beautiful dead end
体が重い。起き上がれない。
それはいつものこと。
だってもう、何時間も何日も何ヶ月だって自分の力で起き上がれてない。
いつも、ベットの上。
精一杯力を入れたって、外で元気に遊ぶあの子のように……私はなれない。
あの子が……羨ましい。
あの子が……妬ましい。
こんな体で生まれた私の運命が……悲しい。切ない。
昔はよく泣いた。
今は泣くための涙さえ枯れてしまったようだ。
笑顔で私のお見舞いに来る母より、私と目を合わせようとしない世間体を気にする父よりも。
私の夢の話を一生懸命に聞いてくれる、ちょっぴり年上のお姉さん。
血はつながっていなくても、あの人は私の味方でいてくれる。
父がいない時だけ、名前で呼んでって頼んだら、ちょっと考えて頷いた。
それからは名前で呼んでくれる。
嬉しかった。
外に出れないから、話し相手もいない。
そんな私の話を聞いてくれて、相手をしてくれる優しい人。
たとえ、それが仕事で、父の言いなりだとしても構わないの。
あの人は全部わかっているのに、私の頼みを聞いてくれる。
少し悩んでも、笑って頷いてくれる。
そんな人。
この体が動かなくなるのは近い未来のこと。
だから、私はそれまでに海が見たい。
山は窓からいつでも見れる。
それでも、海は写真でしか見たことがない。
青い、蒼い水の、大きな、広い場所。
そんな場所に、行ってみたい。見てみたい。
それが、今の私の最期の願い。
それで私が終わっても、構わないの。
今の私は必要とされてない。
わかってる。
それでも、いつかは、誰かに必要とされたいの。
遠い未来、私が違う私になって、外を走り回れる時。
その時は精一杯走り回って、全力で飛び回りたい、誰かと一緒に。
一人の寂しさを知った私だから、次は皆との喜びを知りたい。
少し未来。
その、夢の中。
飛べるような気がした。
飛んでるような気がした。
いつも見ている鳥のように、いつも飛んでいく鳥のように。
腕が動く、足が動く。
体が軽くなった気がした。
家から飛び出して、空に向かっている。
山が私と同じ高さに見える。
その向こうに、透き通る青を見た。
海を、見た。
海が、見えた。
大きく目を見開いて、両目に焼き付けるように。
その大きな青を、反射する光を。
どんどん離れていく感覚に気づく。
自分に飛ぶ意思がないのに。
海が、山が遠くなる。
雲が、近い。
「あぁ……私、死ぬんだ。」
知っていた。
近い未来はすぐそこにあることに。
それが今だと、さっき気づいたんだ。
馬鹿だとは思わない。
だって、気づいてなくても、知ってたから。
悲しいとは言わない。
だって、海が見れたから。
それは私が死ななければ出会えなかった景色。
私は幸せで、ラッキーで、それで……。
枯れていた涙が、今、溢れ出すほど目から流れている。
こんな奇跡はないんだと、そう思っていたかった。
私の周りの雲が濃くなる。
まとわりつく。
死んで終わりなんて絶対に嫌。
海がくれた幸せは絶対にあった。
「私は、幸せなの!! だってこんな美しい死を与えられたんだから!!」
雲は彼女を優しく包み込んで、消えた。
今回は、死をテーマにさせていただきました。
死んだことがないのは当たり前ですが、幸せのままで逝きたいって思います。
心の声は他人には聞こえなくても、大事なことだけ伝えられたらいいと思います。
一人の人間の個人的な考えにすぎませんが、読んでいただきありがとうございました。