第1話 森の中で
森の中を流れる川の近くに1人佇む青年がいる。
服装はシャツにジーパンとラフな格好で歳は20歳ぐらい、整った顔立ちに長身な体躯、白銀の長髪を後ろで一まとめにし、灰青の瞳が川の流れをじっと見つめている。
青年は岩に腰掛け何か考え事をしているようだ。
「さて、状況を確認しよう。
朝、目が覚める。起きる。朝食を食べる。出かける準備をする。よし!出かけるか!玄関から出る。森の中・・・なんでだぁぁぁぁ~~~~!!??」
森の中に青年の絶叫が響き渡る
「とにかく落ち着け俺、ふぅ~・・・さて、さっきは“おかえり”と云われつい“ただいま”と返したが・・・此処は本当に俺が知ってるリベール国なのか?それともハルバール?最悪、帝国領土だったら生きて帰れる気がしない・・・まぁ、とりあえずは川に行き着いたから、川沿いに歩いて行けば人が住んでいるところには着くだろう。」
青年は再び歩き出しこれまでのことを考えていた
「(ギリアスと共に相討ちとなり、後のことは弟と仲間達に任せてゆっくり眠るはずが、生前の記憶を待ったまま再び生を受けるとは思わなかったが、それはそれで好かったと思っている。元から王族に“自由”は無かったが国のため民の為に尽力した。それが辛いと思ったことはないが、再びの生を受け、王族と云う身分に縛られることなく、自由にあの国・日本での生活は新鮮だった。もしかしたら、此方で王族に生まれなかったら、あのようなに笑える生活だったのだろうか?)」
青年は考える、自分が王族ではなくただの民として生きていたらと・・・
「ふっ、今更か・・・もとより、俺は乱世を鎮めることを目指していた。その後は弟に王を任せて俺は将軍にでもなるつもりだったんだが・・・まぁ、希望通り王位は弟が継いだと思うが、帝国とハルバールとの関係はどうなっただろうか?帝国は考えるまでもないが、せめてハルバール・・・ガゼル王とは良い関係を続けてほしいんだが・・・大丈夫だろうか?
まぁ、俺が死んで何年たったかは知らないが、今の時代が平和な治世であることを祈るか。」
青年がそんなことを思っていると・・・
「・・・っ!?」「・・・っ・・・!!」
何やら人の話し声が聞こえてくる。しかも・・・
「なんか、穏やかじゃないな・・・。盗賊か?・・・平和を願った傍からこれかよ・・・」
青年は愚痴りながらも、声がする方に走った。
森の中を走り、ある程度、開けた場所に出ると青年が目にしたのは、見るからに貴族の格好をした老齢の男性を囲んでいる数人の男たちだった。
貴族の男性「お前たち!私が、リベール国・三大公爵が一人“ミュラー・ヴァンダール”との知ってのことか!!」
男性が賊たちに向かって叫ぶと賊のリーダーなのか一人が前に出る
賊の頭「当然。俺達の目的は、公爵様を亡き者にすることさ。」
ミュラー「依頼人は誰だ!」
頭「残念ながら、今回の依頼人の名前も顔も知らないんでね、知ってることと云えば依頼人が貴族様の名代だって事ぐらいだな。」
ミュラー「・・・私の地位を・・・公爵の地位を狙う者がおるか・・・依頼主に伝えよ、公爵の地位に就いても陛下を・・・この国を支配することは出来ぬとな!」
頭「・・・そうかい。遺言はそれだけか?まぁ、名代には伝えておこう・・・お前たち、ヤレ。」
リーダーの命を受け部下たちの凶器が襲い掛かる
ミュラーは静かに眼を閉じ覚悟を決めるが・・・
“ドカッ”“バキッ”“ドサ”
「オイオイ。諦めるには早すぎじゃないか?」
目を開けてみると地面に倒れ伏している男たちと自分を守るかのように盗賊のリーダーに対峙している青年の後ろ姿が見えた。
ミュラーには、その後ろ姿が大戦で亡くなった先代国王・レオンハルトの姿が重なって見えた。
ミュラーは思わず
「・・・陛下・・・」と呟いた
頭「貴様、何者だ!?」
リーダーが怒鳴る
「何者?・・・これから死ぬ奴に名乗っても意味ねぇだろう。さぁ~て、久々の実戦か勘を取り戻すには物足りないかな?」
青年は構える
「すぅ~、はぁ~・・・参る!!」