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N-025 ダツは曳釣りで

 漁場は、東南東に丸1日進んだ辺りになるらしい。

 昼夜を問わず真っ直ぐに南に船は進んでいる。操船は3人任せだから、その間に曳釣り用の竿をこしらえておく。

 最初はリール竿やシーブル用の短竿を使おうと思っていたが、船で仕掛けを曳くとなると、荷重が掛かりすぎる。


 出発前にラディオスさんに頼んで数本の竹竿を運んでもらったから、これを加工して4m程の長さの竿を作った。先端に洗濯ばさみのような仕掛けを作って道糸をつまみ船から離して仕掛けを流す。上手く掛かれば洗濯ばさみから糸が離れるから、後は手繰り寄せれば良いわけなんだが、上手く行くかどうかは分からないな。

 ラディオスさんはシーブル用の竿を一回り丈夫に作りような事を言っていたから、後で互いに比較してみよう。

 

 それよりも、バル(ダツ)狙いだけでは面白味が無いな。カマル(カマス)やシーブル(ハマチ)の大型も曳釣りなら狙えそうだ。

 ダツ用のプラグからハリスを伸ばして魚を模したプラグを結んでおく。5cm程の小さなものだが、これを狙うなら50cmクラスに違いない。


 丸1日船を進めた夕暮れ近く、ホラ貝の音が聞こえてきた。船団が左右に分かれて、間隔を100m程に取る。

 この辺りの海域は島の間隔がやけに広い。少なくとも数kmはありそうだ。横1列に並走しても海の真ん中を進んでいる感じだ。


「速度を落とすにゃ。カイト、バルの仕掛けを下ろすにゃ!」

 4mの竿の先端に付けた洗濯ばさみに道糸を通して、道糸に付けてあるヨリ戻しに仕掛けを結ぶ。仕掛けを海に落として竿を舷側から出せば、後は道糸を伸ばすだけだ。20m程伸ばして、糸巻を屋根を支える柱に付けたフックに引っ掛けておく。

 これで片側は済んだから、もう1つの竿にはリール竿から伸ばした道糸を挟んで海に仕掛けを流す事にした。


 さて、誰が最初に掛かるんだろう。ベンチに立って、同じように仕掛けを流している船の様子を探る。

 サリーネの話では、この海域の水深は15m以上あるそうだ。

 外洋から色んな魚な海流に乗ってあちこちのサンゴ礁に移動するらしい。という事は魚の通り道って事だろうが、果たしてダツは釣れるんだろうか?


 船の速度が低速になったことから、サリーネが夕食の準備を始めたようだ。

 この船の操船はライズが現在は行っている。リーザはライズの隣で俺と同じように他の船の様子を見ているようだ。


 夕暮れが終わるとどの船もランタンを下げる。2つどころか4つも下げている船があるぞ。

 2組の夫婦が乗っているから、自前のランタンを運んできたんだろうな。俺のところももう1つあるから、魚が掛かったらLEDランプを使おう。


 全く、当たりも出ない。

 2時間程船を動かしたが、他の船も釣り上げた様子が見えないな。

 ベンチでお茶を飲みながらパイプを楽しんでいると、突然ライズが大声を上げた。


「あっちでバルが掛かったにゃ!」

「バルは群れるのか?」

「釣れる時は一斉に掛かると聞いたにゃ!」


 急いで、お茶を飲み干してパイプを仕舞い、左右に伸ばした竿に目を凝らす。

 左の竿がバタバタと揺れ出して、弓形になった竿が真っ直ぐに伸びた。

 先端の洗濯ばさみから道糸が外れたようだ。リール竿に駆け寄って、リールを巻き始める。掛かったのはどちらのプラグか分からないけど、素早く上げない事には次に繋がらない。

 ようやく仕掛けまでたどり着いたところで、糸を手に持って獲物を甲板に引き上げる。

 

「バルにゃ!」

 ライズの喜ぶ声が聞こえてきたけど、やはりダツだよな。サリーネが棍棒で頭を殴って動かなくなったところで、プラグに食い込んだ口を開けてプラグを取り出す。1cm位の鋭い歯が付いているから、プラグの繊維に歯が食い込んで外れなくなったって事だな。

 獲物をサリーネに任せて、素早く竹竿の洗濯ばさみに仕掛けを通して再び流し始める。


 先ずは1匹だな。

 数分も経たずに次の当たりが来る。同じように取り込んで、漁を続けた。

 それにしても、右の竿には全く当たりが出ないな。糸巻からさらに糸を数m伸ばして様子を見ることにした。


 夜明けまでに釣れた数は5匹。左が4で右が1なんだが、原因はどうやら仕掛けを流す糸の長さにあるようだ。リール竿にセットしてある太鼓リールには10号糸が120mだが、右の糸巻には20号の糸を30m程巻いてあるだけだ。どうやら30m以上後ろに流す必要があるらしい。

 急きょ、予備の糸巻に50m巻き付けて対応することにした。元々糸巻には200m巻いてあるだけだから、更に仕掛けを作る事はせずに、商船から道糸を買い込む必要があるようだ。

 魚種によって仕掛けを選ぶのは面倒だが、郷に入っては郷に従えって言葉もあるくらいだ。俺も基本は皆と同じにしないとダメなんだろうな。


 今度は、左右どちらも30m以上糸を伸ばして走らせる。

 午前中に40cm以上のシーブルを4匹釣り上げバルは3匹だった。

 午後はサリーネ達に任せて、夜に備えて昼寝をする。

 夕暮れ時に目をさましたのだが、彼女達の釣果はシーブルとバルを3匹ずつだったようだ。


「リールと言うのが付いてると簡単に巻き上げられるにゃ。手で手繰るのは大変だったにゃ」

「あれはちょっとした金属加工が必要なんだけど、商船のドワーフに作れるかな?」

「簡単な柄を書くにゃ。それで相手が納得してくれたなら作って貰えるにゃ」

 

 確かにリールがあれば色々と役に立ちそうだ。単純な太鼓型なら、歯車を組み合わせなくても出来そうだな。ついでにガイドを作って貰えれば言う事無しだ。

 蒸したバナナとココナツジュースと言うダイエットに良さそうな夕食を頂いて、夜釣りが始まる。


 2昼夜の漁を終えて、小さな島の入り江に船団が集まり一晩を過ごす。

 各船で釣果はかなり上下しているようだ。

 今回俺に付いて来た連中には気の毒だったが、いつも豊漁とは限らないからな。それでもバルを10匹以上は釣り上げたらしい。


「カイトに教えられたように、長竿にガイドを付けて左右に伸ばしたんだ。水車に絡まる事が無いから、余分な時間を潰さずに済んだよ」

「カイトは、少し変わった仕掛けだったな。竿は使わずに手で手繰っていたが? それにシーブルなんてどうやって釣り上げたんだ?」


「あれは、船から糸を遠ざけるだけに長竿を使ったんです。エラルドさんに貰った仕掛けの下に、これを結びました。シーブルはこれに食いついたんです」

 俺が獲り出した小魚を模したプラグを興味深く見つめている。


「とはいえ、手釣りだと水車に巻き込まれそうになったのは1度や2度ではありません。それは少し考えてみるつもりです」

「これに食いつくのか……、俺達も作ってみるか」


 ラディオスさんがプラグをジッと眺めながら呟いている。

 氏族の島に戻ったら早速作り始めそうだな。

 皆が帰ったところで、食事になる。

 簡単な食事ではなく久しぶりの米のご飯に野菜スープだ。アンカーを下ろしたところでリーザが釣り上げた小型のカマルがぶつ切りで唐揚げになって出てきた。

 今夜は漁をせずにゆっくり休む。明日は昼夜を問わずに氏族の島を目指すのだ。


・・・ ◇ ・・・

 

「いつも、竜人の加護があるわけでは無いようだ。それでもいつもの曳釣りの釣果よりは多いだろう。それでも、カイトはシーブルを釣り上げているから、やはりカイトには幸運が付いていたようだな」


 エラルドさんがそんな事を言って笑っている。

 獲物は嫁さん連中が燻製小屋に運んで行った。小屋を大きくしたので一夜干しの状態で商船に売らずに済むとラディオスさんが教えてくれた。


「燻製にした方が日持ちがするし、売値も高くなる。問題は薪だが、近くの島ではなくて少し離れた島から運んでくるんだ」

「たまに、不漁だった船が薪を運んで来るから、島に戻る船を見てるといい。2YG(ヤグ:6kg)で5Dになるそうだ」


 1YGがどれ位の重さかを聞いたら、ラディオスさんがおよそ22YGだと教えてくれた。

 俺より少し低いから170cmと言うところだろう。少し筋肉質だが贅肉は無さそうだ。65kg前後の体重だとすれば、1YGは3kgと言うところだろう。


 続けて2度も薪を運んで来ると皆の笑いものらしいが、無くても困ると思うな。

 その辺りの職業意識は直して欲しいとおもう。


 そんな話をしていると、サリーネ達が買出しから帰って来た。

 上手い具合に商船が来ていたから、魚の報酬で食料や生活用品を買い込んで来たらしい。


「リールは明日の昼には出来るって言ってたにゃ。銀貨2枚だけど2個を頼んでおいたにゃ。ガイドは10個で銀貨1枚にゃ。今回は出る方が多かったにゃ」

 リーザが報告してくれたけど、必要な物は買うしかない。また頑張って漁をすれば蓄えもできる筈だ。


「リールとガイドって、カイトが最初から持ってた物だろう?」

「ああ、今回の曳釣りで少し分かったことがあるんだ。最後まで竿を使って取り込めば、リーザもシーブルを釣れるってね。それと、俺の道糸は少し細いんだ。皆と同じ太さの糸を巻くためのリールを作って貰うんだよ」


「今なら、作って貰えるって事か? それなら俺も作って貰おう!」

 ラディオスさんが立ち上がって、自分の船に戻っていく。直ぐに船から出て来ると、商船に向かって桟橋を走ってるぞ。


「妻を素潜り漁に参加させる者は少ないが、動力船からの釣りなら話が別だ。道具を揃えておけば、漁場に向かいながらでも漁が出来そうだな」

「途中で漁をするってか?」


 そんな声を出して、俺の船に乗り込んで来たのはグラストさんだった。

 これで、もう1人集まると酒盛りが始まりそうだな。とりあえずライズがお茶を渡してるけどね。


「不漁と聞いたが、普通じゃねえか。気を落すことはねえぞ」

「そうでもない。カイトはシーブルだけでも10匹以上釣り上げている。1YM半(45cm)程の立派な奴だ」

 エラルドさんの話を聞いて俺を睨んでるぞ。どうやったかを教えろって事か?


「バルの仕掛けの下にこれを付けたんです。プラグと言って、シメノン釣りに使ったものと考え方は同じです。餌だと思って食いつくんです」

「確かに、小魚に似ているな。これと同じものを作るのは骨だが、小魚そのものを釣り針に付けて流すことは出来そうだ。バルよりもシーブルの方が値が高い。これも皆に広めたいな」


 さすがはグラストさんだな。直ぐに釣りの仕掛けの改造に思いがいったようだ。

 それに小魚そのものを使うならプラグより簡単だし、新たにプラグを作らなくても済む。

 トウハ族の漁の仕方が、少しずつ変化してきているな。

 乱獲には程遠い漁の仕方だから、釣果が少し上がる位だろうけどね。



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