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N-121 ラディオスさん達に見習いだって?


 刺し網漁から帰って来ると、うまい具合に商船が停泊していた。

 嫁さん達が獲物を背負って商船に向かっている間、俺達は子供達のお守りを仰せつかっている。

 トリマランの甲板で、子供達を遊ばせながら俺達は船尾でパイプを楽しむ。舷側には低い網を張ってあるから、ちょっとした不注意では落ちることは無い。落ちても、5人の素潜りが得意な男達がいるのだ。救助体制は万全だぞ。


 そんな俺達の会話は、ラディオスさんのところにやってきたサイカ氏族の少年達の話だ。

 すでにバルテスさんは長老に話をしているらしい。

 自分達を差し置いて、弟達のところに話を持って行った少年達を責めるようなことも無い。


「まあ、俺達に付くのはトウハ氏族と彼らも考えたんだろうな。もしラディオス達のところに少年達が見習いに着くとなると、俺達のところにもやって来るだろう。だが、それは昔からの習わしだ。問題がもう一つある」

「それを考えて長老に相談しに行ったんだ。今夜にでも聞いて来よう。網漁の話しもしなければならんしな。ゴリアス、少し手伝ってくれよ」


 バルテスさんの言葉に、笑いながらゴリアスさんが頷いている。

将来的には、エラルドさんとグラストさんのようになるんだろうな。いつまでもそんな関係を続けて欲しいものだ。俺達にとっても益になる。


「もう一つって?」

「カイトだ。カイトのところに少年達が押し寄せかねない」

 

 ええ! 思わず声が出た。

 皆が俺を見ているけど、まだ見習いを置くような腕は無いぞ。


「カイトが漁に出て不漁が無い事は誰もが知っている。ここに暮らして数年が過ぎているが、すでに船は3隻目だ。誰もが一目置く銛の腕を持っている。正しく聖痕の加護がカイトに宿っているという事に他ならない」

「父さんやグラストさんでさえ、ここまで大漁を続けることはできない。5回出漁して1度あるかないかだな」


 ライズの話もそれに近い事を言ってたな。

 氏族の暮らしは楽では無かったという事だろうか? たぶん貧しさゆえに氏族が助け合って生きて来たんだろうな。


「俺達の漁果が多いのは、カイトのおかげだと?」

「半分がお前達で半分がカイトのおかげだろう。全く漁が出来ないんではカイトと同公することもできないからな。少しでも自分の腕を上げれば更に漁果が伸びるはずだ。現に、最初の時と比べて、素潜り漁の漁果も上がってるだろう?」


 長老達がくじ引きで俺達の漁に同行させようとしたのは、こんな事を予想してたって事なんだろうか?

 今ではたまに参加を申し込んでくる者がいる位だが、この頃は俺達の漁の仕方や、漁場に着いて訪ねて来る者が多くなった気がする。


「ラディオス達がサイカの少年を、俺達がトウハの若者を、それぞれ見習いにして漁に行くのは問題は無いだろう。サイカの少年達の参加を長老達も喜んでいたしな。だが、そうなるとトウハ氏族で一番の漁果を誇るカイトには誰が見習いに入るんだ? 若者達で集まると皆その話になるらしい。俺のところよりもラディオスのところへ先に見習いの話が出たのは、そんな裏事情があるんだ」


「カイトが気になって、俺達のところに来なかったって事か?」

「たぶんな。俺だって奴らの歳なら悩んでると思うぞ。お前と一緒にどうやって仲間を出し抜くかってな」


 そんな話でバルテスさんとゴリアスさんが大声で笑いだした。

 まったくだ。なんて言いながら2人で酒器を持ち出して酒を飲み始める。


「まあ、そんな話だな。その辺りは長老達に任せれば良い。カイトはそんな連中がやって来たら長老に頼んでいると言えば十分だ」

「余分な御世話を掛けます」

「気にするな。俺達も楽しめるし、何といっても兄弟じゃないか」

  

 そう言うとポンっと俺の肩を叩く。

 義兄弟だけど、兄さんだからな。弟の面倒を見るのは当然だと思っているらしい。

 改めてバルテスさんに頭を下げると、微笑みながら首を振っている。

 兄として当然と考えているようだけど、前の世界ではそんな存在はいなかったからな。この世界に来て良かったと思うぞ。


 桟橋から嫁さん連中の話声が聞こえて来る。

 甲板で遊んでいた子供達も桟橋の方向に移動して行ったけれど、この船はトリマランだから傾きを心配する必要も無い。


「全部で870Dになったにゃ。各船で150D、残り33Dは母さんにあげるにゃ」

「母さんはそれで良いのか?」

「潜らなかったし、さばくのを手伝っただけだからそれで良いにゃ。カイトのところに居候してるから、食べるにも困らないにゃ。溜まる一方にゃ」

 

 そんな事を言いながら、俺達にタバコの包みを1個ずつ分けてくれた。

 一緒に漁ができるし、孫がたくさんいるからビーチェさんも嬉しいんだろうな。


「サイカ氏族の漁場で、戦があったらしいにゃ。バルテス、ちゃんと長老から話を聞いて来るにゃ」

「それなら、夕食を早めに取って行かなくちゃな。ゴリアスもそうしろよ」

「ああ、分かった。エラルドさん達が絡んでなければ良いんだけどな」


 全く迷惑な話だ。早く帰って来て欲しいぞ。

 全員が揃ったところで、網を小屋の屋根に干す。空模様が心配だが、ちゃんと干して置かないと痛みが直ぐに出るからな。

 終わったところで、少し早いがお昼寝だ。

 ずっと走ってきたから、嫁さん達はさぞかし疲れているだろう。

 小屋にハンモックを吊って横になると、直ぐに小さな寝息が聞こえて来た。


・・・ ◇ ・・・


 目が覚めると、お腹の上にマイネが乗っていた。サリーネはすでに起きたみたいだな。

 まだライズ達は寝ているようだが、ビーチェさんの姿は無い。マイネを抱いてハンモックから下りると、再びマイネを布団に乗せておく。まだまだ眠そうだからね。


 小屋から出ると、そろそろ夕暮れなのかもしれない。かなり空が暗い気がするぞ。


「起きたにゃ。マイネは?」

「ハンモックに入れておいた。まだぐっするだったからね」


 夕食作りをしていたサリーネに挨拶して、小屋に上ると網を丸めて片付ける。船尾には置く場所がないから、船首の小屋の屋根の下に置いておいた。ここなら屋根が張り出しているから豪雨でも濡れることは無いだろう。

 

 船尾に戻り、パイプにタバコを詰めていると、いきなり雨が降ってきた。乾季になったはずなのにこのところ天気が悪いな。

 急いで操船櫓の下に逃げ込み、ベンチに腰を下ろす。

 夕暮れ近いと思っていたが、雨雲のせいで暗かったようだ。


「バルテス兄さん達が出掛けたにゃ。大きなカゴを被って行ったにゃ」

 サリーネが小屋の屋根ギリギリまで頭を出して桟橋の方向を見ている。そう言えば、ネコ族って雨具を持ってないんだよな。

 大きなカゴってのは、魚を干す浅いカゴの事だろう。傘代わりに使ったという事だろうか?

 待てよ、確か俺のリュックに折り畳みの傘が入ってたはずだ。

 あのドワーフの職人なら、作る事ができるかも知れないな。今度会ったら頼んでみるか。


 夕食が出来上がるころには、雨が上がっていた。

 ちょっとした夕立だったんだろうけど、雷の音は無かったな。

 サリーネが寝ている連中を起こしに小屋に入ると、俺はビーチェさんの言い付けで、ベンチとテーブルを布で拭いて水気を取る。少し濡れているけど、ゴザで作った座布団を敷けば問題ない。

 

 眠そうな顔をしてテーブルに着いたけど、食欲はあるみたいだ。

 マイネもようやく目を開けて、ミャーミャー言いながらお腹が空いたことを訴えているようだ。


「兄さん達は何を聞いて来るのかにゃ?」

「たぶん、サイカ氏族の島の状況と、ラディオスさん達が指導する見習いの話、それに網漁だな。網漁は長老達の判断が出ない限り一旦中止だ。明後日の出漁は素潜り漁になると思うよ」

「私等の銛は作ったかにゃ?」

「俺の銛で、先が2つになった銛があるから、それを使えば良い。ちゃんと研いであるからだいじょうぶだよ」


スプーンを口で咥えながらうんうんとライズが頷いているぞ。

 小さいころから。ラスティさんと潜ってたのかな? 結構お転婆だったに違いない。

 乾季だからな。かなりの漁獲高だったから、次は何時もの漁にすれば良い。

 サイカ氏族の連中は、はえ縄で浅場のカマルを狙っているらしいし、リーデン・マイネに乗った男達の残された家族はエリ漁を行っている。

 それだけでネコ族が大陸に送り出す魚の量を、少しは上乗せしている筈だ。サイカ氏族の漁場が荒らされた状態でも、全体的に見れば若干の漁獲高が低下した位になっているんじゃないか?

 他の氏族の島に分散しているけど、その島で漁は継続しているはずだ。


「素潜りで魚が突けると思ってたけど、網であんなに獲れたから銛が使えなかったにゃ。今度は頑張るにゃ」

リーザの言葉にビーチェさんまで頷いてるぞ。まさかビーチェさんまで素潜りをしようなんて考えてないだろうな?


「ナンタ氏族から嫁に来て一度も使った事が無かったにゃ。ガムの紐を後でカイトに付けて貰うにゃ」

「嫁入りには銛がいるんですか?」

「トウハ氏族に行くなら、銛は必要と言って父さんが持たせてくれたにゃ」


 という事は、バルテスさんやゴリアスさんのところに来た嫁さんも持ってきたのかな?

 だけど、嫁さん達に素潜り漁をさせるということは、トウハ氏族ではあまり例が無い事ではある。それで、今まで使ってなかったという事なのかな? それとも、トウハ氏族の素潜り漁に合わないという事で使っていなかったのか……。


食事が終わって、お茶を飲んでいるとビーチェさんが布で包まれた銛を持ってきた。

布を解くと、先が3本に分かれた銛が出て来る。

なるほど、これはトウハ氏族の素潜り漁に合わないだろうな。これで突けるのは精々40cm程までだ。ゴムの反発力を使わずに手で突き差すなら根魚が良いところだろう。たぶんエラルドさんも他の銛を持たせたに違いない。


「ビーチェさん。これだと中型が突けませんよ。先端が3つですから、突き差す力が分散してしまうんです。1YM(30cm)前後なら、トウハ氏族の1本銛よりも狙い易いですけど……」

「それで良いにゃ。根魚なら十分にゃ」


 父さんに貰った銛だから思い入れもあるんだろう。「分かりました」と答えて、銛の柄の後部にガムと呼ばれるゴム紐を取り付けた。柄の長さは1.5mも無い。向こうの世界から持ち込んだ銛よりも少し短いけれど、海底で取り回しが楽に出来そうだな。


1時間も掛からずに作業を終えて、ビーチェさんに渡すと、大事そうに再び布に包んで小屋の2重屋根に仕舞いこんでいた。

 酒器でワインを飲みながらパイプを楽しんでいると、ラディオスさん達がやって来る。サディ姉さん達も子供を連れて訪ねて来た。

 すっかり夜になってきたな。甲板にはマストに付けたランタンの灯りが揺れている。



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