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N-014 同行者はくじ引き?

 出漁に当たっては、氏族の長老達に報告する義務があるらしい。

 実際に長老に報告したのは遥か昔らしく、今では長老の世話をしている世話人達に告げれば良いらしい。世話人達は事務局って感じになるんだろうな。

 何となく村役場みたいな気がするぞ。

 出産や婚姻、死亡等も世話役が記録をしているそうだ。船の名前とその型式、購入年月と手放した年月も記録されるって事だから結構仕事が多そうだ。


「漁の苦手な者もいるのだ。全てのトウハ族が必ず漁で暮らせる訳では無い」

 そんな事を、エラルドさんが言っていたけど、適材適所と言う考えなんだろうな。漁で得た金額の一部が氏族の島に還元されると言っていたのは、それらの人々の生活を維持するためなのだろう。

 それに、ネコ族の大部分の税金は氏族単位で納入されるみたいだ。トウハ族は年2回のリードル漁で、都合12個の魔石を納入するようだ。その内2個は中級ということだが、中級が全く取れない場合は中級1個を低級3個に替えられるらしい。

 前回の漁は大漁みたいだったから、次の漁では支払う必要が無いと教えてくれた。

 

 一回毎に氏族への上納があるのは面倒だけど、事務局や長老、それに老人達が暮らしていることを考えると、そんな事も言ってられないな。

 ある意味、前にいた世界よりも福祉が充実しているように思えるぞ。


 豪雨の中を3日掛けて氏族の島に帰り着いた。いつもの桟橋に動力船を止めると、右側に桟橋が作られ始めている。まだ岸から数mだが、他の桟橋と同じように数十mは伸びるんだろう。これも俺達が納めた上納金を使って作ってるんだろうな。


「カイト、あれを見ろ。新造の動力船が2隻あるぞ!」

「ですね。でも、俺達が改造を頼んだ場所が違ってますから、他の人の動力船ですよ」

「そうだな。あれは改造がない、通常型のようだ。だから早かったんだろうな」


 小屋から張り出した屋根の下に木箱を持ち出して、そこにバルテスさん兄弟と俺の3人で座り周囲の風景を見ながらタバコを楽しんでいる。

 相変わらず豪雨で見通しは極端に悪いが、真新しい動力船は塗装がまだ新しいから、周囲の動力船から浮き立って見える。

 

「俺達の動力船がやって来るのも早そうだ。トウハ氏族の文様は付けて来るだろうが、トウハ氏族内の文様は俺達で塗装しなければならないぞ」

「それって、どんな模様なんですか?」


 バルテスさんが説明してくれたところによると、舳先に昼間の目を描くというのがトウハ氏族の印らしい。ネコ族の昼間の目って、縦に切れ長の目だよな。中々に精悍で恰好が良いぞ。氏族内の文様は、誰がその動力船を持っているのかが分かるようにするためのものらしい。文様を世話役に提出すると言ってたから、動力船の入手時に一緒に行う事になりそうだ。


「一般的には、親の文様に自分達の文様を組み合わせる。そんな文様だから2世代は遡れるぞ」

「近い親戚が分かるって事ですか?」

「そうだ。俺達の親の文様は丸が2つだ。お祖父さんは四角に丸だった」


 となると丸が基本って事になるんだろうな。

「俺も丸を使って良いんでしょうか?」

「使ってくれ。他の連中が羨むだろうけどな。バルティス、ラディオス、お前達もカイトをしっかり補佐するんだぞ!」


 俺達の話を小屋の入り口に腰を下ろして聞いていたエラルドさんが突然に話に割って入った。

 その言葉にバルテスさんがしっかりと頷いている。

 ラディオスさんに不思議そうな顔を向けると笑ってるぞ。


「義兄弟って事さ。同じ親の文様を付けるからな」

 そういう事か。改めて3人に頭を下げた。

 だけど、丸が基本なら色んな文様が出来そうだ。バルテスさんとラディオスさんに文様を決めたのか聞いてみると、バルテスさんが丸に横棒1本、ラディオスさんが横棒2本だった。

 それって、昔の武将の旗印じゃなかったか?

 なら、似た感じにすれば良いわけだが……。良いのがあるじゃないか!


「決めたのか?」

「ええ、こんな感じの文様です」

 丸に十字。島津家の文様だったかな。シンプルだけど、目立つし、格好も良い。

 俺の家の文様は何か花の図柄だから、ここは憧れてる武将にあやかることにしよう。


「ほう、おもしろい文様だな。お前達3人の関係も理解できるのが良い。船を回送してきた商船に頼めば無償で描いてくれるはずだ」

 だけど、この文様ってどこに描いてるんだろう? エラルドさんの船でも気が付かなかったぞ。

 

「文様は、動力船の舷側に描かれるんだ。これ位の大きさだから、近寄らないと分からないぞ」

 A4サイズでは小さすぎないか? まあ、分かっても俺には誰の船かは分からないけど……。

「旗もいるな。これは手書きだから、次の日には出来上がる。その外には……」

「笛がいるぞ。他の船に合図するためだ。ホラ貝は兄貴が持ってれば十分だ」

 確かにエラルドさんは笛を合図にしていたし、リードル漁の時は大勢がホラ貝を吹いていた。

「そんなところだろう。船が手に入ったら再度色々確認すれば良い。……雨が上がったぞ。商船もどうやらやって来たようだ」


 エラルドさんは長老のところに出掛けるようだ。ビーチェさんは娘さん達を連れて、真珠を売りに出掛けるらしい。リーザちゃんにパイプとタバコを頼んでおく。

 後2本になってしまったからな。俺もいよいよパイプデビューだ。


「そうだ! ラディオスさん。動力船って全長が長いんですよね。俺達の船は屋根が後ろまで来る感じですから、屋根に長い釣竿を置いとけます。2FM(フェム:6m)位の釣竿を探せませんか? 小さな魚なら十分釣れますよ」

「おかず用ってことだな。兄貴の分も合わせて3本探してくるよ」

 小屋から鉈を取り出して桟橋を走って行った。

「俺は、商船に行ってくる。母さんがまとめ買いをしたら、妹達がかわいそうだ」 

 そんな事を言って出て行ったから、残ったのは俺一人になってしまったぞ。

 

 小屋に寝転んでたら、ガラガラと竹を引き摺る音で目が覚めた。

 ラディオスさんが竹を切って来たらしい。何の用途に使うか分からないが、長さ5mを超える丁度良い竹竿が丸太小屋の軒下にあったそうだ。


「ちゃんと断って来たから大丈夫だ。良く乾かしてあるが、これは段々畑の土を止めるのに横に張る竹らしい。細いから誰も使わなかったようだな」

「でも、俺達には丁度良い感じです。持っても重さはあまり感じませんからね。油があれば良いんですが……」


 がさがさと小屋の箱を漁っていたが、石鹸のような物を取り出してきた。

「これが使える。銛に塗る油だ。どうするんだ?」

「竿に塗ってくれませんか? 屋根に乗せておきますから、日光で直ぐに竹が傷んでしまいます」

 俺の言葉に納得して、丁寧に竹に油を塗り始めた。

 一度塗って乾かして、再度塗りなおす。雨上がりの晴れ間で、結構早く乾燥しそうだ。


「2度塗りか、面倒だな」

「明日も塗って貰いますよ。塗れば塗るほど日持ちします。せっかく作るんですから長く使いたいですからね」

 俺は、友人のリュックから糸巻を取り出して、竿の長さに道糸を作った。ヨリ戻しを付けて、ナイロンの5号糸を2m程付ける。ハリスは3号を50cm。釣り針はカマル釣りに使うものと同じだ。

 道糸とハリスの接合部分に噛み潰しの重りを付ける。浮きは適当な木切れを糸でヨリ戻しに付けた。

 明日は、3人で桟橋から釣りが出来そうだ。2、3匹釣れれば、ビーチェさんが喜ぶんじゃないかな。


 どうにか終わって、道具を片付けていると、ビーチェさんを先頭に買出し組が帰って来た。

 「はい!」と渡されたパイプは銀製じゃないかな? 胴の部分は竹製だけど、結構高価に思えるぞ。

 それでもお釣りには銀貨が6枚も入っていた。真珠は魔石よりも価格は低いようだが、それなりに高価で取引がされるようだな。

早速、一服を始めようとしたら、ビーチェさんよりおかずの要求が出てしまった。

屋根から、3本の釣竿を下ろすと、バルテスさんを交えて桟橋で釣りを始める。

 ビーチェさん達はロデナスのカゴを持って商船にもう一度出掛けるみたいだ。


 小さなカマルを10匹程釣ったところに、エラルドさんが帰って来た。

 俺達に話があるらしい。おかず分は何とかなったから竿に仕掛けを巻いて屋根に乗せておく。

 甲板に車座になってエラルドさんの話を聞くことにした。


「色々と面倒な事になった。雨季に出漁する範囲が狭まるのは、お前達も知っての通りだが、乾季になって出漁する時にカイトに同行する動力船は10隻とする取り決めだ。だが、カイトは俺達の漁場を知らんし、この辺りの海も不慣れだ。俺達3隻が道案内と漁の手ほどきとして同行する。ここまでは、俺達も異存はない」

 小さなカップと酒ビンを取り出して俺達の前に酒を注いだ。

「ラバンとオリジンからだ。真鍮の酒器はそれなりの値段だが、真珠の代金から比べれば十分な御返しと言えるだろう。これはカイトが貰っておけ」

 

 とりあえず一口飲んだ。上等のワインじゃないか? 意外と値段も良いんじゃないか。


「めんどうなのは、残りの6艘が毎回くじ引きで決められる。俺達の出漁のたびにだ。あまり付き合いのない連中もいるのだが、これは諦めるしか無さそうだな。全体の指揮は俺になる。名目上はカイトだが、これは仕方がない。その伝達はバルテス達が行うことになった。先ずは1年間それで行くそうだ」

「2年目からは?」

「率いる船が増えそうだ。頭が痛くなる話だぞ。不漁ならば問題が出て来るし、漁の上手下手もある。それがカイトの責任になるんじゃないかと思うと……」


 エラルドさんが酒を一口に飲むと、真鍮の容器から酒を注いでいる。

「その時は、その時です。漁が少なければ次の航海には参加しないでしょう。エラルドさんが思うところに行きましょう」

「カイトはそれで良いのか? 将来が掛かってるんだぞ」


 俺はトウハ氏族を率いようなんて思ってもいない。

 トウハ氏族に加えて貰えれば十分だ。何とか4人で暮らせればそれで良いと思ってる。


「基本は今まで通りって事だろう? 前回はラバンさんとオリジンさんが同行したけど、それが増えると思えば何でもない。だけど、他人が大勢だからな。基本的な決まりをあらかじめ考えておけば十分じゃないか」

 

 出発や停泊、漁の開始や休憩、困った時にどうするか位を決めれば十分って事か?

 同行する連中だって一人前の連中なんだから、それほど気にすることは無いと思うけど、エラルドさんの性分なのかも知れないな。



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