第6話 屋敷の中で2
エレナと別れシンが連れてこられたのは、数十人が座れる長テーブルが真ん中に置かれた食堂である。
そこには既に公爵が座っていたが、シンが入って来たのを確認すると立ち上がり公爵の隣の席を進めた。
椅子を公爵自ら引いてもらいシンは座った。
ミュ「では、シン殿。乾杯といきますか。」
ミュラーがグラスを掲げる。
「何に乾杯ですか。公爵。」
シンはグラスを掲げる
ミュ「そうですね・・・リベールの女神であるエルメス様に・・・でいかがですかな。」
「確かに、コレは女神の導きかもしれんな。では・・・」
「「リベールの女神であるエルメス様に、乾杯!“チンッ”」」
乾杯が終わると続々と料理が運ばれてくる。
運ばれてくる料理はかつてのリベールの料理でシンは懐かしさを覚える
「懐かしいな、この味をまたこうして食べられる日が来るとは思わなかった。」
シンはそう言って肉を口に頬張る。
食事しているのは二人だけで他の使用人は誰もいない、本来なら給仕の使用人が要るはずなんだが、公爵の命で今回は誰もいない。なので、シンは普通に公爵と話している。
ミュ「お口に会って何よりです。そういえば、客間で何かありましたか。何やら此処に来る前から嬉しそうだったので。」
「ああ。レーナの娘に会ったよ。それが、嬉しくてな。」
ミュ「!そうですか。そういえば、この屋敷で見習いをしていましたな。どうでしたか。」
「流石、親子と思ったよ。しかし、心配はしてたんだ、あの娘がちゃんと生きることが出来るか。」
ミュ「シン殿。」
「レーナは、孤児だったからな。俺が焼ける村の中から救い出した数少ない生き残りだ。その娘が、大人になり恋をして子を産んだ・・・そして、今も幸せなら心配ないだろう。」
ミュ「はい。今は母后陛下の侍女を勤めています。」
「ホントか!?母上の侍女を!?まさか、俺が死んで後見人に母上が?」
ミュ「左様でございます。」
「・・・母上には何かしらの礼をせねばな。」
ミュ「そうでございますね。」
公爵とシンは食事を楽しみながら話していた
「そういえば、エレナが言っていたんだが“お嬢様”がいるらしいな。孫でもできたのか?」
ふと思い出し、公爵に尋ねてみる。
ミュ「!?はい。・・・今年で19になります。ただ身体が弱く余り部屋から出られないのです。」
公爵が弱弱しく答える
「・・・医者は何だと。」
ミュ「医者や魔導師たちに見せても原因が分からないのです。」
「ミーシャにも診てもらったよな。」
ミュ「もちろんです!・・・ですが、ミーシャ殿でも原因が掴めないのです。」
「・・・俺が診てみよう。」
ミュ「シン殿が!?ですが、シン殿では・・・恐れながら、国内最高と云われたミーシャ殿より下・・・」
「さっき確認したら、魔力はあった。ついでに言っておくと、ミーシャより俺の方が魔導には長けている。なんせミーシャを鍛えたのは俺だからな。」
ミュ「真ですか!?」
「ああ。銀翼創設に伴い様々な者たちを集めた中でミーシャの魔力量は多くてな。俺が教えた。」
ミュ「ですが、当時の陛下はそれほど魔法が得意とは・・・まさか。」
「そう、ワザとそうしていたのさ。その方が、敵を騙せるしな。俺の魔法を知っているのは、各部隊の隊長と魔道士部隊の連中だけだな。もちろん極秘扱いだ。」
ミュ「成程、そうでしたか。では、早速診てもらいたいのですが!」
「分かった。診てみよう。」
二人は食事を切り上げ早々に“お嬢様”の部屋に向かった
部屋の前に来ると侍女長のマリーが出てきたところだった。
マリーは侯爵とシンがいることに驚いた
マ「どうなさったのですか、旦那様。それにシラトリ様まで、お嬢様の部屋に。」
ミュ「マリー。ミリアニスは如何している?起きておるか。」
マ「・・・はい。先ほど夕食を済まされて、今は寝台で本を読まれています。一体どうしたというのですか。」
マリーは不振に思いながらも公爵に答えた
ミュ「イヤ、シン殿にミリアニスを診てもらおうと思ってな。シン殿は魔導にも詳しく今回こそ原因が分かるやもしれん。」
マ「本当でございますか!?」
公爵の言葉にマリーは驚いた
ミュ「ああ。なので、部屋に入っても大丈夫だろうか?」
マ「分かりました。お嬢様に聞いてまいります。・・・“コンコン”お嬢様、少しよろしいでしょうか。」
マリーが返事を待っていると
お嬢様「マリー?どうしたの。入って来て良いわよ。」
と優しい声音が帰ってきた。
返事を聴いて、マリーだけが入っていった。
「公爵、先に言っておくが俺でも解るかわからんぞ、あくまでも可能性だが。」
ミュ「分かっております。ですが私はその可能性にかけたいのです。」
見れば公爵が拳を握りしめていた。
「分かった。全力を尽くす。」
二人が話し終えると、扉が開きマリーが出てきた
マ「お会いになるそうです。どうぞ。」
そう招かれ、部屋に入る。
中に入るとランプの灯だけが部屋を照らしていた。
部屋は落ち着いた調度品でまとめられ、品がよく繊細な印象をシンに抱かせた。
寝台の脇に立っていたのは背中まで届くストレートの艶のある金髪で眼は晴天の空のような澄んだ輝きを持っており、肌が白い儚い美しい女性だった。
就寝前のこともあって、女性は薄着の上にもう一枚羽織った感じである。
シンは余り凝視しないように注意した。
女性「初めまして、私はミリアニス・ヴァンダールと申します。このような格好で挨拶するのをお許しください。」
ミリアニスは軽く膝を折り淑女の礼をした。
「此方こそ、姫様。このような時間に尋ねる私を許しください。私は、シン・シラトリと申します。」
ミュ「ミリアニス、シン殿は魔導にも長けていらっしゃる。お前の気持ちは、分かってはいるのだが・・・」
ミ「はい。存じております、おじい様。ですが、いくら高名な医者や魔導師様に診ていただいたのに原因が分からないのに・・・」
その表情は悲しげで辛そうだ。
マリーも顔を覆っていた
ミュ「・・・・。」
公爵も黙り込む
室内は静まり返る
「ダァァ~~~。何暗く成ってやがる公爵!可能性に賭けたいんだろう!まだ、診てもないのに勝手に沈んでんじゃねぇ!!」
その空気をシンが破った
公爵に対する口調ではないが、余りのことに三人は呆気にとられている。
「あぁぁ~、やっぱダメだ。公務以外であの口調は俺にとって拷問だ。やはり、何時もの口調が楽だな。そういう訳で姫様、さっさと寝台に横になれ。」
ミ「は、はいっ!」
あろうことか、公爵令嬢にも命令するがミリアニスは寝台に横になった。
「さて、さっさと始めて終わらせるか。失礼“スッ”」
シンはミリアニスの額に指を当てて目を閉じて意識を集中した。
その様子にマリーがシンをミリアニスから離そうとするが公爵によって阻まれる。
一方でミリアニスを診ているシンには心当たりがある。
「(聞いた限りでは確証が持てなかったが、魔力を通して確信した。)」
ミリアニスを診ているシンがゆっくりと目を開け額の指を離すとシンの眼がミリアニスの眼をじっと見ていた。
コレには、ミリアニスは顔を赤らめた。
ミ「///・・・あの・・・余り見ないでください///」
自分の顔をシーツで隠した。その仕草は世の男たちが見たら目の保養になるだろう。
マ「オッホン!・・・それで、シラトリ様。何か解りましたでしょうか。」
マリーの声にあからさまな怒気を感じる。
「ああ、分かった。」
その怒気を、何でもないように流すシンは、これまた何でもないように答えた。
「「「!!??」」」
シンの答えに三人は驚愕する。何せ、いくら医者や魔導師達に診てもらっても原因が分からなかったのに、それをシンは、額に指を当てて魔力を流しただけなのだから。
ミュ「それで、シン殿。原因は何なのですか?」
公爵は恐る恐る聞いてみる。
ミ・マ「「・・・・」」
二人もシンの言葉をまっている。
「ああ。・・・原因は、口で説明するよりも出てきてもらった方が早いな。オレも知りたし。・・・なんで、出てきてくださいよ。リベールの女神“エルメス”様。」
シンの言葉でミリアニスの胸から光の球が出てきた。
光は神々しく温かさを感じた。その光が球体から人型に形を変えていき、光が収まるとそこにいたのは、半透明な絶世の美女が白いローブを着ていた。
美女「あら?流石ね、レーヴェ。相変わらず、女神に使う言葉じゃないわね。」
「久しぶりだな、エルメス。・・・早速だが聞かせてくれ何故、一部とはいえ人の子の体に入っていた。」
美女「その前に、私に挨拶させなさい。周りが困ってるわよ。」
見れば、何が何だか分からないと三人は驚いていた。
それを見て「さっさと挨拶しろ」と目で訴える
美女「全く、貴方だけよ、レーヴェ。神である私をそんな風に扱うのは。・・・まぁ、いいわ。さて、私は、女神エルメス。リベールの守り神ね。ちなみにレーヴェとは主従の関係よ。ウフフ」
何処か怪しく説明する。
「元な!!今は、契約はされてないはずだ!」
エ「あら、肉体は無くなっても、魂が浄化されないんじゃ契約は切れないわよ。だから、まだ主従の関係よ、ご主人様♪」
最後になんかいらないモノがついた気がするシン
「ほう、なら次に召喚した時は焼き鳥にして食ってやるからな。」
エ「あらあら、怖い怖い。ふふふ。・・・と冗談はこれくらいで、真面目な話ね。」
急に真面目になり辺りの空気が強張る。
エ「まぁ、簡単に言ってしまえばこの娘の保護かしら。」
と、ミリアニスを呼んだ
ミ「わ、私の保護ですか?何故でしょうか、女神様?」
ミリアニスは恐る恐る質問した
エ「それはね。」
エルメスはミリアニスをじっと見つめる
ミ「それは。」
ミリアニスもシンも公爵もマリーも女神の言葉を待つ。
エ「貴女にレーヴェを幸せ、もとい、“結婚”してもらいたいの♪」
その答えに皆が
「「「「は??」」」」
と理解が追い付かなかった。