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N-013 ラッキーは続く

 昼食後はカマル釣りだ。漁具を変えてザバンに積み込む。

 餌は、魚の皮を干した短冊のようなものを釣り針にチョン掛けするのだが、疑似餌に近いんじゃないかな。

 リール竿を使わずに、手釣りで挑むつもりだ。群れが来るまでは暇だから、根魚用の仕掛けも持ち込んだ。これは手製の竿を使うから、掛かれば直ぐに分かるだろう。

 竹製の水筒を持って麦ワラ帽子を被ったリーザちゃんが先に乗り込んだ後に漁具を手渡して最後に俺が乗り移る。エラルドさんも動力船の甲板から釣りをするようだ。

 3隻の動力船から小さなザバンが次々と離れて海面に漂い始めた。

 あまり潮の流れがないが、浮きの付いた仕掛けをどんどん潮に乗せていく。

 20m程伸ばしたところで、糸巻を船底のスノコの上に投げ出してカマルの群れが近づくのをひたすら待つ。

 その間に、舳先に釣竿を伸ばして、根魚用の胴付仕掛けを下ろしておく。さて、どれが最初に掛かるかな?


 待つことしばし、舳先の竿がグイグイ絞り込まれた。

 針掛かりを待って、竿の弾力を利用しながら糸を手繰り寄せる。掛かっていたのは……、体色が緑なんて、初めて見る魚だぞ。


「グルリンにゃ! 焼いても揚げても美味しいにゃ」

 嬉しそうにスノコの上でバタバタ跳ねている魚から釣り針を外して、仕掛けを返してくれた。グルリンと言う、紡錘形の魚はイケスのカゴにポイと入れている。

 どう美味しいのか分からないけど、リーザちゃんが嬉しそうにイケスを覗いているって事はあまり捕れない珍味ってことなのかな?

 頭に疑問を浮かべながらも数匹のグルリンを釣りあげた。


 突然、スノコの上に投げだした糸巻が踊り出す。カマルの回遊にぶつかったのだ。

 これからは手返しの勝負になる。

 1時間ほど続いた入れ食いが突然止まった。これで今日はカマルが釣れることは無い。

 仕掛けを畳んで帰ろうとした時、胴付仕掛けの重りの小石からはみ出た糸に貝が挟まっている。

 これって、あの時の貝と同じだぞ。

 急いで周囲の島を目印に山立てを行う。簡単な方法だが、ザバンの舳先を東に向けてナイフで山を刻んでおいたから明日に同じ場所に来ることができる筈だ。

 急いで動力船に戻ったが、色々やってたから最後になってしまったな。


「遅かったな」

「グルリンが獲れたにゃ。それにこれも釣ったにゃ!」

 俺達に声を掛けたエラルドさんに、リーザちゃんが嬉しそうに真珠貝を見せている。

 とりあえず貝を甲板に置いて、カゴの中身をビーチェさん達と一緒に開き始めた。開いて一夜干しにするようだ。

 そんな中、グルリンを見付けてビーチェさんも嬉しそうだ。別なカゴに取り分けてるぞ。

 

「グルリンとは珍しい物を釣ったな。たまに銛で突くのだが精々1匹だ。釣れると言っても、カマルの仕掛けでは無理だ。胴付を持って行ったのか?」

「カマル釣りは退屈ですからね。カマルが回ってくるまで、竿に胴付仕掛けを付けておいたんです。掛かれば竿が暴れますから直ぐに分かります。真珠貝は重りを結んだ糸に掛かってました。かなりあるんじゃないかと……」


「明日は、ロデナスを止めて真珠貝を獲るか……。バルテス。ラバンとオリジンを呼んで来い。明日の漁に付いて話があると言えばやって来るはずだ」

 バルテスさんはラディオスさんを一緒に乗せていくようだ。2人で漕げば早く行けるかって事だろう。


「あったにゃ!」

 嬉しそうにリーザちゃんが小指の先ほどの真珠を掲げてピョンピョン跳ねている。

「全く、運で片づけられる話じゃ無さそうだ。次に出漁するときには船が3倍になりそうだぞ」


 一服を始めたところに、バルテスさん達が帰って来た。

「直ぐにやって来ると言ってたよ」

「ああ、済まなかったな。酒を用意しといてくれ」

 直ぐに酒ビンとカップが用意される。

 大急ぎで、ビーチェさんがグルリンを焼き始めた。隣でリーザちゃんが指を咥えて見ているけど、そんなに美味しいのかな?


 ノソリと舷側を上がって来た2人は対照的な体形だ。やせ形とメタボ体形だぞ。あの体で、海に潜れるのかと疑問が浮かんでしまう。

「何だ。急に集まれとは?」

「午後のカマル釣りで、カイトがたまたま暇つぶしに根魚を釣っていた。獲れたのはグルリン……、それにこれだ!」


 グルリンの名でピクリと眉が動いたが、真珠を見て今度こそ口をポカンと開けてしまったぞ。


「潜ってはいなかったが……」

「重りの紐に貝が口を閉ざしたんで釣れたんです。真珠があるとは思いませんでした」

 

 一応、正直に答えておく。ネコ族は常に正直だからな。


「それでだ。俺達はロデナスを獲っているが、明日は真珠貝を獲れるんじゃないかと思う。カイトが獲れた場所の山立てを行っているから、その付近を探せば良い」


 直ぐに2人が了承する。

 付いて来ただけで、真珠が手に入るならとんでもなくラッキーとしか思えないだろうな。だけど真珠貝に真珠があるかどうかは、開いてみないと分からないぞ。


 ちょっとした酒宴になったけど、明日があるから誰も深酒にはならない。出てきたグルリンを開いた塩焼きは2匹だけだったが皆満足そうな顔をしていたな。

 赤身の肉は油がたっぷり乗っていて、確かに美味しいぞ。俺達が食べているのをジッとリーザちゃんが見ていたけど、3匹ぐらい残ってるんじゃないかな。それまで食べないから安心して欲しい。


 翌日は、朝食もそこそこに俺達はザバンに乗る。動力船はしっかりとアンカーを下ろし、エラルドさんまで参加するようだ。

 網の袋を手に、大きなカゴを2つもリーザちゃんがザバンに乗せている。俺の胴付仕掛けを乗せているのは、船で待っている間にグルリンを釣ろうと考えてるのかな?

 海底で俺達が真珠貝を獲っているから、早々釣れるものでは無いと思うけど、まあ、暇ならやってみるのも良いだろう。何か釣れればおかずになるかも知れないからな。


どんよりと曇った空は、いつ豪雨が襲ってきても不思議じゃないけど、素潜り漁だから俺達にはどうでも良い話だ。あれだけ降っても、風はそれ程でもなかったし、波も穏やかだったからな。


「よし、この辺りだ。リーザちゃん合図してくれ」

 俺の言葉にリーザちゃんが釣竿の先に布を結んで皆に知らせている。

 10艘を超えるザバンが集まったところで、俺が海に潜ると一斉に後を追って飛び込んだようだ。

 

 水深は8m位でロデナス漁をした場所よりも深くなっている。泥のような細かな砂に貝が直立して並んでいるのが見えた。

 リーザちゃんが渡してくれた袋状の網に手あたり次第、貝を詰め込んでいく。

 袋が一杯になったところで海面を目指すと、リーザちゃんに袋を渡して次の袋を手に海底を目指して潜っていく。

 数回繰り返すと、空が一段と怪しくなってきた。

 ピィーーっと笛が鳴るのを聞いて、動力船に2人でパドルを漕いで行く。

 カゴに入れた真珠貝を甲板に上げて、漁具を動力船に戻す。最後にザバンを舷側のロープに繋いで俺も甲板に上がった。もう片方からサリーさんが上がって来る。ラディオスさん達も引き上げてきたみたいだな。

 あれほどいたザバンが1艘も浮かんでいない。やはり他の船も引き上げたみたいだ。


 全員が動力船に戻ったことを確認したエラルドさんが小屋の屋根を甲板に引き出している。2m程動くみたいだ。

「この下でなら、貝の中身を取り出せるだろう。真珠が無くとも貝柱は取るんだぞ。魚醤に付けて焼けば食べられるからな」

 女性達が早速始めたようだ。いったいいくつ取れるのか楽しみに俺達はタバコを楽しむことにした。


 一服が終わってしばらくすると、土砂降りの雨が襲って来た。急いで小屋の中に避難したのだが、リーザちゃん達はまだ真珠貝を開けて中を確認している。

 すでに10個以上の真珠が小さな小皿に乗っているぞ。一番少ないのはビーチェさんの隣にある小皿だ。たぶん10個に満たなかったのは、雨を考えて一番最初に「動力船に戻ったからなんだろう。

 ビーチェさんは小さな貝柱を竹串に数個ずつ刺した串を作っている。あれを焼くんだろうな。想像しただけでよだれが出てきた。


「これで、お前達の準備が出来るな。お前達が用意するのは船と漁具だけだ。嫁が生活用具を全て用意する。カイトの場合は3人が負担することになるが、それはグラストと相談せねばなるまい」

「ところで、真珠はどのように分配するんですか?」

「獲れた真珠の内3個が動力船の持主になる。と言っても、1個は氏族への上納になるな。残りが漕ぎ手と半分ずつだ。半端が出たら売りに出して分けることになる」

 

 数個は残りそうだな。これでパイプが手に入るぞ。そう言えば、魚を干したりするザルやカゴは漁具になるのかな?

 皆手作りしてるけど俺には無理だぞ。そんな場合はどうするんだろう?

 俺が、カゴをジッと見ているのに、ラディオスさんが気付いたようだ。


「カゴはサリーが編めるぞ。もっともそれ程上手いとは言えないから、島の老人に頼んだ方が良いな。真珠を1個上げれば一揃い作ってくれる筈だ。カイトも覚えた方が良いんだが、サリーに教えて貰え。船旅は退屈だから良い暇つぶしになるんだ」

 

 最初は、買い込んで、少しずつ作れという事だな。

 俺もトウハ氏族に仲間入りしてるんだから、早く一人前にならねばなるまい。


「ありがとう。そうするよ。後は動力船の運転を覚えないといけないのか……」

「お前が覚える必要はない。サリー達が知ってるさ。俺達は目的地と指示をすれば良いんだ」

 

 船長と操舵手って感じなのかな。機関手も出来るな。見張りも置けそうだ……。何となく楽しくなりそうだぞ。

 野菜の多いチャーハンのような夕食には貝柱の串焼きが付いてきた。

 何となくどこかで食べた記憶がある味だったけど、貝の甘味と魚醤が良く合ってるんだよな。

 豪雨はあれから止むことなく続いていたから、外のカマドでよくも料理が出来たと感心してしまう。ちょっとした屋根があれば豪雨でも何とかなるようだ。


「今夜は小屋で雑魚寝になる。雨が止んだらザバンを引き上げるぞ。どうやら少し早めに雨季がやって来たようだ」

「戻るんですか?」

「雨季には雨季の漁がある。頼んだ船は出来次第という事だから、あまり氏族の島から離れる訳にもいくまい」


 頼んでから10日も経ってないぞ。そんなに早く出来るんだろうか?

 話を聞いてみると、小型の動力船はある程度作り置きがあるらしい。千の島々って言ってたから、そこで暮らすネコ族も多いのだろう。当然毎年のようにニーズはある筈だから、先行制作って事になってるんだろう。そうしておけば相手の改造要求に答えるだけで済むって事だ。


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