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N-028 龍神の導き

 ネコ族の人達は龍神と言ってたな。

 これは天啓なのだろうか? 龍神の魚体が示す方向に俺達の求める島があるのだろうか?


「龍神だ……。カイト、この先に向かうべきだぞ!」

「俺も賛成だ。場合によっては最大船速で戻ることになるが、龍神の導きなら父さんだって無視できないはずだ」


 バルテスさんが俺達のリーダーだから、ここはバルテスさんの言葉に従おう。

 船が向きを変えると、俺達を先導するように長い体をした魚体が泳ぎ始めた。かなりの速度だがどうにか後を追える。

 夕暮れが迫ると、まるで魚体が発光しているように見える。数m下を泳いでいる以上、暗礁に乗り上げる危険性は無い。

 半月が海上を照らす中、前方に大きな島影を見ることができた。

 俺達が、前方の島を互いに指差して確認し合っていると、発光する魚体は段々と深みに姿を消して行った。


 俺の船の両舷にラディオスさん達の船が接触するように並んでアンカーを下ろした。

 前方の島まで100mもない。明日は簡単に島を探索して戻ることになるだろう。

 船のロープを俺の船に結んでバルテスさんとラディオスさんが乗り込んで来た。

2人の嫁さんも一緒だから、ここで一緒に夜食を取ろうって事だろう。

 嫁さん連中に仕度を任せて、俺達はさっきまでの出来事を確認し合う。


「やはり龍神のお告げに違いない。長老だって納得するだろう」

「でも、水と入り江は最低限必要です。大きな島ですから丸太小屋なら立てられそうですけど」

 ラディオスさんに釘を差しておく。

 

 翌日。日の出を待って俺達は島を一周することにした。

 かなり大きな島だ。氏族の暮らしていた島の2倍はあるんじゃないか? 中央の山も300m近くありそうだ。これなら水場も期待できるな。

 島を時計回りに回って、南に船が進んだ時だ。

「「何だ(にゃ)!!」」

 まるで、砂山を手ですくったように、山の半分近くが崩れて大きな入り江を作っていた。

 火口の跡なんだろうか? 入り江の奥行きは300m位だが横は500m位ありそうだ。海の色も周囲と異なり濃紺に染まっているからかなり深いんだろうな。


「あそこを見るにゃ!」

 リーザが腕を伸ばした先を見ると、細い滝筋が見える。水場があるという事だろう。

 他の2隻が俺の船に寄って来た。船が1m程に近づいた時、バルテスさんが飛び乗って来た。続いてラディオスさんが乗り込んでくる。


「さすが龍神に導かれた島だな。水場はあるし、崩れた山が緩やかな傾斜を作っている。小屋どころか畑作ができるぞ」

「兄さん、これからどうするんだ?」

 ラディオスさんがパイプにタバコを詰めこみながら聞いている。

「皆に知らせなくちゃな。俺が戻る。その間に2人は島の調査をしといてくれ。父さん達が来たら簡単な説明ができる位にだぞ」


 俺達が頷いたのを見て、バルテスさんが大きく頷いた。

 直ぐにケルマさんに手を振って船を寄せて飛び乗った。船が俺達からどんどん離れてく。かなりの速度を出しているようだが、壊れないのか心配になって来たぞ。


「どれ、兄さんが報告に行ったなら、俺達も色々とやることがあるぞ。先ずは、入り江に入って、船を泊めようぜ」

「でも、干満の差が分かりませんよ。下手に泊めて水車を壊したら……」


 そんな俺に笑いながら、入り江の西にある大きな岩を指差した。

「あれが見えるか? 貝が真っ直ぐ横に着いてるだろう。あれが満潮の水位だ。この辺りの干満差は1YM(30cm)程だから、今が干潮だろう。入り江に入るのに何も心配は無いぞ」


 そういう事か。

 改めてラディオスさんの考えに賛意を示すと、ラディオスさんもオリーさんに手を振って、船を寄せて去っていく。

 先を進む、ラディオスさんの船の後を付いて入り江に入ると、水深が3m程のところにアンカーを下ろした。


 ザバンをサリーネ達と一緒に下ろして、俺とラディオスさんで島に向かう。サリーネ達は食事の準備をするようだ。ライズがおかず釣り用の竿を持ち出しているけど……、釣れるかな?


入り江の奥は砂浜が弧を描いている。入り口付近は三日月のように丸く張り出しているが、間隔は100m程も開いているから、動力船の出入りに何の問題も無い。それに入り江の真ん中付近まではかなりの深さだ。俺達が動力船を泊めた場所はサンゴが茂っているが、それほど大きなものは無いようだ。

更に砂浜に近付くと、岸から30m程まででサンゴは終わっている。後は細かな砂が鬱蒼とした熱帯の木々の森に続いていた。

砂浜は奥行が20m程だ。満潮になったら5m位になってしまうな。

 ザバンを浜に付けると、ロープを伸ばして突き出た岩に結び付けた。


「先ずは、水場だな。滝が見えたんだが……」

「あっちに見えたぞ。サンダルは履いて来たな? この辺りの島には危ない奴はいないが、ジャングルに入る時は、必ず履くんだぞ」


 一応、靴を持ってきたぞ。安物のデッキシューズだが、ジャングルならサンダルよりは良いだろう。

 鉈で下草を切りながら、朝方見えた滝を目指す。

 30分程掛かってしまったが、これほど木々が密集してなければ10分も掛からずに来れるんじゃないかな。


 滝は岩の割れ目から吹き出していた。量は氏族の島の水場の優に数倍はあるだろう。10mに満たない滝だが、この辺りにはこんな風景は無いんだろうな。滝の下は岩盤があるようだが、その1部に1m程の穴を作っている。そこから流れた水は小さな流れを作って入り江の西に流れているようだ。


「十分じゃないか? 氏族が3倍になっても困らないぞ」

「そうだな。それにここまでの土地だってあまり急じゃないぞ。ジャングルを開けば平坦な土地になるんじゃないか」


 とは言え、手間は掛かりそうだ。

 だが、これから氏族の拠点を移動することは無いとの事だから、トウハ氏族の島として十分に使えそうだ。

 

 浜に戻って、ザバンで動力船に向かう。

 朝食と昼食を兼用したような食事を取ったところで、俺の船にラディオスさん達がザバンでやってきた。

 お茶を飲みながら、次の作業を考える。


「これだけの入り江だ。動力船を100隻だって停泊できるぞ。水も十分にある」

「水場までのジャングルはそれ程起伏がない。その北側は斜度があって大きな岩がごろごろしてたな」


 水場は入り江の奥から西側にある。水場の周辺は確かに大きな岩がごろごろしてたし、水源もそんな岩の1つの亀裂からだった。

 だが入り江の中央付近はなだらかに見えるな。ジャングルの奥に200m位は開墾できそうだぞ。


 入り江の横幅だけで500mはあるのだ。桟橋を10本以上作れそうだし、岸から20mも桟橋を伸ばせば動力船を泊められそうだ。

 村造りを始めるにしても、先ずは桟橋作りからになりそうだ。となれば、杭をたくさん作っておいた方が良さそうだぞ。


「ジャングルを伐採しながら、杭をたくさん作っておけば役に立つんじゃないかな?」

「杭か……。確かに、ザバンを流されないようにしなくちゃならないし、桟橋だって必要だな。作っておくか」

「私達はカマドを作るにゃ。皆が集まったら、直ぐにも必要にゃ!」


サリーネ達にもやることがあるみたいだな。となると、鉈と水筒位は持って行くか。

 お茶を沸かして水筒に詰め、カゴに入れてサリーネが持って行く。2隻のザバンに分乗して浜に着くと、俺とラディオスさんは、ジャングルの木を伐り倒し始めた。

 直径15cm程の広葉樹が俺達の行く手を阻んでいる。

 2人で交代しながら、1本ずつ斬り倒していく。


 斬り倒した木を浜に持って行き、邪魔な枝を払って長さ5YM(1.5m)と1F(3m)の杭を作る。数本ずつ作ったところで夕暮れが迫って来た。

 サリーネ達と一緒にザバンに戻る。

 夕食をラディオスさん達と一緒に取って、カップ半分程の葡萄酒を皆で味わった。

 

「今頃兄さんは船を走らせてるんだろうな?」

「そうだね。バルテスさんは責任感が強いからね」

「父さん達も、こっちに来てるかも知れないにゃ」


 ライズは楽観的だな。向こうだって、懸命に島を探しているはずだ。

 バルテスさんは向こうに付いてもしばらく待つことになるかも知れないぞ。

 そんな事を考えながらパイプを持って南を眺めた時だ。気が付かなかったが、南にも島がたくさん見えるぞ。

 距離は10km近く離れているから動力船でも1時間は掛かるんだろうけど、大きさは皆小さいものだ。

 この島が特別なんだろうか? ちょっと気にはなるけど、他に適した島があるとは思えないな。


翌日も朝から杭を作る。

 どうにか長短共に30本を作ったところで、2日目が終わった。

 3日目は、浜に焚き火を作って作った杭の表面を焼いて行く。生木をそのまま使うより、表面を炭化させた方が長く使えるからな。

 ラディオスさんもその事は経験で知っているようだ。

 パイプを咥えながらのんびりと杭を焼いて行く。今頃はバルテスさんが他の動力船と合流している筈なんだが、連絡手段が無いからここで待つしかないな。


 サリーネ達が作っていたカマドは鍋を5つも掛けられるぞ。

 あちこちから石やサンゴを運んで、砂で隙間を塞いでいる。粘土みたいな細かな砂だから出来るようなものだな。仮のカマドだからこんな物でも良いのだろう。

 船上ではないから、安心して調理ができると嫁さん連中が喜んでいた。入り江に少しザバンを漕ぎ出せば、小型のカマルがたくさん釣れる。

 ちょっとばかり贅沢な食事が味わえるな。

 

 船上から見付けたココナッツを採りに皆で島の東に向かう。

 背負いカゴに詰められるだけ詰めて、俺達が浜に戻ってきた時だ。沖に動力船が見えた。

 カゴを浜に置いて急いで俺達の船に戻る。

 「海賊って事もあるぞ」とラディオスさんが呟いた一言がこんなに俺達を慌てさせる。


「海賊じゃないにゃ。あれはエラルドさんの船にゃ!」

 俺の双眼鏡を使って船を見ていたライズが大声で教えてくれた。

 銛を用意していた俺の手が止まり、再び紐で銛を結びなおした。

「仲間か?」

「そうにゃ。後ろにも続いてるにゃ」


 改めて、入り江の西を眺める。一列になってゆっくりと進んでくるのはどう見ても俺達と同じ型の動力船だ。

 数は4隻のようだ。2隻残ったという事は、1隻が氏族の島に向かって、もう1隻はこの島に向かうための方向転換を行う島で待機してるんだろう。



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