ガラスなら購入する事が出来るらしい。


 箱メガネなら作れそうだな。

 接着材はあるし、エラルドさん達の大工仕事は中々の腕だ。

 ん、待てよ。それよりザバンのイケスをガラス底にしても良さそうだ。

 漁場の状況やリードルの分布を確認するのに役に立ちそうだぞ。



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