第8話 街に行く1
「う~ん。・・・どうするか・・・。」
女神・エルメスの件から一夜明け、シンは案内された部屋のベッドに腰掛け悩んでいた。
時間は朝の8時ごろ、使用人たちが自分たちの仕事を始めている時間である。
そんな時間にシンは何に悩んでいるのだろうか
「とりあえず今日は、街で職探しと街の構造を覚えないとな、あっ、公爵か使用人たちの手伝いもしないと、流石にただ飯はダメだよな・・・。ヨシッ、午前中は街で職探しついでに街の散策、午後は公爵か使用人たちにお手伝いでもするか。(コンコン)・・・ん?」
シンが今日の予定を決めた時、部屋の扉が叩かれた。
「はい。」
エ「お、おはようございます!シラトリ様!エ、エレナです。入ってもよろしいでしょうか!」
聞こえてきたのは、見習いのエレナであった。どうやら緊張しているようだ。
「ああ、構わないよ。」
エ「し、失礼します。」
そう云うと、エレナは恐る恐る扉を開け部屋に入って来た。
「おはよう、エレナ。・・・そんなに怖がらなくても大丈夫だぞ。」
エ「も、申し訳ありません。見習いとして、お客様を起こしに来るのは初めてで、それに私、父以外の男の人と話したことがあまりないモノで。」
「ああ、なるほど。しかし、公爵家に仕えているんだ、そんな事では公爵やミリアニスに恥をかかせることになるから気をつけなさい。それで、要は何かな、朝食の準備ができたのか。」
シンはエレナの頭を撫でながら聞いた。
エ「は、はい。朝食の用意が出来たのでお連れするように侍女長のマリー様が、此方です。エヘへ」
「了解。」
エレナは嬉しそうに笑いシンを案内する
案内されたのは、昨夜公爵と食事をした食堂で、既に中には屋敷の主であるミュラー公爵が座っており、その斜め前にシンは案内された。さらに、周りには、侍女長のマリーと数人の侍女が控えていた。
「おはよう公爵。待たせてしまったか。」
侍女「「っ!!??」」
シンの一言で周りが驚く、公爵様に何たる不敬、その場で殺されても仕方がないのだが・・・
ミュ「ああ、おはようシン殿。すまない、此方の都合に合わせてしまって。」
「問題ない、この時間は何時も起きてるし昔とさほど変わらんさ、それに此方としても、今日の予定を公爵に伝えたいと思っていたところだ。」
ミュ「そうですか。それで、今日の予定というのは?」
「ああ、今日は街で職探しでついでに街の散策をしようと思ってな。その後は、何か屋敷の手伝いをさせてもらおうと思っているのだが、構わないだろうか。」
ミュ「街の方は分かりました。手伝いの件はセバスに相談してみます。」
「すまないな、助かる。」
などと二人の会話を聞いていた周りの侍女達は驚いていた。
公爵が連れて来たシンは公爵の命の恩人だと昨日は説明されたが、二人の会話を聞いてるとまるで友人のように話しているのである。
屋敷の主であり、リベールの三大公爵家の一人が部下で、平民の様な青年が主であるように、中にはシンは身分を隠した何処かの王族の子息で公爵の元で勉学に来たのだろうか、などと思う侍女も中にはいた。
実際には、「何時もの口調が楽」云うのがシンの理由である。
ミ「何をお話ししていらっしゃるのですか。おじい様、シン様。」
そこに声を掛けてきたのは、ミュウラー公爵の孫娘であり、女神・エルメスのお気に入りで昨夜シンの恋人になったミリアニスである。
ミリアニスの登場でマリーと侍女たちは頭を下げる
マ・侍女「「「おはようございます。ミリアニスお嬢様」」」
ミ「ええ、みんなおはよう。今日は体調が良いから、おじい様たちと頂きたいの構わないかしら?」
マ「ええ、もちろんです。お嬢様、では此方に。」
と、マリーはミリアニスをシンの隣に座らせた。
ミ「///あ、ありがとうマリー。」
マ「いえいえ。」
ミ「お、おはようございます。おじい様、シン様///」
ミュ「ああ、おはようミリアニス。」
「ああ、おはよう。ミリアニス、その・・・体調は大丈夫か。」
ミ「はい、シン様。むしろ何時もより気分がいいんです。」
「そうか。しかし、あまり無理はしないでくれよ。・・・心配するから。」
ミ「っ!?///・・・はい」
そんな会話をしている二人の周りでは、
ミュ「(ああ、コレは早々に二人の外堀を埋めねばならんな。リベールでは自由婚が認められているから問題はないが、シン殿には儂以外にも後ろ盾を・・・)」
ミュラーは思考し
マ「(ああ、お嬢様!お二人の幸せを私は心より願っております。お早い次代の誕生を私も立ち会いとうございます。)」
マリーは歓喜に震え
侍女「「(あ、なるほど婿様候補か!?じゃあ、若様って言った方が良いのかしら?)」」
侍女たちは疑うことなく納得していた
ミ「それで、先ほどは何の話をしていたのですか。」
「ん、今日は街で職探しついでに街の散策をしようと思ってな、でその後は屋敷の手伝いをさせてもらえないか公爵と話していたんだ。」
食事をしながら先ほどの会話をミリアニスに説明する
ミュ「それでシン殿、具体的にはどんな職を探すのですか?ある程度なら、私の方から口利きをいたしますが。」
「う~ん、考えているのはギルドかな。」
“ギルド”
大陸各地に支部を持つギルド。民間人の安全と、地域の平和を守ることを第一の目的とし、魔獣退治・犯罪防止などの依頼を行っている。危険を伴うが依頼に応じた金額が支払われるので、割と人気の組織である。冒険者、遊撃士などで呼ばれている。
ちなみに、昔は軍と仲が悪かったが大戦を機に軍と協力関係を築くことになった。
ミュ「ギルドですか。確かにシン殿なら心配いりませんが、どうしてギルドなのですか。」
「ギルドなら、ある程度の自由は聞くのでな。軍に入るとなると色々と面倒になる。」
ミュ「成程わかりました。それでした、街のギルドマスターに紹介状を書きましょう。シン殿の身分を証明するものです。」
「ありがとな公爵。」
ミュ「いえこの程度、孫娘の恋人のため何枚でも書きましょうとも。」
ミ「お、お、おじい様!!///」
侍女「「(婿様候補じゃなくて、完全に婿様だ!よし、今日から若様と呼ぼう!!)」」
ミリアニスは叫び、侍女たちはシンを将来仕える主であると認めた。
このことは、侍女たちが侍従たちにも知らせて、侍従たちも若様と呼ぶことになる。
侍従長のセバスは、シンが先代・レオンハルトであることをマリーから聞き驚きながらも納得した。