表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/654

N-024 コウイカは高価らしい


 出来上がるまでに3時間程掛かったみたいだ。

 後2時間以上日が照っているから、今夜の漁には使えるだろう。

 餌木を2個作ったから、釣竿と手釣りの両方が使えるな。釣竿はリーザ達に任せて、手釣りで他の男達と腕を競ってみるか。


 釣って直ぐにさばくんだったら手元が明るい方が良いな。確か、太陽光で充電できるランタンがリュックにあったような……。

 俺の荷物箱を開けてリュックを取りだす。俺のには無いって事は、友人のリュックか? がさがさと中身を取り出してると、小さなランタンが出てきた。カサの部分が受光器になってるぞ。電池がどれだけ持つか分からないが使えるだけ使って壊れたら捨てれば良い。落ちないように屋根に紐でくくって、しばらく充電することにした。

 LEDライトだから消費電力は少ないけど、結構明るいことは分かってる。


 早めに夕食を取り、日の落ちるのをお茶を飲みながら眺める。

 今夜も晴天らしい。東の空にはすでに半月が出ている。

 日が落ちると、直ぐに暗くなる。あちこちの船でランタンが灯された。

 俺達の船にもサリーネがカマドの火でランタンを灯した。

 他の船の反対側になるように、釣り座を決めると、甲板に伸びた屋根の梁にランタンを吊り下げる。


 まな板と包丁を持ったサリーネが俺達の後ろに場所を移したのを見て、サリーネの近くにLEDライトを吊り下げてあげた。

 LEDライトを点けるとその明るさに驚いている。


「ランタン3つ分はあるにゃ!」

「これを回せば点灯するんだ。それまでは消しとくからね」


 どれ位点灯してるか分からないから、最初は慎重に行こう。

 リーゼ達が海面をジッと眺めてイカの姿を探している。見張りは任せて、その間に一服を楽しむ事にした。

 たぶん群れで移動しているだろうから、その内この辺りにやって来るんだろう。

 それでも、あちこちの船から身を乗り出すようにして、コウイカの姿を探す人影が見える。やはり自分の作った餌木が効果があるか早く試したいに違いない。


「見えたにゃ! 一杯いるにゃ」

「こっちの竿を使うにゃ!」


リーザとライズが俄然元気になったぞ。渡した竿を使って器用に餌木を投げ込んでる。

確かに海面下に白い影がたくさん見える。俺も、糸巻から糸を繰り出して、餌木を遠くに投げ込んだ。

 一定のスピードではなく、軽く腕を上げてしゃくるように道糸を手繰り寄せる。

 そんな動作をしていると、ズン! と道糸に重みが加わった。今度は手早く一定の速度で糸を手繰る。

 やがて、ピューと墨を吐いて、コウイカが俺の手元に上がった。ホイ!っと後ろにいるサリーネの前に置いたザルに乗せると、サリーネは頭上のLEDライトを点けて、素早くコウイカをさばき始めた。


「釣れたにゃ!」

「今度は私にゃ!」


 少し離れた場所で竿を操っていたライズが、コウイカをサリーネに渡している。

 こっちも頑張らないとな……。


 あちこちの船からの歓声が聞こえて来る。ネコ族の人達は器用だからな。俺より上手に餌木を作ったんだろう。釣果が気になりだしてきたぞ。

 2時間程で急に釣れなくなった。

 群れが去ったのだろう。俺達の釣果は20枚を超えているぞ。これだけで銀貨1枚以上になりそうだ。


 仕掛けを片付けて、汚れを魔法で消し去ったところでお茶を頂く。時刻は10時を過ぎてるんじゃないかな。

 明日も漁は続くから、今夜はこの辺で寝る事にしよう。


・・・ ◇ ・・・


 午前中はブラドを突いて、夜にはコウイカを釣る。

 そんな漁を3日続けたところで俺達は氏族の島に帰ることにした。

 ブラドだけで判断すると、いつもより獲物が少ないらしいが、コウイカが付くからな。どの船の連中も機嫌が良さそうだ。

 何隻かの動力船が近づいてきて、俺達に果物を分けてくれた。感謝してくれてるらしい。

 単に餌木の作り方を教えただけなんだけどね。


 帰りは強行軍だから、2日で島に帰り着く。いつもの桟橋に船を止めると、商船が来ているようだ。

 こんな形の針が欲しいと、現地で俺が作った針を持たせて、商船に買出しに向かうサリーネに頼んでおいた。

 一夜干しの獲物はリーゼとライズが背負いカゴで運んでいる。獲物を運ぶのは、女性の仕事らしい。手伝いを申し込んだら断られてしまった。


 退屈している俺のところにエラルドさん達がやってきた。

 急いでお茶を作ろうとしたら、酒のビンを見せられた。今から飲むのか?

 カップを配ると半分位注いでくれる。これ位なら問題なさそうだな。

 それでも、俺達を横目に見て、リーザ達が再度獲物を背負いカゴに入れて出掛けて行った。


「かなりの漁だったな」

「あのシメノンが高価だとは知りませんでした。何匹かは夕食に頂いたんですが、甘味が絶妙ですね」

「カイト達も食べたのか? 俺達も食べたんだ。久しぶりだと、オリーが言ってたぞ」

「今夜、サディ姉さんに届けるとサリーネが言ってました。グラストさんのところへもです」


 30匹近く釣れたからな。少しは配ってあげよう。

「今夜の集まりで、餌木の事を皆に教えるつもりだ。見ることはあっても、どうすることも出来ずに今まではいたからな。釣れると分かれば皆が真似をするだろう」


 氏族は助け合うのが原則だ。知らなかったなら教えて貰えば良い。皆、結構釣り上げたみたいだ。

 リーザ達が帰って来て、カゴを甲板の端に置くと、お茶を沸かし始めた。


「240Dになったにゃ。24Dは世話役に渡してきたにゃ」

「ありがとう」


 2人に礼を言った時、「おもしろい釣りをしたそうじゃないか!」と言って船に乗り込んで来たのは、グラストさんだった。


「聞いたぞ。カイトに付いて行った船の全てが、シメノンを10匹以上釣り上げたってな」

「今夜、その釣り方を説明するつもりだ。やり方は意外と簡単だったが、何故今まで誰もやらなかったのか不思議に思うほどだ。餌に1D銅貨が必要だとは、お前だって考えもつかんだろうな」


 俺に目くばせをしたので、腰を下ろしていたベンチの蓋を開けて仕掛けを取り出し、グラストさんに見せた。

 しばらく餌木を眺めていたが、どうやら納得したらしい。


「ロデニルを模したのか? なるほど1Dが必要だな」

流石は筆頭漁師だけあるな。一目で餌木を見抜いたらしい。

「どうだ。作ってみたくなるだろう。2日目に俺達はそれを作って夜に試したんだ」

「シメノンだけを狙う事も出来そうだな。俺も、長老会議で説明することは賛成だ」


 帰ろうとするグラストさんに、ライズが1匹おすそ分けをしている。

 頭をかきながらも、嬉しそうに受け取ったグラストさんの笑顔が印象に残るな。

 リーザと仲が悪いと聞いていたが、親思いの良い子じゃないか。


「どれ、俺もサディのところに行ってくるか。リーザ、渡すのであれば持って行くぞ」

 エラルドさんの言葉に、リーザも1匹取り出して渡している。ラディオスさん達も渡すだろうから、サディさんは誰におすそ分けするんだろうな。


・・・ ◇ ・・・


 数日が過ぎると、餌木は氏族の間中に広まったようだ。

 島を離れて漁に出掛ける船団が、コウイカを持って帰って来るのは時間の問題だろう。一定量を商船に売れるのであれば、俺達の船を運んできた大型の商船もやって来るんじゃないかな。


 毎日暑い日が続くから、昼頃はいつでも小屋の中で昼寝をしている。

 舷側側にも窓を開けるから海上の涼しい風が吹き込んでくる。至福の時間だよな。食欲も昼間はさほどないから、朝夕に多めに食べるようになってしまった。

 

 少しスパイスの強い夕食を終えてお茶を飲んでいると、エラルドさんがラディオスさん達を連れてやってきた。


「カイト。バルを釣りに出掛けないか?」

 エラルドさんが誘ってくれたけど、バルって何だ?

「バルは、こんな魚だ。口が長くて歯がある。お前の作った餌木に似ているが、こんな仕掛けを船から流すと、掛かって来る」


 ラディオスさんが見せてくれたのは、木切れに綿のようなものを巻いて軽く丈夫な糸で巻き付けたプラグのようなものだ。どこにも釣り針は付いてないぞ。


「ひょっとして、この繊維にバルの歯が引っ掛かって取れないってことですか?」

「そうだ。あちこちでバルを釣るから商船には必ず置いてある。安いものだから買い込んでおくと良い。今は持ってないだろうから2個やろう」


 そう言って、ポケットからプラグを2個取り出して俺の前に置いた。

「食料は十分にあるにゃ。5日程島巡りをしてくる感じにゃ」

 サリーネがお茶を出して来て教えてくれた。

「なら、問題ありません。付いて行きます」


 出発は、明日の夕方らしい。夜の方が釣れるようだな。となると、少し準備が出来そうだ。

 動力船の船尾には水車が付いているから、水車に巻き込まれないように仕掛けを流す事になる。取り込みも同じだな。丁度竹竿のガイドがあるから、それを使えば良いだろう。リール竿も使えそうだ。


今回は、ザバンを置いて行くらしい。曳釣りって事らしいから桟橋にザバンをロープで繋いでおく。

さて、そろそろ出発かな? と思っていたら、竿を担いで何組かの夫婦がエラルドさん達の船に乗り込んだ。

ラディオスさんのところにはラスティ達が乗り込んでるし、バルテスさんのところにはヤックルさんが乗ってるぞ。

エラルドさんのところにも、どこかの夫婦が乗り込んでいた。


「バルは常に船を走らせるにゃ。交代で船を動かすから最低でも3人いないと漁が出来ないにゃ」

「俺達は4人だからこのままって事?」


 俺の質問にライズが頷いて答えてくれた。

 色々あるんだな。漁によっては乗船人員が問題になるって事か。覚えておこう。


「カイト出発だ。入り江で船団を組むぞ。漁場までは縦走で、漁が始まれば並走だ。後尾に付いてくれ。前の船に合わせて動けば問題ないだろう」


 大声でエラルドさんが教えてくれた。

 俺達の船は後進しながら、向きを変えて入り江の出口を目指す。操船は3人に任せておけば問題ない。俺は甲板で漁に専念するか。


 10隻近くの動力船が集まり、ホラ貝の合図で動き出す。2列で縦走するのは何時も通りだな。隣の船を見るとラディオスさん達が俺達に手を振っている。

 サリーネやライズの兄貴達だから、彼女達も手を振ってるぞ。

 オリーさんがラディオスさんやラスティさんに御茶を渡しているのを見て、慌ててライズがお茶を沸かし始めた。

 見てるとおもしろいな。小さいけど、ちゃんと俺達の家族として頑張ってる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ