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N-134 カヌイ達の計画


 ライズ以外の3人でトリマランを操船する。

 空いた時間は甲板のベンチでカルーネスさんとライズに俺の住んでいた世界の昔話を話して聞かせた。

 昔話というのは、ネコ族には無いみたいだな。ライズが興味深々で聞いているし、カルーネスさんもにこにこしながら、俺達にお茶を入れてくれる。


「浦島太郎というお話は、私達の伝承に似たところがありますね。水底の竜神の元では時が意味をなさぬと聞いたことがあります。カイトさんの暮らした世界とこの世界の時代にズレがあると言っていましたが、その辺りに原因があるのかも知れませんよ」


 戻れたとしても、俺が暮らした時代に帰れるとは限らないと言う事だろう。

 俺を知る人がいない世界で生きて行くのは苦痛以外の何物でもない。

 確か、浦島太郎もそうだったんじゃなかったか? 玉手箱を開けた後に、後日談があったはずだ。鶴になって再び亀と一緒に、村から旅立ったとお祖父さんが話してくれたな。どこに向かったかも話してくれたけど今では覚えていない。たぶん、再び乙姫と暮らしたに違いない。

 だとすれば俺はこのまま、この世界でネコ族の人達と暮らそう。ちょっときな臭くなってきたけど、平和でのんびりした暮らしだからな。まさに楽園、お祖父さんの話してくれたニライカナイがこの場所だと実感できるぞ。


「カイトも帰ってしまうのかにゃ?」

「いいや、この世界に残るよ。お祖父さんが南の海を眺めて話してくれた楽園がここなんだからね。俺の遥か遠い祖先はこの千の島から旅立ったに違いない」

「ここが、故郷にゃ」


 ライズが嬉しそうに俺に言ってくれた。

 俺も笑顔で頷いて答える。

 カルーネスさんに抱かれたマイネも嬉しそうだ。まだ言葉は理解できないはずなんだけどね。胸元の瓔珞が淡く輝いているのは気のせいかな?

 

「まあ、そう言う事で俺達は現状を何とかしたいと思っている。覇権ではないよ。千の島を俺達ネコ族の楽園として子子孫孫に残したいだけだ」

「上手く舵を取ってください。ネコ族は穏やかな暮らしを今までしてきましたが、本来は好戦的な種族です」

 

 それは大陸の連中が良く知っているんじゃないかな?

 彼らとしても、落としどころを間違えると王国の存亡に繋がりかねないと考えてるんじゃないか?

 俺達との交渉を延々とやっているのは、その辺りに原因があるんだろう。

 雨季明けのリードル漁前の、俺達の最後通達にネダーランド王国はどんな反応を示すだろうか?

 長老達は一戦を覚悟しているようだが、素早く終息させないとネコ族が再び大陸を目指しそうだ。

 それは周辺の王国にとっても由々しき問題だろう。

 昔のように連合を組んで、ネコ族を根絶やしにしようと計画することも考えられる。

 その時、千の島は再びネコ族を受け入れてくれるだろうか?


「短期間に、千の島を我らの版図とします。それ以外に戦場を広げないように努力してみます。もし、種族会議がそれを良しとしない場合は……」

「東に向かう……。私達も同行いたします」


 カヌイのご婦人方は少しずつその準備を始めているようだ。他の氏族との連携も取られているらしい。

 ネコ族同士での争いは、いまだかつて起こらないようだから、この決断は種族を2つに分かつことになる。


「ネコ族の総勢は数千に届きません。種族を分かつことで大陸を巻き込む戦は防ぐことができるでしょう」

「そのような事が無いように考えます」


 種族の分割は千の島の人口が半減することになる。ネコ族が独占的に行って来た漁業や水の魔石採取が残された者達で行う事が出来るのだろうか?

 まして大陸への侵出はどだい無理な話だ。ネコ族が10万もいるのなら可能なんだろうけどね。

 数年後には千の島にネコ族がいない状況になる可能性があるな。

 大陸から島にやって来る連中がいるだろうけど、水の魔石が再び得られるようになるためにはどれだけの年月が必要になるだろう。

 それを考えると、俺達の版図を大陸の連中に示すだけで良いはずだ。

 長い戦が続けば俺達の暮らしだって立たなくなる。それはネコ族の願いではないはずだ。


「出来ますか?」

「努力せざるを得ない……。というところですね。俺は今のネコ族は昔とは異なると思っていますよ。人は環境で変わるものです」


 そんな俺の言葉に、微笑みながら頷いてくれた。

 マイネの瓔珞が先ほどよりも輝いて見える。龍神もそれを望んでいるという事なんだろうな。


・・・ ◇ ・・・


3日目の早朝。サンゴの谷をたどって島の入り江に入った。

数隻のカタマランが入り江の奥に停泊して、皆で軍船を組み建っている。

氏族の島から、足りない部材や金具を大きなカゴに入れて運んで来たから、直ぐにラディオスさん達がザバンで取りに現れた。


「待ってたぞ。だいぶ形にはなったんだが、随分と平たくかんいるんだよな」

「これが、材料です。だいじょうぶですよ。この船の最大の特徴は小屋を大きくしないで済む事ですからね」


 ザバンに大きなカゴを積み込んでラディオスさんが現場に運んでいく。なるほど形が出来てきたな。この船に魔道機関は4つ乗せられる。基本はトリマランだから俺の船と同じなのだが、4つ目の魔道機関を真ん中の船の船首より先に設ける。

 船外機のような小型の魔道機関なのだが、360度に水流の方向を変えられるのだ。

 ちょっとしたバウスラスターとして使えるだろう。回頭の半径がかなり小さくなるはずだ。


 子供を預かっているビーチェさん達の船の隣にトリマランを停泊させると、ザバンを下して状況を見に出掛けた。

 ビーチェさんとカルーネスさんがいれば安心だろう。ライズのお母さんも一緒だからな。


 ザバンを漕いでいくと、砂浜にせり出した丸太のレールの奥にトリマランが置かれていた。付近を軍船が通る時には傍に置いてある大きなヤシの葉で隠すみたいだな。


「だいぶ出来てきましたね」

「帰ったのか? まあ、前例があるからな。王国でも形は真似ができるだろうが、何故その形を取ったのかを理解できる者はいないだろう。大方、リーデン・マイネの活躍を指を咥えて見ていた連中のおねだりって事になるんだろうな」


 エラルドさんがクギを打つ手を休めて、俺を海岸近くの焚き火に誘う。

 そうであって欲しいものだ。数十隻のリーデン・マイネは俺は見たくないぞ。

 焚き火の傍にある丸太に腰を下ろすと、焚き火の傍に置いてあるポットを使ってお茶を入れてくれる。

 そんな俺達を見て、次々と仲間達が集まって来た。


「一応大砲は10門頼んで来ました。架台の方も頼んで来ましたが最終的な組み立てはこっちで行います」

「場合によっては2隻作れそうだな。それとも、俺とお前の船を改造するか?」


 グラストさんが嬉しそうな顔でエラルドさんに話している。


「それは俺も考えた。たぶん1隻では不足だろう。甲板を補強するなら2門は乗せられるだろうな」

「予備が2つか……。まあ、相手の出鼻を挫けば俺達の版図から出て行くに違いない」


「カヌイのご婦人が同行してきました。ライズが出産まじかということで、向こうから乗船を希望してきましたので」

「ありがたい話だ。ライズも妻も喜ぶはずだ。普通、名前を貰う時にはこちらから出掛けるんだぞ」

「カヌイの婆さん達の腹を読むのは長老でさえもできないだろうが、マイネの前例を重んじたに違いない。あのお腹だ。今度はどう考えても男だぞ」

 

 エラルドさんの言葉に、グラストさんが真剣な表情に戻って頷いている。

 俺には男女どちらが生まれるかは全く分からないが、ネコ族の人達には分かるみたいだ。だけど、生まれる前に一方的に決めつけるのはどうかと思うな。


「俺も、カルーネスさんが来てくれて嬉しいですよ。ここまでの船旅で俺の過去も少し分かりました。どうやら、ネコ族に千の島を譲って東に向かった先人の子孫のようです」

「それでか。どう考えてもネコ族で無いものが聖痕を持つことが理解できなかったが、それなら理解できるし、俺達の仲間でもある。我らの中には先人の血も流れているからな」

「ネコ族を導くに不足は無いな。まして、カルーネスの婆さんが言ったのなら、長老達は何も言えん。しかし、やって来たカヌイがカルーネス婆さんだとはな。2位のカヌイじゃないか!」


 カヌイに序列があるって事なんだろうか?

 となると、東への種族の大移動というのは、計画がかなり進んでいるという事にもなりそうだ。それだけカヌイは今の状況を憂いているって事なのかもしれない。


「最初から聖痕を持っていたりしてな!」

「まさか、それは無いだろう。だが、神亀が祝いに来るぐらいはあるかも知れないぞ!」


 ラディオスさん達が盛り上がってると思ったら、いつの間にかワインを飲んでいるぞ。まだまだ今日の作業は終わらないはずなんだが、今日はここで終わりになるのかも知れないな。


その夜。トリマランの甲板に男達が集まって状況の確認を行う。

見習いが取って来た魚の一部が料理されて次々と俺達の輪の中に運ばれた。


「長老達は、その期限をカイトに知らせたのだな?」

「はい。俺もその位までなら引き延ばせると思っています。雨季明けのリードル漁の税が王国から提示された時が俺達の決起の時になるでしょう」

 

 いつまでも伸ばせるものでは無い。

 期限はあるのだ。出来るだけ俺達に都合が良い時期とすることが、いまだに交渉を続けている長老達の戦という事になるんだろうな。



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