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バイトの時間に間に合うように
あたしは夕方の道を走っていた。
「ぎゃっ!」
色気のない声と共に
ありえないくらい綺麗に転ぶ。
うわぁ・・・恥ずかし…
小学生の時以来かも・・・・
そんなことをふと思いながらも
慌てて立ち上がり
必死で走る。
遅刻なんてするわけにいかないでしょ。
働いてるんだから。
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その日、なぜか講義が長引いた。
「オレ、部室いくから。
バイト遅れんなよ。気をつけてな。」
雄輔の声に、ざわっと
胸の奥の何かが反応した。
ん?
時間を気にしながらも
あたしは雄輔の背中をしばらく眺めていた。
あれ・・・?
部室と反対側に曲がった・・・・
向こうには大学図書館。
ありえない。
雄輔が図書館なんて。
なのに雄輔は図書館の前に歩いていく。
嫌な予感指数が倍増した。
雄輔の前に、人影が飛び出してくる。
2人で何か話しているのが見える。
また?
今までにも何度か
女の子からの呼び出しがあった雄輔は
一応律儀にそれには応じ、
お断りはしているらしい。
らしいというのは雄輔からそう聞いたから。
雄輔は幼馴染だけあって
あたしの性格はよく知っている。
そういうのは隠すとロクな事はないからって
笑いながらいつも教えてくれる。
だけど、目の前で見ると
心穏やかでいられるはずもなく・・・
気付くとバイト遅刻すれすれだった。
気になるのはやまやまだけどす
これ以上は見てらんない。
気分的にも時間的にも。
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「ちょっと・・・あかりちゃん、
こっち来て。」
バイトの持ち場に入った途端
先輩のシュン君にスタッフルームへと
呼ばれた。
「ダメだよ、ちゃんと手当てしないと。」
そう言って、あたしを椅子に座らせると
手際良く消毒をし始めた。
「すみません・・・・」
血のにじんだ膝に消毒液がしみる。
「こんなにひどい傷、ほっといたらダメでしょ。
化膿したらひどいことになるよ。」
そう言ってそっと膝の周りの砂を払う。
その指の動きがなぜか艶めかしくて
あたしの頬に朱がさした。