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N-010 魔石のもたらす恩恵

 どうやら、俺の選んだ方法で8割近く魔石を得られるらしい。2割は模様の判定に微妙なところがあるらしいが、少なくとも見える範囲で一番模様の濃い貝を突く事で、前回の倍以上の魔石を手にすることが可能になったようだ。

 俺だけで30個以上の魔石を手にすることが出来た。バルテスさんやラディオスさんも20個以上の魔石を手ににんまりとしている。

 バルテスさんの場合は、ケルマさんをいよいよ嫁に貰えるんだろうな。ラディオスさんもあわよくばと考えているらしいけど、相手は誰なんだろう? ちょっと気になるところだ。

 他の船の人達も,教えたのが2日目にはなってしまったが、前回の1.5倍以上は手にしたようだ。エラルドさんの氏族での発言力が増したことになるのだろう。世話になってる俺にとっても嬉しい限りだ。

 

 この海域に停泊してから4日目の朝。俺達は氏族の島に帰ることになった。

 あんなにたくさんのリードルがその内、俺達の漁場に押し寄せると考えたら恐ろしくなって、後ろ甲板でのんびりとパイプを楽しんでいるエラルドさんに聞いてみた。


「ハハハ……。心配するな。後5日もすれば潮に乗ってリードルは東に去っていく。あの海域から1匹もいなくなるぞ。俺達の漁場で確認されたことは過去にも一度もない。

それより、バルテス、ラディオスを呼んでくれ。話がある」

 

 呼べと言われても小さな船の中だ。俺が大声で名前を呼ぶと直ぐに2人がやって来た。

 後ろ甲板で4人で車座になりエラルドさんの話を聞く。


「これだけ大量の魔石が手に入ったことはかつてない。精々10個も獲れれば大漁だからな。それでだ。お前達3人とも動力船を手に入れろ。俺もこの船を譲って小型の動力船に替えるつもりだ。バルテスはケルマを貰うんだろう。今回の魔石で支度金が出来るだろう。ラディオスには相手がいるのか?」


 俺達だけでなく、小屋の中からもラディオスさんへ視線が集中したぞ。

 頭をかきながら笑ってるけど、急に真面目な顔つきになった。


「カマルギさんのところのオリーが気にいってるけど、まだカマルギさんの許しは貰ってないんだ」

「カマルギか……。若い頃は俺と銛の腕を競ったものだ。今回の漁にも来ていたな。今からでも俺が話をして来よう。

 サディには、昨夜ゴリアスから話が来た。気の良い漁師で腕もある。親は早くに亡くなったがそれは問題なかろう。サディもそれで良いのだろう?」

4人で小屋から顔を覗かせていたが、サディさんが真っ赤な顔で頷いている。今まで内緒だったのかな?


突然、恐ろしいことに気が付いた。この船の舵を握ってるのは誰なんだ? 男性達はここにいるし、女性達4人は小屋から顔を出してるぞ!

だけど、誰もそんな事を気に掛けないようだ。ひょっとして自動操舵装置が付いているとかするんじゃなかろうか?

ラディオスさんに小声で聞いてみたら、ビーチェさんが尻尾で舵を取ってるらしい。器用だなと感心してしまう。


「それでだ。カイトにはサリーネをやる。2年後にはリーザをやるから、リーザはそれまで俺の船だ」

 父親の話を聞いて、2人が顔を見合わせて頷いてるけど、すでに了承してるって事なんだろうか?

「聖痕の持主に嫁ぐとなれば、他の横槍もあるだろう。それは島に帰ってから氏族に言っておくが、場合によってはもう1人増えるかも知れん。それは我慢してくれ」

「でも2人を貰うなんて……」


「大丈夫にゃ。エラルドも2人貰ってるにゃ。リーザを生んだ時亡くなったけど……」

 ビーチェさんが太鼓判を押してくれたけど、そう言えば一夫多妻だって聞いてたな。

「キャリムも聖痕の持主に嫁ぐなら喜んでくれるにゃ。私達もあの世で胸を張れるにゃ」

 

「父さん達も船を替えるのか?」

「ああ。子育ては終わった。リーザが残るが直ぐにカイトのところに行くなら、小型の動力船で良い。一度に4隻だ。少しは値を下げられるだろう。船はお前達で作れるだろう。生活品は俺達が出してやる。相手と良く相談するんだぞ」


 そう言って席を立った。船が少し進路を変える。ラディオスさんの事で交渉を開始するんだろうな。

 残った俺達は3人で船を考え始める。

 ラディオスさんから教えて貰った船を買う事は決まっているようだが、改造は出来るって事だからな。漁をするのに使いやすくしておくに越したことは無い。

 女性達は小屋に入って相談を始めたようだ。生活用具1式ってどんな物かは知らないけど、それを相談してるんだろう。それはビーチェさんが教えてくれるはずだ。最初の暮らしがどんなだったか、話を脱線しながらも3人の娘に伝えてるんだろう。


「大きさは変えられない。問題は魔道機関だな。次の船にも使えるから一回り大きな型にすべきだろう」

「そうなると後ろ甲板に突き出してしまう」

「甲板の大きさと操舵機をどこに置くかも問題だ」

「イケスは大きいのが良いと聞いたぞ。ザバンの置き場所も問題だな……」

 話は尽きることが無い。だが、島まで後4日もあるのだ。良く考えればそれだけ良いものが作れるに違いない。

 

 やがて同じような大きさの動力船と1mも離れないで並走し始めた。

 どうやら、交渉が始まるらしい。エラルドさんがラディオスさんを呼んで、相手の船に飛び乗る。ラディオスさんも急いでその後に続いた。何か背負っていたのは、たぶん酒のビンだろう。こういうのには付き物らしいからな。


 腰を上げて周囲を眺めると、他にも同じように並走している船がある。

「リードル漁が終わると婚礼があるって、こういう事なんですか?」

「大漁なら多くの金を手に入れられる。新たに船を買い、結婚して親元を離れる者が多いんだ。前回は見送ったんだが、今回なら十分だ。カイトに感謝しなくちゃな」

 バルテスさんが俺を見て笑ってる。

 でも、エラルドさんから離れて上手く漁で生活できるんだろうか?


「新たに船を作っても、4隻がしばらくは同行するんだ。だが、漁の獲物の分配は無くなる。自分で漁をした分が自分の物になる。商船への売り込みもしなければならないし、買い物だってそうだ。その辺りの才が嫁には必要だが、サリーネやリーゼなら大丈夫だ。任せておけば良いぞ」


 自営業って事になるんだろうか? 漁業組合でもあるんなら仲立ちして欲しいところだな。

 しばらくして帰って来たラディオスさんがにこにこしているところをみると、交渉は上手く運んだらしい。

 いよいよ動力船の改造計画に拍車が掛かる。


 3日目にどうにか動力船の仕様がまとまってきたところで、俺達が紙に描いた船の画をチラリと見たビーチェさんから爆弾が落された。

「カマドは必要にゃ!」

 思わず3人で顔を見合わせる。確かに必要だが、俺達は漁を重点に考えてたからな。慌てて大幅修正が開始された。


「全く、最初から言ってくれれば良いのにな」

「でも、これでまとまりましたよ。後はどれ位費用が嵩むかです」


 俺としてはそれ程嵩むとは思っていない。結局、それほど変わった船には成らなかった。動力船の形はそれだけ完成した姿なんだなと感心してしまう。

 変わってるのは、後部に横長のベンチがあるのと、舷側に張り出した2本の柱だけだからな。席は3分割されて、真ん中の蓋を開けると、中に魔道機関の大きなフライホイールが入っている。そこから後部にある水車をクランクで動かすのだ。左右の箱は漁に使う道具入れだ。舷側に張り出した柱にはザバンを吊るす。

 船の右側に小屋に並んでカマドが作られているが、この船よりも一回り小さいものだ。

 小屋は長さ3.5m横幅は船の横幅と同じだ。

 屋根と壁は板に布を張って樹脂でその上を塗るらしい。更に屋根が付いているが、これは竹を編んだものを乗せるようだ。たぶん日除けを兼ねているんだろう。

 舵と魔道機関の制御は後ろのベンチに付けてある。少しは雨を防げるだろうと、竹の屋根はベンチの後ろに2本の柱を立てて、そこまで伸ばせるようにしてある。前が良く見えないと思うけれど、速度がそれ程早くないし、体を伸ばせば右側から前が見える。ベンチに立てば前だって良く見渡せる。

 後ろに落ちたら大変だから、ベンチの背もたれは1.5m程の高さになるようにしてある。背もたれの板の隙間から後ろも十分に眺められるからこれで、十分だろう。


 5日目の朝。俺達は氏族の暮らす島に近付いた。

 エラルドさんに言われた通り、動力船の持主に魔石を1個手渡すと、どうやら中級の魔石らしく驚いていたが、1個に変わりはないから受け取って貰う事にした。

 魔石を売るのは、ビーチェさんに任せると、サリーネさんとリーザちゃんを伴って、出掛けて行く。すでに商船は俺達を待っていたようだ。

 しばらくして戻ってきた時に、俺に渡された金額は1割の税金を引かれて、14,850D。

 島への納入金が魔石1個分だから500Dが無くなるけど、都合14350Dが今回の収益になる。俺が持っている金額と合わせると十分に動力船が買える。

 夕食は、ここに来て初めての肉が入ったカレーのようなものだ。

 お椀に乗せられたご飯を皿に乗せて、カレーライスのようにして食べてると、皆が真似をして納得した顔になる。

 食生活が米を中心にしてるから何となく違和感がないんだよな。

 とはいえ、たまにラーメンが食べたくなるぞ。


 エラルドさんが俺達から島への供出金を集めて氏族会議に出掛けて行く。

 この時節だと、婚礼の打ち合わせになるらしい。基本は両者の合意らしいが、親が反対してもめる事もあるらしい。そんな親を説得するのも長老の役割だと聞くから、長老になるのも大変だな。


「何組が婚礼をするんだろうな?」

「ちょっと分からないんだが、婚礼って何をするんだ?」

「そうだったな。カイトは氏族の習わしを知らないんだった。結婚するときは新しい船が手に入るだろう。その船に乗って漁に出るんだ。何組も一緒だから安心だよな。狙うのはハリオと言う魚だ。これ位で平たいやつだ。リードルを獲った場所よりも1日東になるな」


 ラディオスさんが紙に書いてくれたのはどう見てもシマアジだぞ。磯に回遊してくるとは聞いてるが、獲れるのか?

 俺が持っていた銛や水中銃では小さすぎるぞ。かといって、エラルドさんから貰った銛は、返しが小さいからな……。何か考えなくちゃならないな。



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