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N-100 帰って来た!


 入り江の東側に作る灯台の土台は、5日間の作業で4段目まで積み上げたが、その高さは60cmに満たない。まだまだ時間は掛かるが、俺達の暮らしを立てるためにも、土台作りを一時中断して素潜り漁をする事になった。

 まだ、長老達は族長会議から戻ってこないが、グラストさんが一緒だから何かあれば急使として島に戻るだろうとエラルドさんが言っていた。


「まあ、あっちはグラストに任せれば良い。10年も過ぎれば長老の一角に入れる男だ。それよりも、素潜り漁はどこに行くのだ?」

「族長が戻らない状態で遠くに行くのも問題だ。雨季に行った西の漁場ならばそれなりに獲物が突けると思っている」


 バルテスさんの言葉に俺達が顔を見合わせる。

 サンゴ礁に穴がたくさんある場所だ。根魚釣りに最適な場所だが、あれならブラドもいるんじゃないか?

 大きさよりも数が獲れそうだな。ザバンで小さな穴を巡りながら銛を使うのもおもしろそうだ。


「雨季には釣りで、乾季には素潜りか……。悪くない場所だ」

 エラルドさんも同行するそうだ。いつもの通り、俺の船に子供達を乗せておくならバルテスさん達やラディオスさん達も安心だろう。


「俺からの提案なんだが、獲物は全てカイトの船に運んで均等割りにしたい。カイトには悪いが、子育ての最中だからな」

「俺も賛成します。俺にだってその内子供ができるでしょう。嫁さん達が3人もいますからね。その時はよろしくお願いします」

 

 バルテスさんの言葉に俺は即答した。

 恩を売るわけではないが、義兄弟で助け合っていくのは良いんじゃないかな。

 子供達だって、親達の協力を小さいうちから見て育つのだ。皆仲良く俺達のように協力することを学んでくれるんじゃないかな。


「そうだな。その時は俺達も協力するぞ。子供は5人で母親達が4人だから、カイトの船に獲物を運べば直ぐにさばくこともできるだろう。カイトにはもう一つお願いがある。ラディオスとラスティのザバンの操船を手伝ってほしい」


 屋根の下で俺達の話を聞いていた嫁さん達の中で、家の嫁さん達が頷いてるぞ。良いって事だな。

「誰がどの船に乗るかは嫁さん達に任せます。異論は無いようですよ」

「それでは、明後日の朝食後に出発だ。明日はゆっくり休んでくれ」

 バルトスさんの言葉で、俺達の話し合いはお開きになった。


 翌日は、出発の準備に追われることになる。しばらく使わなかった銛を取り出して研ぎなおすと、最後に油を薄く引いておく。

 大型はいないだろうが、リードル漁で使う銛まで研ぎなおしておいた。

 だいぶフィンが傷んできたから、今回はマリンシューズだけを履くことにする。これはまだまだ使えるみたいだな。

 水中メガネも枠に弾力が無くなってきたけど、バンドは此方のゴムに変えてあるからまだまだ使えるし、シュノーケルのマウスピースも今のところ問題は無い。

 

 カゴを背負って帰ってきた3人は、買い込んだ野菜や果物、それに炭を所定の場所に入れているようだ。主食のコメは、前回の商船からまとめ買いをしているらしい。

 銛の手入れが終わったところで、今度は俺がカゴに水の容器を入れて水汲みに出掛ける。都合5日の予定だが、乾季だから水の消費が多くなる。15ℓ程の保管容器6個に満タンにしなければならないし、この運搬用のポットだけでも3個に満たせば15ℓ

程になるのだ。


 出発の前夜、再び参加者が集まってくる。

「同行する動力船が4隻増えた。まあこれは仕方がない。いつも通り、バルテスが率いることになる。殿はゴリアスだが、だいぶ慣れたろう?」

 エラルドさんの言葉に2人が頷いている。もっと船が増えてもこの2人なら大丈夫の筈だ。


「俺とビーチェはカイトの船で世話になることにした。ザバンを夕方この船の船首に引き上げているから、向こうに付いても問題は無かろう」

 獲物は参加した家族で均等割りだから、特に問題は無いしエラルドさんと世間話もできそうだ。嫁さん達も賛成してるのは操船のローテーションを考えてるのかな? それとも食事の支度が楽になると思っているのかもしれない。


 翌日、バルトスさんのホラ貝を合図に俺達の動力船は西に向かう。

 夕刻には目的地に付いて、各自が適当なサンゴの穴にアンカーを入れて動力船を固定した。

 夕食後はおかず釣りを兼ねて、根魚を狙う。

 色鮮やかな根魚は30cm程だから、少し形は小さく感じるな。とは言え、俺とエラルドさんにライズの3人で釣り上げた数は30匹を超えている。残った嫁さん達がビーチェさんの監修のもとに次々とさばいてザルに広げ屋根に乗せているから、明日の夕方は一夜干しが食べられそうだ。


 一晩ぐっすりと眠り、翌朝は俺とエラルドさんで船首に固定したザバンを下ろして、船尾にロープで固定する。

 朝食を終えて、お茶を飲んでいると、ボルテスさん達が動力船をカタマランに寄せて、嫁さんと子供を下ろしていく。

ラスティさん達もやってきて嫁さん達を下ろすと、ライズがお茶の入ったカゴを持って乗り込んだ。ラディオスさんにはサリーネが乗り込んでるから、俺のザバンの操船はリーザって事になるようだ。

皆のザバンが動き出したところで、俺達もザバンに乗り込む。

銛は小型のものだが、60cm程度までなら何とかなるだろう。

リーザが皆とは反対の北側にザバンを漕ぎ始めた。5分も掛からない場所で直径5m程に広がったサンゴの穴を見つける。


「最初は、ここで良いだろう。行ってくるよ!」

そう告げると、銛を掴んで海に飛び込む。穴の周囲を探るように泳ぎながら息を整え、海中にダイブした。

 3m程の浅場に広がったサンゴ礁に、どうしてこんな穴があるのかは不思議に思うけど、穴の周囲からサンゴがせり出しているから、将来的にはこの穴は閉じてしまうのだろう。そんな穴の深さは精々数mとそれほど深くは無い。

 サンゴの裏に隠れるようにしてブダイやカサゴの姿が見える。大きさも、昨夜の根魚と同じくらいだな。40cmを超えるものは少ないようだ。


 一旦、海面に上がると息を整え、海底に向かってダイブする。手ごろな獲物の頭を狙って銛を打った。

 銛の柄を持って海面に浮上すると、ザバンに泳いでいきリーザに獲物を渡して銛を受け取る。

 この漁場は形は小さいけど、数は取れそうだな。

 再び海底にダイブするとブラドを突いて浮上する。


4時間ほどの素潜り漁を終えると、カタマランに戻ってのんびり休憩を取る。遅い昼食を食べると、子供達に交じってハンモックでお昼寝だ。

 かなり疲れたのだろうか? いつの間にか眠ってしまい、起きた時には既に夕暮れだった。


「まだまだ漁は続くのだ。体力は温存するのだぞ」

「はあ……。ちょっと頑張りすぎたようです。漁を終えて眠りこけるなんて久しぶりです」

 エラルドさんの隣に腰を下ろすと、サリーネがお茶のカップを渡してくれた。

 でも、子供達はまだ寝てるんだよな。夜中に騒ぎださないかちょっと心配になってきたぞ。


「形は小さいが数が出る。初心者には丁度良い漁場になるぞ」

「それほどの収入にはならないと?」

「そこは数だ。1匹5Dが4Dになっても数が多ければ結構な稼ぎになる。気にすることは無い」

 

 そんなものかな? まあ、エラルドさんがそう言うなら問題もないだろう。

 入り江の入り口に灯台を作るのが、今のところの俺達の作業だからな。今回の漁は、そんな作業では収入がないからやっているようなもので、本来ならもう少し先に行きたいところだ。部族会議の様子が気になるから直ぐに帰れる場所ってことで選んだのもある。10日程度の食料を購入できる収入があれば十分じゃないかな。


 嫁さん達が4人も滞在してるから、家の嫁さん達と協力してあっという間に夕食ができあがる。

 俺としてはビーチェさんの御漬け物がありがたいぞ。

 お代わりまでしてお腹いっぱいになったところで、皆が帰っていくと夜釣りを始める。

 根魚を10匹程釣り上げれば、明日の夕食も期待が持てそうだな。


・・・ ◇ ・・・

 

 3日間の素潜り漁を終えて氏族の島へと帰って来た。

 どうやら商船が来ているようだ。エラルドさんが長老のいる小屋へと急いでいる。例の件が分かるのかな?

 バルトスさんは、行かないようだ。まだまだ新参だから、色々とあるらしいな。

 嫁さん達は、カタマランの保冷庫に集めてある一夜干しを背負いカゴに入れて、商船に運んでいく。

 本来ならば、明日は休んで明後日から東の灯台の土台作りを始めるのだが、族長会議でどんなことが話し合われたのかも気になるな。


 昼過ぎに長老会議の知らせが来たと、ケルマさんが教えてくれた。

 いつもなら夜に話し合いがあるのだが、昼からとなると余程の重要な話か、緊急を要する案件に他ならないだろう。

まだ日が落ちない内に夕食を済ませて、皆が集まるのを待った。

酒器とワインを用意しておけばいいだろう。嫁さん達もお茶とお菓子を用意しているようだ。


ベンチに腰を下ろしてパイプを楽しんでいると、ラディオスさん達が家族連れでやってきた。その後にバルトスさんとゴリアスさんの嫁さん達が子連れでやってきた。

嫁さん達は、小屋に入って世間話に花を咲かせている。子供達も相手がいるからニャアニャアとはしゃいでいるぞ。


「だが、まるで分からないな。兄さんでも出て来てあらましを教えてくれても良いものなんだが」

「父さんも一緒だ。母さんにも話していないらしい」

 2人に真鍮の酒器を配ってワインを注ぐ。ちびちび飲んで待つしか無さそうだ。

 

 日が落ちて、カタマランの屋根の梁にランタンを吊り下げた。

 かなり夜目が効くようになっているから、ランタンの灯り1つでも十分に周囲が見える。

 残り少なくなった酒器のワインを注ぎ足していると、ラスティさんが桟橋に視線を移した。

 4人の男が桟橋を歩いて来る。

 どうやら、氏族会議で何かしらの結論が出たらしい。

 歩みはゆっくりだな。あまり気が進まないと言うようにも見えるぞ。



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