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N-011 銛の改良

 磯の大物を狙うのならば、やはり専用の銛を作る必要がありそうだ。

 基本は俺が持っていた銛で良いだろう。あの銛先を抜けるようにして、紐で結べば良いか……。


「金属加工をしてくれる場所はあるんですか?」

「簡単な物なら商船のドワーフが作ってくれる。魔道機関の修理もしてくれるぞ」

「なら、こんな形の物を作って欲しいんですけど……」


 ラディオスさんが持っていた紙に銛先を描いた。30cm程の鉄棒に差し込むタイプの銛先だ。刺されば外れるし、結んだ紐によって体内で回転するから絶対に外れることは無い。


「これなら銀貨1枚もいらないぞ。何個作るんだ?」

「3人分ですよね。刺されば外れないですよ。ついでに、リードル漁に使った鉄の棒を3本欲しいです。その先にここが入るんです」

「簡単に外れてしまうぞ。ああ、それで紐が付くんだな。明日頼んでくるぞ」


 財布から銀貨を2枚取り出してラディオスさんに渡しておく。

 1本は俺のだろう? と言って受け取らなかったけど無理に受け取って貰う。

 後は、バルテスさんだ。銛の柄を作って欲しいと頼んだら快く承諾してくれた。

 少しは恩返しが出来そうな。


 夜遅く、エラルドさんが帰って来た。俺達を読んで車座になると、ビーチャさんが酒の入ったカップを渡してくれる。


「全く、いくら反対しても結局は一緒になるんだから反対せずとも良いものを……。頑固な奴はとことん頑固だな。長老も間を取り持ってご苦労としか言えん」


 愚痴から始まったぞ。まあ、どこにでもいるんだろうな。だけどそれだけ子供が可愛いのだろう。何となく納得してしまうが、それをくっつけるのが長老の役目とはご苦労な事だ。


「それでだ。お前達の事は誰からも異論が無かった。カイトの場合は長老達が特に気にしていたようだ。リーザを娶る時に、ライズを……と言っていたぞ。ライズの親は氏族の筆頭漁師のグラストだ。この間のリードル漁でお前を見直したようだな。俺も含めて氏族全員が賛成だ。そこでだ。お前の船を一回り大きくしておけ。値段は金貨3枚近くなるが足りなければ俺が足してやろう。グラストが出すと言っていたが俺が断った」


 一度に3人だって! 食べさせていけるんだろうか?

 まあ、金銭的なところは何とかなっても、ちょっとまずいんじゃないか?


「グラストさんが認めたんなら、誰も文句はないさ。俺も賛成だな。となると、婚礼の漁には3人も乗ることになるな」

「ああ、サリー達なら気心は知れてるが、ライズが入るとなるとリーザとケンカが絶えないぞ。こりゃお前達の船を囲む連中が大勢出そうだ!」


 ラディオスさん達が大声で笑いだした。小屋の中でも笑ってるところをみると、リーザとライズのケンカは島の名物だったのかも知れないな。


「まあ、世の中は上手く出来てると、皆で笑って来たのは確かだな。カイト、3人の面倒をキチンとみるんだぞ。たぶんリードル漁が簡単に思えるかも知れんがな」

 その言葉で更に笑いが高まる。相当仲が悪いって事なんだろうか?


 そんなわけで、とりあえず船を一回り大きくしたんだが、基本的な構造はラディオスさん達の船と同じにしておく。

 船の大きさは、全長10.2m、横幅は2.7mで小屋の大きさも4.5m程の大きさになる。後部の甲板の大きさはラディオスさん達よりも30cm長い4.2mだ。舷側が10cm程高くなるから、簡単なハシゴも付けて貰おう。素潜り漁をするなら直接動力船に乗れるようにしておいた方が便利そうだ。


 バルテスさんが俺達の船の構造と改造点を、エラルドさんに説明している。どうやら明日にでも注文を付けに出掛けるらしい。

 俺達が手持ちの金額を告げると、満足そうな顔をしている。十分な額だという事だろうか?


「明日注文を出せば3か月後には手に入る。それまで近くで漁をすれば、船を手に入れてもしばらくは暮らせるだろう」

 最後にそんな事を言ってお開きになった。

 3か月あれば少しは蓄えが増えるんだろうか?

 次の漁はどんな獲物になるんだろうと考えながら、甲板で横になる。


 あくる日。早々とエラルドさんがバルテスさんを連れて商船に向かった。リーザちゃん達が商船に買い物に出掛けるらしいので、銛のゴムを外してこれと似たようなものが無いかを確認して貰う。


「ガムみたいにゃ。あったら、買って来るにゃ」

「その時は5本ぐらい欲しいな。お金を渡しとくよ」

「前に真珠を貰ったにゃ。これでおあいこにゃ」


 ビーチェさんが娘達を引き連れて商船に向かった。その後をラディオスさんが追い掛けていく。銛先を注文しに行くみたいだ。

 俺だけ残ったので、胴付仕掛けの予備を何個か作っていると、エラルドさんが戻って来た。


「バルテスは銛の柄を取りに出掛けた。もう直ぐグラストがやって来るはずだ。ビーチェはまだ戻らないのか?」

「エラルドさんが最初です。次は何を獲りますか?」

「お前が作っている物が役に立つ。根魚を狙うんだ」


 6つ作ったから、リーザちゃん達にも上げようかな? だけど女性が釣りをしている姿はあまり見ないんだよな。

 そんな中、桟橋を歩いて来る一団はビーチェさん達だな。背負いカゴに荷物が満杯だし、サリーさん達の持つカゴも重そうだ。


「ビーチェ、グラスト達がやって来る。お茶の用意を頼んだぞ」

「商船でマリネにあったにゃ。今からお茶を沸かしても十分間に合うにゃ」

 

「カイトさん。これで良いかにゃ?」

 俺が渡したゴムと買い込んで来たゴム紐を渡してくれた。グイグイと引っ張ってみると……、使えそうだぞ。何故誰も使わなかったんだろう?


「そんなガムをどうするんだ?」

「銛の柄に取り付けるんです。エラルドさん達がどうやって銛を打つかは知りませんが、俺はリードル以外は、このガムと呼ばれるものを使ってます。バルテスさんが柄を取って来たらどう使うか教えますよ」


「俺も聞きたい話だな」

桟橋から声がしたので、皆の視線が桟橋の男女に向かう。

「やって来たな。まあ上がれ。こいつがカイトだ。カイト、グラストと妻の1人マリネにその娘のライズになる」


「ネコ族じゃないにゃ!」

「ええ。でも、長老達はカイトさんをトウハ氏族の一員と認めたにゃ。あの左腕にあるのが聖痕にゃ。ネコ族の血が混じった人間族と皆が言ってるにゃ」

「確かに姿は人間族だ。だが人間族は聖痕を持つことが出来ん。過去に一度もな。聖痕を持つことこそ我らネコ族である印と見て間違いないだろう」


 そこにリーザちゃんがお茶を運んできたんだけど、確かに仲が悪そうだな。お茶を渡すときライズちゃんを睨んでたもの。


「俺のところも息子に船を持たせることが出来た。全く、今回のリードル漁は上手く行った。全ての船が20個以上を手にしている。それも1日目の夜の知らせのお蔭だ」

「俺のところは3人に船を持たせることが出来る。俺も船を替えるつもりだ。子供達がいなくなればビーチェと2人になるからな」

「それもある。今夜はそんな船をどう分配するかを話し合うそうだ」


 大型の船は高価らしい。子沢山の家族が船を新調したくとも中々出来ないみたいだ。そこで中古船となるのだろうが、それをどのように譲るかを話し合うらしい。


「ライズよ。場合によっては俺を超える漁の名人だ。将来の長老は確定だぞ」

「漁の仕方は少し変わってるが、今回のリードル漁では魔石を30個以上手にしている。相手に不足はないと思うが?」


 小さな女の子が下を向いて真っ赤になってるぞ。小さく頷いてるのはOKって事なんだろうけど……。


「よし、決まったな。婚礼の船団には連れて行ってくれ。……で、婚礼の話はここまでだ。それで、ガムをどうするかが聞きたいものだ」

「ああ、それですか。ガムの力で銛を撃ちこむんです。これが、俺の使ってる銛です」


 ゴザの間から俺の銛を取り出す。伸縮式だから、スイっと柄を伸ばすのを不思議そうな顔で見ているぞ。

 先端の銛を引き抜いて、皆に見せる。

「この後ろのガムを引き延ばして、このように持ちます。手を緩めると……」

シュン! と勢いよく柄が突き出される。


「ガムの戻る力を利用するのか……。水中で勢いよく銛を突き出すのは苦労する。皆に教えても良いか?」

「いずれ誰かが気が付くでしょう。使ってください。でも、教えるなら、もう少し待ってくれませんか。大物を仕留める銛を作るつもりですから」


 俺の言葉に、グラストさんが笑みを浮かべてエラルドさんに顔を向けた。

「トウハ族は長らく変化が無かったが、とんだ拾い物をしたなエラルド。トウハ族を率いるのも時間の問題かも知れん」

「俺達の代でないのが残念だ」


 そう言って、酒のビンを取り出してグラストさんのお茶のカップに注いでいるぞ。

 この流れだと……、やはり俺達にも酒が回って来た。

 ちびちびと飲んでいよう。明日は入り江で魚を釣るつもりだからな。

 女性達も小屋の中で騒いでいるみたいだ。

 今夜はあちこちの船で、こんな感じに酒盛りが行われるんだろう。


「2、3匹急いで釣るにゃ!」

 急にビーチェさんから依頼がやって来た。釣竿を持って船の上から糸を垂らす。桟橋の端に停泊してるから意外と釣れるかも知れないぞ。


 皆が注目している中、急に竿が絞られた。

 リールを巻いて、一気に甲板に取り込む。ラディオスさんが針を外してくれたところで、再度仕掛けを投げ込んだ。


「桟橋から簡単にこれを釣るのか……。俺の船で拾いたかったぞ」

 魚はビーチェさんが素早くさばいて焼き始めたぞ。

 青魚だったが、種類は分からなかったな。

 それが分かったのは2匹目だ。カマルだな。群れが寄って来たのかも知れない。

 数匹釣れると、全く釣れなくなった。今夜はここで終了する。


 柱に2つもランプが灯っている。

 最後に釣れた2匹は唐揚げで出てきた。魚醤を軽く掛けて食べる唐揚げは俺の大好物でもある。

 アチチ……と言いながらも美味しく頂くことが出来た。


 翌日。飲み過ぎた頭を抱えて甲板に寝そべりながら入り江をみると、あれだけ船があるのに入り江を出て魚を獲る者があまりいない。

 たぶん、俺と同じように甲板に寝そべってるんだろう。

 ラディオスさんも同じようにゴロゴロしているからな。ビーチェさんが俺達の上にヨシズのようなものを張ってくれたから、かろうじて太陽の直射を避けることが出来る。

 あまり飲み過ぎないように気を付けよう。とは言っても、ネコ族の男達は酒盛りが大好きなようだ。

 次も同じような目に合されそうだぞ。


「これを飲んですっきりするにゃ」

 リーザちゃんが緑茶を入れてくれたけど、極めて渋くて苦いものだった。これを飲んでたら緑茶のイメージが壊れそうだぞ。



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