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授業中、雄輔が起きていた。
周りのみんなは今までにない事態に
興味津々。
時々雄輔に睨まれて慌てて目をそらす。
「雄輔くん、起きてるなんて雪でも降るんじゃない?」
「んなわけないでしょ。今夏だし。」
友達の言葉にも冷静に返すあたし。
でも、その理由はあたしと雄輔だけが知っている。
あの後、固まっている雄輔に
「ちゃんと約束守ってよね。」
って念押ししたら、
「くどい!オレが約束破るわけねーだろ!」
って、変に開き直られた。
「だからって、オレたち、友達だろ?
協力はしてくれんだろーなぁ?」
ニヤッと笑った雄輔から持ち出された交換条件。
時間のある限り勉強に付き合うこと。
こう言っちゃなんだけど
密かにものすごく嬉しかったりする。
で、かったるそうな格好してはいるけど
一応授業は聞いてる。
聞いてるどころか、ちゃんと理解してる。
頭の回転は速いのよね。雄輔。
「最近雄輔くん、何か変わったよね。」
「ほんと。真面目な顔してること増えたよね。」
目がハートマークの女の子たちが
嬉しそうに話しながら部活の片付けをしていた。
もう暗くなり始めた。
今日はなんだかんだで遅くなっちゃったな・・・
「あかり、おせーよ。」
噂の主がいきなり現れて
会話中の女の子たちは一気に盛り上がる。
でも、雄輔の言葉を聞いた途端、
一斉にあたしに視線が集まった。
「ごめん。」
最近何事にもめげなくなったあたしは
それだけ言うと雄輔の隣を歩く。
何気なくいつも車道側を歩く雄輔。
そういうところもキュンとする。
あれから雄輔とあたしは毎日
どちらかのうちに寄ってから
自分ちに帰るようになった。
約2時間の二人での勉強が日課になると
あたし達の親は真面目に勉強してるのを
応援してくれるようにもなった。
いつしか、周りのやっかんだ
視線なんて気にならないほど
あたしは強くなった。
そして、いつか、雄輔の隣はあたしと
誰もが認識するようになった。
そして・・・・
雄輔の成績はあっという間に
周りのみんなが驚くくらいよくなった。
「ほら見ろ!オレって出来る子だろ?」
嬉しそうにテストの結果を見せる雄輔。
「まぁまぁね。教える人がいいから♪」
なんておどけてみるけど
ほんとに合格圏内に入る勢いで成績は上がっている。
本当に嬉しかった。
3年生になるまではすべてが順調で。
毎日が幸せだった。
なのに・・・・・・・・・・・
幸せが壊れるのって
ほんと一瞬の出来事だと
あたしはその時まだ
ちっとも知らなかった。