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M-053 ナリッサさん夫婦と一緒に出掛けよう


 深夜に氏族会議から帰って来た俺とオルバスさんは、オルバスさんのカタマランの甲板に座ってワインを飲んでいる。

 トリティさんが焼いてくれたカマルを齧りながらワインを頂く。


「まったく魚が獲れなくなったから、釣り針を小さくした等とよくも考えたものだ。それでは稚魚まで釣り上げてしまうぞ」

「仕掛けを戻して、漁場を変えろと言いましたけど、守れない場合は魚のいない海ができてしまいそうです」


「私達はだいじょうぶなのかにゃ?」

「今のところは、釣り上げるのに便利な仕掛けを作っても、本来の仕掛けを大きくは変えていない。とはいえ獲物の型が小さくはなっているな」

「今回、島から1日の場所を禁漁にする提案を出しましたが、他者の反感を買うことはないでしょうか?

 俺の言葉に、おもしろそうな目をオルバスさんが向けてきた。


「それはない。皆も常々思っていたことだろう。聖痕の保持者の言うことで、彼等も納得しているようだったからな。たぶん、昔の外輪船での1日ではなく、カタマランで1日と彼らは思ったに違いない」

「ロデニル漁が問題ですね。彼らは2回引き上げるごとに、東に5MM(1.5km)移動するようだ。カタマランで半日ほどサンゴの崖が東に向かっている。サンゴの崖を東西に辿るだけで2年は掛かるんじゃないか?」


 新たなカゴ漁の有望な漁場を探すことも視野の内なんだろうな。そうでもしないと、サイカ氏族と同じことになりそうだ。


「ところで、まだまだ氏族会議は続くんですか?」

「そうだな。明日で終わるだろう。次の漁に出掛けるのか?」


 直ぐにトリティさんが海図を持って俺達の話に入って来た。どうやら、女性達の会話で情報を仕入れてきたらしい。


「東のこの辺りが狙い目らしいにゃ。良型のシーブルがたくさん運ばれてたにゃ」

「そうなると、この海域は他のカタマランでいっぱいですよ。魚が散ることを考えればここの海域はどうですか?」


 東南にある砂地の続いている海域だ。根魚釣りには全く向かないけれど曳釣りには都合がいい。それに何カ所かのサンゴの領域にはたくさんのサンゴの穴と呼ばれる深い穴があるんだよな。曳釣りが振るわなければ、早々に根魚釣りに転向できそうだ。


「おもしろそうだな。明日、ナリッサをヤグルに連れていくから誘ってみるか。場合によってはアオイに2人を頼みたいところだ」

「直ぐに曳釣りの道具を揃えるのは大変でしょうね。ナツミさんに話しておきます」


 俺達のカタマランに戻ってみると、ナツミさんはすでに夢の中だ。

 起こさないようにハンモックに入ると、目を閉じる。


 翌朝、船尾のベンチにナツミさんと腰を下ろしてお茶を飲む。本当のお茶というわけではなく、いろんな葉や木の実が入ってるんだよね。ナツミさんはハーブティーみたいだと言って喜んでたけど、たまに緑茶が飲みたくなる。


「それじゃあ、次の漁でナリッサさんの旦那さんが分かるのね! どんな人なんだろうね」

「カタマランを手に入れてすぐの曳釣りだから、俺達で教えないといけなこともあるんだろうね」


 果たして人に教えられるかと言うとかなり疑問に思ってしまう。仕掛けや道具は教えられても、その日の状況に合わせたプラグや弓角の使い方は、経験が大事でもあるのだ。

 経験だけは教えられないんだよな。


 朝食を終えたところで明日の準備を始める。曳釣り用の左右に展開する竿だって油を塗っておけば長く使える。リールの軸にも油を塗って竿にも油を塗った布で丁寧に拭いておく。

 プラグと弓角の釣り針をヤスリで軽く研いでいると、リジィさんに連れられたナリッサさんがやって来た。綺麗な白いワンピース姿だから、いよいよってことか? 慌てて、家形の中店を広げていたナツミさんに声を掛けた。


 家形の中から頭だけ出して状況を確認したナツミさんが、直ぐに家形を飛び出して俺の隣に立った。


「色々と世話になったにゃ。これからもよろしくにゃ」

「こちらこそ。またいつでも来てくださいね」

「アオイの釣竿なら、たくさん釣れそうにゃ。ありがとうにゃ」


 俺はうんうんと頷くだけだった。それでも俺の腕を握って何度もありがとうを繰り返すナリッサさんを見てると涙が浮かんでくる。

 隣のナツミさんはすでに泣き出してるようだ。防水バックからバンダナを取り出して渡してあげる。


 隣のカタマランの甲板にはカゴを背負ったオルバスさんが立っていた。やがて2人が桟橋を歩いていくのを、俺達は見送るだけになる。

 

「これでもう一人片付けば一安心にゃ!」

何て、リジィさんが言ってるけど、グリナスが嫁さんを貰うのはだいぶ先に思えるぞ。それよりはマリンダちゃんが嫁に行く方が早いんだろうな。


 昼食は、トリティさんから分けて貰った団子スープだった。ナツミさんも団子を丸めるのを手伝ったらしい。たぶん、このいびつな形がナツミさんの作った物なんだろう。

 だけど、それがかえってスープを上手くしみこませているようだ。こういうのをヒョウタンから駒っていうんだろうな。


「午後から水汲みに行ってくるよ。食料はだいじょうぶなの?」

「野菜と果物は島の売店で買えるらしいの。午後にリジィさんと出掛けて来るわ。主食はだいぶ残ってるのよ。早めに処分しないとね」

 

 バナナやココナッツは島でも買えるらしい。グリナスさんがいれば一緒に取に行けるんだけど、今頃は頑張ってサンゴを片付けているに違いない。


 翌日、扉を叩く音で目が覚めた。家形の外に出てみると、ナリッサさんとがっしりとした男性が甲板に立っていた。

 彼が、ヤグルさんになるのかな?


 甲板のベンチに腰を下ろすように伝えていると、後ろからナツミさんが出てきて挨拶を始める。

 これを使ってくれと、背負いカゴに一杯のココナッツとバナナが渡されたけど、俺達だけでは食べきれないな。隣のカマドの壁から首を出していたトリティさんと果物を分けることにする。


「やはり少し変わってるな。ナリッサに聞いてはいたんだが、俺のカタマランと比べてみると……」

 

 そんなに変ってるのかな? ヤグルさんはまじめな人のようだ。

 とりあえず簡単な説明をしといたから、何とかなるだろう。

 

 ナツミさんがナリッサさんと朝食を作り始めたところで、夜釣り用の餌を釣り始める。大きなカマルはおかずに取られてしまうだろうけど、数匹を確保しときたいところだ。塩漬けにした切り身はあるけど、やはり新鮮な方が魚だって食いつきが違う。


 シーブルの一夜干しを焼いたものがスープに入っていた。ちょっと焦げた感じがするのはご愛敬というところだろうな。美味しく頂いていたら、トリティさんが自作の未熟な果物の漬物を持って来てくれた。これが最高に美味しんだよね。

 

「そろそろ出掛けるか? 南東に1日進むぞ」

 食後のお茶を飲んでいる俺達に、オルバスさんが声を掛けてくれた。

「「了解です(しました)!」」


 ナツミさんは操船楼に上って行ったし、俺は屋根を歩いて船首のアンカーを引き上げる。片手を上げてアンカーを上げたことをナツミさんに知らせたところで後部甲板に行くと、舷側の緩衝カゴは引き上げられていた。ヤグルさんに礼を言うと、何でもないと手を横に振って答えてくれた。


「先頭はオルバスさんなんだろう?」

「操船はトリティさんですからね。安心して先を任せられますよ」


 操船楼を見上げて笑っているのは、ナリッサさんからナツミさんの操船を聞いたんだろうか?

 横滑りするような動きでオルバスさんのカタマランから離れるのに、目を丸くして感心しているようだ。

 

 やがてカタマランが氏族の入り江を出ると、速度を上げて一路南に向かう。

 南東方向なんだけど、先ずは南に向かって、昼過ぎに東に進路を取るつもりのようだ。

 ロデニル漁をしているサンゴの崖の先になるんだろうか? 海図の見方はいまいちだから、オルバスさんとナツミさんにその辺りは任せておこう。

 

 ナツミさんとナリッサさんで、操船を交代しながら予定通りにカタマランは進む。

 やがて広い海域が目の前に広がって来た。

 南北に1.5kmほど、東西には数十kmに及ぶ海域には邪魔になる小島も岩礁もない。

 前にも1度来たことがあるけど、豪雨で周囲が良く見えなかったんだよね。こんな光景だったんだ。

 南に開いた入り江のある島にアンカーを下ろしてカタマランを停める。

 いよいよ明日は本番だぞ。


 おかず用の釣竿を出すと、直ぐに魚が食いついてきた。

 同じカマルでも、大きさがだいぶ違うな。数匹を釣り上げてトリティさんに渡しておく。

 夕食は、豪華にカマルの炊き込みご飯と、バナナと香草の入ったバヌトスのスープだ。マリンダちゃんが夕暮れに釣り上げたらしい。


「明日は西に向かって曳釣りをする。昼過ぎに東に向きを変えるぞ。ヤグル、曳釣りは初めてか?」

「友人の船に乗せて貰ったことがあります。生憎と父さんは延縄の方でしたから」

「なら、アオイのところで良く教えて貰うことだ。前回も俺より数を出している」


 俺の肩をガシっと握って、ヤグルさんが頷いている。俺もしっかりと頷き返した。明日は何としてもオルバスさんより数を出さないといけないようだ。

 ココナッツジュースに蒸留酒を混ぜた酒をカップに半分ほど飲んで明日に備え早寝をする。


 翌日は、まだ朝日が出ない内に目が覚めた。

 甲板に出て、置けに海水を汲んで顔を洗って頭をすっきりさせる。今日は色々とやることがあるからな。

 ナツミさん達が家形から出てくるとカマドに火を入れる。お茶が沸くまでの時間を使って使うプラグを選ぶことにした。

 雨期の天気は変わりやすいのが問題だ。やはり色を変えた方が良いのかもしれない。

 

「それを使うのか?」

「ええ、曳釣りでは餌を使うより小魚に似せたプラグを使うんです。それとこっちも使いますよ」


 ヤグルさんは俺のタックルボックスに入っている10個以上あるプラグに興味深々の様子だ。ナツミさんも色々持ってるんだよね。弓角と合わせれば30個以上のプラグを持ってることになるんだろうな。


「それを変った仕掛けに繋ぐんだよな?」

「飛行機と潜水板です。海面近い場所を狙うか、それとも中層を狙うかで違いが出ますが、今日は両舷をヒコウキで真ん中を潜水板で狙いますよ。潜水板にはさらにこの集魚板を付けるんです。食いつきが違ってきます」


 仕掛けを取り出しながら説明すると、使い方の質問が飛んでくる。タバコ盆を間に置いてパイプを楽しみながら、曳釣りの概要を説明することになってしまった。


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