第4話 馬車の中で
信とミュラー公爵が呼ぶと鎧に身を包んだ騎士たちが姿を現した。
???「ミュラー様!ご無事ですか!?」
その中の一人、赤髪で瞳は茶色で体は鎧の上からでも分かるくらい鍛えられた長身の青年が公爵に駆け寄る
ミュ「おお、シュバルツ。心配をかけたな、見ての通り無事じゃよ。」
公爵がシュバルツに無事の報告をする
シュ「申し訳ありません、ミュラー様!護衛の任に就いておきながら・・・」
ミュ「気にするでないシュバルツ。まさか、賊がこれ程、用意周到に襲って来るとは誰も思わんよ。」
公爵はシュバルツの肩を叩きながら労う
ミュ「それで被害は?他の騎士たちは無事か。」
シュ「はい。負傷者はいますが全員健在です。賊の方は撃退できました。」
ミュ「そうか。皆は無事か・・・良かった。」
報告を聞いて安心する公爵
「(ガイロス?・・・イヤ、アイツがこんな若いはずないし・・・もしや・・・)・・・息子か?」
シュバルツと呼ばれた騎士を見て小さく呟いた
信の声に反応したのか、シュバルツが初めて信の存在を認識した
シュ「ミュラー様、この者は?」
シュバルツは信と公爵の間に入り、信を警戒しながら手を腰にある剣に伸ばす
ミュ「その手を修めよ、シュバルツ。へい・・・シン殿は私を賊から守ってくれた恩人じゃ、無礼は許さんぞ。」
公爵の発言でシュバルツは手を戻し信に向かって頭を下げた
シュ「申し訳ない!ミュラー様を助けてくれた方に向かっていらぬ警戒をしてしまった。」
「気にすることはない、騎士殿。守るべき主の傍に見知らぬ人がいれば警戒するのは当然のことだ。」
シュ「ありがとう。改めてミュラー様を救ってくれて感謝する。私は“シュバルツ・モーガン”、リベール王国の第1騎士団に所属しています。今回はミュラー公爵の護衛の任を受けています。」
再び頭を下げるシュバルツ
「・・・シン・シラトリだ。(・・・モーガン・・・やはりガイロスの息子か・・・奥さんできたのか・・・)」
心の中で想う信
ミュ「ふむ。互いの紹介が終わった処で、そろそろ領地に向かうとしよう。シン殿には今回の礼をしなくてわな。」
シュ「わかりました。では街道に出ましょう。騎士たちがミュラー様をお待ちです。」
ミュ「分かった。それと、そこに居る賊も連れてくるように賊の頭目のようだ。誰の差し金か背後関係を調べる。」
ミュラー公爵がシュバルツに指示を出す
シュ「分かりました。お前たち頼む。」
シュバルツが後ろに控えている騎士に告げると、騎士たちは賊たちを担いで移動する。
シュ「では、参りましょう。」
騎士たちの後にシュバルツが続きその後を信と公爵が続く
やがて森を抜けるとそこには、数十人の騎士たちと馬車が主の帰りを待っていた。
騎士たちが公爵の姿を見て安堵するも、公爵の横に居る信を見て顔を顰める騎士たち、シュバルツが信の説明をすると騎士たちは警戒をある程度は解いたようだ。
シュ「では、ミュラー様とシン殿は馬車にお乗りください。」
ミュ「うむ。」
「ああ。」
二人はシュバルツに進められ馬車に乗り込む。
それを確認したシュバルツは指示を出す
シュ「では、これよりヴァンダール領に向かう!また賊の襲撃があるかわからん!各自、気を引き締めよ!」
騎士たち「「はっ!!」」
シュ「出発!!」
シュバルツの号令のもと一行は動き出しシュバルツも護衛(信の監視)として馬車の中に乗り込んだ
シュバルツの話ではヴァンダール領にはあと半日で着くとのこと、なので夕方には着く予定である。
それまで、三人は馬車の中で談笑中?
「・・・失礼だがシュバルツ殿、貴方の父はあのガイロス・・・様か?」
ガイロス・モーガン、先の大戦でレオンハルトと共に戦場を駆けた人物でレオンハルトの幼馴染、彼はレオンハルト率いる部隊の副官でありレオンハルトの護衛であった。
さらに、モーガン家は代々軍人家系で、ヴァンダール領にある王国と帝国の国境にあるハーケン門の守護を王家より任されておりその信頼は厚い。
シュ「はい。父をご存じで?」
「当然だ。レオンハルト陛下直属の部隊“銀翼”の副官を勤め、陛下と共に戦場を駆けた武人、知らぬものはいないだろう。」
“銀翼”レオンハルト率いるエリート部隊で騎士、魔導師の混成部隊である。他にも王は出自に関係なく才能ある者たちも集めた。
もちろん王が率いる部隊であるわけだから、その実力は上位でなければならない、そのため訓練も演習も他の部隊と比べ密度が濃い、もし、ここに銀翼の隊員がいたら答えるだろう“あれは、人がやる訓練じゃない、あの訓練を受けるくらいなら戦場の方がマシだ!!”と、当初はその訓練に耐えきれず、やめた者たちもいる程だった。
その訓練を得て創設僅か数か月で王国内最強の部隊になり,今でもリベールが誇る最強の戦力である。ちなみに、その訓練で隊員同士の絆や統率が生まれたとかないとか・・・
ミュ「確かにのぅ、ガイロス殿も今では先代当主から家督を継いでハーケン門の守護に就き将軍になった。銀翼の部隊の何人かは将軍と共にハーケン門の守備に、残りの銀翼の隊員は王都に残って次代の育成に努め、王族・要人たちの警護、護衛を勤めておる。もちろん王家親衛隊もいますが彼らとも、うまくやっておるしな。」
ミュラー公爵が補足説明をしてくれた。
「(そうか、ガイロスは将軍になったか。)」
それを聴いた信はどこか嬉しそうだった。
ミュ「他にも銀翼の弓兵部隊の隊長を務めたアース殿は男爵から伯爵になり、魔導師部隊を率いたミーシャ殿は退役してアース殿と結婚し二人の子供にも恵まれ、そのお子様も今では成人して弓兵・魔道士部隊に入隊しているとのことです。また、ミーシャ殿は退役しても次代の育成に励んでいます。」
その報告に信は驚きの余り吹きそうになったのを何とか抑える
シュ「お二人の結婚は国を挙げての盛大に執り行われたそうです。何たって先代国王レオンハルト様と共に戦場を駆けられ、数々の武功を残しましたからね。父上と母上も国を挙げての式だったそうです。母上は父上の幼馴染の伯爵令嬢で、大戦から一年経って父上の方からプロポーズをしたみたいです。」
「よくあのガイロス将軍が許可したな。派手なのは好みじゃないと聞いていたのだが・・・」
シュ「・・・そのようですね。父上に聞いたところ“天に逝ったアイツに少しでも見えた方が良いだろう”とのことですが、多分、レオンハルト陛下に見せたかったのだと思います。」
「そうか・・・(ガイロスめ・・・似合わないことを・・・)」
信は戦友に感謝した
「しかし・・・(あの野郎、ちゃっかり彼女いたのか!?部隊創設からあの大戦まで、そんな素振り見せなかったのに、コレはお仕置きだな・・・)クックック・・・」
信は不気味な笑みを浮かべながら幼馴染に誓うのであった
その頃のハーケン門にいるガイロス将軍に悪寒が走ったとかないとか・・・
シュ「あの・・・シン殿?」
「ん、ああ気にしないでくれコッチのことだから。」
シュ「はぁ・・・そうですか?」
ミュ「ホホ。後、最後に槍兵部隊を率いていたキール殿も結婚して今では鬼教官として日頃から兵の指導に当たっており、子供は成人してキール殿と一緒の槍兵部隊だそうですじゃ。」もちろん式は盛大だったそうだ・・・
シュ「そういえば、シン殿はどうしてあの森に?」
「うん、俺か?そうだな・・・今度開かれる武闘大会に出るために森で鍛練していたんだよ。」
シュ「・・・武闘大会ですか、確か二月後でしたね。ハーケン門の兵達も皆張り切って訓練に励んでいます。かくいう私も出る予定ですけどね。」
「ほぉ~。やはり将軍と同じで剣か?」
シュ「ええ。同じと云っても父上のような大剣ではなく普通の剣ですがね。」
「・・・ああ、将軍は身の丈以上の大剣を振るうんだったな。(当たり前だ、あんな大剣を振ります奴がそこら中にいたら最強の騎士団が出来るぞ。)」
信は思い出す、戦友が大剣を振り回し戦場の敵兵を薙ぎ払う光景を
シュ「・・・そうです。」
シュバルツも思い出す。訓練と云う名の地獄の中を必死に生き向いたことを
シュ「そう云うシン殿は何を使うのですか?見たところ何も持っておられないようですが?」
「オレも剣だ。ただし刀でな、先ほどの賊の時に折れて、今はない。(嘘だけどな!あんな雑魚に武器等いらん!)」
シュ「刀ですか?確かに刀は折れやすいですからね、よければ騎士団が贔屓にしている武器屋に新しい刀を打ってもらうよう頼みましょうか?」
「・・・正直、ありがたい申し出だが、生憎と此処までの道中金を使い切って金が無いモノでな。領に着いたら寝床と金稼ぎを探さなければならない。(もちろん善意だろうが、監視の為にオレについてくるのだろうな・・・)」
シュ「では、知人の宿屋に・・・」
ミュ「では、当家にお泊まり下さい、シン殿。今回の礼もしたいので遠慮はいりません。」
ミュウラー侯爵はシュバルツの口を閉じさせる。公爵もシュバルツの考えは理解している。シンの監視として目を光らせているのだろう。しかし、公爵はシンが、かつての王・レオンハルトだと知っているので警戒するつもりはない。むしろ、シンともっと話をしたいと思っている、この20年での国の出来事を、かつての主と語り明かしたいと。
シュ「ミュラー様、いけません!?如何に助けられた御仁と云えども・・・」
しかし、それをシュバルツが許すはずもなく意見するが。
ミュ「シュバルツ!この儂が良いと言っておる、口出しは無用じゃ!」
その怒号は馬車の外に居る騎士たちにも聞こえた
「(流石は、公爵。かつては父上と共に戦場を駆け、兵たちから猛将と云われただけのことはある。)」
シュ「!?・・・はい、申し訳ありません。シン殿も済まない、このような言い方は失礼だったな。」
シュバルツは、公爵からの覇気でそれ以上、言葉が出なくなる
「気にするな、森の中でも言ったが、主を護るのが騎士の務めだと。」
シュ「すまない、ありがとう。」
それから、馬車は静かに街道を走り敵の襲撃もなく予定通り夕方にヴァンダールの門を通過した。その時に、門兵からシンのことを聞かれたが公爵の一言で何事もなかった。
「・・・(正直ありがたいが、これも不正だろうな・・・。)」と一人想うのであった。