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バイト中、だんだん傷が痛みだした。
怪我したときは
何と言うか、アドレナリン大量分泌中で
痛みも感じなかったけど
少しづつじんじんしてきて・・・・
「ふう・・・・」
休憩中に、膝をかばいながら
ため息をつくと
シュンくんが心配そうに
あたしの隣に腰を下ろした。
「無理しないで
帰った方がいいんじゃない?」
・・・・・・・・
そうなんだろうか。
なんだか今日は弱気になる。
人間、怪我なんてするもんじゃない。
「んじゃ、帰ってもいいかな・・・」
ふとつぶやくと
シュンくんは黙って立ち上がった。
「怪我してんだったら無理しなくていいよ。」
店長がいきなりそう言って
タイムカードを指差す。
「また元気な時に
ガンガン入ってくれたらいいからさ。
んじゃ、お疲れ~。」
そういうと、あっけにとられたあたしを残して
また、フロアに戻っていった。
「ほら、早く着替えて。」
シュンくんが戻ってきて
急き立てるように言った。
「もしかして、店長に言ってくれたの?」
「そ。自分では絶対言わないでしょ?
でも痛々しいから今日は帰ろうね。」
優しく笑うシュンくんの
ちょっとした心遣いに、
心があったかくなった。
「じゃ、またね。」
ニッコリ笑って軽く手をあげると、
シュンくんもフロアに戻っていく。
「あ・・・」
思わず声をかけたあたしを振り返るシュンくん。
「ありがとう。」
お礼を言うと、最高級の笑顔をあたしに向けて
今度は本当にフロアに戻った。
駅に向かってとぼとぼ歩くあたしは
コンビニに寄ってお茶とチョコを買った。
レジでお金を払って外に出ると
思い出して雄輔にメールをした。
『今日は先に帰るね。』
・・・・・・・・・・・
5分たっても返信はなかった。
間もなくやってきた電車に乗る。
何げなく外を見ていたあたしの眼には
線路沿いを歩く人の姿が移っては消えた。
その中に見慣れた顔。
え?
ほんの一瞬だったけど
あれは確かに雄輔だった。
なぁんだ・・
近くにいたなら一緒に帰れたのに・・・・