N-111 商船からの知らせ
3隻の動力船が氏族の島に向かって船足を速めている。
今回の漁で、はえ縄漁法は結構手間が掛かるという事が分かった。
どう考えても3人必要だ。それでも良い形のシーブルが得られるのだから、教えればやる者は多いんじゃないかな。
それに、カタマランでなくとも良さそうだ。はえ縄を仕掛けた後は、近くで根魚釣りをすればそれなりの漁獲を得ることができそうだぞ。
曳釣りよりも確実なところがあるから、雨季の業法としては秀でているな。
この辺りはエラルドさん達が氏族会議で良く説明してくれるだろう。
手で手繰りあげるのであれば、道糸を細いロープにしても良さそうだ。とはいえ長さは50m程度にしておかないと、重くて引き上げられないんじゃないだろうか。
「確かにこの漁法は広める価値がある。4回流してシーブルを30匹以上だ。素潜りよりも確実だな」
「カゴ漁をする連中も、やり出すだろうな。あの海域は彼らに独占させても良さそうだ」
同じ氏族ならではの譲歩って事になるんだろうか?
低所得とならざるを得ない人達を常に考えているって事だな。そこには、単に金銭的な援助を与えるという考えは無いらしい。
ある意味、働かざるもの食うべからずの観念があるように思える。
島の老人達も色々と働いているからな。元気な爺さん達は見ていても気持ちが良いものだ。
とは言っても、体が動かなくなった老人達はカヌイの世話になるとエラルドさんが教えてくれた。
十分に働いたのだ。後は龍神様の元に向かう日々をカヌイの婆さん達と一緒に暮らせば良い……。
まるで宗教的な老人ホームにも聞こえた話だったが、リードル漁でお世話になったカヌイのおばさんに渡した魔石はそんな施設の運営に使われているのだろう。
トウハ氏族の精神的な支えとなる集団と思っていたのだが、民生的な働きもしていたんだな。
長老達と役割分担を上手くこなしているのだろう。この暮らしをネコ族が初めて数百年が経つらしいけど、氏族や組織に関する不満は殆ど聞かないからな。決めるのが遅いってエラルドさん達が漏らしているけど、それ位は許容できる話だと思うぞ。
「俺達はこの漁を継続できるでしょうか?」
俺の言葉に2人が酒器をテーブルに置いてこっちに顔を向けた。
「お前が考えたんだろうが。カゴ漁は譲っても、これは釣りの1つの方法だ。根魚釣りの仕掛けを横にするようなものだろう?」
「だが、あちこちに仕掛けられても困るだろう。それを氏族内で決めておけば問題ないだろうな」
確かに考え方は胴付仕掛けだよな。それにエラルドさんの言う通り仕掛ける場所が問題になることは確かだ。
長い仕掛けだから、動力船の水車やスクリューに絡むと厄介この上ない。場所と目印をキチンと決めなければなるまい。
「ところで、ビーチェが言っていたがサリーネが身重らしいな?」
「どうやら俺も親父になれそうです。生まれるのは次の雨季の前になると言ってました」
「どんどん歳を取るなぁ……。まだまだ足を洗うのは嫌だが、10年も過ぎればそうもいかんだろうな」
「まだまだ長老は元気だぞ。俺達が漁を止めるまでに20年はあるんじゃないか?」
そんな事を言いながら互いの酒器にワインを注いでいる。このまま飲んでると氏族の島に着くころには完全に出来上がってしまうんじゃないか?
俺はちびちび飲みながらパイプを楽しんでるけど、空はどこまでも澄んだ青空だ。やはり雨季が終わりに近付いているんだろうな。
・・・ ◇ ・・・
氏族の島に帰り着いた翌日、商船が来ていることに気が付いた。
嫁さん達がカゴを背負って商船に獲物を運び、売上金を3等分にしたらしい。
半分を俺とエラルドで分けるんじゃないのかとグラストさんが言っていたけど、2人がいたから効率的にはえ縄を仕掛けられたし、引き上げられたと言って納得してもらった。たぶんこの方法が分配の基本になるのだろう。今夜の氏族会議で、はえ縄漁の話をすると言っていた。
その辺りの事はエラルドさん達年長者に任せておけば良い。
俺達は漁が上手くいったことを祝えば良いのだ。
仕入れて来た食材で、ビーチェさんと嫁さん達が夕食の準備を昼から行っている。
重そうなカゴを持ってラディオスさんやラスティさんが嫁さんと子供連れでやって来ると、子供達を小屋に入れてビーチェさん達の手伝いを始めた。
もうすぐ、バルトスさん達もやって来るだろう。そしたらリーゼとライズが子守担当になりそうだな。
俺達は船尾のベンチに腰を下ろしてパイプを楽しむ。マストから天幕を船尾左右に張り出しているから簡単な屋根になっている。おかげで風通しは良い日蔭を作れるから、この季節には都合が良い。
「銀貨3枚になったぞ。兄さんと分けてもな」
「だが、引き上げるのに苦労するな。ゴリアスさんが俺が作った仕掛けよりは手が痛くならないと言ってたが、やはり道糸をそのまま引くのは問題がありそうだ」
「その辺りの話を含めてエラルドさん達が長老会議に報告するって言ってました」
「父さん達も、喜んでたな。これで格差がまた少し小さくなると言ってたよ。もっともリードル漁についてはどうにもならないけどね」
それも一応対策を告げてはいるのだが、まだ許可が下りていないな。
たぶんそれが出来たところで格差は殆ど無くなるだろうと思っているのだが、先行投資と運用をどうするかで迷っているのかも知れない。
「それで、次はどうするんだ?」
「だいぶ空も澄んで来ましたから、素潜りに行きたいですね。午後は根魚釣りという事で」
そんな俺の提案に2人が笑顔で頷いていると、隣の船を越えてバルテスさん達が家族でやってきた。
バルテスさんとゴリアスさんは俺達のところに、嫁さん達はビーチェさんに挨拶している。小屋から顔を出した子供達を見て直ぐに子供達は小屋に入って行った。
積木位しかオモチャは無いんだが、それで皆で遊んでいるらしい。
「さすがはカイトだな」
ほれ! と言う感じでワインのビンをテーブルに乗せる。今から飲んだら料理を食べられなくなりそうだ。
ちょこっとやってきたケルマさんがワインのビンを持って、保冷庫に入れている。代わりにサディさんが俺達にお茶を入れてくれた。
「まあ、まだ昼だから仕方がないか。帰りにラディオスの仕掛けを見せて貰った。少し改良すれば俺の仕掛けも無駄にはならん。やはり引く紐の太さが問題だな。もう少し太い方が引きやすいぞ」
「それは、俺達への課題だろう。カイトの仕掛けなら曳釣り並みに大型がまとめて釣れる。少しは自分達で改良すべきだろうな」
ゴリアスさんの言葉に俺達は頷く事で答えた。
やはり教えられるだけではダメだろうな。自分なりの改良を加えて少しでも容易に、かつたくさんの獲物を獲る工夫が必要だろう。
「今度は素潜りをしようと……」
「それも良いな。雨季もそろそろ終わりだろう。次のリードル漁もあるがそれはまだ少し先だ」
「だが、俺達が同行できるとは限らんぞ」
どうやら、グラストさんから別命が下りているらしい。
はえ縄漁のやり方を教えることらしい。すでに3家族に教えたらしいが、俺達の仕掛けで再度教えることになりそうだと言っていた。
「カイトの仕掛けをしばらく借りたいが……」
「そんな事なら差し上げます。俺はもう少し改良したものを作らなければならないんで」
その言葉に、皆が俺を見た。改良の中身を教えろって事だろうな。
「組紐を太くして、はえ縄の長さをもっと長くします。今度は20FM(60m)が基本になりますよ」
「それだけ長いと、引き上げられないぞ……っ! そう言うわけか」
今度は俺の話に言葉を繋げたラディオスさんに皆の視線が移動する。
「そうです。巻き上げ器がそろそろ届くはずなんで、その仕掛けがちゃんと動くかどうか確認したいんです」
「将来は40FM(120m)と言っていたな。それがちゃんと稼働するなら、一度に30匹以上を手にすることもできるわけだ」
皆が唸って考え込んでしまった。
それなら、素潜り漁よりも効率的だからな。そんな連中が増えると、氏族の誇りでもある素潜り漁の銛の腕を競う事も無くなりそうだ。
それを考えての事だろう。
「この漁は、たぶん期間限定、漁場も限定して行われるでしょう。でないと色々と問題が出てきそうです。俺達トウハ氏族は銛を持つ氏族ですからね。それは忘れないようにしなければなりません」
「そうだな。魚を取る方法は幾らでもありそうだ。だが俺達の氏族は銛を選んだことは忘れてはいけない話だ」
「どうやら、お前等にも氏族の誇りが理解できる歳になったようだな」
そんな事を言って舷側を乗り越えた来たのはグラストさんにエラルドさんの2人組だ。はえ縄漁から帰った翌日に氏族会議に呼び出されたのだが……。
操船櫓の下からベンチを持ってきて座り込むと、直ぐにパイプに火を点けた。
長老会議では遠慮していたみたいだな。
「商船からの情報が問題だったのだ。どうやら、王国がいよいよ危ないらいいぞ。最後の反攻作戦を計画中らしいが、そのための資金集めをしているらしい」
「俺達の魔石ってことか?」
「そうなるな。一応約定を交わした以上、それを破れば商会ギルドの利用が出来なくなる。俺達がリードルを獲る場に居合わせて、その場で半分を召上げるそうだ。それに……」
「奴らもリードル漁をすると言っているそうだ。だが、奴らにリードル漁ができるのだろうか?」
「たぶん無理でしょうね。リードル漁の危険性を、俺はエラルドさんに教ええ貰いました。捕った後はビーチェさんにも色々と教えて貰っています。そんな事を知らない連中がリードルを獲るなど自殺行為です」
長老達は、無関心を決め込むらしい。邪魔をしなければ問題ないという事らしい。
その上、ちょっとした意地悪を考えたようだ。
「良いか、模様の薄いリードルを半分以上突いてこい。俺達に付き切りで魔石の半分を持ち去るつもりだ」
不良を演出するって事か? その上自分達のリードル漁は大失敗になることは確実だ。そんな事をして手に入れた魔石で雇った傭兵部隊で事態を挽回できるのだろうか?
「そろそろ、カイトが発注した動力船が届くだろう。艤装は速めた方が良さそうだ」
「軍船の乗り手は長老会議で決めるそうだ。トウハ氏族の軍船が他の軍船の上を行く事を知らしめられるぞ」
いよいよ大陸の王家の1つが都落ちすることになるのかな。サイカ氏族からすれば迷惑な話だな。




