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N-015 俺の船がやって来た


 それにしても雨が降る。集中豪雨が今朝から続いてるんだが止みそうな気配すらないぞ。このまま降り続いたら、水位が上昇しそうな勢いだ。


「今が最盛期って事だろうな。昼過ぎには一時晴れるだろう。そしたら釣りをしようぜ」

「そうですね。それにしても俺達の船が遅いと思いませんか? 他の動力船はだいたい引き渡されたようですよ」

「だよな……。そんなに難しい注文は出してなかったと思うんだけどね」


 甲板の屋根の下の木箱に腰を下ろしてラディオスさんと一緒にパイプを楽しんでる。

 最初はキツイんじゃないかと思っていたが、予想に反して俺が吸っていたタバコよりも軽かった。

 タバコと酒があるならとりあえずは幸せなんじゃないか。ビーチェさんの手料理は美味しいからな。居候だけど、お代わりしても文句を言われないしね。


 エラルドさんとバルテスさんは、新しい燻製小屋を作っているらしい。

 と言ってもこの時期だから、雨上がりを待つ時間の方が長いんじゃないかな。

 

「兄貴達も大変だな。小さな小屋はあったんだが、2倍程の物を作るみたいだ」

「そんなに漁があるんですか?」

「カイトの実績を買ったんじゃないか? もっとも、前の燻製小屋は20年以上前の物だからな。今では当時と比べても5割以上は増えてるぞ」


 各世代で1度は作ってるという事だろう。となると次に作るのは俺達の子供の時代って事になりそうだ。


 急に空が晴れて太陽が姿を現す。

 数時間はこの状態が続いて、また雨が降り出すんだよな。

 砂浜から離れた場所にある燻製小屋から男達が続々と出て来る。再び小屋造りが始まるみたいだ。


「あんた達もおかずを獲って来るにゃ!」

 ビーチェさんのいつもの依頼で、俺達は桟橋に座って釣竿を出す。

「カマルが良いな。出来ればグルリンが良いけど、ここにはやって来ないんだよな」

「確かに美味かった。だけど、この島から2日の距離だぞ」

 

 そんな話をしていると、俺の竿に当たりが出る。引き上げると良型のカマルだ。今夜は唐揚げ決定と見たぞ。

 俺達の釣りをみて、桟橋で釣りをする者がちらほら現れた。やはりおかず狙いなんだろう。何匹か釣れたところで終わりにしているからな。

 人数分を釣りあげたところで、俺達も竿を納める。獲物はラディオスさんがビーチェさんに届けたようだ。

 

「おい! あれを見ろ」

 ラディオスさんの指差した方角には西の方から数隻の動力船を引いて来る大型の商船が見えた。

「俺達の舟かな?」

「そうじゃないか。真っ直ぐこっちに来てるぞ」

「父さんに知らせて来る。場合によっては泊める場所を確認しなくちゃならないからな」


 嬉しそうに言うと、桟橋を走って行った。

 いよいよ俺の船が手に入りそうだ。リュックから双眼鏡を取り出して眺めてみると、5艘の動力船を引いている。1艘は通常型だが、4艘は後部に長く屋根が伸びていた。後ろのベンチのように見える箱も付いてるぞ。1艘が他の3艘と比べて少し大きく見えるから、あれが俺の船って事だな。問題は値段だが、どうにか金貨3枚分は持っている。それ以上だと、エラルドさんに借金をすることになりそうだな。それだけが俺の心配事項だ。


 双眼鏡を仕舞って、もう一度大型商船を眺めると、かなりの大きさがありそうだ。長さは25mはあるんじゃなかろうか? 外輪船は後部では無くて側面についている。桟橋にどうやって着けるんだろうかと心配になる形だな。

 商船は舳先を桟橋の脇に付けてアンカーを下ろした。

 何人かの男達が桟橋を歩いて商船に向かっている。たぶん、あの中にエラルドさん達も混じっているに違いないな。


 夕食の支度がすっかり終わったころに、エラルドさん達が帰って来た。

 唐揚げに、漬物それにご飯とスープの夕食はすっかり慣れた感じだ。スープでなく味噌汁なら、日本と変わりない夕食だ。


「俺達の船が揃った。明日、この桟橋に横付けして引っ越しをするぞ」

「大変にゃ! 夕食が済んだら荷造りを始めるにゃ!」


 ビーチェさんが言ってるけど、そんなに荷物があったんだろうか? 小屋の中には木箱が2つだけだった気がするぞ。

「この船は?」

「サムセスに譲ることにした。金貨2枚だから半値以下だが、あそこは子供が多いからな。小型船では苦労したろう」


 この船の購入価格は金貨5枚だったそうだ。新しく作るよりはそうやって船を手に入れる連中もいるんだな。

「サムセスには夕方に船を引き渡す。それまでに4隻に分乗出来るようにしておくんだぞ」

 この船に世話になったのは短い間だったが、甲板で寝るのは気持ちが良かったな。

 俺の荷物はあまりないから、10分程で引っ越しが終わりそうだ。

 最後だからと、皆で酒宴が始まる。

 たくさんおかずが余ってたから丁度良い。


 翌日、簡単な食事を取って、エラルドさんがバルテスさん、ラディオスさん、それにサリーネさんを連れて商船に向かった。

 俺の全財産をエラルドさんに預けてあるから、出張ったらエラルドさんが補填してくれることになっている。

 俺の金額を見て、「十分だ」と言ってたから、何とかなると思うのだが、ちょっと不安ではある。

 リーザちゃんもどこかに出掛けたようだ。ビーチェさんのお使いを頼まれたのかな?

 とりあえずパイプを咥えて一服を楽しむ。

 そう言えば、今日の夕食はどうなるんだろう? 今夜から自炊しなくちゃならないのだろうか?

 まだ、非常食が残っていると思うから、最悪はそれで我慢しなくちゃならないかも知れないぞ。


 そんな心配事に頭を悩ませていると、ビーチェさんが小屋から出て、桟橋に向かった。何だろうと思ってビーチェさんの視線をたどると、4艘の動力船が近付いて来る。

 4艘は桟橋から50m程沖合にアンカーを下ろした。

「返って来たにゃ。船を動かすにゃ。カイトは桟橋からロープを外すにゃ」

 桟橋の沖で荷物を移し替えるらしい。

 急いでロープを外して船に飛び乗ると、ビーチェさんにロープを外したと報告する。

 直ぐに動力船は桟橋を離れて、4艘の動力船に横付けになった。


「さて、引っ越しだ。カイトが一番奥になる。その次が俺の船、バルテス、ラディオスの順だ」

 ゴザをそのまま担いで船を渡って自分の船に荷物を下ろす。

 残りは、リードル漁の銛が2本と大物用の銛、それに釣竿になる。それを担いで小屋の屋根の下に付けた枠に通してロープで止めておく。竿は直ぐに取り出せるように別の紐で縛っておいた。

 水中銃と、向こうから持ち込んだ銛は小屋の簡単な屋根裏に放り込んでおく。

 プラスチックのカゴに入っている潜水具一式は、後部にあるベンチの腰掛を開いて中に入れておいた。

 中々綺麗な船だ。小屋の中は甲板より少し浮かせて竹のスノコが引いてある。4カ所ほどスノコが開くようになっており、その中に、水や食料が入れられるようになっている。

 竹のスノコの上はゴザが引いてある。俺の荷物を包んだゴザも本来はそう言う使い方をしていたに違いない。

 小屋の柱もエラルドさんの動力船より一回太い物を使っているし、横梁もそれなりだ。これなら俺が屋根に上っても問題なさそうだぞ。

 舳先に扉が付いてるが、その奥にはトイレがあるのはどの船も同じのようだ。

 さて、どれ位残金があるのか、それとも負債があるのか……。


「やはり、俺達よりも一回り大きいな。4艘が集まる時はカイトの船で夕食を取りたいものだ。それで、この船の代金だが、これが釣りになる」

 エラルドさんが俺の船を一回り見渡して、小さな革袋を渡してくれた。1,000D銀貨が3枚も残ってるぞ。穴開き銀貨や銅貨も入ってる。

「こんなに余ったんですか?」

「28,000Dで、良いそうだ。カイトも手持ちが無ければ心細かろう」

 そんな事を言って笑ってる。

「俺の船も小さくなる。サリーネとリーザは今夜から泊めてやってくれ。船をサムセスに引き渡して世話人に届を出してくる。カイトは何もしなくてだいじょうぶだ」

「済みません。よろしくお願いします」


 話を聞くと、今夜にもバルテスさんのところにはケルマさんがやって来るらしい。

サディさんはゴリアスさんの船に向かうそうだ。俺達の船と一緒にゴリアスさんの船も新調してやってきたらしい。と言う事は、ラディオスさんのところにもオリーさんがやって来るのかな?


「そうだ。グラストがライズを連れて来るそうだ。2年も待つ必要がねえと長老会議でごねてたな。特例を認めると、長老達が笑ってたぞ」

 それは認めない方が良いんじゃないか? 後々色々と特例破りが出てきそうだ。

「まあ、これだけ大きければ4人なら問題なさそうだな。この上は俺の乗っていた動力船になる。あれを買えるように稼ぐんだぞ。……そうだ。更に新たな形の船も考えられるな。お前が一番使いやすい船を考えて概略を描けば造船場は答えてくれるだろう」


「何にも置いてないにゃ。箱を買い込むにゃ!」

 リーザちゃんが小屋の中を見て騒いでる。期待してたのかな?

「まあ、何もないな。それはお前達が揃えるんだ。ビーチェが教えた筈だが……」

「聞いてたにゃ。色々買い込む必要があるにゃ。今夜サリー姉さんと相談するにゃ」


 まあ、小物入れは必要だろう。俺の荷物もあるしな。

 ラディオスさんの船に移って頼んでみると、ラディオスさんもやはり必要性を感じていたようだ。

「荷物を屋根の横梁に吊るしておくしかないと思ってたんだ。確かに箱があれば良いな」

「出来ればこれでお願いします。4個必要になりそうです」

「カイトのところは人数が多いからな。俺は2個で十分だ。大きさはどうするんだ?」


 急に言われても悩むんだけど、前の船に置いてあった箱が参考になるな。

 バルディスさんに伝えると、納得してくれた。やはり必要性は認めても、大きさまでは俺達に分からないからな。銀貨5枚を渡して運んでもらう事にした。

 前の動力船にビーチェさんまで乗り込んで出掛けて行った。

 残った俺達は舷側にザバンを引き上げて縛り付ける。結構重いから、ザバンが転覆しないようにしておくことで我慢するしか無さそうだ。ウインチでもあれば良いんだけれどね。


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