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M-028 リードル漁が終わると季節が変わる


 2匹目のリードルを運んできたところで一休み。まだ、最初に運んできたリードルを焼いている最中だった。

 やはり、もう1本通常タイプのリードル用の銛を作っておくべきだったと思ってしまう。とはいえ、一休みしながら獲る方が体にはいいのかもしれない。

 周囲を見ても2本を使う者、3本を使う者と様々だ。

 海人さんは3本を使ったらしいのだが、そうなるといつ体を休めるかの問題もありそうだ。

 オルバスさんは2本で漁をしているから、俺もしばらくは2本で行くか……。


「2匹目かい?」

「そうです。海中で一番模様の濃い奴を突いてきました!」


 ラビナスが元気に答えてくれた。銛を渡しながら、リジィさんに何か注意を受けてるようだな。神妙な表情で頷くと、俺の隣にやってきて焚き木に腰を下ろした。


「体を休めて、お茶を飲むように言われました。最初の銛を渡すまでには、もう少しかかるらしいです」


 無理しているように思われたかな? だけど、これから長い間、リードル漁を続けることになるんだ。最初から頑張る必要はさらさらない。

 先ずは、安全に漁をすることを心掛けるべきだろう。


 ココナッツを2個カゴから取り出すと、鉈で割ってラビナスに渡す。美味しそうにごくごく飲んでいるから、それなりに体を使ってきたに違いない。


「ゆっくり飲んで体を休めるんだ。まだ、始めたばかりだろう? 昼までにもう2個は運んで来れるさ。昼食後に、2個を追加すれば6個になるし、それを3日続ければ18個だぞ」

「そうですね。でも、皆さん頑張ってますよ」


 模様の濃いリードルを突けば、8割ほどの確率で魔石が得られるらしい。それなりに、外れはあるってことなんだが、多ければいいということでもなさそうだ。

 浜から150mほど沖にザバンを漕いで、素潜りをしてリードルを突く。その後は再び浜に戻るという繰り返しだ。

 ある意味、体力勝負にも思える漁なんだが、得られる魔石は高額だからついつい無理をしてしまう。

 その結果、3日目にはあまり数を突けない連中もいるらしい。

 海人さんは3日で30個以上を突いたらしいが、それだけ体を酷使したということなんだろうな。

 今のトウハ氏族の男達は、20個前後が一般的だとオルバスさんが話してくれた。


「アオイ君、銛が空いたわよ。中位の魔石だったわよ」

 ナツミさんが焚き火の向こうから大声で教えてくれた。

 

「さて、漁に行ってくるか。ラビナスも無理せずに、頑張れよ!」

 焚き木から腰を上げた俺の後ろで、元気な返事が聞こえてきた。

 

 やはりトウハ氏族の男の子だな。初めてのリードル漁でもきちんと結果を出している。

 どれ、俺も頑張らないと……。ナツミさんから銛を受け取り、ザバンに向かって歩き出した。


 太陽が傾き始めるとリードル漁が終わる。

 銛に刺したリードルが美味しそうな匂いを上げながら焼かれているんだが、ネコ族は巻貝は食べないらしい。サザエでもあると良いんだけど、この辺りにはいないようだ。


 真っ黒に焼かれた本日最後のリードルを焚き火から降ろすと、長い棒の先に付けた石で殻を割る。

 棒で殻の中を探り、魔石があれば棒の先に付けた小さな網で魔石をすくうのだ。

 魔石の取り出し作業はトリティさんとリジィさんが行い、ナツミさん達は焚き火の火を絶やさないように火加減を見ているようだ。

 最後のリードルはラビナスが運んできたものらしい。じっと作業を見ていたが、リジィさんが網の中から取り出した魔石を嬉しそうに眺めている。

 後は、リードルの残骸を穴に棒で入れるだけだ。ナツミさんが注意しながら残骸を穴に落としている間にカタマランへの引き上げ準備を終える。


 浜辺近くに停泊したカタマランに戻ると、トリティさん達が夕食の準備を始める。

 俺達は、ココナッツジュースで割った蒸留酒をカップで頂きながら、パイプを楽しむことにした。


「ラビナスも4個を手に入れたようだな。2個が中級とはたいしたものだ」

「俺達でも6個だからな。今回だけで15個を超えるぞ」

 グリナスさんも同意している。俺もラビナスに頷いた。

「3日間で手に入れた魔石の1個を氏族に、1個をトリティに渡せばいい。全て低級で構わん。トリティ達に渡した魔石は浜の女性達が分配する」


 オルバスさんに元気よくラビナスが頷いている。

 氏族には色々と助けて貰ったことがあるのかもしれない。これからは漁の一部を氏族に上納することで氏族の共用設備を修理したり、漁ができない者達の暮らしに役立てられるのだ。

 今までのお返しをする気持ちで頑張ってもらいたいな。

                 ・

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                 ・

 3日間の漁を終えると、翌朝早く氏族の島に帰還する。

 帰還の航海も船団を作って帰るから、ナツミさんに操船を任せてのんびりと曳釣りの竿作りを続けることにした。

 乾季の終わりでもあるから、いつ降り出すか分からない天気だ。

 幸いにも、リードル漁の期間中は降ることは無かったけど、たまに雲が太陽を隠すことがあった。

 

 トリティさんに聞いたところでは、雨期の雨はザバンを水オケに変えるぐらいだそうだから、ザバンを使わずに素潜り漁をするか、それとも曳釣りかという選択肢になる。

 オルバスさんの事だから、片方だけということはなさそうだからなぁ。


 不意に目の前にココナッツが現れた。顔を上げるとナツミさんがもう片手にもココナッツを持っている。


「割ってくれない? 2つでも3等分するからね」

「了解!」


 ベンチの中から鉈を取り出して、ココナッツに穴を開けた。

「はい!」とナツミさんに渡したんだが、ふと、あることに気が付いた。

 この船を動かしてるのは! 慌てて操船楼を見ると、嬉しそうなマリンダちゃんの姿が見えた。


「だいじょうぶなの?」

「舵を切るだけだし、それもほとんど動かさなくてもだいじょうぶよ。魔道機関の出力も一定だから」


 たぶん前後の船も気を付けているには違いないだろうが、ちょっと心配になってしまう。

「これがアオイ君の分ね」

 俺の前にカップを1個置くと、カップを両手に持ってナツミさんがハシゴを上って行った。器用というか、バランスがいいというか……。


 ちょっと唖然としていたけど、とりあえずカップのジュースを飲む。

 今回獲得した魔石は、上級が4個、中級が6個に低級が9個だ。

 トリティさんに中級魔石を渡そうとしたら、断られてしまった。低級で十分と言っていたけど、俺達で4個渡しても6人で分けると銀貨4枚に達しないんじゃないか?

 毎日の食事で赤になってるんじゃないかと思ってたんだけどなぁ。また、ワインを買って渡しておこう。

 

 明日は氏族の島に着くという昼過ぎに、どうにか2本の竿を作ることができた。

 長さ1.5mほどでも、腰の強い竿だから十分に役立つだろう。大型の太鼓リールに巻かれた道糸が100mほどあるのも心強い。

 とは言っても、ナツミさんが持っていたトローリングロッドの道糸よりは強度が劣るのは仕方がない。太さはこっちの方が太いんだけどね。

 潜航板とヒコウキは小さなものを作ったし、鉄板に錫を張った集魚板は氏族で使っている者がいないようだ。

 集魚板については海人さんは知らなんかったのかな?


 道具を片付けて、パイプに火を点ける。

 もうすぐ夕暮れだな。明後日には氏族の島に付けるに違いない。


 氏族の暮らす島の湾に入ると、3隻の商船が石作りの桟橋に停泊していた。その現金さに思わず笑みが浮かんでしまった。

 カタマランの速度を緩め、ゆっくりと一番東の桟橋を目指す。

 先にオルバスさんのカタマランが停泊すると、直ぐ後ろにグリナスさんが泊める。ナツミさんはオルバスさんの船の隣にカタマランを進めていく。

 船尾を先に近付けてロープを渡したところで、バウ・スラスタで船首を近づけている。船首で待つオルバスさんにロープを投げると、アンカーの石を投げ込んだ。

 30cmほど開いた船の隙間に、干渉防止用のカゴを投げ込んでいく。


 オルバスさんのカタマランに行くと、オルバスさんに氏族への上納である中級魔石を1個手渡す。


「低級で良いのだぞ?」

「俺達が世話になっているお礼です。それに海人さんの銛までいただけたんですから、これぐらいはさせてください」


 俺の言葉に黙って頷いてくれた。ナツミさんはカリンさんやトリティさん達と商船に出掛けるようだ。

 魔石はある程度の値は決まっているらしいのだが、1、2割程度の上下があるらしい。商人達としては可能な限り安く手に入れたいのだろうが、余り安値を付けると他の商人が高値で買い取ってしまう。

 最大2割までのプラスアルファを特例とするのは、商人達の属するギルドのお達しらしい。談合に近いようにも思えるけど、そんなんで良いのだろうか?

 とはいえ、おおよその金額が予想できるから、俺達にとってもありがたいところではある。


「明日は漁を休むんだろうけど、次はどこに?」

「雨期が近い。その前に何度かブラドを突こう。夜釣りも行うとなれば……、カゴ漁の先を見ておきたいところだ」

「曳釣りの場所探し……、ですか?」


 俺の言葉に、オルバスさんがパイプを咥えながら笑みを浮かべる。


「そうだ。カゴ漁を行っているのはサンゴの崖付近になる。直ぐ南は砂泥が東西に広がる海域だから、回遊魚がやってくる。たぶんかなりのカタマランがそこで曳釣りをやるはずだ。俺達はその海域のさらに南を目指す」


「片道2日というところか……。かなり氷が必要だな」

「4個ぐらいはいつでも渡せますよ。リジィさんも作れるそうですから」

 

 グリナスさんの不安な表情が直ぐに消えたから、雨期は氷が大事だということになるんだろうな。


「大型なら片身ずつに分けて、一夜干しでも十分だ。少しでも乾燥させねばなるまい。日中なら陰干しにすることだな」

 

 陰干しか……。後でグリナスさんに聞いてみるか。日陰を作るトウハ氏族のやり方があるんじゃないかな。

 

 魔石で懐が潤っているからだろうか。いつもより具材の多いスープが夕食に出てきた。食事が終わるとワインが配られる。ちょっとした贅沢なんだろう。

 オルバスさんがワインを飲みながら次の漁の計画を皆に話し始める。

 雨季に備えての曳釣りだから、反対する者はいない。というか、漁の計画は男達の仕事とトリティさん達は割り切ってるのかもしれないな。


「グリナスとアオイのところは2人だから、マリンダをグリナスにリジィをアオイの船に乗せてくれ。それでも大物は手こずるだろうが、その時は船を停めて3人で当たればなんとかなるだろう」


 リジィさんが俺達の船に乗るのは、獲れた魚を捌くのと料理の指導ということになるんだろう。

 明日は、リジィさんに俺達の食糧事情を見て貰って、不足する分を買うことになりそうだ。


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