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M-151 子供用の釣り仕掛け


 昼食時にトリマランに戻ってくると、リジィさん特性の団子スープが待っていた。

 リジィさんには色々とお世話になってしまうな。


「いつも済みません」

「アオイ達と一緒なら楽しいにゃ。マルティ達も言うことを良く聞くにゃ」


 ほんとかな? いつも俺の道具を取り出そうとしてナツミさんに怒られているんだけどね。

 ナツミさんも苦笑いを浮かべているから、俺と同じ思いに違いない。本人達は、美味しそうに団子スープを頂いてる。


「それで、少しは釣れたの?」

「大漁にゃ! 今夜は唐揚げにゃ」


 マリンダちゃんが笑顔でナツミさんに答えた。

 スープ皿をカマドに持って行った、ナツミさんが保冷庫の蓋を開けて、目を見開いている。

 

「カゴに1杯あるわ! こんなに釣れたの」

「私と、マルティ達で釣ったからそれぐらいにゃ。まだアキロンには無理にゃ」


 ナツミさんの声に、俺もベンチから腰を上げて保冷庫を見てみた。確かに大きなカゴに山盛りになっている。50匹以上は釣り上げたに違いない。

 午後は早めに素潜りを終わらせないと、釣れたカマルを捌くのに苦労しそうだ。


「今度は、私にゃ!」

「ブラドもいたけど、バヌトスも大きいのがいたよ」

「なら、頑張るにゃ!」


 今度はマリンダちゃんが一緒だ。

 日が傾くまで、魚を突いてトリマランに戻ると、オルバスさんのカタマランが横付けしてあった。

 たぶん夕食を一緒にということなんだろう。となると……、反対側にラビナスのカタマランが近づいてくる。

 今の内に、ザバンをトリマランの船首に引き上げておこう。


 船首での作業を終えて、船尾の甲板に戻ってくると、オルバスさんとラビナスがベンチでお茶を飲んでいた。

 互いに片手を上げて挨拶すると、トリティさんがお茶を運んでくれた。ナツミさんは? と辺りを眺めると、大きなマナイタの上で魚を捌いている。


「だいぶ獲れたにゃ。私の船から2つ運んできたにゃ」

「そんなに多いんですか?」

 思わずトリティさんに聞いてみた。

「まだまだ掛かるにゃ。ザルに5つは確実にゃ!」


 俺達だけの漁果ではないな。

 となると、マリンダちゃんとアルティ達の釣果が想定外ってことに違いない。


「まったく、アオイの娘だけのことはあるな。半人前の歳には、お前を追い越しかねん」

 オルバスさんがおもしろそうな表情で俺を見てるんだけど、ラビナスは少し真剣な表情をしている。

 やはり、同じ世代の子供と比較しても異常だということなんだろうな。


「惜しむらくは、少し型が小さい。トリティに言われて一夜干しを作ろうとしているようだが、果たして商船が買い上げてくれるかが問題だ」

「1YM(30cm)に、少し足りないようです。でも、カマルはカマルですからね。商船が引き取ってくれないなら、氏族の連中のおかずにすればいいんです」


 ラビナスの話に頷いてはみたものの、意外と売れるんじゃないかな?

 サイカ氏族の漁が振るわないなら、小型のカマルを子供達が釣ればいい。

 そうなると、子供達に向いた釣りを考えなくちゃならないだろう。釣り針だって、少し大きいはずだ。


 カマルの唐揚げにカマルの塩焼き……。そんなおかずが付いた夕食を頂いたところで、ランプに明かりの下で、今度は根魚を釣ることにした。

 上手く行けばシメノンが来るだろう。明日には、島に戻るんだから、あまり遅くまでは漁を続けられないんだけどね。


 月が中天に掛かるころに、根魚釣りを終わりにする。3人でバヌトスが12匹だから、まあまあというところだろう。

 捌いたバヌトスをザルに入れて、家形の屋根に乗せる。

 寝る前に、ナツミさんが保冷庫を【クリル】で汚れを落とし、【アイレス】で作った氷を入れていた。

 簡単な保冷庫だから、少しでも保冷庫の温度を下げておきたいんだろうな。


 翌朝は、色々と忙しい。

 ナツミさんが子供達の世話をしている間に、マリンダちゃんと家形の屋根のザルを下ろして、一夜干しを保冷庫に入れる。

 全部入れたところで一夜干しを入れたカゴの上に布をかぶせると、俺とマリンダちゃんが【アイレス】で氷を作って乗せておく。

 4個も大きな氷があれば、じゅぶんに冷えるだろう。昼頃に、ナツミさんに氷を追加してもらえばいい。


 朝食はトリティさん達が作ってくれた。リジィさんがチマキを8つもくれたから、昼食はチマキとココナッツジュースに決まったようなものだ。

 バレットさんの法螺貝の合図を聞いて、急いでアンカーを引き上げる。

 操船楼に手を振ると、マストに白い旗が上っていく。


「最初はマリンダちゃんなんだ!」

「この針が、2つ進んだら交替するにゃ」


 俺の腕時計はまだ使えるみたいだな。時計で時間の経過が分かるようになったんだからたいしたものだ。

 甲板に下りると、マルティ達がタープの下で積み木をしている。

 退屈凌ぎに、何かおもちゃを買ってやるべきなんだろうか? いつまでも積み木では可哀そうな気もする。


「たくさん魚を釣ってくれたんだから、何か買ってあげたいね」

「おもちゃかな? 小さい子用のスゴロクがあるようだから、それでいいよね。それと、アオイ君やマリンダちゃん用の釣竿は少し長すぎるわ」

「子供用の釣竿ってことか? それは俺が作ってやるよ。アキロンも欲しがるだろうしね」


 素潜り用の釣竿は、トリマランの上からでは使えないからな。甲板で釣りをするなら、俺も安心できるし、上手くいけば長く続いている夕食のおかず釣りから解放されそうだ。

 急に止めるのもなんか寂しいけれど、たまには子供達と竿を並べて話をするのも良いんじゃないかな。


「急に、笑みを浮かべてどうしたの?」

「ああ、たまには一緒にアルティ達と桟橋で釣りができそうだと思ってね」

「夕日を見ながら、人生を説こうなんてまだまだ早いわよ。でも、父さんと一緒なら喜ぶんじゃないかしら?」


 ナツミさんが笑い出したのは、そんな光景を思い浮かべたに違いない。

 だけど、ナツミさんだって父親と一緒に曳釣りやコウイカ釣りをしてたんだから、その血は受け継がれてるんやないかな。


 バレットさんが率いる船団は、だいぶゆっくりと進んでいるようだ。

 トリティさんがぶつぶつ言いながら操船している姿が目に浮かんでくる。トリマランの操船は、ナツミさんに代わっているけど、家形の屋根の上にはアルティ達が手を繋いで座っているようだ。

 麦わら帽子を被っているし、子供用のサングラスまで掛けているんだが、落ちないかと心配してしまう。

 たまにタープから顔を出して家形の上を眺めるのを、呆れた顔でマリンダちゃんが見ているようだ。


「心配ないにゃ。腰のベルトにロープを通してあるにゃ」

「そうなのか? それなら安心できそうだけど」

 

 そんな発案はナツミさんになるんだろうな。自分の子供時代を思い出して少しは安全策を考えているようだ。


「マルティ達におかず釣り用の竿が欲しいにゃ!」

「それは、朝方にナツミさんとも話し合ったよ。俺に任せてくれ」


 マリンダちゃんも、同じ思いなら問題はないな。

 となると、島に着いたら炭焼き小屋を訪ねてみるか。問題は仕掛けだよな。

 俺達のように浮き釣りということにはならないだろう。

 小魚相手に釣りをするなら、サビキ釣りになるんだが……。俺のタックルボックスにはそんな仕掛けは入っていない。すでに卒業した釣りだからね。

 釣り針の数を少なくしたサビキ仕掛けを作ってやるか。

 問題は、サビキ用の釣り針をどうやって作るかだ。魚の皮を剥いで接着剤で止めることになるんだろうか。


「カマルの開きを1匹貰っていいかな? 皮を薄く剥ぎたいんだ」

「皮が欲しいのかにゃ? なら、作ってあげるにゃ。身はスープにするにゃ」


 マリンダちゃんがアキロンを抱えて家形に入って行った。

 寝付いたようだから、ハンモックに入れてくるんだろう。

 直ぐに家形から出ると、保冷庫からカマルを1匹取り出した。皮を薄く剥ぎとるのは意外に難しいんだけどね。

 

「出来たにゃ! これをどうするにゃ?」

「陰干しにしといてくれないかな? 使うのは氏族の島に戻ってからだから」


 頷いたところで、鍋に残った身を入れてカマドに掛けている。このまま昼食用のスープを作るのかな?

 それにしても、船足が遅い。

 バレットさんのことだ。夜に戻って長老への報告を明日に伸ばすつもりなんじゃないか? 氏族のことをいつも考えているようなんだけど、そんなところに自分を出すんだから困った人だ。

 だけど、オルバスさん達と仲が良いのは、そんな人間性にあるのかもしれない。

 オルバスさんにも気まぐれなところはあるからね。トリティさんは少し多すぎるように思えるけど。

 

 昼近くになったところで、マリンダちゃんが操船を替わる。アルティ達もナツミさんと一緒に下りてきたから少しは安心できそうだ。

 昼食はトリマランを停めずに取るようだから、昼食の準備ができたところでマリンダちゃんと交替する。

 子供達が多いから、食事時はお母さん達は忙しそうだ。

 

 俺が操船楼に入っても、やることは舵を握るだけだ。

 その舵だって、ほとんど動かすことも無いんだよな。微妙なコースの修正だけで、大きく舵を切ったり、船足を変えることはない。

 そんな事態が生じたら、すぐにナツミさん達が俺を操船楼から追い出してしまう。

 

「先に頂いたにゃ。今度はアオイが食べる番にゃ!」

「後は頼んだよ。だいぶ近づいてきた気がするけど、まだカゴ漁の船団が見えないんだよね」

「この近くにゃ。もっと東に移動したかもしれないにゃ」


 どうやら、氏族の島に半日というところなんだろう。やはり、バレットさんの思惑通りになりそうだ。

 甲板に下りると、ナツミさんが俺の昼食を用意してくれた。

 案の定、魚のスープにチマキなんだけど、好物だから思わず笑みが浮かんでしまう。


「スープの切り身に皮が付いてないってことは、サビキ用ね?」

「子供達には丁度良いんじゃないかな? 餌を一々付けないで済むからね。できればビニルが良いんだけど、俺のタックルボックスには無かったんだ」

「後で、私のバッグも調べてみるわ。使えそうなセロハンがあるかもしれない」


 セロハンなら理想的だ。他の子供達用にも拵えておけば喜ばれるかもしれない。いや俺が作るよりグリナスさんやラビナスが作るべきなんだろう。

 子供達に尊敬される父親になりたいのは俺と同じだと思うな。


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