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帰りがけにちらっと教室の中をのぞく。
雄輔たちはまた、新しいお客相手に
笑顔を振りまいていた。
なんとなく胸の奥がざわめく。
他の人に向ける笑顔が
胸の奥に突き刺さった。
文化祭の出し物だし・・・・
仕方ないじゃん。
あれは作った笑顔だってば。
必死に言い訳しながらも
分かっていてもドキドキしてしまった事実に
どうしようもなく動揺させられた。
ほなみはというと・・・
「沖田のくせにあんなにカッコよく見えるなんて
反則だわ・・・」
って、ポ―――っとしてる。
あの気の強いほなみが?
「ほら、、休憩終わるよ!
遅れちゃう、急ご!」
あたしはほなみの手を引っ張って
教室へダッシュ。
心もちひきつった笑顔のまま
またワンステージこなしたのだった。
その後、多目的教室にほなみと行った。
今からバンドのステージが始まる。
「まさか、あの格好のままじゃないよね・・・」
「それはないでしょ。」
「お待たせしました!では・・・・」
司会者が説明を始める。
大音量の音楽と共に雄輔たちが
ステージに飛び出してきた。
うわぁ!
実にコミカル・・・・
ジーパンにパーカー。
いつもの雄輔。
キラッと耳にはピアスが光る。
きゃぁっ!!!!という黄色い声と声援に包まれ
雄輔はステージを駆け回る。
あら、一応ちゃんと音は合ってるみたい。
歌詞も覚えてるじゃん。
有名なバンドの曲をコピーして
会場も一緒に大盛り上がり。
会場の盛り上がりとは反対に
あたしはじっと雄輔を見つめていた。
グラウンドとは違う雄輔の姿に
正直、心を持ってかれた。
ベースやキーボードの子たちとの絡みも
コミカルでテンポがよくて楽しそう・・・。
「ありがとーーー!!!」
満面の笑顔で手を振りながら
みんなの声援にこたえて退場する雄輔たち。
いつもと違う雄輔の姿。
昔から知ってる雄輔の顔じゃない。
あたしの胸は壊れたんじゃないかって思うくらい
ドキドキしっぱなしだった。